表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/70

第12話 盗賊退治

翌日の朝、俺たちは出発した。


王都の南門を出て、南東の方角にある都市ボーデに向かって歩き出した。


ボーデまでは、徒歩で丸一日ほどの距離にある。

海に面しており、ルクセレ王国の貿易の拠点であった。

人口は王都よりも多く、王国の中で最も栄えている街となる。


当然、王都との間で、人や物資の往来が多いわけだが、この街道で盗賊による被害が多発しているということである。


王国騎士団が動いても良さそうな事案であるが、時は金なりということであろう、商人ギルドからの冒険者ギルドに対する依頼が出されたわけである。


半日ほど歩いたろうか。小高い丘に挟まれた場所に差し掛かった。


(盗賊が襲ってくるとしたら、この辺りだろうな‥)


予想した結果はすぐにわかる。

空間感知に反応があり、様子をみていると、左右丘の上から弓を構えた盗賊が20人づつ。計40人。前後を馬で駆けてきた盗賊達が塞ぎ、こちらも計40人。合計80人の盗賊に完全に囲まれてしまった。


正面の、馬に乗った盗賊が、俺たちの前まで出てくる。

「噂は聞いているだろう。大人しく金目のものをすべて置いていくなら、命だけは見逃してやる」

「抵抗すれば、この間の冒険者のように、こうなるぞ」

そう言って、銀色に光る物体を放り投げた。


チャリン。地面に落ち、それが冒険者ギルドの銀板シルバータグだとわかる。


タグは、数日前に依頼を受けて、ギルドに戻ってこなかったという、ハンス達のものであるようだった。


俺は無言のまま、盗賊に近づき、スッと剣を抜いた。


その盗賊はニヤリと笑い、右手を上げ、一斉に襲いかかるような指示を出す素振りをしたと思ったら、なにやら驚いたような表情に変わり、右手を下ろした。


「もしや‥」

先ほどまでの余裕のある太々しい態度から一変し、馬から降り、俺の前で片膝をつく。


「もしや、ミライ様ではありませんか?」

「お久しぶりでございます。副官のグスタフでございます」


「‥‥」


(何が起きてる?)


サッパリ分からない。


ホルガー達は、呆気に取られすぎて、気の毒な状態になっている。


(おい、イグニ。どういうことだ、説明してくれ‥)


何となくだが、コイツが犯人であることを確信してしまった。


(うむ、何というか‥)


イグニが口ごもる。


「マティアス様もご一緒です。こちらに‥」


よく分からないが、イグニの知り合いのようだ。

肩をすくめ、ホルガー達に、一緒についていくよう促す。


グスタフという盗賊のあとをついて、少し歩くことになった。


到着した先は、古い砦が崩れ落ちた跡であった。

警備の者も多数残っており、合計100人を超える盗賊の集団ということになる。


俺たちはグスタフに連れられ、奥のテントの中に通された。


「マティアス様‥」

「あぁ?」


機嫌が悪そうに、簡易ベッドに寝転がっていた男は、こちらを振り向いた。


「ん? テメェ、黒竜か?」


そう言うと、男は飛び起きて俺に近づいてき、左腕を肩に回したかと思うと、右拳で腹を殴ってくる。


「この野郎、久しぶりじゃねぇか?最近姿を見せねぇと思っていたら、何冒険者なんかやっているんだよ」

結構な強さで何度か腹パンされたが、別に痛くはない。

が、ウザいので、腕を跳ね除け、押し飛ばした。


身長は2m近くある。体格も良く、筋肉の鎧に覆われているのが見てとれる。

ヴォルホルムも体格が良い方だが、それ以上だった。


年齢は30台後半といったところか。

短髪で、真っ赤に燃える赤毛である。

左目には黒い眼帯をはめていた。


噂に聞いた片目の盗賊というのはこの男で間違いないのであろう。


(黒竜って言うことは、正体を知っているんだろうな‥)


「ちょっと二人きりで話がしたい」


そう言ってホルガー達のほうをチラ見する。

マティアスという男は、怪訝そうな表情を浮かべたが、察したらしく、グスタフという男に、ホルガー達を別室に案内するように命じた。

俺もホルガー達に指示に従うように促す。


二人きりになって、椅子に腰掛ける。


「さて、どういうことか、説明してもらおうか‥」

マティアスが言う。先ほどとはうって変わって、真剣な表情だった。


「そうだな、どこから話をしたら良いか‥」


そう考えるふりをしなごら、イグニに呼びかける。

(おい、イグニ。まず、この目の前の男と、お前の関係について、説明しろ! わけが分からん)

