第20話 新たなる冒険
後日、約束通り、商人がやってきた。30代前半の商人で、名をエリアスといった。
今のところ売るものが無いので、買うだけになるが、鉄鉱石の供給ルートには目処がついた。当面生産を行う為の麦や野菜の種子の買い付けも行う。
将来的には、自分達が食べる分以上の生産を行い、余り分のライ麦やえん麦を売却して、金貨に変えることができるようにしたい。
他にも特産品を準備する必要があるとは考えており、当面は亜麻の生産の研究を始めてもらっている。
また、木綿は当時のヨーロッパにはまだ伝わっていないはずである。生産できれば、大きな利益になるだろう。
実際にこの世界でどういう設定になってあるのかは分からないが、世界中を旅して、珍しいものを見つけ、持ってこようと考えていた。
課題だった鉄鉱石や、麦や野菜の種子の供給ルートの確保ができ、軌道に乗ったので、あとは各部隊長に丸投げした。
ビジョンを示し、道筋を整えた。あとはそれを継続し、発展できるか、彼らに任せることにした。
というわけで、俺が今いるのは、ルクセレ王国の南側に位置するカールスタッド王国の王都アルブフェイラの冒険者ギルドにいる。
隣にいるのはマティアス(火竜バハムート)だ。
どうやら、バハムートと言う名がえらい気に入ったようで、マティアスでは無くバハムートと呼んでくれとのこと。
元々、竜としての名前はまだ無かったのだが、俺がバハムートと言う名をつけてあげたのだ。
ちなみにマティアスというのは、人間の姿に変身しているときに、不都合ということで、偽名を使っていたのだが、本当の名前が出来たので、もうマティアスという偽名は使わないそうである。
まぁ、竜であることがバレさえしなければ、名前などどうでも良い。
ということで、バハムートと言う本名?で、冒険者登録し、晴れて銅板の冒険者となったのであった。
190cmを超える大柄の男で、左目には眼帯をしている。真っ赤な赤毛の短髪の頭が良く目立つ。
顔も男らしい精悍な顔つきをしている。
まぁ、格好いいと言える部類だろう。女性よりも男性に慕われそうなタイプではあるが。
左手には2m50cmを超える、大きな日本刀のような刀を持ち歩いてる。だが、剣幅は日本刀より遥かに広い。
振り回すのに邪魔じゃないのか聞いたのだが、大きな魔物を倒すとき、小さな剣でチマチマ削るのが性に合わないらしい。
一応、狭い場所でも剣が振れるように、腰には普通の幅広剣も装備していたが、あまり使う気はないようだ。
もう一つ、俺は銀板の冒険者となっていたが、ルクセレ王国でチョット有名になり過ぎている可能性もあるので、女性の姿に変身していた。
銀板タグにはミライと名前が彫られているが、ミラと名乗ることにした。
隣の国に来ているし、問題ないとは思ったのだが、冒険者としては女性バージョンのミラ、デーン自治領の領主としては、男性バージョンのミライで使い分けることにしたのだった。
ただ、20代前半に変身したその容姿は、以前確認しているので知ってはいたのだが、改めて見てみてもヤバかった。
白く透き通るような肌。絹のような光沢のある肩上くらいまである黒髪が、ややウェーブががり、フンワリとまとまっている。
そしてその顔は美人だがキツくなく、笑顔を向けられたら、ドキッとしない男はいないだろうと思うほど、可愛らしい顔をしている。
ちなみに、身長は165cm位でやや高め。すらっとした手足で、胸の膨らみは少し抑えめにしている。
女性バージョンでは、魔法使いということにし、装備も更に軽いものにした。
少し肌の露出が多いが、ポンチョのような、ショート丈のマントで隠している。
膝丈ほどのスカートにブーツを合わせ、可愛らしくまとめてみた。
さて、案の定、男達の視線を集めるが、隣にいるのが身長190cmを超える、隻眼の大男だ。
流石に、声をかけてくる勇気のあるものはいない。
受付カウンターに行き、仕事の依頼を確認する。
実はルクセレ王国と、カールスタッド王国では、言語が異なる。とは言っても方言のキツイような感じで、基本的には通じるが、単語が微妙に違うのである。
が、俺もこの1ヶ月ほどの間に、この近隣諸国で使われている文字を読み書きできるようになっている。言葉も念話によるサポートなしに、普通に聞き、話すことができるようになっていたために、不自由は感じることがなかった。
どうも転生してから、物覚えが早くなり、頭の回転も良くなっている。
また、俺って転生前にこんなことを知っていたのか疑いたくなるような知識まで、何故かわからないが知っているという状況なのだ。
いや、すごく便利だし、ある意味あまり努力せずに頭が良くなるなんて、憧れでしかなかったことだが、いざ自分がそういう立場になると、少しだけ罪悪感のようなものを感じてしまう。
まぁ、異世界転生に多少のチートはお約束ものだと割り切り、この状況を楽しんでいるのであった。
さて、色々と説明が長くなってしまったが、銀板の冒険者が受けられるBランクの依頼で、難しそうな仕事を受けることにした。
内容は魔物退治だが、その魔物というのが鉄鉱山に住み着いた大鬼族の退治ということだった。
この世界の大鬼族は、昔話の桃太郎などに出てくる鬼の姿に良く似ている。
体長3mを超える大柄な体だが、体毛があり、後ろ姿は大きな猿かゴリラのように見える。
正面から見ると、大きく開いた口から二本の牙が剥き出し、額から二本の角が生えている魔物である。
猿のようにすばしっこい動きで、その尖った爪のがついた腕を振り回し、ものすごい怪力で獲物をなぎ倒すという、危険な魔物の一つであった。
一応、二体までは確認されているようだが、それ以上いるかもしれないとのこと。
一体につき40金貨の報酬となっていた。
ギルドからも一体10金貨の報奨金が出るようだ。上限は無しとのこと。
ちなみに、カールスタッド王国でも同じ貨幣体系である。
銀貨12枚で、金貨1枚の価値がある。
製造した国によって、貨幣に刻印された紋章が異なるが、同じ金、銀の重量が採用されている。
金貨は、小指の先くらいの大きさの塊をゆびで潰した、パスタのオレキエッテのような形をしている。これで、現在のお金に換算すると、約1万円ほどの価値である。純度がそれほど高くないと思われるのでこんなもんだろうか。
いずれにしろ、そのおかげで、山脈南三国では同じ貨幣を使用することができ、両替の手間が省けるので、こちらとしては助かるというものであった。
ということで、王都から北のルクセレ王国に戻るような形で、歩いて約3日ほどの距離を、30分ほどで飛んで移動し、鉱山洞窟の前に立っている。
当然のように、バハムートも空を飛ぶことができた為である。
以前のように、人間のフリをして、歩いて移動する必要がないので、気が楽であった。
鉱山入口の周りには、空のトロッコが放置されており、数本のツルハシがその中に転がっている。
仮設のレールが、鉱山洞窟の中に続いており、暗闇が続いている。
周りに人の姿はない。休業状態のようだった。
「さて、軽くお仕事といこうか」
俺とバハムートは、暗闇の広がっている鉱山洞窟の中に入っていったのであった。




