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第3話 名前がついた

暇だ。


初の外出から、3日が過ぎた。


まず、どういうことか腹が空かない。

こっちの世界に来てから、飲まず食わずである。

でもまったく問題がない。


腹が空いたら、洞窟の魔物でも退治して食うか、近くの山の中にいる、野生の動物でも狩って食べようかと思っていたのだが、腹が空かないのでその必要がなかった。


また、寝る必要もなかった。

初日に寝た以降、丸3日目完徹中だが、眠くなることもない。

寝ようと思っても寝れないので、眠くなるまで起きていることにする。


便利といえば便利だが、この膨大に持て余した時間を消費する娯楽がない。


ゲーム。論外。

テレビ。あるわけない。

読書。本が手に入らない。

会話。相手いない。

料理・食事。する必要ない。


スマホが欲しい。心から。。。


さて、冗談はさておき、この3日のあいだに付近の洞窟を探検してまわってみた。

この寝床以外の洞窟をいくつか見つけたものの、入口が小さ過ぎて入れなかったり、入れるものの途中で道が狭くなり進めなくなったりで、成果を出せたとはいえなかった。

一度、頭がつかえて、マジで焦ったときがあったのはご愛嬌。


収穫といえば、寝床以外の洞窟には、多少なりとも魔物が生息していることはわかった。

蛇やら、ムカデやら、蜘蛛やら、蝙蝠やら。。。

全体的に、地球上の動物を大きくして、凶悪にした感じ。

ただ、いずれも俺の姿を見ると、すぐに逃げていってしまった。


(どんだけー)


ということで、念願?の魔物との戦闘シーンもなく、暇をぶっこいてるというわけでございます。


ドラゴンって、暇なのね。

おまけに孤独。さびしっ。

暇つぶしに、人間の村を襲うシーン、ようやく理解してできた気がする。


って、このままでは本当にやってしまいそうなので、何か考えないとなぁ。マジで。


そんなことを考えていた時、唐突に頭の中に声が響いた。


「ニンゲン」


あー、あいつだ。間違いない。

その声ですぐにわかった。


ムカつくやつではあったが、この暇々な状況で、話をする相手がいたことに、少し嬉しい気持ちになった。


「久しぶりだな。死んだか、俺の魂に吸収されたのかと思ってたよ」

少し意地悪っぽく返してみた。


「我の魂は、一時期不安定な状況になって消えかかっていたが、時を経て安定したらしい。ようやく状況が理解できた」

と、以前の傲慢な態度とは打って変わり、冷静さを取り戻した様子で頭の声は話す。


(本来の性格はこちらか? この間は混乱していたのだろう)


前回の暴言は許してやることにし、それから、頭の声が理解したという状況を説明してもらった。

お互いに知っていることを共有することにしたのだ。

時間は沢山あった。


結果を要約すると、以前俺が予想していたことは概ね正解だった。


人間の冒険者が、ドラゴンスレイヤーの称号とお宝狙いに来たこと。

人間にしては熟練度の高い冒険者だったらしく、死にかけていたこと。

戦局を打開すべく、高度な攻撃魔法を試みたが、暴走して爆発してしまったこと。

この爆発により、冒険者は倒すことができたが、自分も生死を彷徨っていたこと。

その後、自分の魂はこの竜の身体に留まってはいたものの、別の誰か(俺のこと)に身体を奪われていたこと。

しばらくは魂が安定せず、消えかけていたらしいのだが、ようやく安定して存在できるようになったとのことだった。


説明を聞いた後、一応、身体を乗っ取ってしまったことを謝ったのだが、自分は一度死んだような身であることがわかり、意識だけでも存在できていることで満足しているということで、和解することができた。


どのような偶然が重なったのか、同じ身体に二つの意識が存在することになってしまったということになる。

結果として、これから24時間365日、運命共同体としてやっていくものとして、ひとまず、気まずい関係であることは回避できたわけだ。


「ところでさ、アンタの名前はなんていうのか教えてくんない?いつまでもアンタとか頭の声とか呼ぶのも変だしさ」


何気なく聞いたつもりではあったが、回答は意外だった。


「名前などない。名前はもっと上級の竜や魔物にのみ与えられるものじゃ」

とのこと。


どうやら、竜の世界では、太古の昔から生きているエンシェントドラゴンが4頭いて、名前持ちらしい。

あとは、その下のアークドラゴンが、全世界に数十頭いて、そいつらも名前持ちのようだ。

その下のドラゴンや、さらにその下のレッサードラゴンなどは、あと何千年か生きて、アークドラゴンまで進化したときに、エンシェントドラゴンに名前をつけてもらい、名前持ちになるらしい。


一応彼らの風習は理解できたが、まぁ、このままだとやはり呼びづらいので、名前をつけようということになった。

頭の声は、少し悪いことをしているような気分になっていたようだが、面倒なので押し切った。


「んー、竜だから、俺の好きな漫画に出てくる竜の名前から一部取って、イグニとかどうだろうか?」


「うむ。気に入った。これからはそう名乗ろう」


気に入ってくれたようで良かった。


「ニンゲン、お前も名前が思い出せないと言っていたな。お前にはミライという名を送ろう」


中性的ではあるが、やや女の子っぽい名前な気がする。

元おっさんが名乗るのは、ややハードルが高いが、折角つけてくれた名前だ。ありがたく名乗らせてもらおう。


「ああ、気に入ったよ。いい名前をありがとう」


「うむ。ミライよ。我はそなたと一心同体。これからは全身全霊サポートする。我ら竜族の目的は、この世の均衡を守ることであり、その為の力を手にするために、上位種族であるアークドラゴンに進化することじゃ。簡単ではないがの。よろしく頼む」

「こちらこそ」


俺は、同じ身体の中に意識を持つ、イグニと契約を交わした。


この契約を持って、協力な相棒と、アークドラゴンへの進化を目指すという目的を手に入れ、俺のトンデモない異世界生活がようやくスタートを切ったのであった。

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