(うむ‥)


そう言って、イグニは口ごもる。

(イグニ‥)


プレッシャーを与えると、観念したように話だした。

(まず、目の前の男は、赤竜じゃ。下位竜レッサードラゴンになる。悪友じゃ)

(たまに一緒に悪さをしておったわけじゃ)


(‥‥)


(大昔だが、コイツと人間の街を襲って、壊滅させたことがあってのぅ。そのときは流石にやり過ぎて、竜の集落を追い出されての‥)

(それ以来、人間の姿になって、盗賊として、暴れる程度で我慢しておったのじゃ)


我慢しておったのじゃ‥じゃないわ!!

なるほど、気まずそうに話したがらなかった訳がわかった。


(で、それにも飽きて、洞窟に閉じこもっていたわけか?)

(そんなところじゃ)


(あのグスタフという男は?)

(あやつは飛竜ワイバーンじゃ。赤竜の部下なのじゃが、赤竜が変身させておる)

(残りは人間と亜人じゃな。ボスが竜であることは知っておるぞ。我も昔一緒に暴れていたからのぅ)


(はぁ、そうですか‥)


(ところで、あのグスタフという男に、ミライ様と呼ばれたが‥?)

(ああ、それは我が人間の姿で活動する際に、使っていた仮の名前じゃ)

(それを、俺に名付けたと‥)

(そうじゃ。良い名前であろう?)


(‥もしかしたら、どこかの国で、盗賊ミライって名で、すでにお尋ね者になっているかも知れないな。ったく)


こいつ、やはりトンデモだった。

少しは出来るやつかと見直していたのだが、評価が一変したぞ。まったく。


「さて」

と、マティアスの顔を見る。


「赤竜、ようやく状況が把握できた。すまんがお前の知る黒竜ミライは、俺の中に別の魂として存在している。名前をイグニと名付けた」

「そして今話をしているのは、元人間の転生者である黒竜ミライだ。黒竜イグニに名付けてもらった」


そう言って、俺が別の世界から転生して、この黒竜の体に入ってからのことを要約して、説明して聞かせた。


マティアスは「ふーん」と言いながら、最後まで黙って話を聞いていた。


「なるほどなぁ。面白いことになってるじゃねぇか。俺様を置いて、そんな面白いことに巻き込まれているなんて許せねぇ。俺様も混ぜろ」

真面目な顔で、グイッと顔を近づけて言った。

「お前、俺にも名前をつけろ」


「は?」

何を言い出すんだコイツは。


「黒竜にイグニという名前をつけたんだろ?俺にも名前をつけろ」

「そしたら仲間になってやる」


どういう思考回路をしているのであろうか。

面白そうだから仲間にしろということだろうか。


「いや、別に仲間なんていらないし‥」

(トラブルメイカーになりそうだし‥)

というのが本音であるが。


「ダメだ。俺抜きで面白いことをしているのが気にくわねぇ。ダメと言われてもついていくぞ」

「‥」


頭を抱える。

色々と計画が崩れていくように思えた。

面倒ごとに巻き込まれた気分だ。


「わかった、わかったから、少し離れろ!!」

「じゃあ、バハムートでどうよ」

(破壊神的な、暴れるイメージあるし‥)


少し考えて、言った。


「おー、バハムート。いい響きだ」

ひどく気に入ったようだった。両手でガッツポーズしている。


「黒竜、いや、ミライ‥。お前、いいセンスしてるなぁ。ガハハハ」

上機嫌である。俺のガッカリ感との温度差がすごい。


(ああ、そうだ。ホルガー達にどう説明しようか。あとはギルドへの報告か‥)

(付いてくるって言ってたけど、100人近くもいる荒くれ者をどうするつもりだ?)


頭が痛くなってきた。

なんだろう、俺、前世で悪いことでもしたのだろうか?

ようやく楽しくなりかけてきたところで、苦労に巻き込まれそうな予感しかしないのだが‥。


目の前で高笑いしている竜を冷ややかに眺めながら、今後の策について考えるミライであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