死角でうごめく者
シャドーside
屋上から椿円華と最上恵美を見下せば、2人は今回の事件の主犯を捕らえることに成功したことを確認した。
最上恵美に抱きしめられながら泣いている椿円華を見ると、相当辛かったのだろうと思う。
そして、椿円華の足元にある白い刀が視界に入れば、自分はスマホを使ってあるお方に電話をする。
「こちら、シャドー。アイスクイーンは例の武器を手に入れたようです。ここまで来て、やっと計画通りですね」
『ええ、そのようね。待ちくたびれたわ~。あの子のことだから、また余計なことに首を突っ込んでいたんでしょうね?』
「はい、クラスメイトの女子が殺害されましてね。その犯人を見つけて解決しようとし、たった今犯人の身柄を確保しました」
『そう……お気の毒ね。それで?円華は標的のことを知ってしまったの?』
「わかりません。ですが、今回の犯人は異能具を使用しました。ですから、何か手がかりを手に入れることは確かだと思われます」
『なら、彼らが動くのも時間の問題になるわね。……いいえ、今回のその殺害自体が円華に対する警告行為なのだとしたら、もう動いてるんでしょうね』
「おそらく。ですが、奴らは自分のことに気づいていません。アイスクイーンに目が集中している間に、自分は情報収集に努めたいと思っています」
『そうね、あなたは隠密専門だから。わかったわ、それではあなた自身の仕事を続けつつ、引き続き弟の監視を続けてちょうだい、シャドー』
「了解しました……我が主、ブラックチェリー」
スマホを切れば、自分はもう1度円華を見て目を細める。
「……悪く思わないでくれよ、アイスクイーン。おまえはまだ、真実を知るには早すぎる」
夜の闇に紛れるように屋上を出ていき、2階を下りれば、そこには洗脳されていた者たちが何体も転がっていた。
すべて椿円華が氷刀白華で倒した者たちであり、打たれたところには雪の結晶の模様が浮かび上がっていた。
「これが、あの刀に塗られている皮膚から入り込むワクチンの痕か。やはり、あのスタンガンにも『希望の血』が……。希望に対抗するために生み出された専用武器、白華。20年前の英雄の力を継承した武器と、それを手にした復讐者……何の因果かな」
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???side
誰かのスマホの画面をみなさんにお見せしよう。
それはチャットをしている時の画面。
今後の参考にされるとよろしい。
ジャック『例の少年に異能具の存在を知られてしまった。キング、どう責任をとるつもりですか?あの小娘に異能具を与えたのはあなただったはずです』
クイーン『まぁまぁ、ジャックさん。過ぎたことを言っても仕方がないですよ。今後のことを考えましょう』
ジャック『クイーンはことの重要さを理解していないようですね。小娘を利用して少年が愚かなことをしない様に警告する。それが今回の計画です。メールは私が送信しておきました。ですが、意に反して、我々のことを知る小娘は少年の手に渡りました。誰が処理しに行くんですか?』
エース『俺が行こう』
クイーン『あら、エースさん、お久しぶりですね。チャットに参加するなんて珍しいんじゃないですか?』
エース『ジョーカーは今日は欠席するとさっき個人のチャットで聞いた。俺は気紛れだ』
ジャック『あの人は何を考えているのかがまったくわからない人ですからね。今頃何をしてるんだか』
キング『狂犬を回収しに行った』
クイーン『あらあら、伝説の暗殺者と戦ったのにまだ生きていたのね。でも、それも当然よね。あんな非道な道化師に付き合ってるんだから』
ジャック『ジョーカーの実験によく耐えられますよね、内海くん。もう領域が非人道的なのに。それにしても、キング。あなたはこれからどうするおつもりで?』
キング『どうするって何をだ?』
ジャック『まだ、例の少年をどう処置するかを決めてませんが?』
キング『ジャックとクイーンに任せる。俺はしばらく何もしない。近づいて変なボロを出せば、気づかれかねないからな』
クイーン『あのお人好しの女教師を我々が死に追いやったことですか♪』
キング『あれ、実行したのって誰だっけ?』
ジャック『え?キングでしたよね?』
キング『そうだったか?エースじゃなくて?』
エース『俺ではない。クイーンではなかったか?』
クイーン『私じゃないよ~?多分、ジョーカーでもないんじゃないかなぁ~?』
キング『まぁ、別に誰が死んでもどうでも良いだろ。その俺たちに復讐心を向けるかもしれない男が敵になったのなら排除するだけだ。俺の覇道を邪魔するなら、小石だろうと踏みつぶす』
ジャック『キングは相変わらず恐いですね』
クイーン『でも、そういう所がステキ♡』
エース『流石は我らがリーダー。一生ついて行きます』
キング『じゃあ、今日はこれで解散だ。それぞれ、異能具の管理は怠るなよ』
ジャック『了解』
クイーン『はーい』
エース『当然』
all clear と入力するとキングのレスはすべて消え、スマホの持ち主は地下の高層マンションのベランダに出る。
「涼華さんの弟……か。あれから2年。やっと、この時が来たか」
そう言った男の右耳には、チェスの駒で黒のキングを輪に通して下げているピアスがしてあった。




