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第21話 魔装具

洞窟の中は、暗闇で覆われていた。歩いて10mほども奥に進むと、太陽の光が届かなくなり、闇の世界に変わる。

とはいえ、暗視能力のある俺たちにとっては障害になり得なかった。

白黒テレビのような色の無い映像ではあるが、岩肌の輪郭までハッキリと見ることができていた。


空気は湿り気を含み、ところどころ滑りやすくなっている。

途中、枝分かれしている箇所もあったが、仮設のトロッコ用線路を辿りながら奥に進んでいく。


「グルルルッ」

遠くから、低い唸り声が聞こえてくる。

洞窟の壁に響き、より大きく聞こえるようだ。


(これは怖いだろうなぁ‥)

自分が人間のままであったら、間違いなく逃げ出しているだろうと思う。


(イグニ、洞窟内の魔物の反応はどうだ?)

(50m程先に行ったところに、少し大きな空洞があって、そこに大鬼族オーガの反応があるぞ。三匹いるのぅ。寝ているか、寝転がっているようじゃ)

(了解だ)


(ところで、ミライよ。その先に、何か反応があるのじゃが)

(なんだよ、反応って)

(ここからじゃと、良くわからないのだが、強い力を感じる。気をつけるのじゃぞ)

(ああ、わかった。サポート頼む。とりあえず大鬼族オーガを倒さないことにはな)


「バハムート、奥に大鬼族オーガ3体。いいよ暴れて」

「任された!」

ヤル気十分である。少しガス抜きさせないと、TPOに応じて抑えないといけない時に苦労するだろうから、こういう人目につかない時は、思う存分暴れてもらおう。


イグニの言う通り、すぐに大きな空洞に出た。

その中で大鬼族オーガが三体、気持ち良さそうに寝ている。


大鬼族オーガよ、起きろ。俺と遊ぼうぜ!」

寝ているところを、サクッとやってしまえば楽なものを、わざわざ大きな声を出して、叩き起こす。


眠りを邪魔された大鬼族オーガは、怒り狂い、バハムート目掛けて、襲いかかる。


どうやら、人化している最中は、魔物と言えども竜であることを認識しないようだ。

視覚情報によるところが大きいのであろうか。

(竜の姿だったら、すぐに逃げていくくせに‥)


まぁ、暴れたいバハムートにとっては好都合だった。襲いかかる大鬼族オーガの攻撃を意図も簡単にかわし、大刀を振り回す。一撃で大鬼族オーガの右足が切り離された。


「ウグァァァ」

バランスを崩して床に倒れこみ、苦痛に吠える大鬼族オーガ

倒れたところを、股間から頭にかけて大刀を叩きつける。衝撃で地鳴りがしたほどだ。

左右の胴体が真っ二つに跳ね、すぐに静かになった。


振り向きざま、軽々と3mの高さまで跳躍し、もう一匹に向かい、大刀を横に一閃すると、首が胴体から離れ、宙を舞った。


目の前で見せつけられた圧倒的な差、最後の一匹は、恐怖にかられ、逃げ出す、

が、あっさりと回り込み、すれ違いざまに胴体を切り離す。


ドスッと鈍い音がして、上半身が転がる。


(ムチャクチャな強さだな。なんだ、あの刀は)

改めて、第三者的に見ると、その尋常じゃない光景に驚く。


下位竜レッサードラゴンのバハムートに比べ、中位竜ドラゴンの俺は、あらゆる能力が一段階も二段階も上回っている。


攻撃力や敏捷力、耐久力も段違いに違うし、霊子エーテル量に至っては10倍以上違う。

同じ魔法でも威力が数倍も違うのだ。

また、扱える魔法の種類も、全く違う。


それでも、あれは無傷では済まないだろうと思えた。

いくら物理無効化できるとしても、あの斬撃はそれを超えてダメージを喰らうかもしれない。

(ま、本気でやれば、あれを当てられることはないが‥な)


「バハムートぉ。証拠に牙と角を回収しておいてくれぇ」と、お願いし、大鬼族オーガの牙と角を採取しておいてもらう。


さて、その間に、周囲を見回す。

トロッコの仮設レールはここまでで途切れていた。

右奥に10mほど掘り進んだ跡があるが、そこで行き止まりになっていた。この辺りの空洞が採掘現場なのかもしれない。


(ん?行き止まりか?‥イグニどうなってる?)

先に面白いものがあると言っていたが、その先につづく道は見当たらない。


(うむ、しかし確かにこの下に反応が‥ん?この地面の一部は、魔法で隠されておるな)


魔法解除ディスペル・マジック

イグニが魔法の障壁を解除する。

すると、左奥の地面に見えていた場所が消え、幅が1m弱、長さが4-5m程の割れ目が現れた。

深さはとてつもなく深い。暗視の能力でも先が見えない。少なくとも数百m以上の深さがあるようだ。


(ミライ、この先のようじゃ。魔法の障壁が無くなって、ハッキリと感じるぞ。ひどく禍々しい魔の力を感じる)

(悪魔ってことか?)

(そうじゃ、マイナス霊子エーテルの力を感じる。魔族の力であることは間違いない)


(どう思う?やめておいた方が良いか?)

