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切り捨てるべき者

 円華side



 ー時はシックス・ロック・スクランブルの前日に遡るー


 磯部の誘導により、黒上と接触した後の話だ。


 俺はアパートの自室に戻り、ベッドに寝転がりながら考えていた。


 柘榴のクラスで起ころうとしている、黒上哲也の反乱。


 それへの協力を請われたわけだが、ここで俺には3つの選択肢が生まれた。


 1.柘榴に協力して、黒上の反乱を止める。


 2.黒上に協力して、柘榴への反乱を成功させる。


 3.どちらにも付かずに静観している。


 個人的には、3を選びたいというのが本音だった。


 柘榴と黒上。


 どっちが上に立つべき存在なのか。


 それを決めるのは、俺じゃない。


 正直、これは他のクラスの問題だし、部外者として観察していたい。


 ここで俺がどちらかに肩入れするのは、それこそ公平じゃない。


「公平…か」


 黒上は柘榴に反乱を仕掛けようとし、その(かたわ)らには柘榴の側近…磯部修の姿がある。


 この状況をどう見るかは、人それぞれだと思う。


 黒上の柘榴への敵対心から、2人が衝突する未来はもはや避けようが無いものだろう。


 その中で、どちらが勝っても利がある人物が存在している。


 この事実に対して、俺個人が抱いている感情は1つ。


 単純に、面白くない。


 磯部の立ち位置は、柘榴が勝とうが黒上が勝とうが最終的に勝った方に降れば良い。


 その立場は言ってみれば、状況を自分の良いように動かすことができるってことだ。


 奴の肝が()わっていれば、最悪の場合は共倒れを狙って新しい宿主を見つけることだって可能だ。


 そんな状態が、本当に公平だろうか。


「無いな。天秤を1度だけ、水平にしてやるよ」


 寝転がった状態で、ポケットからスマホを取り出して電話をかける。


 この時、自分がこの行動をした時に思い至った結論があった。


 そして、電話の相手は3コール鳴ったところで出やがった。


『おまえが俺に連絡を寄こしたってことは、磯部から接触を受けたようだなぁ』


 電話の相手は柘榴恭史郎。


 そして、奴は俺が電話することを想定していたのか、愉快そうに「クッフッフ」と笑ってきた。


()められた…」


 俺は半目になりながら、思ったことをそのまま呟いた。


 この前の茶会が終わった後、2人だけで話した時に出してきた提案。


 あの時から、俺がこの瞬間に連絡するまでの一連の出来事が、あいつの想定通りだったってわけだ。


「おまえ、磯部が黒上哲哉と繋がってることに気づいていただろ?」


『そんな当たり前のことを確認するために、わざわざ電話してきたのか?違うだろ。大方、黒上がおまえに協力でも仰いできたか?俺を打倒するために』


「そこまで予想が付いているのは、そうするように根回しでもしたってか」


 まるで屋上での黒上との一件を見たかのように、言い当ててくるのが気持ち悪い。


『まぁ、俺が何もしなくても、噂ってのは勝手に広まるもんだ。俺が監獄に居た理由、そのネタは割れてるしな。この柘榴恭史郎が椿円華を恐れている。そんな情報が耳に入れば、利用しない手はない』


