第22話 最先端?
目が覚めた。天井が見える。
死んではいなかったようだ。
(良かった。生きていた)
「おー、ようやくお目覚めか。ったく。ビビらせやがる。このまま起きないかとも思ったぜ」
バハムートの声だ。
ゆっくりと身体を起こす。
「どれくらい寝てた?」
「ん?あー、1週間位になるか?」
あれから俺は気を失い、倒れていたらしい。
俺の気が失っている間、イグニが人化の魔法で、人の姿に変身させ、それを、バハムートが背負って、王都まで運んできてくれたとのことだった。
で、宿のベッドで1週間、寝たきりだったようだ。
一応、今は女性バージョンになっている。
目に見えた変化は一ヶ所だけ。
籠手に取り憑かれた右手に、黒い炎の模様が浮かんでいる。刺青のようにも見えた。
(イグニ‥どういう状態だ?何か身体に変化はあったか?)
(うむ、魔装の吸収は成功した。あのままでは、魔に侵食され、危険な状態じゃった)
(体内の霊子を負霊荷型に変換され、拒絶反応が出ていたのじゃ。それに身体が耐えられなければ、死に至る可能性が高かった)
(でも、今回はマジで死ぬかと思ったぞ)
(体内の霊子を一部負霊荷型に変換し、余らせた陽霊子を魔装の持つ霊子にぶつけて、中立型に変換して吸収してやった。その時に身体に大きな負担がかかったのじゃがな)
(そうすることで、一度、魔装による侵食の勢いを殺してから、ゆっくりとマナを取りこみ、負霊荷型の霊子を中立型の霊子に戻していったのじゃ)
(ここまで戻すのに1週間もかかったわ)
(結果的に8割方は中立型に変換し、吸収することができたのじゃがな。完全に吸収しつくすことはできず、一部、負の霊子がそのまま体内に存在しておる)
(核となる魔装が、おぬしの右手と一体化し、その周辺だけ、負の霊子で活動しているようじゃ。ある意味、おぬしの右手は悪魔化したとも言えるかもしれないの)
(暴走とかしないだろうな‥)
(大丈夫じゃろう。未だこの身体を侵食してこようとしておるが、我の力で押さえ込んでおる)
(ふーん。ところで、そもそも魔装具とは何なんだ?)
(魔装具とは、負の霊子の塊じゃよ。そしてそれを活性化させるための道具でもある)
(というと?)
(つまりじゃ。霊子を底上げし、かつ効率良く使えるようになるということじゃ。同じ魔法を使うにしても、霊子を余計に消費することなく、威力をあげることができる。ただし負霊荷型の霊子に限るがな)
(それにより、魔装具を装着した魔族は、絶大な力を得ることができる。それ故に非常に貴重なものであり、魔族の中でもかなり上位の者しか持つものはいない)
(じゃあ魔族以外が身に付けるとどうなるんだ?)
(魔族以外が身に付けると、おぬしが経験したように、負の霊子の塊が身体に入ることにより拒絶反応が起こる。合わせて魔装が正霊荷型や中立型の霊子を負霊荷型に変換しようとする。魔に堕とそうとする目的だけでうごいているのじゃろう。結果、身体が順応できれば魔族に堕ちるし、できなければ死あるのみじゃよ)
(おいおい‥)
(で、おぬしは右手のみ魔族。他は竜族というハイブリッドになったわけじゃ。最先端じゃのう。ガハハハ)
(冗談のつもりか?‥‥で、能力的にはどうなった?何か制限が発生したりしてないか?)
(いや、むしろ逆じゃろうな。遥かに強くなっている。霊子の量は以前の倍以上に増えておる。悪魔化の影響で、竜の身体にも色々と恩恵がありそうじゃ)
(あとは、悪魔系の魔法も使えるようになっておる。精神系や攻撃系の魔法を覚えたぞ。どれもかなり強力そうじゃ。右手の力を使えば、威力も相当なものと期待できるじゃろうよ)
(右手の力って、コントロールできるのかよ?)
(無論じゃ)
だそうである。
イグニ先生、やっぱスゲー。
さて、起きて身体を動かしてみる。
問題ない。身体が軽い。右手の感覚も特に違和感ない。
「バハムート、ところで依頼の方はどうなった?」
そういえば‥と気になったので、聞いてみる。
「ああ、ちゃんと報告しておいたぞ。これが報酬だってよ」
金貨袋には150金貨が入っていた。なかなかに美味しい仕事だった。
やはり、ある程度高レベルの魔物を倒せるようになると、急に報酬が良くなる。
需要と供給のバランスの賜物である。
このレベルをこなせる冒険者が、それほど多くはないのだろう。
「おっ、御苦労さん。あと、ここまで運んでくれてありがとな」
「おぉ」
と、バハムート。
「ところで、もう一仕事行かないか?」
「構わんぞ。身体がなまっているからな。むしろ歓迎する」
「だな。俺も、新しい力を試してみたいしな」
ギルドに到着すると、注目を集めているのがわかる。
「あの娘、超可愛くないか?」
「馬鹿、横見ろよ。あんな体格の良い男がいるんだ。お前に脈なんてないよ」
「あんな大剣、振り回せるのかよ」
「どうせ、虚仮威しだよ。実戦では腰の剣使うんだろ」
「でも、あの二人、先週、大鬼族三匹討伐したらしいぜ」
「マジかよ‥」
そんな感じである。
銅板が大多数ではあったが、銀板の冒険者も数組いた。
特に強そうな感じを受ける者はいなかったが。
そういえば金板の冒険者はまだ見たことがない。本当にいるのだろうか?
さて、本題の掲示板の依頼だ。
「小鬼族退治に、豚鬼族退治。あとは商隊の護衛に‥お?これなんてどうだ?」
バハムートが指差した依頼は、狼男退治だった。
「良いんじゃね?報酬は80金貨か。ギルドからの報奨金合わせて100金貨になるな。OK。受けよう」
ということで、次の依頼は狼男退治に決めたのであった。




