第30話 凱旋
王都アルブフェイラに戻ってきた。
船乗り達はにとって長年の悲願であったクラーケンを退治しての凱旋である。
港に着いてすぐ、退治できたのか、遭遇できなかったのかを問われる。無論、期待のこもった目だ。
「やったぜ、ミライさんとバハムートさんが、あのクラーケンを退治してくれた。俺たち乗組員たち全員が証人だ」
カルメロが、そう宣言する。
それはもう、得意満面の笑みだ。
まぁ、彼らも命がけで頑張ってくれたのだ。当然の権利だろう。
その言葉を聞いて、港は歓喜に沸いた。
こういった明確で、かつ明るい話題はなかなか無いものだ。
噂はすぐに広まった。
この話題だけで、1ヶ月は飲みネタに困らないだろう。
俺たちはまず、依頼主である船員ギルドに報告に行った。すでに噂は届いていたようで、熱烈な歓迎を受ける。
カルメロ達は完全に英雄扱いである。
否定的な意見を言っていた者たちも、本当はやってくれるものと期待していたなどと、手のひらを返している。
「なんとお礼を言って良いか」
ギルド長のドゥイリオは感無量の様子だ。
50代後半の体格の良い男性だ。
「あのクラーケンには、長年悩まされておったのです。何百人の仲間がやられたことか‥」
「これで、リスボア王国までの海路を迂回せずに向かうことができます。本当にありがとうございます」
「喜んでくれて、こちらも嬉しいよ」
笑顔で答える。
「報酬は冒険者ギルドに渡してくれ。今回はそういう契約になっている。」
「わかりました。そのように。よろしければ、今晩の夕食を皆で一緒にいかがでしょうか?祝勝会を行いたいと思いまして」
と、誘いを受ける。
「ああ、ではありがたく出席させてもらうよ。その前に冒険者ギルドへの報告があるので、一旦失礼させてもらう」
そう言って、船員ギルドを後にし、冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに到着すると、すでに噂はここまで届いていたらしい。
たかだか港に着いて1-2時間程度で、ここまで伝わるとは‥と、妙な感心をする。
ギルドにいた冒険者達からの尊敬と羨望の眼差しを受けながら、受付に行くと、すぐに支部長の部屋に案内された。
「スゴイです。あの依頼はもう5年以上貼りっぱなしで、誰もこなすことが出来なかったんですよ」
と受付の女性も若干興奮気味だった。
二階に上がり、ギルド支部長の部屋にたどり着く。部屋の中ではではカリストが待っていた。
「依頼達成したようだね。おめでとう。すっかり街中の噂になっているよ」
ソファに座るよう促され、腰掛ける。
「ああ、ありがとう。なんとかね。依頼を達成することができて良かったよ」
と謙遜してみせる。
「ところで、あのクラーケンをどうやって倒したんだい?詳しく聞かせてくれないか?」
とカリスト。
「あー、いいよ‥港を出て2日目だった。大きな嵐が来て、それを乗り切ったんだが、その時に奴は現れたんだ」
「体長20mは超えるかという大きさで、船を捉えようと触手を伸ばしてきた。それをバハムが斬り捨てるんだが、すぐに再生してしまう」
「本当に厄介な敵だったよ。でも何とか魔法の攻撃で倒すことができた。再生力が凄まじかったので、それを上回る攻撃で消滅させるしかなかったからね」
身ぶり手ぶりを加え、多少ドラマチックに話してみせた。
「消滅‥」
その言葉に、恐らく、彼の知っている強力な魔法を思い浮かべているのだろう。そのどれもがクラーケンを消し去るほどの威力があるものは思い浮かばなかったようで、首を横に振る。
「どうやら想定以上だったようだ。君達の実力は金板タグを持つに相応しい。約束の報酬だよ」
と言って、2つの金板タグを受け取る。俺とバハムートの名前が刻印されている。
メッキではなく、純金製のタグだった。
ありがたく貰っておく。
「次の依頼は何にするか決まっているのかい?」
「いや、まだ、特には決めていないが」
「それだったら、これなんかどうだい?Aクラスの依頼の中でも、特に難しいと思われる依頼だ。クラーケンと並ぶ、いやそれ以上の強さだよ」
そう言って、一枚の依頼書を取り出した。
そこには、竜退治の文字が見て取れた。
「ギルドの基準で、国家が滅亡したりするような災厄をもたらす魔物の討伐の依頼については、Sクラスの依頼としている。今のところその予兆が無いのでAクラスとなっているが、強さ的にはSクラスの内容だ」
「竜退治を成功すれば、竜殺しの名誉を持つことができる。どこの国に行っても歓迎されるだろうね」
依頼書によると、王都から海を渡って、東側に浮かぶクラクスヴイーク島という島に生息しているとのことだった。
バハムートが、難しい顔をしている。
(どうした、バハム?)