 大方、磯部に『椿円華を敵に回すな』とでも命令したのかもな。


 そうすれば、逆の発想で柘榴を潰すには、俺が必要になるという考えに至るってわけだ。


 そして、磯部から黒上に入れ知恵させれば良い。


 鵜呑(うの)みにした結果が、あの屋上での接触か。


 踊らされたな。


『まぁ、そんなことはどうでも良い。……おまえの答えを聞かせろ』


 迫られている選択肢が、何を表しているのかは容易に想像がつく。


 遠からず起こる、Dクラスの内乱。


 その時に俺がどちら側に着くのか。


 ここで俺が示す答えが柘榴と一致していれば、今結んでいる協力関係はより強いものになるだろう。


 この時、無駄に思考を回すことなく、柘榴と俺のこれまでの絡みから導き出される最適な一言が頭に浮かぶ。


 そして、それを躊躇(ためら)わずに口から吐きだした。


「勝手にしろよ。無様に敗けたら、笑ってやるぜ」


 俺が選んだのは、やはり変わらずに第3の選択肢。


 柘榴はその返事を聞き、クフッと電話越しに笑う。


『おまえの答えが、想定通りで安心したぜ。おまえはそう言う奴だ』


 どうやら、この答えも奴に見透かされていたらしい。


 こいつもどうして、俺の思考が段々とわかってきている。


 これをお互いのことを理解できたと喜ぶべきか、思考を見透かされたことを悲しむべきか。


「まぁ、部外者()つ面倒事に巻き込まれた人間として、1つだけ注文を付けておくぜ」


 傍観者に徹するつもりだけど、1つだけ望んでいる展開はある。


「最終的に、磯部が独り勝ちする展開だけは止めてくれ。蝙蝠(こうもり)は臆病な方が可愛げがある」


『クッフッフ。あいつもおまえに嫌われたとあっちゃ、少しだけ哀れだなぁ』


 思っても無いことを理由に注文すれば、向こうも心にもないことを口走る。


『おまえのスタンスはわかった。それなら、俺も情報提供の礼として、おまえに最悪の情報を教えてやる』


「教える前から最悪って、不吉でしかねぇな、おい」


 前置きに納得はいかないものの、柘榴の次の言葉に耳を傾ける。


 そして、その情報を聞いた時に、俺がシックス・ロック・スクランブルで最初にやるべきことが決まったのだった。



 ーーーーー



 ー時はシックス・ロック・スクランブル当日、現在に戻るー


 2人組エリアに降格しながら、俺は雨水の小言を聞き流す。


「昨日、おまえから敗けを提案された時は耳を疑ったが、まさか、磯部が潜伏者だったとはな……。柘榴恭史郎め、最初から知ってておまえと組ませたんじゃないのか?」


「そりゃ、そうだろ。柘榴のことだ。俺が黒上側に着くって決めていたら、その事実を隠したまま、潜伏者の特権で俺からポイントを奪っていただろうぜ」


 柘榴は野蛮だが、慎重な男だ。


 あいつ自身への恐怖心を活かせば、自分のクラスに居る潜伏者を引っ張り出すことは可能だろう。


 そして、それを利用して潜伏者が勝ちあがるように誘導し、クラスが得るポイントを大量に得る腹積もりのはずだ。


 その対象は、俺であっても例外じゃなかった。


 だからこそ、俺と磯部を組ませたはずだしな。


 あいつとしては、どっちに転んでも良かったんだ。


 展開によっては、俺との協力関係も解消だったかもしれない。


 磯部の本質を利用し、柘榴も俺を試していたようだ。


 雨水は俺の態度を見ながら、怪訝な顔を浮かべる。


「何故、そんなに冷静なんだ?正直、俺たちは今、状況としては崖っぷちだぞ」


 磯部が潜伏者だとわかった以上、奴と離れるためには1度敗北するしかなかった。


 その選択に後悔はない。


 2人組エリアに向かっているということは、次でまた敗北すれば俺か雨水のどちらかが退学になるということだ。


 それだけでなく、勝ったとしても俺たちは誰か1人を退学させることになる。


「楽観的な思考かもしれないが、1度勝利して4人組エリアに進んでからでも良かったんじゃないのか?磯部を切り捨てるのは」


「人数が増えれば、それだけ意思統一が図れなくなるだろ?勝手に動かれて、チームワークを乱されるのは御免だ。相手がおまえだけだったからこそ、今切り捨てるべきだと判断したんだ」


「それは信頼か?」


「……多分。おそらく、メイビー」


「そこは嘘でも、肯定しろ」


 信頼という言葉を、安易に使うのは苦手だ。


 それが気心が知れた相手であれば、なおさら。


「まぁ、俺とおまえなら、このブロックで負けるのはあの1回で済むだろ」


「無駄なプレッシャーを与えてくれる」


「だけど、こんな所で死んでる余裕はねぇんだろ?」


「……当たり前だ。誰を犠牲にしてでも、俺は要の下に戻ってみせる」


「その覚悟が在れば十分だ」


 敗北という選択を取ることができた理由には、雨水と契約を交わした時の会話を思い出したからだ。


 こいつもまた、俺と同じエゴを持っている。


 和泉要を守るということに重点を置き、それ以外を切り捨てる決意があった。


 その覚悟と決意が揺れるかどうか、見定める必要がある。


 そして、結果として揺れた時、それを固めさせるのが俺の役割だ。


 雑談をしている間に、2人組エリアに到着した。


 流石に初っ端から()けたグループは俺たちぐらいで、次の敗北者を待つことになる。


「最初に敗けることは決めていたとしても、次は必ず勝たなければならない。対戦相手は、慎重に選ぶ必要があるな」


「それは今、ここを降りてきている奴らも同じことを(おも)ってるだろうぜ」


 ここに来て、初めてこの試験におけるジレンマを感じ始めている。


 1戦目で、スクランブル・テリトリーズの基本的な内容は理解できた。


 あとはどうやって、そのルールの中で勝利するか。


 単純なスポーツに見えて、身体能力だけで勝利するのは不可能だ。


 相手よりも先にマスを占領すること、そして敵のプレイヤーを行動不能にすること。


 求められるのは、大きく分けてこの2つ。


 だけど、そのやり方はグループによってそれぞれだし、どっちを優先するかも戦略が分かれる。


 俺が求める戦略を果たすためには、それ相応の人材が必要になるわけだが、高すぎるラインを求めて敗北すれば、俺と雨水の計画は崩壊する。


 デッド・オア・ライフ……少しだけ、緊張してきたかもしれない。


「理想だけを言うなら、フィジカルが強い奴が欲しいな。それこそ、このブロックで言うなら―――」


 思い浮かんだ相手を口にしようとした時、エリアの入り口から「ハーッハッハッハー!」とバカでかい声が響いてきた。


「こ、この声はぁ……」


 雨水は両耳を塞ぎながら、苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべる。


「マジかよ…」


 俺も顔から感情が消え、現実を疑って空虚に呟いた。


 そして、扉が開いてはその先からドレッドヘアの筋肉質な男が先頭に立って入室してきた。


「これはこれは、懐かしい顔ぶれだねぇ~、ミスターズ?」


 顔を合わせるなら、もう2回ぐらい勝ち進んだ先だと思っていたが……。


 これを幸運と見るか、不幸と見るか。


「幸崎……ウィルヘルム…」


 隣に居る雨水の顔を見れば、あいつに視線を向けて睨みつけている。


 水と油だからなぁ~、この2人。


 鉢合(はちあ)わせるタイミングが絶妙に最悪だぜ。


 そして、その後ろに居る相手に視線が移った。


「あれ……雨水、くん?」


 藍色の髪を、1つ結びにしている女子だ。


高原楓(たかはら かえで)…‼」


 フルネームで名前を呼んだところから、顔見知りのようだな。


 そして、雨水の反応の大きさは幸崎の時より、若干オーバー気味だった。


 名前を頭の中で復唱し、ブロック一覧表を思い出す。


 確か、Aクラスの女子だったか。


 2人で来たということは、幸崎と高原は同じグループってことだろう。


 何とも、やりにくいグループが降りてきたもんだぜ。

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