第27話 支部長会議
カールスタッド王国の王都アルブフェイラ。
ここの冒険者ギルドの二階にある応接室で、3名の男達が話をしている。
一人は、カリスト。銀髪の男性である。ここ王都アルブフェイラの支部長である。カールスタッド王国内の冒険者ギルドをまとめている。
もう一人はアードルフ。赤毛の男性である。
ルクセレ王国の王都エルバドールの支部長である。こちらもルクセレ王国内の冒険者ギルドをまとめている。
最後にジョスラン。こちらは金髪の男性である。
キルシュ公国の公都クレモントの支部長である。こちらもキルシュ公国内の冒険者ギルドをまとめている。
全員、元 金板の冒険者達である。
もう50代後半から60代前半である為、すでに引退してはいるが、ギルド支部長になる為には金板か、銀板でもそれに準じた実力が無いと、その資格が得られない。
金板の冒険者の数が圧倒的に少ない為、支部長になれる人間は自ずと限られている。
彼らは月に一度、各支部を順番に回り、定例会議を開いている。
基本的には魔物や依頼に関する情報の共有、更新。各国の国内情勢の共有。毎月の会計確認。その他、問題が発生した場合に対する対処方針の決定などを行っている。
で、今回の議題に、カールスタッド王国のオスバルド・ソレス男爵が死亡したという事件があげられていた。
「うちのギルドに依頼があり、2名の冒険者が向かった。しかし、その戦闘に巻き込まれて、依頼主のソレス男爵が狼男に殺されてしまったとのことだ」
「最終的には、派遣した冒険者が男爵を殺した狼男を討伐したということだが、すでに手遅れだったらしい」
「当然だが、うちのミスで貴族が亡くなったということで、国王陛下からの責任の所在を明らかにせよとの書状がきた」
支部長のカリストが説明する。
「うむ、事故であれば、我らに責任は無いのではないか?」
ジョスランが口を開く。
「確かに直接的な責任は無いのだが、依頼人を守るのは当然のことだと主張している。ま、そう言われると、こちらが不利だがな」
とカリスト。
「結局のところ、難癖をつけて、取り決めしている、魔物退治の報奨金や、依頼の報酬を減額させたいというのが、王国の貴族達の思惑のようだ」
「ただでさえ少ない報奨金を、これ以上減らすというのか?」
とアードルフ。
「結局、金だろ?」
「魔物退治だって、税収や貿易に影響があるから、わざわざ金を払って冒険者を雇っているんだ。できればそんな金を払いたくないのさ、奴らは」
とジョスラン。
「それは、その通りなのだが、我らがいて、魔物を退治しているからこそ、今の平和が保たれているということを忘れてもらっては困るな」
とアードルフ。
「そんなことはわかっている。だから今回の問題をどう貴族達に納得させるかだよ」
カリストが忌々しそうな表情を浮かべる。
「その冒険者を処罰するよう差し出すか?」
ジョスランが言う。
「いや、それは他の冒険者達の反感を招く。故意では無く、事故である以上、良い案とは言えないよ」
とカリスト。
「ではどうする? 罰金でも払って幕を引くか?」
とアードルフ。
「まぁ、そんなところだろう。とはいえ、我らが払う道理もないから、本人達に払ってもらおう」
カリストが頷く。
「払えるだけの財力が無ければ?」
「その時は、無償で依頼をこなしてもらい、それで支払ってもらうことにするか?」
とジョスラン。
「それでいいだろう」
カリストが頷く。
「で、金額はどれくらいが落とし所になりそうだ?」
アードルフが聞く。
「感触的には500金貨ってところだろうか。銀板の依頼であれば、3-5回は無償で働いてもらうことになる」
とカリスト。
「それは、ちと厳しいな」
アードルフが呟く。
「ああ、ただ、聞くところによると、かなり腕は立つらしい。狼男の他にもオーガ3匹を2人で退治している」
「うちに来る前はエルバドールで依頼をこなしていたと聞いたが、何か知らないか?」
カリストがアードルフに尋ねる。
「いや、名前はミライといったか?記憶にないな」
「かなり美人だと聞いた。相方に大柄な男と一緒のようだ。大きな剣を持ち歩いているらしい。何か聞いてないか?」
「うん‥やはり、覚えがないわ。それほど目立つ男なら噂くらいあっても良さそうだがな」
とアードルフ。
「そうか、まぁいい。一応、銀板の冒険者なのだが、今回こういう状況なこともあり、Aランクの依頼を受けさせることにしようかと思っている」
「報酬は払わないで、無償で受けさせるが、その代わりとして、達成できた時には、金板の冒険者の資格を与えるということで、納得させようかと考えているのだが」
とカリスト。
「Aランクか。で、依頼内容は決めているのか?」
とジョスラン。
「ああ、クラーケン退治を考えている」
とカリスト。
「それは、ハードルが高すぎるのではないか?」
ジョスランが訊く。
「確かに、金板の冒険者の中でも、上位の者しか、成功させるのは難しいだろう」
「その代わり、成功したら、十分に金板の冒険者であると証明できる」
カリストが説明する。
「失敗したら?金はどうする?」
とジョスラン。
「その時は、対象の冒険者は死んだので、それ以上の処罰は意味をなさないだろう。ギルドから金を払うことは無いさ」
「あと、断られた場合はギルドを除籍処分とする」
とカリスト。
「ふむ」
とアードルフ。
「妥当な案だと思う」
ジョスランも頷いた。
では、この件はそういうことで。
こうして、支部長会議にて、男爵事故死に関するミライとバハムートの処罰は決定したのであった。




