求める強さ
俺は、自分自身に恐怖している。
心の中に、自分以外の何かが住み着いていることに気づいたのは、あの暁の夜から1週間経った日のことだった。
教育係だからとか言って、俺に何かにつけて過干渉してきた姉さんにイラつきを覚えた瞬間、俺の頭の中にいきなり、あの大量に流れてきた声と同じ男の声が響いた。
その時、姉さんが俺の目を見て指さしてきた。
「おまえ……また左目の色が変わってる」
その時、左目を押さえながら気づいたんだ。
俺の中に潜む何かが、あの凍らせる力と関係しているということに。そして、その何かは狂暴で、今の俺では制御できない存在ということにも。
気づいてから12年間、この言い知れぬ何かに怯え、俺よりも強い抑止力となる姉さんや師匠と共に行動することが多く、弱いと思った奴とは離れていた。
それが、暴走する危険性を考慮した結果だった。
必要以上に、傷つけるべき者以外に、誰かを傷つけたくなかったんだ。
俺にとって姉さんは、何時目覚めるかもわからない怪物を抑えることができる、大きな力を持ったストッパーだった。
俺が荒れ狂う刀なら、その鞘になれたのが涼華姉さんだったんだ。
こんな怪物が唯一弱さを見せれて、頼ることができる、心の支えだったんだ。
その姉さんが死んだと聞いたとき、俺の中のあいつは、俺が悲しみで壊れているのと反比例するように狂ったように高笑いをしていたのを感じた。
この時、確信した。
こいつは敵。
姉さんが居なくなった今、俺は1人でこいつを抑えなければならない。
怪物を押し殺すしかないんだ。
だから、できる限り、人を遠ざけた。できる限り、『力』を使わないようにしてきた。
もう鞘は居ないんだ。俺は1人で、孤独にならないといけない。誰にも頼れない、頼ったらいけない。
そう決めても、あの時に置いてきたはずの弱い俺が言うんだ。
『恐い』『1人にしないで』『どうして、俺がこんなことにならなきゃいけないんだよ』
……誰か……助けて……。
その声が届く日なんて、ずっと来ないと思っていた。
それをまさか……。
俺はあいつに助けられてばかりだ。だから、俺は改めて決意する。
絶対に最上を……恵美を守る。
あいつを守るために、そして姉さんの復讐を果たすために力を振るう。
すべては俺が前に進み、大切な女を守るために。
ーーーーー
円華side
この氷柱だらけの世界が自分の精神世界だと言うなら、苦笑いしかできないな。
実に俺らしい世界だ。孤独であろうとし、他者を寄せ付けないようにしていた自分を表している。
それでも、恵美はこんな俺を助けるために来てくれた。
そして目の前には、ずっと俺のことを精神的に苦しめてきた怪物が目の前に殺意剥き出しで立っている。
この怪物は、俺の大切な女を殺そうとした。この世界で人が死んだらどうなるのかは知らないが、そんなのは抜きにしても怒りは頂点に達しようとしている。
イメージすれば、右手に白い刀が握られている。
当然と言えば当然だが、この世界は俺の思った通りに物が現れるらしい。凄く便利だな。
右手は紅の氷を纏っており、これも俺の思った通りに形を変えたり、伸ばしたり縮めたりできるようだ。
恵美を見ると、今更ながらある疑問が浮かんだ。
顔、胸、太もも、足、そして胸と見てみると、心臓の鼓動が速くなる。
「おまえ……どうして裸!?」
言われて正気に戻ったようで、恵美はすぐに俺から離れ、顔を真っ赤にして両胸と股の間を隠した。
「じ、じろじろ見ないで、変態!!私だって、この世界に来てどうして全裸になってるのかわからないんだから!!」
俺は見ないようにして白パーカーを脱いで黒のT-シャツ姿になり、恵美に渡す。
「とりあえず、これでも着ておけ。目のやり場に困るし、迷惑だぜ」
「……見苦しい姿で悪かったですね」
恵美は頬を膨らませてパーカーを受け取って着れば、俺たち睨み付けている怪物を見る。
俺も自然と怪物の正体を見て、視線を合わせる。
