第34話 船旅
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次の話が読みたいと思っていただけるよう、
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出発日の朝、港には三人の騎士の姿があった。セレスティノ、ファビオ、イルデフォンソの3名である。
皆、頭からすっぽりと鎖帷子を羽織り、顔だけが出ている状態だ。
その上に、兜を被り、板金製の胸当てと腰当て、籠手を装着している。下半身は布製のズボンの上に佩楯と脛当てを付けていた。
この時代の板金鎧で、現状考えられる完全武装である。
これだけで重さ10kgを超える。
通常、冒険者は、動きやすさも重視するので、ここまでの装備はしない。
が、騎士の鎧としてはこれが正規であった。
動きづらいが、なんとか戦闘もこなせるというギリギリのところであろう。
ちなみに、ヨーロッパでは中世末期になって、頭のてっぺんから足の先まで板金で覆った板金鎧が登場するが、鎧の重さが30-40kgあるもので、歩くことさえもままならない。あれは馬上で槍を構え突進する為の鎧で、自らの足で歩き回るようにはできていない。
そして、今、ミライ達がいる、この世界にもまだ存在していないものである。
船は船員ギルドの船員達が保有する商船ではなく、国の保有する軍艦が用意されていた。
最も小型な船ではあったが、全長15mを超える大きさである。
俺たちが到着した時には、すでに出航の準備が出来ていた。
「待たせてしまったか?もう少し早く出てくれば良かったようだ。すまなかった」
3人の騎士達の側まで行って、挨拶をする。
「ミライと、バハムートだ。あの場にいた騎士だな?よろしく頼む」
「いや、僕たちも、ついさっき着いたところだよ。よろしくお願いするね」
と小柄でクセの強い茶髪の騎士が言う。ファビオである。
「私はイルデフォンソという。こちらはセレスティノ、とファビオだ。よろしく頼む」
大柄の騎士が挨拶をする。
バハムートと並ぶと、若干だが、イルデフォンソよりもバハムートの方が大きいようであった。
二人が並ぶと、巨大な壁のようだ。
金髪のセレスティノは、あからさまにではないが、敵意を消せきれていないといった表情を浮かべている。
「すまんな、許してやってくれ」
その様子を見て、イルデフォンソが謝罪する。
「いや、構わないさ」
むしろ、もっとあからさまに敵意を向けられてもおかしくないと考えていたくらいである。
騎士として、自分を抑えているのであろう。流石である。
案内されるまま、船に乗り込む。船室があり、多少なりとも寛げるスペースが確保されていた。
商船と違い、荷物を乗せるスペースよりも、人(本来は兵士)を乗せるスペースが広い。
もちろん食料や武器などを乗せるスペースも必要なのだが‥。
その為、騎士達と、待機する部屋は別の部屋が与えられた。向こうも同じであろうが、気を使わなくて良いので助かる。
船長の話によると、クラクスヴィーク島はここから東に3日ほど行ったところにあるらしい。
魔物でも出ない限りは、出番なしだ。到着するのをひたすら待つだけで、特にすることもない。
海は穏やかだった。
適度な風もあり、船は軽快に進んでいく。
始めは船室に閉じこもっていたのだが、すぐに飽きて甲板に出た。バハムートは横になっている。
天気が良く、風が気持ち良い。
港からカモメが数羽ついてきていた。
甲板には、ファビオの姿があった。
船から王都が小さくなって行くのを眺めている。
「隣、いいか?」
声をかけてみた。
「!!‥‥あ、ああ、もちろん」
少し驚いたようだったが、すぐに笑顔になり、横を空けてくれた。
「ファビオ‥だったか?俺を斬り捨てると言っていたのはお前だったよな?先日は気分を悪くしてしまい、すまなかった」
「‥いや、こちらこそ、取り乱してしまってごめんね。でも聖剣を褒美に欲しいって言う発言は、騎士にとってそれだけの意味があるって言うことさ」
