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第18話 街道の戦い

「で、おめおめと引き下がって帰ってきた訳か?」

怒りに震えているのが、ヒルシュフェルト伯爵である。年齢は40代後半。引き締まった身体で、自身も剣を振るう。

国王の右腕として、将軍職を務める重鎮である。


その前に、片膝をついて畏まる騎士ローマイアー卿の姿があった。


「はい、申し訳ございません。残念ながら全く歯が立ちませんでした。おそらく王国騎士団長であるフリードリヒ卿にも匹敵する強さでございました。


「信じられん‥」

ヒルシュフェルトが呟く。


王国騎士団長フリードリヒ。王国内はおろか、山脈プロバンシー南三国にその名を轟かせている英傑である。

魔剣シュヴェルツェを操り、竜を退治したこともある騎士の中の騎士と呼ばれていた。

戦場では一人で1000人の兵士を切り捨てたこともある伝説を残している。


ヒルシュフェルトにとって、デーン村など、ほとんど記憶にも無い村である。僅かながらの税を納めるだけの村に、さほど愛着のあるはずも無いのだが、傭兵ごときに、こうも堂々と喧嘩を売られて、はいそうですかと引き下がることはできなかった。


「私が直接行こう。最低限の者だけを残し、騎士全員集めろ。討伐してくれる」

貴族の権威と矜持を踏みにじられ、怒りに染まって、ヒルシュフェルトはそう命じた。


「はっ。直ちに」

ローマイアーは一礼し、素早く部屋を後にした。

すぐに準備に取り掛からねば。あの屈辱を今度こそ晴らしてくれようと‥。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、デーン村の方では、戦いの準備が進められていた。


密偵からの報告で、大規模な出陣の用意をしていることは把握済みである。

その規模からも、恐らく伯爵自ら出て来るであろうとの予測であった。


(都合がいい。この戦いで圧勝し、こちらが有利な条件で交渉のテーブルにつかせてやれば良い)

そう考えていた。


ただ、数百騎の騎馬との戦いとなると、せっかく耕した畑が荒れてしまう。

それはいただけないということで、村に着く手前で待ち伏せすることにする。


森の中を通る街道は、騎馬が2-3頭並んで通れるくらいの幅であったのだが、足元30cm位のところで街道を横切るように、木の根元同士にツル性の植物を巻きつけ、張り巡らせる。


その後方に、丸太を交差させ組んだ簡易的な柵を作り、その間から槍を突き出し、これ以上行かせないように防衛線を張る。


ま、無いよりマシというか、小手先の虚仮威こけおどしというか‥である。


そんな感じで、取り敢えずの準備も終わり、あとは迎え撃つだけであった。


しばらく待ったのだが、ようやく遠くからドッドッドッと、馬の大群が移動している音が聞こえてくる。


上空に飛び、その姿を確認する。一応翼はしまってある。魔法で空を飛んでるだけのように見えるだろう。


その数はおおよそ300。

隊列を組んでいたが、森に入ったところで、縦に長くなる。あまり数の差が出づらい状況だ。


そのうち、罠を仕掛けた場所に差し掛かったと思ったら、集団の先頭を走っていた数頭がツルに足を引っ掛け転倒する。


「ヒヒーン!」

馬が倒れこみ、馬上にいた騎士が吹き飛ばされた。思いのほか大惨事である。


(あちゃー。あんな罠に引っかかるなよ)

額に手を当てる。

馬の歩速を遅らせられれば良いぐらいにしか思っていなかったので、ここまでキレイに引っかかってくれるとは想像もしていなかった。


スーッと降りていき、地上4mほどの空中で静止する。

右手を上げると、左右の森の中から、弓を構えた警備部隊のメンバーが顔を出す。


一気に緊迫感の高まる両者。


「さて、大人数でお越しくださったようだが、武力行使に来たという理解でいいのか?」

俺が騎士達を見下ろしながら挑発する。


騎士達は無言のまま、剣を抜いた。

「かか‥れ!」


突撃の雄叫びをあげようとするも、それは叶わない。彼らが動こうとするより早く、俺は麻痺雲パラライズクラウドの魔法を発動させた。

先頭にいた100名ほどが、魔法の範囲に入っていた。馬も人も身体の自由を奪われ、ドスンと地面に倒れこむ。


「クッ‥」

少し離れて付いて行っていた、第二集団の騎士達が、歯ぎしりする。

目の前の集団が一瞬のうちに倒されたのだ。

彼らの理解を超えていた。

頭が真っ白になるが、恐怖で暴れだしそうになる馬達を制するだけで、精一杯のようであった。


警備部隊に、麻痺で動けずに倒れている騎士達を縛り上げさせる。


「ヒルシュフェルト伯爵殿下と、直接話がしたい。呼んできてくれるか?」

俺は地上に降り立ち、先頭の騎士にそう言った。


「無頼な!」

しかし、恐怖よりも、怒りやプライドが押し勝ったのであろう。騎士の一人が、剣を抜き、切りかかってくる。


だが、次の瞬間、カーンと金属音が鳴り響き、騎士の持っていた剣が宙を舞った。

俺の横から、マティアス(火竜バハムート)が、刃渡り2m50cmはあろうかという日本刀によく似た片刃の剣で、その騎士の剣を弾き飛ばしたのだった。


「お前ばっかりずるぃーだろ。俺にも暴れさせろや、コラ」

「やり過ぎるなよ」

ため息混じりに答えると、マティアスはニヤリと笑って、剣を弾き飛ばした騎士に近づき、その胸元をむんずと掴んだかと思うと、片手で高く持ち上げて集団の中に投げ飛ばした。


馬が暴れる。


「命のいらないやつは出てこい。俺様が相手をしてやるよ。ニンゲン」

魔物並みの迫力である。下位レッサーとはいえ、さすがドラゴン。剣を構えたマティアスの前に出てくる者はいない。

皆、命が惜しいのであろう。剣を構えてはいるが、持つ手が震えている。


「おい、そこの青年。ヒルシュフェルト伯爵殿下と、直接話がしたい。戦うというのであれば、このまま全滅させる。逃げるのであれば追いかけて全滅させる。側近の騎士数名を連れて、デーン村の村長の家に来いと伝えろ。いいな?」


一番近くにいて、顔面蒼白になっている20代前半に見える騎士に向かって、そう伝言を託した。


「よし、一旦撤収だ。速やかに移動しろ」

「あ、あと戦利品として、剣や財布は貰っておけよ。以上」


そう言い残し、俺は村に飛んで戻ったのであった。

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