「初めまして……か?勝手にもう1人の自分だと思っていたけど……全然似てないな、俺たち」
声をかけたが、あっちは黙って睨み付けてくるのみ。
恵美は怪物の正体を知っているようで、隣で教えてくれた。
「あの人の名前は狩原浩樹。20年前のデスゲーム、デリットアイランドの生存者。そして、お父さんたちを最も苦しめた男。私たちにとっては、緋色の幻影と同じで……敵。気をつけて、あの人も能力を持ってる」
「わかるよ。その効果は身体を凍らせる……だろ?多分」
狩原浩樹……流れてきた記憶から名前は聞こえてきた。
灯台もと暗しというか、自分の中に捜していた人物が居るなんて誰も思わないよな。
しかも、俺がその力を持ってるなんて、ただの偶然とは思えない。
「俺は高太さんだけじゃなく、この男とも過去に接触しているんだろうな。まぁ、そんなことを考えてる余裕は今はないけど」
狩原は痺れを切らし、人の精神世界の中で汚いよだれを口から垂らし、今にも俺と恵美に襲いかかろうとしている。
白華を構える前にあることを思いつき、左手に意識を集中する。
左手に光が集まり、恵美が持っていたレールガンができたのでそれを彼女に渡す。
自分の精神世界ながら、本当に俺に都合が良すぎる。これを世間で言うご都合主義と言うのだろうか。
「円華……これ……」
「もう1人で戦うなんて言わないし、今の状況からは言っていられない。俺が恵美を守るから、恵美は俺を助けてくれ」
恵美は力強く頷き、レールガンを構える。
俺も白華を構え、狩原を見る。
「狩原浩樹。あんた今、何を考えてる?何を思っている?」
俺の問いに答える代わりに狩原は一歩前に踏み込めば、そのまま一直線に俺に迫り、大剣を大きく振るってきた。
それを白華の刃で受け止め、狩原の赤い瞳を睨み付けると相手も睨み返してくる。
「俺が何を考え、思っているかだと?簡単だ、答えてやるよ。おまえの目を覚まさせる方法を考えていたのさ。あの銀髪女を殺したら、おまえは憎しみと絶望で俺と同じ強者に目覚めるんじゃないかって思ってたのさ!!」
こいつの思考は読めない。しかし、この狂った虚ろな瞳から伝わってくる。
この怪物の意思を理解してはいけない。こいつは、人を歪ませる存在だと。
「おまえは俺と同じ強者になれる。俺の能力を継いでいるんだから間違いねぇ!!さぁ、おまえの中の闇を解放しろ。そして、全てを思うままに壊せ!!そうすることで、おまえは強さの高みに立てるんだよ!!」
「そんな強さは、俺には必要ねぇよ」
氷っている右腕を通して、白華に紅の氷を纏わせて同化すれば、そのまま力で押しきる。
不思議だ。
氷を纏うと、その部分に意識を集中しやすくなる。
力を入れやすい。
そして、右腕の形状を籠手に戻し、大剣の刃を掴む。
「俺の求める強さは、守りたい者を守り、潰すべき者を潰すための強さだ。おまえのように、破壊衝動に駆られていても、手に入らない!!」
巨大な氷柱に向かって投げ飛ばし、狩原の身体はそのままめり込む。
その間に、すかさず恵美がレールガンを連射する。
「ぐぁああ!!てめぇ……この女ぁああ!!」
電撃を受けて苦しみだす狩原だが、直感でわかる。この怪物がこんなことで終わるはずがない。
身体が焦げたように黒くなり、普通の人間なら動けないはずだった。
しかし、狩原は立ったまま腰を丸め、肩を震わせながら叫ぶ。
『あぁぁ……最っ高だぁああ!!良いぜ、良いぜ、良いぜぇ!!ここからは、久しぶりに……本気を出させてもらうわぁ』
狩原の興奮状態に合わせて、手にしている大剣が脈打つように震動している。
そして、巨大な大剣の刃が剥がれては狩原の身体に装着されていく。
『……久しぶりに、この姿になったんだぁ。少しは、楽しませろよ?』
大剣の形状が、営利な骨剣に変わる。
禍々しいオーラを放つのは、豹のような髑髏を顔に着けた、赤黒い西洋鎧。
その姿は、異形だ。




