第10話 事後処理
(んー、チョット面倒なことになったぞ‥)
戦いの後、我に返り、結構な目立つ行為をしてしまったことに気づく。
どう誤魔化すか、ひとしきり考えてみたのだが、誤魔化しきれないという結論に達した。
(嘘ついててゴメン。本当は俺、結構強かったんだぜ‥)戦法でいこう。
(お前らが酔い潰れてるから、代わりにやっといてやったぞ‥的な? )
(1人だったから大変だったんだぞ‥という恩着せがませ的な感じで‥)
まぁ、いいや。
なるようになるだろう。
戦闘が終わり、村人が恐る恐る出てきた。
「冒険者様、何があったのですか?」
20代後半の若い男性が聞いてくる。
「今夜、小鬼族の襲撃があったようだ。もう全て退治したから安心してて良い」
「大丈夫だとは思うが、念のため朝まで家の中からは出てこないように。俺が見回りしておくから任せてくれ。これも仕事の一環だから、気にするな」
そう伝えると、皆、安心したように、指示通りに家の中に戻っていった。
(明日の朝、死体を片付けるのは、男達に任せるとしよう)
(あとは、ホルガー達には、この小鬼族の集落を捜索してもらい、焼き払っておいたほうがいいだろう。それ位は働いてもらおうか)
事後処理について考える。
村人の家の前にあったベンチに腰掛け、少しづつ明るくなっていく空を見上げいた。
北側には小鬼族がやってきた森があり、その奥には2000-3000m級の高い山が見える。村の西側には山脈から流れてきた小さな川が流れ、生活用水として活躍している。
大都市の下流にある川のように汚染されておらず、煮沸すれば飲み水としても使えるであろう。
東にも大きな森があり、その先は王都につながっている。
(いい場所じゃねぇか)
何となくではあるが、信州のアルプス山脈の麓にある町と景色が重なる。
土の状態も悪くなく、気候も南ヨーロッパと北ヨーロッパの中間ぐらいの気温で、作物の栽培にも適している。
もう少し生産性を上げて、生活基盤を整えてから、街道沿いの宿場町としてや、何か特産物を作って、人の往来を増やせば、発展する確信があった。
(冒険者として暮らしながら、たまにここまで飛んできて、村が発展していく様子を見るのも面白いかもな‥)
(王都から歩いて2日だったから、距離にして70-80kmってとこか?空を飛んできたら20分もあれば着くよな‥)
そんなことを考え、イグニに相談したが、
(面白いことを考えるもんじゃのぅ。好きにすると良いわ)
と、あまり興味ないようであった。
(あ、そ。じゃあ好きにする)
そんなことを考えていると、スッカリ陽も登り、
村人が起き出してきた。
村長のアロイスが、村人から事前に昨晩の出来事を聞いたようで、うやうやしく出てきて、俺の前に立った。
「昨晩は、小鬼族の襲撃をお一人で退治されたとか‥そればかりか、朝まで寝ずの番をしていただいたとお聞きして、感謝の言葉もございません」
深々とお辞儀をする。
「ああ、これも仕事のうちだ。気にするな」
「それよりも、村の男達を集めて、小鬼族の死体の片付けをするぞ。屍鬼が寄ってきても困るからな」
「あとはホルガー達を起こしてきてくれ。彼らには、小鬼族の集落を探し、別の集団が移り住まないように燃やしてきてもらおうと思う」
そう指示をした。
「かしこまりました」
アロイス村長は、テキパキと村の男達に指示を出した。さすが村長、的確であった。
その後、ホルガー達が、気まずそうな表情を浮かべて二日酔いのまま起きてきた。
俺と村長から昨晩の出来事について説明を受け、目の前に小鬼族30体の死体の山という現実を見せられ、驚くというより、呆気にとられているという状態になった。
「たかが小鬼族とはいえ、一人で30匹倒すなど、聞いたことがない」
「カッパーどころか、シルバーを超えて、ゴールドの冒険者レベルだぞ。ミライ、お前‥何者なん?」
そんな言葉が出るのは予想済みだったので、
「あまり悪目立ちしたくなかったので、実力を隠していて申し訳ない」
「一応、みんなを起こしたのだが、酔い潰れていたので、1人で片付けておきました」
「疲れたので、後の仕事はお任せしますね〜」
と、予定通りの言い訳?をし、有無を言わさず、ゴブリンの集落探しは彼らに任せて、送り出した。
小鬼族の死体の方は、午前中に一箇所に積み終わり、油をかけた後、火をつけてすべて燃やした。
すべてが終わったのは、その日の夕方になった頃だった。
ホルガー達も、無事森の中に小鬼族の集落を見つけ、破壊してきたようだった。
数匹の小鬼族がいたようだが、問題なく退治してきたとのこと。
その夜は、村人全員での宴となった。
「ミラ兄、俺の宝物見せてやるよ」
「チョット、アーベルぅ。ミラ兄は、私と遊ぶの」
小学校低学年くらいの子供、アーベルとロミーが、俺の両サイドを固めている。
すっかり懐かれてしまったらしい。
悪い気はしないが、自分の息子も元気にしているだろうか‥と思い馳せる。
子供達を少し構ってあげたあと、村人のクルトとイェルクを呼んだ。
