第25話 処分保留
「うぉぉおおー」
叫んでいるのは獣人族の人狼、テオドロである。
ジェットコースターに乗った時のような叫び声だ。
獣人族というのは、半獣半人の種族のことを指す。
一纏めに獣人族と読んでいるが、色々な種類の獣人がいる。
その中で一番有名なのが人狼と呼ばれる狼と人の獣人である。
人狼だけ、俗称として狼男と呼ばれることがあるが、正式には人狼という。
他にも、人虎や、人馬、人牛などがある。ちなみにミノタウルスは人牛の個人名である。
あとは、人猫や人兎なんていうカワイイ系の個体も存在しているようだ。
が、猫耳美少女のように顔が人間で、耳だけ猫というような萌えキャラではなく、顔も全身も猫の見た目で、人間のように二本足で直立してしているといった容姿となる。
妖怪の猫娘なんかが、これにあたる。
獣人属は、団体で部落を作ることは稀である。
基本的には人間に変身し、人間の町や村に紛れて暮らしている。
人間と結婚することも多いようだ。
そのとき、子供は9割型人間として生まれて来るようだが、稀に獣人族として生まれてくる個体もあるようである。
基本的には、亜人に入るので、人間と同じような生態となる。
特殊なのは、己の意思で変身できること。
特に月を見たら変身してしまうということは無いらしい。ただ怒りで我を忘れてしまったりした場合は、変身してしまっていることがあるらしい。
他には、自己治癒能力が比較的高いこと。
多少の怪我であれば、数日で治ってしまう。
ただし、銀の武器で追った傷が回復しづらいというのは本当のようだ。
で、テオドロである。
彼は今、バハムートに腰ベルトを掴まれ、空中を時速300km超えの飛行中である。
高度は、1000m位だろうか。
10分も飛んだところで、
「ミライ様、もう無理です‥」
情けない声を上げる。
見ると、身体はガクガクと震え、あちこち怪我をしている。
「ん?」
と思い、地上に降りる。
「もしかして寒いのか?」
「‥‥」
無言で頷く。唇は紫色に変わり、ガクガクと震えている。
「怪我はどうした?虫か?」
「おそらく‥虫かゴミか‥」
時速300km超えの速度で、虫に激突されるとどうなるか。
例えばビー玉が時速300kmで目にぶつかったら‥を想像して見てほしい。確実に失明する。
また、風圧を浴び続けている疲労や、体感温度のことをすっかり失念していた。
「俺たちにとっては全く問題ないからなぁ。すっかり慣れてしまって、忘れてしまっていたよ。悪かったな」
「いえ、とんでもない」
治癒魔法で怪我を回復するしてあげる。
1日もすれば治るのであろうが、痛いのは痛いのだ。
「亜空間に入った方がいいか?」
「いえ、それは、チョット遠慮したいと‥」
どうやら、亜空間に入るのは、あまり居心地良い良いものではないらしい。
「耐冷気」
「耐物理」
寒さと、物理に対する耐性の結界を張る。
「これで、大丈夫だと思うが‥」
「ありがとうございます」
ということで、再び飛行する。
全然違うみたいだ。
面倒だが、今後は都度、結界を張ってやろう。
ということで、王都に到着する。
ギルドに戻り、今回の件を報告したのだが、上で相談するとのことだった。
依頼主で、しかも貴族が亡くなったということで、何も処罰無しとはいかないだろうとのこと。
処分が決まるまで、依頼は受けられないということだった。
ま、しゃあない。ある意味、当然の対応か。
一応、依頼ボードを見てみると、海賊からの護衛とか、トロール退治とか、まあまあ面白そうな依頼があったが、諦めることにする。
ちょっと興味が湧いて、金板の冒険者が受けることのできるAランクの依頼ボードを覗いてみた。
クラーケン退治、グリフィン退治、死霊退治など、高レベルの依頼が並んでいる。
報酬も500-1000金貨と高額になっている。
依頼主は、貴族や商人といった、金持ちの依頼となる。
そのうち挑戦してみたいものだが、人間では厳しいように思う依頼も多い。
金板の冒険者というのは、実質、超人的な極一握りの冒険者しかなることはできないのだろう。
確かに、見たことが無いはずだった。
ということで、暇になってしまったので、一度ホームである、デーン自治領に戻ることにしたのであった。




