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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
帰省と共に始まる断罪
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集合

 たこ焼き屋に着くと、ある女子に対しての周りからの痛い視線に気づいた。


 それはそうだ。誰もが奇妙と思うのは当然のことだろう。


 高校生くらいの茶髪の女子が、泣きながらたこ焼きを食べ続けており、器はもう20個を越えている。


 もう、周りからの憶測は、失恋したためのバカ食いとか、初めてのたこ焼きに感動を覚えているのだろうとか、他にもあるだろう。


 そんな中、俺は深い溜め息をつき、クラスメイトの女子に近づいた。


「おい、久実。そんなに食ってると太るぞ?」


「ま、円華っち~~!!」


 呆れ顔の半目で話しかければ、俺のことに気づいて久実が抱きつこうとしてきたが、彼女の額に右手を押し当てて止める。


「暑苦しいから抱きつくな。そう言うのは、基樹にやってやれよ」


「うぇぇん!!円華っちの意地悪~~!!」


「本当の意地悪な奴は、わざわざおまえを迎えに来ねぇよ」


 もう1度溜め息をつき、その後は成瀬の元に連れていく。


 すると、そこには既に、手に持っている綿わたアメを食べている基樹が成瀬と一緒に居た。


「おー、お2人さん、遅かったなー。どこまで行ってたの?」


 手を振って、こっちの気持ちなんて考えもせずにそんなことを言い出したこの金髪野郎に、俺は少なからずイラつきを覚えた。


「おい、ゴラッ、基樹、おまえぇ。俺が電話をかけたことには気づかなかったのか?あ?」


「え?あの……何々、どしたの!?円華、顔怖い!!」


「その俺の顔を怖くさせているのは誰だってんだよ、この野郎!」


「待って待って!!言い訳をさせてくれよ、言い訳を!!それぐらいの慈悲はないのかよ!?」


 俺が指をポキポキっと鳴らしていると、基樹が頭を両手で抱えて訴えてくので、両腕を組んで見下ろすに留まる。


「まぁ、言い訳くらいなら聞いてやるが、内容によっては今俺が考えていること以上の鉄槌てっついを下すからな?」


「鉄槌って何!?何もしてないのに!!円華の傲慢ごうまん!!」


「わかった、そんなに痛い目にあいたいんだな?そうなんだな?」


 頭の中にいろいろな拷問方法が瞬時に浮かぶ。


「何、この理不尽!?怒った円華って面倒くさい!!」


「その減らず口……どうやって黙らせようか。歯、全部抜こうか……」


 こいつの一言一言で俺のイラつき度が増し、目が死んでいるのを自覚しながらも見下ろす。


「もうそろそろ、話さないと、この人に酷い目にあわされるわよ?」


 成瀬がお情けで警告すると、基樹は咳払いして話を始めた。


「えーっと、ですね?電話に関しては、今手持ちに無いので……というよりは、円華の家に忘れていったんだよねぇ。だから、出られなかったのは当然で……」


「じゃあ、どうやってここに?」


「それは、マジでミラクルな偶然!いろいろと食べ歩きしていると、不安そうな表情をしている稲美ちゃんがいるじゃありませんか!!俺の美少女センサーがビンビンに反応したね、うん」


「基樹くん、気持ち悪い」


「基樹っち、きもーい」


「ちょっと!2人ともそんな酷いこと言わなくても良いでしょ!?」


 俺もキモいと思ったが、あえて口にはしなかった。


 これで、成瀬と久実、基樹はそろった。


 あとは最上だけなんだけどなぁ……。


「久実、最上に電話かけてくれないか?」


「お?別に良いけど、何故にうち?」


「俺からは……今、かけにくいから。その、もうスマホのバッテリーが限界ギリギリでさ」


「そっか。じゃあ、仕方ないね。了解なのだー!」


 久実が電話をかければ、それから30秒ほど心の中で数える。


 つか、最上は俺以外の奴等にも電話番号教えてたんだな、ちょっと意外だ。


 久実のスマホから着信音が聞こえてくるが、一向に最上の声は聞こえない。


 時間が経つ度に、俺の中に焦りが生まれる。


 心臓の鼓動が早くなり、身体が震えてくる。


 そのことに気づいたとき、俺の中に疑問が生まれる。


 どうして、俺は最上のことでこんなに心が乱れているんだ?