「ああ、わかっている。ただ、こちらも国王陛下に忠誠を誓っている騎士ではないし、慈善事業をやっているわけでもないからな。仕事内容に釣り合うだけの褒美を申し出ただけだ」
「ああ、君の立場もわかる。ただ、これだけはお互い相入れることは無いだろうね。聖剣の持ち主になるということは、僕ら王国に属する騎士達の頂点に立つというのと、同じ意味なんだ」
「そう簡単に‥竜退治の時点で簡単ではないけれどね‥認めるわけにはいかないんだよ。それは、僕たちが聖剣に認められるように努力していることを諦めることになってしまうのだから」
「ああ、そうだな」
空を見上げる。鮮やかな青色をした空を背景に、白い雲が流れている。上空はそれなりに風が強く吹いているようだ。
「ところで‥」
話題を変える。
「今回は自分達で希望を出して参加しているのか?」
「まさか‥」
即答であった。
「自分がそこまでの実力がないことはわかっているさ。騎士としての誇りはあるが、自分の力を過信してもいないよ。大鬼族数匹くらいであればまだしも、クラーケンや竜の凶悪さは群を抜いている」
「自分から望んで、死にに行くような馬鹿な真似はしないさ。国王陛下の勅命だよ」
自嘲気味に笑う。
「僕らの国は、それなりに豊かではあるが、それでも十分ではない」
「山脈南三国同士の小競り合いもあるし、リスボア王国とも今は友好的だが、それも表面的なものだ。情勢がいつ変わってもおかしくない」
「その為に国力を増強するという、国王陛下の示す道は正しいと思う。銀山の奪還もそれの一つだ。だから騎士としてこの国の為に命を投げ出す覚悟はあるよ‥」
ファビオの覚悟が伝わってくる。若いのに大したものだ。
「でも、正直言うと怖いさ。死にたくはない。君たちに僕たちの命運がかかっている。だから、聖剣のことは悔しいけど、君たちに頼らないといけない自分達の力不足が一番悔しいんだよ‥‥ってね。なんか余計なことまで話してしまったみたいだ。あの二人には内緒にしておいてね」
ふと、彼の本音を聞いてしまったようだ。
色々な思いがあり、葛藤があるのだろう。
軽々しく彼の気持ちがわかるとは言えないが、何となく理解はできる。
「ああ、言うはずがないさ。まぁ、俺たちも出来ることをやらせてもらうさ。お互いにとって良い結果になるよう努力するよ」
「ああ、そうだね」
会話が終わる。
何となく気まずい空気になり、二人で海を眺めている。
タイミング良く、セレスティノがファビオを呼びに来た。
「ファビオ、どこにい‥」
ファビオが俺と一緒にいるのを見つけ、言葉を止める。
「君か。悪いが、僕はまだ君のことを許すことができない。目的が一緒だから同行しているが、出来れば協力したくないと考えている」
とセレスティノ。
悪い奴では無いようだ。わざわざそんなことを言う必要がない。自分の気持ちに整理がつかないのだろう。
「いや、構わないさ。俺たちも馴れ合いをするつもりはない。仕事に対し、邪魔さえしないでくれればそれで構わない」
「それとも、ここで軽く手合わせするかい?お互いの実力を確認しておくのも悪くない」
「!!」
セレスティノはその言葉に反応した。
軽い挑発のつもりだったが、簡単に乗ってきた。
「僕としては我慢していたんだ。君の方から決闘を申し込んできたのであれば断る理由がない。相手になろう」
そう言って剣を抜く。
やや細身の剣だ。といってもレイピアのような突き刺すことに特化した(刃が付いているので斬ることも可能だが)ものではなく、幅広剣を少し細くカスタマイズしたような形であった。
軽い分扱いやすいのであろう。
「いいよ、お前の実力がどの程度かみてあげる」
そう言って、俺も腰の剣を抜いた。
刃渡りが70cm位のブロードソードに対し、刃渡り50cm位で、短く、剣幅も狭いショートソードをチョイスしていた。
「セレスティノ!」
ファビオが制止しようとするが、
「大丈夫、怪我はさせないから」
と、ウインクして落ち着かせる。
それが余計にプライドを刺激してしまったらしい。
「貴様‥!」
セレスティノが、剣を俺の肩口目がけ振りおろす。
それを、横に弾く。