(うむ、あまり関わらない方が良い力であるのは間違いないのだが。何か気になるのじゃ。お主に任せる)

(ふむ。どうしたもんか。このまま放置して、炭鉱で働く人達に、何か害を及ぼす可能性はあるか?)

(十分考えられるじゃろうな‥)


「ミライ、終わったぞ。こんなところに地割れがあるなんてな」

バハムートが、作業を終えて、こちらに来た。


「ご苦労さん。ところで、イグニによると、この下に魔族の力を感じるらしい。このまま放置して、この辺りの人間に危害があると寝覚めが悪いので、少し調べてみようと思うんだけど、いいか?」

「ああ、構わねぇよ。確かに強い魔の力を感じるな」

「OK。じゃあ行こう」


俺とバハムートは、割れ目の中をゆっくりと下りていった。

慎重に、歩く位のスピードで下りるが、15分を超えてもまだ底に辿り着かない。

時速4kmとして、1kmは地下に潜ったことになるが、まだ先が見えない。


(どこまで下りるんだ‥)

(今で半分くらいじゃ。反応は確実に大きくなっている)

イグニの感知能力は、俺よりも遥かに高いようだった。俺も感知はしているが、ボンヤリとしかわからない。


イグニの言うとおり、もう15分ほど進んだ、地表から距離にして2km程のところ、そんな地下奥深くに、直径1km程の球状の空間がポッカリと姿を現した。


すでに気温は100℃を超えていたが、熱に耐性のあるおかげで、特に問題はない。

が、暑く湿度も高い、息が詰まりそうな環境であった。


その中心に、黒く光る、籠手ガントレットが浮かんでいる。

禍々しい霊子エーテルを纏い、危険な存在感を示している。


(イグニ、これは?)

(魔装‥じゃな。悪魔が身につける防具じゃよ。膨大な力が感じられるが、非常に危険なものじゃ。なぜこんなところに放置されているのか‥)

(破壊するか?)

(無理じゃろうな)

(じゃあどうする?)

(封印できれば良いが‥かなり骨が折れそうじゃ)

そう言って、イグニが魔法を発動させる。

魔封印シールド


魔法陣が、立体的に籠手の六面を覆い、それが何重にも重なっていく。

しかし、次の瞬間、パリン‥とガラスが割れたように魔法陣が飛び散り、衝撃波とともに閃光が発生する。


眩しさに、目を隠すように右手をかざす。

その一瞬の隙をついて、禍々しいマイナス霊子エーテルを纏った籠手ガントレットから俺の右手に黒い霊子エーテルが伸び、右手にまとわりついた。


次の瞬間、籠手ガントレットは俺の右腕に装着され、一体化する。

「しまった。。。クッ‥グワァァ」

不意に激痛が走り、苦痛にもがく。


痛みは感じないはずの身体であったが、右手にナイフを突き立てられ、そのまま肉を裂かれるような痛みが、全身の神経を駆け巡る。


右手が籠手ガントレットに喰われているのだ。指が噛みくだされ、腕の肉が食いちぎられる。すぐに再生するのだが、また食いつかれる。


右手の肘より下が、拷問にかけられたように壊され、再生し、また壊され、再生するということを繰り返す。都度痛みは当然のように襲ってくるのだ。


(イグニ‥何とかしろ!)

(うむ、やってみよう)


右手を覆う、禍々しいマイナス霊子エーテル。これを青い光が包み込む。

いや、包んでいるのではなく、喰っているというほうが近いかもしれない。


俺の持つ霊子エーテルは中立型。霊子核の周りを取り囲む負霊荷 (ー)と陽霊荷(+)が同じ数でバランスが取れている状態。

これが、陽霊荷より負霊荷の数が多い状態を負霊荷型。逆を正霊荷型と呼ぶ。


通常、この3種類は、それぞれ性質が異なる為、エネルギーとしてそのまま摂取することが出来ない。


しかし、今イグニがやっているのは、俺の体内に持っている中立型の霊子が保有する陽霊荷を、籠手ガントレットの持つ負霊荷型の霊子エーテルにぶつけ、中立型に変換してから吸収するという作業をおこなっているのだ。

どれほどの演算能力があれば可能な作業なのか、想像もできない。が、事実少しづつ負霊荷型の霊子エーテルを吸収しだしている。


その一方で、俺の体内にある中立型の霊子エーテルは徐々に負霊荷型の霊子エーテルに変わっていく。

それに伴い、体内で拒絶反応が出始める。


「グッ、グァァアーーーッ!」


全身を引き裂かれるような痛みが、つま先から頭のてっぺんまでを突き抜ける。


人間の姿を維持できなくなり、竜の姿に戻るが、状況は変わらない。


今までに味わったことのない苦痛。

痛みに汗が吹き出し、悶え苦しむ。

巨体を壁に、地面にぶつけ、もがく。

ただただ逃げ出したい。逃れたい。そんなことしか思い浮かばない。


徐々に意識が朦朧としてくる。

視界が白く霧に覆われ、何も見えなくなった。


自分の叫び声、地面に身体をぶつける音。呼びかけるバハムートの声。しだいにそれらも聞こえなくなる。


(あー、俺は再び死ぬんだな)

(まだまだ色んな国を冒険して、自分の領地を発展させて、仲間に囲まれて、ワガママに楽しい異世界ライフを満喫したかった‥)


意識が薄れていく‥そして、暗闇に包まれたのであった。


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