 あいつの存在が、俺の中で大きくなってきていることには薄々気づいている。


 だけど、俺にとってあいつは何なんだ?


 大切な奴だとは思っているけど、どう大切なのかは言い表せない。


 それに、俺がいくら最上のことをそう思おうと、あいつにはあいつで俺以上に大切な誰かが居る。


 今さらだけど、俺は最上にとって……どんな存在なんだ?


 俺は、最上の何なんだ?


 どうでも良いことのはずなのに、悩むことを止めることができない。


 悩むたびに、真綿まわたで首を絞められるような感覚にとらわれる。。


 すると、電話が繋がったようで、久実のスマホから最上の声が聞こえてきた。


 久実はスマホのスピーカーをオンにする。


 それと同時に、ノイズのように川の流れる音が聞こえる。


『もし……もし……?』


「あ、恵美っち!?今、どこに居るの!?」


『……私は、大丈夫だから。すぐに……戻れる。心配は、いらない』


 電話越しの最上の声はとても弱々しい。


 どこか、無理して何とか声を出しているようだった。


 電話から、カラカラカランっと言う音が聞こえ、バンっという音も聞こえてくる。


『本当に……すぐに行ける。だから……捜しになんて、絶対に来ないで』


 それを最後に、最上からの電話は切れた。


 その瞬間、俺の中の何かの線も切れた。



 ーーーーー



 恵美side



 人混みはやっぱり嫌い。


 雪崩なだれのように後ろから強制的に前に進まされて、円華たちと離れてしまった。


 今、慣れない土地の夏祭りの会場の中に、私は1人で居る。


 周りには、今の私への神様からの当て付けだろうか、バカップルが群がっている。


 好きで1人でいるわけじゃないけど、場違い感が凄い。


 スマホで誰かに連絡を取ろうとしても、悲しいかな、昨日スマホを充電するのを忘れてしまい、バッテリーは残りわずか。


 絶対絶命とまではいかないけど、ピンチなのは確か。


 首を触れば、そこにいつもあるはずの物がないことに違和感を感じる。


 首元がスゥースゥーする。風がくすぐったい。


 昨日のジャック戦で『力』を使い過ぎたから、ヘッドフォンをして発動した瞬間に凄く眠たくなるのはわかってる。


 そんなのは意味がないから、久しぶりにヘッドフォンを外したけど、さっきから変な感じが続いている。


 違和感と言ったら、髪も変だ。


 後ろの上の方で縛っている髪を触ると、少しだけ顔が熱くなる。


「あんな提案、受けるんじゃなかった……」



 ーーーーー


 夏祭りが始まる前。


 浴衣の着付けを受けていた時、新森が私のことをじろじろ見てきた。


「恵美っちってさぁ。スタイル良いし、美人なのに、メイクとかファッションとか気にしないの?」


「そんなのに興味ない。他人にどう見られたって、別に良いから」


「え~~、素材が良いのに、勿体もったいないにゃ~~。髪型とか変えるだけでも、印象って変わるよ?」


「別に、印象を変えたいって思うような人居ないし」


 わざと素っ気なく対応していると、隣で浴衣を着せてもらっている成瀬がチラッと半目を向けてきた。


「新森さん、女としての実力を上げようとしないのは最上さんの自由よ。まぁ、でも、しょうがないわよね。最上さんって、外見気にしなさそうだし」


「……それ、喧嘩売ってる?」


「そう受け取ったのなら、1000ポイントで買ってもらっても良いわよ?」


 浴衣の着付けが終わり、成瀬は帯の中から扇子せんすを取り出して広げ、不適な笑みを浮かべながら口元を隠す。


 見てて、凄くバカにされた気分なんですけど。


 でも、いらない喧嘩はしない主義なので、溜め息をついてストレスを空気に逃がす。


「バッカらしい、挑発されてそれに乗るのって、赤いマントに反応する牛と同じじゃん。……バカにしないで」


「それは失礼したわね。……ちょっと、あなたに対してジェラシーに近い感情があったから、つい」


「ジェラシー?何に?私、あなたに何もしてないんだけど?」


 無表情のまま聞けば、今度は成瀬が露骨に溜め息をついた。


「最近、私の玩具おもちゃをあなたに独占されてるのよ。あなたが来るまでは面白い玩具だったのに、今ではあなたにぞっこんだもの」


「玩具……ぞっこん……?」


 ますます意味がわからない。何を言ってるんだろう、成瀬は。


 頭に「?」ばかり浮かべていると、新森がパンっと両手を叩いた。


「おおー、円華っちのことな!確かに、恵美っちがうちのクラスに来てから、円華っちは恵美っちと一緒に居ること多いよねぇ。……付き合ってるの?」


「ち、違うから、ありえないから!!」


「えー、はたから見たら完全にカップル同然なのにー」


「マジやめて、本当にいやだ、気持ち悪い」


「……そう言いながら、どうして顔をそらす?」


「と、特に理由はない!!」


 プイッと顔を背けると、近いところにあった小さな鏡に映る私の顔は、最悪なことに赤かった。


 否定しても、成瀬と新森の悪い笑みが消えない。


 すると、成瀬が変なことを言い出した。


「少し、円華くんのことを意識させてみないかしら?最上さんの見た目に少し変化を与えるの。彼の場合、変に自分に正直な所があるから、最上さんに何かしらの変化があったら、デリカシー無視して聞いてくるでしょ?それで、円華くんがどれだけ最上さんのこと意識しているのかを確認するの」


「おー!面白そうだね、瑠璃っち!……でも、今さらメイクもできないし……」


「髪型を変えるくらいはできるわよ?それだけでも、変化って言えないかしら」


 私のことを、私を抜きにして勝手に話が進められている。


 でも、止めることはできず、勝手に髪を触られ、縛られ、今の髪型になった。



 ーーーーー



 円華から、髪型を変えた理由を聞かれた。


 でも、ヘッドフォンのことしか答えられなかった。


 答えられるわけがない。円華に意識してほしいから、わざわざ髪型を変えたなんて、恥ずかしくて言えない。


 頭を切り替え、とりあえず商店街の入り口に向かおうとするけど、妙に右足に痛みを覚えた。


 足元を見れば、右足の右端が少し赤くれている。多分さっき混雑している時に踏まれたのだろう。


 足を動かすたびに、鈍い痛みが走る。


 私の治癒能力には段階があり、大きな傷やけがなどはすぐに治るけれど、軽傷だと全く働かない。


 ……これから、どうしよう?


