1人目の断罪
円華side
ジャックからの襲撃の後日。
最上と共に椿家の地下牢獄に1人で向かえば、そこには地面に両手と両足を縛られて寝転がっているジャックが視界に映る。
そのマスクは取られており、少し長い黒髪が見えているが、顔は昨日の『俺』が殴り続けていたので膨れ上がっており、言葉通りに顔面は崩壊している。
レスタに確認を取ったが、この男の名前は切崎快斗。
3年でCクラスに位置し、孤高を貫いていた男子生徒らしいが、別にどうでも良い。
こいつの素性なんて、俺には関係ない。
隣に居る最上に小さく「頼む」と言えば、彼女はヘッドフォンをして意識の無い切崎に近づき、奴の額に触れて目を閉じた。
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恵美side
ジャックの記憶に接続し、探すべき記憶を取捨選択する。
涼華さん、あるいは彼女を殺した、円華の言う『白騎士』、そしてポーカーズの記憶を探っていけば、その3つが繋がっている1つの映像に辿り着いた。
場所はどこかの暗い教室。
ボロボロの状態の涼華さん。
それに近づく、ジャックと3人の仮面を着けた男女。
カラスのような顔のペストマスク、蝶のように羽を広げたヴェネツィアマスク、そしてドクロのマスク。
その手には、鎌や鉄扇、槍などの武器を手にしている。
『我々に歯向かうから、このような目に合うのです。バカは死んでも治らないようですね、椿涼華先生』
ジャックが挑発して嘲笑えば、それに対して、口の中の血を吐き捨て、涼華さんは刀を構えた。
『おまえたちを止めるためなら、悪足掻きしてやるさ。死ぬまでな』
臨戦態勢を保つ彼女に対して、カラスの男と蝶の女も笑う。
『フフフッ。本当に愚かな女よねぇ。何の能力もない普通の人間が私たちに勝てるはずが無いのに、こんなに抗っちゃって♪』
『しかし、それこそが我々の求める器への条件。貴公が大人しく協力してくれたのであれば、私も貴重なサンプルとして丁重に扱ったものを』
『はんっ。おまえらの実験材料になるなんて……お断りだぁ‼』
両手で柄を握りながら、涼華さんが4人に立ち向かおうとした瞬間。
『待ってくれ、椿先生』
暗い教室の中を緑色の炎が照らし、何者かが近づいてくる。
それは蒼いマントに身を包み、全身から炎のような緑のオーラを放つ白い鎧の騎士。
これが、円華の言っていた……白騎士?
涼華さんは白騎士を見て目を見開き、4人も動揺が態度に現れている。
『おまえ……何で!?どうして、その力を…!?』
『……これが、俺の選んだ答えなんです。この力で、俺が全てを終わらせる』
そう言って、白騎士が右手を前に出せば、目の前に緑炎が広がった。
そして、そこから先を覗こうとすれば、私の意識が燃やされるような感覚に襲われた。
ーーーーー
円華side
「っ…‼」
急に最上が苦しみだし、ジャックから手を離し、床に両手をついて息を切らす。
「はぁ…はぁ……何、これ……どういう…」
「どうしたんだ、最上?何を見た!?」
彼女はジャックを指さし、怒りを含んだ目を向ける。
「こいつが……ジャックを含めたポーカーズ4人が、涼華さんを痛めつけていた。そして、そこに白騎士が現れて……そこから先は、わからなかった。でも、白騎士とポーカーズに関係があったのは……間違いないよ」
白騎士とポーカーズの繋がり。
それがわかっただけでも良かった。
「それなら、本当に……ポーカーズは、姉さんの死に関わっていたんだな」
その呟きに対して、最上は肯定も否定もしなかった。
いいさ、確かめる材料は目の前にある。
「ありがとな、最上……。ここから先は、俺1人でやる」
「……大丈夫、なの?」
「ああ、心配すんな。思ったよりも冷静だぜ?少なくとも……今はな」
そう言って、俺はジャックを見下ろしながら拳を強く握りしめた。
ーーーーー
最上を戻らせてから、俺はジャックが目を覚ますのを待ちながら感情を落ち着かせようとした。
だけど、どれだけ感情を押し殺そうとしても怒りが、憎しみが込み上げてくる。
その内、ジャックは目を覚ましたのか唸り声が聞こえてきた。
「やっと、起きたか。……昨日ぶりだな、ジャック。気分はどうだ?」
「カオス……」
奴は一瞬俺のことを睨みつけたが、すぐに口角を上げる。
「絶好調……とでも言うと思いましたか?最悪ですよ。全く、何なんですか?あの刀は…そして、あなたは。身体に力が入らない。おかげで、能力もろくに使えません」
切崎の問いに答えるために、俺は左手に持っている白華を前に出して見せる。
「氷刀白華。この刀のことを、本当におまえは何も知らないのか?」
「知りませんよ。知っていれば、対策をしてすぐにでも潰していたでしょうねぇ。その力……危険過ぎる」
恨めし気に白華を見るジャックの目に少し満足すれば、鞘に収めたまま、俺は白華を切崎の目の前に突きつける。
「ジャック、教えてもらうぜ。おまえたちと姉さんの因縁のことを」
見下ろしながら威圧するように言えば、切崎はフッと嫌な笑みをして顔を伏せる。
