第2話 はじめてのお出かけ
どれ位の間、寝ていたのだろう。。。
目が覚めると、すっかり身体の傷が塞がっていた。
痛みもなく、身体を動かすことができた。
あらためて起き上がり、周囲を見渡す。
周りに光源はないので、真っ暗闇の中だとは思うが、暗視能力があるようである。
白黒テレビを見ているような映像だが、以外にハッキリと見渡すことができた。
大きさは、小学校の体育館位の広さ。円形というよりは、丸みをおびた長方形というスペース。
天井までの高さは10m位あるだろうか。
この部屋の入口は一ヶ所だけで、その奥には通路が伸びているのが見えた。
いかにもドラゴンの巣といったスペースである。寝床にはどこで集めてきたのか、金貨、銀貨の山があり、剣や宝飾品が転がっている。また、そのまわりでは、これらのお宝を目当てにやってきて、敗れ散っていったであろう白骨死体が無数に転がっていた。
慣れない巨体をゆっくりと動かし、感覚をつかむ。
手、足、首、尻尾、口。
30分くらいかけて、不自由なく動かせるくらいにはすることができた。
背中には巨大な蝙蝠の羽のような翼があったが、翼を広げるには、この洞窟は少し狭いので、空を飛ぶのは外に出てからであろう。
大空を飛ぶ。
ロマンである。
想像して、チョット楽しくなってきた。
そういえば、あれから頭の中の声が聞こえなくなった。この身体の元の所有者のようであったが、魂を吸収してしまったのか、すっかりと気配が消えてしまっていた。
この世界について、色々と聞きたいことがあったが、怒鳴って暴れて、勝手に消えてしまうという、ムカつくやつだったので、ま、どうでもいいか、と思い直した。
(さて、特にすることもないので、歩き回ってみようかな。他に魔物がいたとしても、ドラゴンだし。勝手に逃げていってくれるだろう)
何ともザックリとした甘い考えで、唯一の通路に向けて歩き出す。
頭から尻尾まで全長10m位の巨体が動くのだ、体重も10t位あるのではないだろうか?
静まり返った洞窟の中を、ドスンドスンと音を立てながら進んでいく。
洞窟の通路は思っていたより広かった。
壁にぶつかることなく進むことができる。
(そりゃそうか。狭かったら奥の部屋までたどり着けないわ)
ゆるいカーブがいくつかあり、多少の蛇行はありつつも、基本は直線的だった。
通路に他の魔物は見当たらない。
障害物が無いので、少し歩く速度を上げてみると、思いのほか早く走れることに驚いた。
人間が全速力で走る速度位であれば、十分追いつけると思われた。
軽い感動を覚えていると、目の前に、切り立った崖に囲まれた空間があらわれた。軽く野球場がスッポリとおさまるくらいの広さはある。
上を見上げると、その先に星空がのぞいていた。
(よし、行ってみるか〜)
気合いを入れて、背中から生えている巨大な蝙蝠の羽のような翼を広げる。
背中の筋肉を動かすようなイメージで翼を動かすことができるようだった。
大きく羽ばたいてみる。
それと同時に軽く地面を蹴り出したところ、ものすごい勢いで上へと上へと進み出した。
翼による物理的な推進力以外の力が働いているようであった。
高速道路で大型バイクをフル加速したような加速力である。
数秒で300km/hを超したのではないだろうか。
あっと言う間に雲を超え、満天の星空の下に出た。
速度を落とすのは簡単だった。
止まりたいと思うだけで、自然と空中で静止することができた。翼ははゆっくりと羽ばたかせるだけで充分だった。本来、ホバリングは高度な技術だと思うのだが、あまり意識せずに安定して空中に浮かんでいられた。
上空を見上げる。
絶景だった。
筆舌に尽くしがたい。
前世で行った大自然のキャンプ場で見る星空も綺麗だったことは記憶していたが、比べることもできないほど、星が輝いていた。
しばらく絶景を楽しんだ後、星座が自分の知っているものではないとわかった。
オリオン座やカシオペア座、北斗七星など探したが、やはり見当たらない。
やはり、地球とは違う世界なのだろう。
しかし、月はあった。
正確には違うものであろうが、自分の知っている夜空に近いことで、なんだかホッとしてしまった。
さて、ホッコリしたところで、眼下に目を向ける。
寝ぐらのあった洞窟は、周囲を崖で囲まれた谷の中にあった。
人が乗り越えて来るのは難しそうだ。
どこか洞窟が繋がって抜けてくることはできるのであろうが、簡単に侵入されることのない良い場所のように思った。
山脈は左右に続いている。
ヒマラヤ山脈ほど高くはないが、2000-3000m級の山々が並んでいるようだ。
その先は見えない。
山脈のふもとには、 農村だろうか、10軒ほどの規模の村が、3つ見えた。
山脈が東西にのびていると仮定して、南東の方角には海らしき景色も広がっている。
山から南や、南東の方角に、何本か大きな川が流れているのが見えた。
川沿いには50-100軒規模の町がいくつか見える。
少し離れたところに、ひときわ大きな街が見えた。二つの大きな川の合流している場所に位置している。
高い城壁に囲まれて、中央には大きな城が見えた。王都か、有力貴族の統治する街なのであろうことは、容易に想像できた。
(さて、どうしようかな)
思案する。
人間であれば、冒険者ギルド(この世界にあるのかはわからないが)に行って、冒険者として生きていくというのがテンプレであるのであろうが、自分はドラゴンである。
人里に降りて行ったら、間違いなく大騒ぎになるだろうし、討伐隊とかも組まれるかもしれない。
相手が敵意を持って攻撃してくるのであれば、返り討ちにすることもやぶさかではないが、積極的に人間と敵対するつもりはない。
ただ、寝床に戻って、大人しくしているだけというのも、性に合わない。
せっかく生まれ変わったのだ。自由にワガママに生きたいではないか。
ということで、寝床の近くの農村を、遠くから見学でもしようかと、ゆっくりと下降していく。
上空からはよくわからなかったが、近づくにつれ、家のみすぼらしさが目に付いた。
板や枝を紐で組み合わせただけの家。
いや、家と呼ぶのもおこがましいほど、みすぼらしいものであった。
まぁ、中世の農村なんてこんなものか。
着るもの、食べるものにも困る生活なのであろうことは容易に想像できた。
さて、そろそろ戻ろうかと思った矢先、松明を持った人間が何人か家から出てくる。
恐る恐る、身を寄せ合いながら、松明をこちらに向け、影に浮かび上がった竜の姿に、腰を抜かし、松明を落とす。
(ヤバ、近づきすぎた)
すぐに飛び立ったが、時すでに遅しである。警戒させてしまったようだ。
ピンポンダッシュ同然にその場を逃げ出して、寝床に帰る。
ま、外の世界を確認することはできたし、空も飛べたし、今日のところは良しとするか。
思いなおし、寝床である洞窟に戻っていった。