第17話 一騎打ち
伯爵所属の騎士達がデーン村に現れたのは、お昼頃であった。
全員お揃いの軽装の鎧を着て、馬に乗って現れたのであった。
アロイス村長がうやうやしく出迎える。
「これは、ローマイアー卿。このような場所にお出向きくださり、ありがとうございます」
「実は、困ったことになっておりまして、ご相談にあがろうかと考えておったところでございます」
知った顔らしい。
俺はこの場にいなかったので、あとで聞いたところ、なかなかの演技だったようだ。
さすが年の功である。
「うむ、何やらこの村に住み着いた者が多数いると聞いて、確認しに参った。相談とはそのことか?」
ローマイアーと呼ばれた騎士が聞く。
「はい、その通りでごいます。元傭兵とかいう流れ者が村の北側に住み着きまして、我々を脅し、協力させられているのです」
「我々では抵抗することもできず、従うほかありません。お助けください」
頭を下げる。
「うむ、そういうことか。その元傭兵とやらのリーダーはどこにいる?」
「はい、北側の仮設住居におります。ご案内します」
そう言って、村長は騎士達を俺のいるところまで連れてきた。
「ミライ様、騎士様がお見えになりました」
村長が騎士5人を連れて現れる。
「貴様が元傭兵とかいうミライという者か?この村の住民を脅して、労働を強いているとのこと、本当か?」
威厳を持ってということであろうが、見下すように詰問する。
「‥騎士というのは、先に自分の名前も名乗ることができない生き物なのか?」
わざと呆れたように言ってやる。
「貴様、無礼であるぞ!」
騎士の一人が、簡単に挑発に乗って、剣を抜く。
「あら、あら。剣を抜いたということは、こちらは正当防衛ということでいいのか?」
隣にいるマティアス(火竜バハムート)に合図をし、リーダーらしき騎士に確認する。
「待て、剣を収めよ。戦いに来たわけではない」
と言って、剣を抜いた騎士をたしなめた。
「はっ、失礼しました」
叱責された騎士は、素直に剣を鞘に収める。
良い判断だ。ここで切りかかって来たら、一瞬で切り捨てていたところだ。
「失礼した。私はヨハネス・ヒルシュフェルト伯爵にお仕えする騎士ヴィンツェンツ・ローマイアーと申す者。本日は主君の命により、この辺りに住み着いたという者達について、確認しに参った」
「先ほどの問いだが、村の住民を脅して、労働を強いているとのこと、本当か?」
ローマイアーと名乗る騎士が詰問する。
「本当だと言ったら?」
相手の反応を試してみる。
「斬る‥」
そう言って剣に手をかける。
「わかった。では正々堂々、一対一の勝負といこうか。外に出てもらおう」
俺はそう言って、仮設住居の外に出た。騎士達は後から付いてくる。
住居前の広場に出て、俺はゆっくりと剣を抜いた。ローマイアーも剣を抜く。
「もしこの勝負に負けたら、この村を出て行ってやる。その代わり俺が勝ったら、お前の飼い主に、この村はこの俺ミライが貰ったと伝えろ。税も一切払わないし、武力で制圧しようとするのであれば、返り討ちにする」
「戯言を。お前はここで私に倒される運命だ!」
ローマイアーが、剣を上から振りおろす。
俺はその剣を簡単に受け流した。
「騎士様の実力は、この程度か?」
挑発する。
「ふざけるな!!」
ローマイアーは激昂し、激しく剣を打ち込んでくる。
それを全て受け流し、返す刀で、ローマイアーの剣を弾き飛ばした。
剣は宙に高く舞い、地面に落ちて、カランカランと乾いた音がする。
「そんな‥」
ローマイアーの部下らしき騎士達が驚きの表情を浮かべている。
「ということで、俺の勝ちだな。約束通りお前の飼い主に伝えておけよ。協調を取るなら協力してやるが、敵対を取るなら返り討ちにする。いいな」
俺は剣をローマイアーの首元に突きつけながら言い放った。
「くっ」
ローマイアーは手首を押さえながら、苦渋の表情で俺を睨みつける。
剣を鞘に収めて、俺は建物に引き返した。
「行くぞ‥」
剣を拾い、屈辱に耐えながら、帰路につく騎士達。
騎士達を見送って、アロイス村長が戻ってきた。
心配そうな表情を浮かべている。
「ミライ様。少しやり過ぎでは‥」
報復を恐れてのことだろう。
「大丈夫だ。どう転んでもお前達にはお咎めないだろうから、心配するな」
「初めからこうするつもりだったのだ。相手は貴族。対等なテーブルにつくはずもない。だからと言って、こちらが下手に出る必要もないしな」
「ではどうすれば良いか。こちらの力を見せて、手出ししたくなくなるようにしてやれば良い。そこで初めてこちらが有利な条件で交渉のテーブルに着くことができる」
「しかし、相手は伯爵所属の騎士団500名以上を抱えているのですよ‥」
と村長。
「なに、国境警備もあるんだ。500人全員で攻めて来ることはできないさ。仮に出来たとしても全く問題はないがな」
「ミライ。皆殺しで良いのか?俺が出ようか?」
とマティアス(赤竜バハムート)。
「いや、まずは無力化させる。麻痺や捕縛で、動けなくして、出方をみるよ」
「協調路線が取れれば、鉄鉱石や様々な品物の購入ルートを獲得できるからな。その芽を残しておきたい。当面は干渉しないという路線でも構わないがな」
「それでも力量を測って、負けを認めることができない馬鹿揃いだったら、全滅させるだけだよ。その時はお前に暴れてもらうさ」
(さて、ヒルシュフェルト伯爵とやらが、どう出てくるかだな。損得勘定が計算できる奴だとありがたいが‥)
そんなことを考えながら、次の手は相手の出方次第という状況を作り出し、こちらもやることが山のようにあるので、日々の忙しさに戻っていったのであった。