念話で問いかける。
(ああ、実はクラクスヴイーク島にいる竜というのは、俺の知っている竜かもしれない)
(そうなのか?会いにいってみるか?)
(いや、辞めた方がいいだろう。何というか‥ものすごく危険な奴だからなぁ)
(そうなのか?であれば、別に構わんが‥)
チョット気になるが、無理に会いに行く必要も無いだろう。
「ひとまず、帰ってきたばかりなので、少しゆっくりしてから考えるよ」
と言って、ひとまずお茶を濁しておいた。
「いずれ、この依頼を受けてくれることを祈っているよ。ここ数年では、ディートハルトという冒険者が竜殺しに最も近い存在だったんだがね、プロバンシー山脈に生息する竜を退治しに行ったが帰ってこなかったようだ‥」
「おおっと、脅かしているのではないよ。君たちが、それに匹敵する実力の持ち主であるということだよ」
と、カリスト。
「いずれにしても、ご苦労だった。これで国王陛下はじめ、取り巻きの貴族達に対しても面目が立つ。男爵の件はこちらで処理しておくよ。ありがとう。これからもよろしく頼むよ」
そう言って手を差し出したカリストと握手を交わし、支部長の部屋を後にしたのであった。
誘われた夕食までまだ時間があったので、一度宿に行き、部屋を確保する。
(イグニ、さっきカリストが言っていた、ディートハルトって奴だな。お前を倒した奴というのは‥?)
(相討ちだ‥)
苦々しい声だ。負けを認めたくないらしい。
やはり、相当に実力のある冒険者だったようだ。
そうでなければ、下位竜だったイグニを倒すことなどできなかったであろう。火炎属性が付加された魔法剣を持っていたことからも、ある程度推測はしていたのだが。
いずれにしろ、下位竜を倒すことが出来るほどの実力を持った冒険者が、それほど多くはないという情報を得ることができたのは良かった。
自分の他に、この世界に転生してきている人間がいるのではないかというのは、ずっと引っかかっていたことだったからだ。
協力できればいいが、自分達の脅威になるようであれば、対策を考えないといけない。
それ以外にも、天使やら悪魔もいるようだし、クラーケン以上の魔物もいるかもしれない。
俺のように、転生者が人間ではない可能性もあるので、まだ安心はできないのだが。。。
いずれにせよ、そういったことを見極める為に、冒険者として外の世界に出て、自分の目と足で情報を収集をしているのだ。
何もなければ、デーン村で領主として、村を発展させながら、仲間とノンビリと過ごすのも悪くない。
もうしばらくは、村の様子を見ながら、外に出かけ冒険者として暮らす、二重生活を続けるつもりだった。
さて、船員ギルドに招かれた夕食会だ。
港町ながらの美味しい料理が食べられることを期待しよう。
覚えて、デーン村に持ち帰っても良いかもしれない。
ということで、バハムートと2人、夕食会へと向かったのであった。




