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第16話 新たな火種

俺たちミライ組がデーン村に移住して1ヶ月が経った。


鍛冶部門は、まず基本的な火炉を3つほど作成し、農機具と大工道具の作成にかかった。

耐火煉瓦では無いため、すぐに壊れる代物ではあったが、補修しながらも、建設部門と農業部門で必要としている道具の作成を急ピッチで行った。


材料は、まだ鉄鉱石の入手ルートが確立されていない為、古い剣や斧などを集めて、再利用する形で対応した。


始めは素人同然で、出来上がりもかなり質の悪いものしかできなかったが、1ヶ月もすると、少しずつ品質が安定し、それなりに使える物が出来上がるようになってきた。


材料である鉄鉱石や、燃料の購入ルートの確立と、より高い温度で耐久性も持った火炉の開発、鍛冶技術の向上など、やるべきことは沢山あるが、優先順位をつけてこなしていってもらう。


今のところ、順調に仕事をこなしてくれていた。


次に、建設部門だが、一番始めに建設したのがトイレだった。目隠しを立てて、小と大は分けて設置した。後に肥料にする時に、水分が多いと乾燥しづらく、よい肥料にならないためである。

大はバケツのような入れ物に貯め、定期的に肥料作成用のスペースに運ぶようにしたのである。


次に測量に取り掛かり、現在は1軒目の家が8割ほど、2軒目の家が3割ほど完成しているという状況にある。

柱を建て、梁で支え、筋交いを入れて強度を増し、屋根と壁をつけただけの家で、地面は全面土間である。

ここに二段ベッドを作り、並べることで、寝台列車並みの狭さではあったが、一軒で16人寝泊まりすることが出来る設計になっていた。

雨風もしのげ、暖房を用意すれば、冬も凌げるであろう十分な出来である。


高価ではあったが、大鋸を買ってきておいたのが役立った。これで丸太から板を切り出すことが出来、本来なら楔を打ち込んで木目に沿って木を割る作業が、多少木目の歪んでいる丸太からでも木板を切り出すことができたのである。

高度な技術が必要だが、いずれは鍛冶部門で内作できるようになってほしいものだ。


木板は、壁や屋根を作る際に必要であった。

大鋸によるかなり重労働な作業であったので、生産効率は悪いが、それでも楔による作業よりは効率が良かったのである。


警備部門の方は、5人一組で、5組の小隊を組み、シフト制で交代し、回していた。

村の警備の他に、巡回と狩猟を担当する。

罠なども仕掛け、定期的にウサギや鴨、イノシシ、熊などを食材や毛皮の材料として持ち帰り、また山羊や野生の馬を捉えて、家畜として農業部門に引き渡したりしていた。


グスタフが始めに言っていたとおり、元盗賊の中でも特に腕の立つ者達がこの部門に配属になり、精鋭部隊として、順調に仕事をこなしていた。


また、5人ほどが、王都やレンズブルクに潜り込み、情報収集の任務についており、大きな動きがあったときには、グスタフの元に連絡が入るようになっていた。


最後に農業部門だが、10アールほどの土地を開墾し、ここにえんばくを撒いた。

まだまだ少ないが、一歩目を踏み出した。

春蒔きなので、秋には収穫出来るだろう。


そのままではクセがあってあまり美味しくないのだがオートミールとして主食になることができる重要な食材である。

フルーツや木の実と合わせることで食べやすくなるので、いずれ改良していきたいものである。


食料事情も順調だった。

村の女性たちが、食事をまとめて作り、並んで受け取って食べる。

狩猟による食材の供給もあり、食料もまだまだ潤沢な状況であった。

質、量を満足させながら、食材の無駄をなるべく無くす工夫をしてくれているおかげであったと言えよう。


で、俺とマティアスが何をしていたかと言うと、色々と様子を見て回りながら、アドバイスという名の口出しをしていただけであるが、皆自分達で工夫して良くしようとしてくれているおかげで、特に手出しすることなく、上手く回り出していた。


しかし、物事が順調であると、必ず逆の力が働くものである。程なくして、レンズブルクに潜り込んでいた密偵から、伯爵所属の騎士団の小隊がこちらに向かってくるという情報が入り、緊急で村長と部隊長を集め、対応について打合せを行うことにしたのである。


「密偵からの情報によると、伯爵所属の騎士5名がこちらに向かっているとのこと。詳しい理由はわかりませぬが、新しい村作りの噂を聞いて、状況確認のために送り込まれたものと考えます」

とグスタフが状況を説明する。


(思ったより早かったな)

というのが、俺の印象。

(ま、いずれこうなるとは考えていたが、向こうの動きが早かったということか)

(ただ、対応については考えてある。むしろ早めに動いてくれて、好都合だったかもな)

と、考える。


「さて、どう対応するかだが‥もうすでに考えてある。何の問題もないから、堂々としていればいい」

と、俺。


「そんな、それは一体?」

と、村長が狼狽えている。


「つまりだ、流れ者がこの村の北側に住み着きました。元傭兵のようなので、どうすることもできません。騎士様お助けくださいと」

「全面的に俺たちが悪くて、村人は脅されて協力させられているという体にしておけばいい。そうすれば村人達に非はない」


「では、ミライ様達が、立場を悪くされるのではないでしょうか?」

気づかってくれているようだ。


「確かにそうだが、特に問題ない。元々彼らに雇われているわけでもないし、開発の投資も自分達でやっている。だから新しく開拓した土地について税金を払うつもりもない」

「あと、武力で攻めてきても、追い返すだけだよ。悪いが全軍でかかってきたとしても相手にならないさ。デーン村の村人には一切の危害が及ばないように警護するという約束は、なにも魔物相手だけじゃないんだぜ」

ニヤッと笑う。


「ミライ様がお強いのは良く知っておりますが‥」

「大丈夫、大丈夫。とにかく、騎士が着たら、そんな感じで頼む。村人全員に周知しておいてくれ。よろしくな」

「は、はい。ではご武運を」

渋々承諾はしてくれたが、心配してくれている様子。

(ま、心配してくれるんだ。ありがたいよな)

そう思う。


「あ、あと、警備隊の連中に、騎士に遭遇したら、戦闘を行わず、村の中に案内するように徹底しておいてくれ。ただし、向こうから喧嘩売ってきたときは、その限りじゃないからな‥」

「畏まりました」

とグスタフ。


そうして翌日。伯爵所属の騎士5名がデーン村に現れたのであった。


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