第26話 デーン村の日常
「ただまー」
約2週間強ぶりの我が家。
着々と建設作業が進められている。
1軒目の長屋は完成し、3軒目の建設に着手していた。
畑の開墾作業も順調なようだ。
計画どおりというか、それ以上にハイペースで進んでいる。
(頑張ってくれているようだが、事故が無いようにだけ、注意しておかないといけないな‥。あとで建設班のバジルと、農業班のクルト、イェルクには気をつけるように言っておこう。安全第一でとな)
そんなことを考える。
そのまま鍛冶担当のドワーフのキエロの元に向かう。
「よぅ、キエロ。調子はどうだ?」
「これは、ミライ様。お帰りなさいませ。旅の方はいかがでしたか?」
「ああ、問題ない。お前達のお陰で、自由に行動させてもらってるよ」
「とんでもありません。ミライ様の描いてくださった理想に向かい、皆喜んでやっているだけですから」
とキエロ。まんざらお世辞というわけではないらしい。本気でそう考えているようだ。
「さて、鍛冶班としては、農機具の鍬や鎌と、牛に引かせる牛鋤の製作はほぼひと段落ついたところでございます。素人だった者達も、簡単なものなら、どうにか安定して作成できるようになりました。
大工道具の斧や鑿、釿、金槌などの製作を始めておりますが、まだ足りていません。
頑張って準備しているところです。
あと1ヶ月もすれば、作業者の数に対し、十分な道具が揃うでしょう。
鋸や、ミライ様に教えていただいた鉋という道具は、まだ製作できるほどの技術も設備もなく、もう少し研究時間が必要かと」
ちなみに釿とは、木を削る道具で、鉋の前身にあたる。
幅10cm〜20cm位の鑿のような刃が、手前に向いている手斧の一種である。これで木を荒削りし、平らにするのである。
「いや、十分だよ。良くやってくれている。ところで、コイツは人狼のテオドロというのだが、鍛冶経験があるらしい。チョット使ってやってくれ」
「テオドロ、コイツはドワーフのキエロ。鍛冶班の部隊長だ。建設作業の道具を作ってもらってるのだが、道具を揃えることによって効率をあげることができる。この町の開発の肝となる部隊だ。少し手伝ってやってくれないか?」
キエロとテオドロにそれぞれ紹介する。
「もちろんですとも。私でお役に立てることがあるのであれば、お手伝いさせていただきます」
とテオドロ。
「それじゃ、二人ともよろしくね〜」
軽い感じで、結構大事なお願いをして、その場を後にする。
遠目に見た感じ、上手くやっているようだ。
よしよし。
と、村をプラプラと散歩する。
村人からも声をかけられ、子供達とも少し遊んであげたり、平和な時間を過ごす。
疲れたら(いや、本当は別に疲れてなどいないのだが)、村長の家で、お気に入りのタンポポコーヒーを淹れてもらう。
タンポポコーヒーはここでしか飲めないのだ。
天気も良いので、のどかな農村風景を見ながら、ホッコリする。
こないだの男爵の町とは、全然違う。
まだ、決して豊かではないが、食べ物の心配がなくなり、税金で頑張った成果を持っていかれることもなくなり、皆、笑顔になった。
目的を持ち、活気にあふれている。
これが本来のあるべき姿であろう。
現代社会のように、便利過ぎて、忙しすぎて、息がつまるような暮らしではなく、ほどほどの不便さを楽しみながら暮らせる生活が続くよう、領主として出来ることをやってあげたいなと、改めて思っていた。
さて、時間もできたので、アロイス村長の奥さんのフローラさんと料理をする。
他にも、手の空いている村の女性陣にも手伝ってもらう。リーゼさん、マルガレータさん、ピーアさんが手伝ってくれる。
40-50代のお母さん達だ。
いつも美味しい料理を作ってくれているのだ。
今日は、そのお礼も兼ねてというところなのだ。
まずはバター作りだ。
山羊の乳を温め、加熱殺菌してから、しばらく置いておくと、乳脂肪分が分離してクリーム状のものが浮かんでくる。
これを取り出し、撹拌することにより、さらに水分が抜け、白い固形状のものが残る。
これに塩を少し加え、山羊のバターが完成した。
食べ慣れてる黄色いバターとは少し違うが、ちゃんとバターになっている。
次に取り出したのは小麦粉。ちゃんと挽いてあるのをカールスタッド王国の王都アルブフェイラで買ってきた。小麦粉は貴重なので高かったのだが奮発した。
小麦粉と卵、牛乳を混ぜ、これにヨーグルトを加える。
この村では自家製のヨーグルトを作っているので、ベーキングパウダーの代わりにこれを代用した。そのうち重曹の生産ができるように考えてみたい。そうすれば、もっとフワフワに仕上げることができるだろう。
で、生地がトロトロになるまでかき混ぜ、鉄板で焼く。
何を作っているかというと‥そう、パンケーキである。
生地が焼けると、良い匂いが漂ってくる。
これに、先ほど作った少量のバターのせ、蜂蜜をかける。
「どうぞ、召し上がれ」
女性陣全員に、パンケーキ1枚づつ配る。
フローラさんが初めに一口食べる。
「‥‥!」
「ミライ様、美味しいですっ」
感動してくれているようだ。
それを見て、リーゼさん、マルガレータさん、ピーアさんも待ちかねたように一口頬張る。
「んーっ!」
「こんな美味しいもの食べたことがないわ」
「甘くて、美味しいわねぇ」
ご満悦な表情である。
良かった。喜んでくれたようだ。
作り方を教えたので、村のみんなに作ってあげて欲しいと伝えた。
そんな感じで、その日の晩ご飯は、パンケーキとなり、皆、美味しそうに食べてくれている姿を見ながら、少しは頑張って働いてくれているお礼ができたかな?と思うミライなのであった。