「椿涼華のことですか……。私が答えるとでも?」
「……おまえの意思は関係ねぇよ」
胸ぐらを掴み、切崎の左頬を殴る。
「ぶぐっ!」
「姉さんを殺した、白騎士の正体は?」
「クフッ、誰があなたに答えると――――ぐはっ!」
裏拳で右頬を殴る。
「他のポーカーズの本名は?おまえのように能力を持っているなら、その能力も答えろ」
「がぁぶぇ‼……私たちは、同志を売るような真似はしない‼」
「もう1度訊くぞ?あの白騎士は誰なんだ!?知っているんだろ‼答えろよ‼」
右手の拳を振るい続け、尋問しながらも怒りをぶつける。
「うぐぇ‼……知りませんねぇ?誰のことだか、さっぱり…‼」
「ふざけるな‼」
腹部に強く拳をめり込み、切崎の口から血が吐かれる。
「がはぁあ‼」
両手で拳を握り、何度も切崎の顔面を殴り続ける。
「言えよ……せめて、血じゃなくて情報を吐け‼」
「ぶぁ!!……言うわけがないでしょう?」
左拳で殴る。
「ぐぶふっ!!……何度殴られようと、言いませんよ……」
鼻を潰すために正面を殴る。
「がぶぁ!!……私のことを憎んでるんでしょう?殴り続けて恨みは晴れますかぁ!?」
鼻から、口から血を出しながら、切崎の笑みは消えない。
「がぁふっ‼……本当に…愚かな女でしたねぇ……椿涼華はぁ」
怒りが込み上げてくる。
「ぶぁぐっ‼ぐはっ‼……くだらない思想のためにぃ……命を投げ出すなんてぇ」
姉さんの命は奴等によって奪われた。
「がぁ‼びぎゃっ‼あげぁはっ‼……ま、全くもってぇ……無駄死にも良い所ですよねぇ…‼ぶぁあはっ‼」
俺たちの人生は、緋色の幻影によって狂わされた。
左右の拳を交互に振り下ろし、憤怒の目で見下ろす。
「おまえたちのせいで、姉さんは死んだ‼絶対に、許さねぇ。……おまえたちの罪は、この俺が裁く!!」
「ぶぐはぁ!!……そ、そんな権利が……あなたに……あるとでも……?」
哀れむような顔を向け、笑みを浮かべてはバカにしてくる。
「あなただって、多くの命を奪ってきたでしょう?私たちと同類だ。そして、あの獣の姿‼あなたは人ではない、化け物だ、怪物だぁ‼怪物であるあなたに、我々を裁く権利はないのですよ!!」
同類。
怪物。
確かにそうかもしれない。
俺もジャックと同じように、多くの人を殺してきたクズだ。
だからこそ……。
「……同類だから、おまえたちを潰すのは、俺のようなクズが相応しいだろ」
最後に今までよりも強く殴り、拳をおさめる。
ストレス解消は終わった。
結局、ジャックは何も話す気は無いらしい。
ストレス解消は終わりだ。
俺の目的は、元から1つに定まっている。
白華を抜刀すれば、氷の刃を切崎に向ける。
「幸いなことに、最上のおかげでおまえの記憶から得られる情報は抜き取った。おまえが吐かないなら、あとは残りのポーカーズを見つけ出して問い詰めるだけだ」
そのための手がかりを、姉さんは残してくれている。
「これで心置きなく、俺はおまえに復讐することができるってわけだ。……さぁ、断罪の時だぜ、ジャック」
おそらく、今の俺の左目の瞳は紅に染まっている。
感情の高ぶりが、抑えられない。
そんな俺を見上げ、切崎はフフフッとまだ笑う。
「あなたに、私が殺せるんですか?」
「………」
「聞いてるんですよ!!希望でも絶望でもない。混沌とした存在であるあなたに、私を殺せるのかを!!」
虚ろな目を向けて挑発してくる切崎。
こいつはさっきから、何を言っているんだろうな。
目前で転がっている哀れな男を見下し、白華を両手で持つ。
そして、フッと嘲る笑みを向ける。
「おまえたちへの復讐が、殺すことなんて誰が決めた?」
上から振り下ろし、切崎の頭に強い打撃を与える。
「ぐぁはあぁああっ‼」
奴はそのまま倒れ、白目をむいたまま動かなくなった。
死んではいない。ただ、永遠に近い間眠っているだけだ。
この氷刀白華には、3つのモードがある。
衝撃モード、自動充電モード、そして、仮死モード。
その中でも、この仮死モードは体温を生命が活動できる温度のギリギリまで下げ、そのまま眠らせたまま植物状態にすることができる。
復活させる方法は、ただ体温を上げるだけだ。
「これで……1人目。おまえらは、死ぬことすら許されない。姉さんの元には逝かせない。何もできずに……ただ辛うじて生きている状況で……無力の中で苦しむが良い」
救うための武器でもあるが、俺の復讐の武器でもある。
俺と同じで、矛盾している刀。
それが、氷刀白華。
俺の復讐は相手を死なせず、生存権以外の全てを奪うこと。
こいつらを殺して、余計な罪を背負うのは真っ平だ。
殺しはしない。
死ぬなんて許さない。
だが、こいつが生きるか死ぬかは俺の選択にかかっている。
俺に全てを奪われたことを、意識の裏で後悔しろ。
ポーカーズの1人、ジャック。
3年Cクラス、切崎快斗。
まず1人目、断罪。
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