 足が痛いと、歩くのも苦に感じてしまう。


 いっそのこと、痛みに耐えて、刃物で大きな傷を作れば、すぐに治るかもしれない。だけど、それをしたら体力ががれてしまう。


 それなら、鈍い痛みに耐えてる方がマシだよね。


「これから、どうしようかな……。闇雲に歩いてたって、合流できるわけじゃないし。でも、ここで待っていたところで、誰かが見つけてくれるとも限らないし…」


 こうも広いと、人を捜すのは一苦労ひとくろうだ。


 スマホも『力』も使えない今、何か良い手は……。


 ここは、発送の転換が大事かもしれない。


 私が捜すのではなく、円華たちが捜す立場に立って、どこを捜しやすいかを考えた方が良いかもしれない。


 そうなったら……。


 私は、商店街の入り口に向かって歩き出す。もちろん、重心は左に傾けている。


 こういう時は、入り口とか出口で待っている方が良い。


 それにしても、どうして、この祭りに迷子センターがないのだろう。


 まぁ、あったとしても、15歳で迷子センターを利用するのは恥ずかしいから利用する気はないけど、子供たちが迷子になって、行方不明になったらどうするんだろうか。


 そんなことを思いながら歩いていると、商店街の中にある、建物と建物の隙間に居る人たちに目が行く。


 そこには、3人の高校生くらいの男たちが1人の女子を囲むように壁に追い詰めて逃がさないようにしている。


 見るからに、友達って感じの雰囲気ではない。


「どうしよう……こういう時」


 これを、無関係だからスルーすることは簡単。


 だけど、その後で1週間から1ヶ月は気分が悪くなるし、罪悪感が出てくる。


 今ここで身体的に傷つくリスクを取るか、後で精神的に気持ち悪くなるリスクを取るか。


 こういう時、私はお母さんからの教えを思い出す。


『迷ったら、自分が後悔しない方の選択をしなさい。自分で決めたことなら、自然と思うように動けるものだから』


 ……わかった。


 私は深呼吸をし、知り合いでもない4人に近づいてみる。


 何故、周りの人を巻き込まないかというと、現代っ子は事無かれ主義だからである。


 それに、私自身が他人と関わることや巻き込むことを苦手としているから。


 レールガンは無いけど、一般人相手なら、体術だけで十分。


 気配を消して近づき、物陰に隠れて会話に聞き耳を立てる。


「べっつに良いじゃん?俺たち、健全な高校生なんだしさぁ~。一緒に祭りを楽しもうって言ってるだけじゃん?付き合ってよ~?」


「こ、困ります。私、友達を待たせてるので……」


「じゃあ、その友達も一緒にさぁ。俺たち、花火が1番キレイに見える場所を知ってるんだ~」


 明らかに、たちの悪いナンパ。そして、おそらく言い寄られている女子の言う友達は存在しない。


 苦し紛れの言い訳をして、場を切り抜けようとしたけど、それは失敗したようだ。


 おそらく、顔色から男たちもそれに気づいている。


 でも、それで動くきっかけはできた。


 私は物陰から4人に近づき、ニコッと作り笑顔をして話しかける。


「あれ?ミヤコ、こんなところに居たの?捜してたんだよ?」


「「……え?」」


 予想外のことが起き、4人は目を丸くした。