カン、と金属の甲高い音を立てて、剣が軌道を変える。
「くっ!」
悔しそうに、次の斬撃を放つセレスティノ。
これも、簡単に弾く。
筋は悪くない。
剣の速さも力強さも中々のものだ。
ただ、相手が悪い。
俺にかかれば、全てがスローモーションで見えている。剣で弾くまでもなく、全てかわすのも容易いだろう。
20回ほど打ち合ったろうか、流石にセレスティノも息が切れてくる。
全てが全力の必殺の一撃のつもりで打ち込んでいる。しかし、かする気配すらない。
しかも、俺が全然本気を出していないことも理解しているみたいだった。
あまり強く弾いて、剣が海に落ちてしまってもあれなので、軽く軌道を変える程度にしている。
「これで終わりか?」
肩で息をしているセレスティノに向かって意地悪く挑発する。
「まだまだ」
意地だけで、剣を振るう。
もう明らかに勢いは無くなり、力も弱い。
それでも、何度も何度も打ち込んでくる。
「さっきより、剣の勢いが落ちたぞ。もう疲れたんじゃないのか?」
どうも根がSなので、少し苛めたくなってしまう。
「くっ」
一瞬、剣の勢いが戻る、がすぐに弱くなる。
それでも、100回近く、剣を打ち込んできた。
大した根性だ。
そこで、とうとう足がもつれ、転倒する。
「はぁ、はぁ、はぁ‥」
大の字になり、動けなくなるセレスティノ。
思わぬところで、剣の稽古をつけてあげてしまったような形になってしまった。
ま、暇なので、全然構わないのだが。
「くそっ!」
悔しがるセレスティノに、
「いつでも稽古をつけてやるよ」
と、挑発しておく。
うーん、どうもからかってしまいたくなるキャラみたいだった。
一生懸命で、悪い奴じゃないしね。
ふと、「私もお相手いただけるか?」と、イルデフォンソが声をかけてきた。
先ほどの騒ぎで、船室から出てきたらしい。
「いいけど‥」
と言いかけた時、
「俺が相手になってやんよ」
と、バハムートが横から出てきた。
2人が向かい合う。
「やり過ぎんなよ。あと船壊すなよ」
一応、声をかけておく。
「おぅ」
返事して、バハムートが大刀を振るう。
それをイルデフォンソが両手持ちの大剣で受け止める。
大剣同士ぶつかりあい、重量感のある低い音が響く。
「うぉぉーっ!」
イルデフォンソがその一撃を必死に押し戻す。
バハムートは小手調べの軽い一撃のつもりであったようだったが、全力で何とか跳ね返すことができた様子であった。
今度は反撃とばかりに、イルデフォンソがバハムートの頭部に剣を振り下ろす。
必殺のつもりで打ち込んできた一撃であったが、これを大刀で簡単に受け流し、返す刀で首元に物凄い勢いで剣を振るう。
空気を切り裂き、首を跳ねる直前数cmのところで剣を止める。
「首がガラ空きだぜ。力だけに頼ってると、簡単にこうなるぞ。次のことを考えながら戦いを組み立てないとな」
などと、バハムートがまともなことを言っている。
「はいっ」
実力差を見せつけられて、すっかり真面目な生徒のように返事をし、何度も何度もバハムートに剣を打ち込むイルデフォンソ。
「まだ遅い。腕力だけでなく、全身の筋肉を使え。足が大事だ。踏み込みが甘い‥」
と、こちらもすっかり剣の稽古の様子を呈している。
しかし、見ているうちに、剣の鋭さが増し、受け止められたり、受け流されたりしたあとの反応が良くなってきた。
あれ、バハムートって、剣の指導するの上手くない?
新たな発見である。
こちらも70-80回ほど打ち込んで、力尽きた。
これを機に、イルデフォンソはバハムートに対し、尊敬の念を抱いたようであった。
食事中にも、剣のことを仕切りに聞いている。
体力が回復すると、実技も行う。
俺もセレスティノとファビオの稽古をつけてやっていた。
2人とも、少しクセを直してあげると、みるみる良くなっていった。
まだ伸び盛りなのであろう。
それに合わせて、態度も軟化していた。
以前のような敵意はほぼ消えていった。
そんな感じで2日が経過したのである。
意外と暇にならず、充実した船旅となったのであった。
そして、3日目、とうとう島の姿が見えてきたのであった。