クルトは村長の息子で、30代後半。
細身で肉体労働にはあまり向いていないような感じであったが、頭の回転は早そうだった。
イェルクは30代前半の男性で、こちらはガッチリとした体型のガテン系である。
小鬼族の死体の処理作業も先導して行っており、テキパキと指示をこなしていた。
他の村人からも一目置かれているようである。
「なんでしょうか、ミライ様」
一夜にして、“様”付けに昇格である。
二人から畏敬の念が伝わってくる。
「そんなに畏まらなくていいよ。俺の方が年下みたいだし‥」
前世での年齢では同世代であったろうが、今は20代前半に見えているはずである。
「さて、チョット教えて欲しいんだが‥」
「畑ではどんなものを作っているのだ?」
「ライ麦でございます。あとはニンニク、玉ねぎ、ニンジンなどでしょうか‥」
実際には別の単語が発せられているが、同時通訳では俺の知っている野菜名に通訳されていた。ま、似たようなものなのであろう。
「農地の面積はどれくらいだ?、麦の平均の収穫量は?」
「面積?収穫量?‥」
二人は、単語を理解出来ないといった様子で、戸惑っている。
その後、もう少し噛み砕いて説明し、話を聞いたところ、おおむね以下のようなことがわかった。
まず、主食であるライ麦を生産しているが、だんだん土地が痩せ、収穫量が減ってしまうので、畑を二分割し、交互に休耕地としているとのこと。
これは、二圃式農業のことだろう。中世中期には三圃式農業に発展していくはずなので、その前の時代背景ということであろうか。
また、牛に引かせて畑を耕すこともあるようだが、農具のほとんどが木製で、すべてが鉄製に置き換わっていないこと。
この辺りの農機具の開発も発展の余地があった。
「では、畑の一部で良いので、実験的に俺の言うとおりにやってみて欲しい」
さて、二人にお願いした内容は、以下の二点。
一つ目が、毎日の天気と、暑いか寒いかを6段階で記録すること。
目安として、水たまりが凍るが2で、それよりも寒い場合は1。やや寒いが3、ちょうど良いが4、やや暑いが5、暑くて汗が止まらないが6。といった感じである。
温度計がまだ発明されてないので、体感温度でしかないが、氷点下から40℃位までのおおよその傾向はデータとして蓄積できるであろう。
今後、実験をしていく上で、貴重なデータになるはずである。
ちなみに1日2日つけ忘れることがあるのは構わないが、長く続けることが重要だと強調しておいた。
二つ目が、畑の一部を三分割して、一つを冬穀のライ麦を育て、一つは夏穀のえん麦を、残りを休耕地とし、クローバーなどを植え、家畜を放牧する土地とする。
そして、これを毎年ローテーションさせ、連作障害が起きないようにさせる。
これを三圃式農業といい、輪栽式農業や、混合農業の前身となる手法である。
これの実験をすること。
あまり複雑なことを要求しても、すぐに理解されないと思うので、できそうなところから手をつけていこうと考えた。
結果が出て、利益になると思えば、より協力的になるだろう。あとは、なぜそうなるかという好奇心が出てきたら、理論的なことも教えてあげたら良い。
とはいえ、単純にこうしたら収穫量が3倍になって、みんなハッピーになりました‥というような簡単な話ではない。
その土地、気候、その年の天候など、様々な要素が絡むであろうから、色々と試行錯誤しながら、その土地土地にあったやり方をやっていけば良いと思っていた。
ま、時間だけはある。ゆっくり、ワガママにやろう。そう考えている。
二人は説明を聞くと、大きくうなずき、必ず成功させると息巻いていた。
響いてくれたようで良かった、と思う。
「定期的に様子を見にくるよ」と伝え、
「成功したら次のステップもあるからね〜。頑張ってね」と発破をかけておく。
ある程度結果が出たら、三圃式農業の範囲を広げるとともに、堆肥の開発も必要だろう。
土地が痩せるとは、つまり、植物の生育に必要なチッ素、リン酸、カリウムの栄養が無くなることで、これを補充してあげる必要がある。
これを堆肥で補充するわけであるが、牛糞、鶏糞、腐葉土、バーク堆肥(木の皮)など、様々なものがあるが、それぞれ含まれているチッ素、リン酸、カリウムの割合が違うので、上手く組み合わせて使えるようにしたい。
また、きちんと発酵させてからでないと、逆に悪影響を及ぼすこともあるので、そのあたりの実験もしたいと思う。
PHの管理までできれば、様々な作物を育てることができる。
ライ麦より換金率の高い、小麦を作るのも可能だろう。
他にも、鉄製のクワや鎌、畑を耕す際に牛に引かせる牛耕鋤も準備できれば、作業効率が上がるであろう。
水車を作ったり、小麦を保管するためのサイロを建設するのも良いかもしれない。
などなど、楽しみは尽きない。
それには労力と資金が必要だが、ゆっくりと考えよう。
さて、そんな感じで、リアル町づくりシミュレーションゲームの種を蒔いたのであった。