 そして、頭の回転が早いのだろう。


 女の方はすぐに私の意図に気づいたようで、驚いて状況把握ができていない男たちの囲いを抜けて、私の後ろに隠れた。


 そして、目の前にいる、金髪に染めてるチャラ男、帽子を被っている細男、黒い肌の巨体な男は私を睨み付けてくる。


 ターゲットを、私に変えたのを直感した。


 なら、余計にやりやすい。


「逃げて。そして、大人が多いところに行けば、こいつらはあんたを諦めるから。そこまで走って」


「……は、はい」


 女が走り出すと、帽子を被った男が「おい、待て!!」と言って追おうとする。


 私は左足を少し横に出して、帽子男を転ばせれば、右腕を掴んで捻り上げ、男の顔を地面に押し付けた。


「目の前にも女が居るのに、スルーするなんて酷ーい。私の相手をしてから、ほかの女に発情しなよ。相手って言っても、色気の全くない勝負の相手だけどね」


「いてててっ!!てめぇ、離せ、この小娘!!」


「むっ…子供扱いはムカつく」


 怒りを覚えたので、捻っている手をさらに違う方向に曲げる。


 すると、黒肌男が襲いかかってきて、私を捕らえようと両手を広げて迫ってくる。


 私は帽子男から離れ、黒肌男の右脇したを前回りし、左足を上に上げ、かかと落としの要領で、重力を味方に男の二の腕を蹴り、体制を崩させた。


 これで2人。残り1人は……。


 チャラ男を探すが、どこにも見当たらない。


 もしかして、逃げた?


 そう思った瞬間、右足にガンっ!と衝撃が走った。


「んぐぁあ!!」


 ただでさえ痛い右足を、鉄パイプで殴られた。


 前の方に倒れて、右足をかばうようにうずくまってしまい、身動きが取れない。


「へへっ、さっきから右足を庇うように左足ばかり使ってたからな。右足を攻めれば、こうなるわけだ」


 無意識に庇っていたのを気づかれていた。


 すぐに痛みが引いて立ち上がるも、右足はもう使えない。


 チャラ男が鉄パイプで襲いかかってくれば、私はすぐそこにあったゴミ袋の山の中から1番下にあるゴミ袋を引っ張り出して投げつけ、その間に流れるように落ちてできたゴミ袋のバリケード で時間稼ぎをし、右足を引きずりながら奥に逃げた。


「おい、ゴラッ、待て!!このクソ女!!」


 帽子男の声が聞こえた。もう動けるようになったらしい。黒肌男も同じだろう。


 奥に進めば、川があり、その近くにはもう使われた形跡けいせきがない工場。


 そこに入って、一先ひとまず身を隠す。


 男たちはすぐにバリケードを抜けたようで、すぐにその怒声が聞こえてくる。


「出てこい、銀髪女!!どこに行きやがった!?」


「腕の落とし前はたっぷりつけさせてもらうぜ!!」


 この分だと、すぐに見つかるかもしれない。


 だけど、助けなんて呼べない。


 そんな時、スマホの電話が鳴った。


 見れば、新森からの電話だった。


 今の状況を言ったら、新森が何も考えずに行動してしまい、巻き込んでしまうかもしれない。


 犠牲になるなら、私だけで良い。


 そう思って、私は電話に出た。

 

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