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得点による特典

 円華side



 ブラックボックス内はシンプルな構造になっており、外装とは対照的に白い空間が広がっていた。


 そして、別々の方向に示された6つの扉が目を引いた。


 それぞれに赤、青、黄、緑、紫、茶の色別がされている。


「早速、ブロックごとに分かれることになるってわけか……」


 事前にどのブロックに分かれるのかは知っているため、進むべき道は1つに決まっている。


「こんな所で足を止めている場合じゃないぞ、さっさと進もう」


 先を急ぐ雨水を先頭に、ブロック:パープルに進む俺たち。


 そして、入口を過ぎた先ある広間で待っていたのは、同じブロックに振り分けられた生徒たちだった。


 当然ながら、2年生だけでなく1年生、3年生の顔ぶれもある。


 ここに来て、やっと他の学年のメンバーがわかるようになったわけだ。


「あ、椿先輩‼同じブロックだったんですねー!?」


 この声はぁ……。


 声のする方に視線を向ければ、そこには見覚えのある1年生の姿を視界に捉える。


「早瀬……おまえもかよ」


 面倒臭い奴が同じグループになったもんだ。


「俺、感激です‼もしかしたら、先輩と一緒に戦えるってことですよね!?よろしくお願いします‼」


「待て待て待て。1人で突っ走るんじゃねぇよ……。ったく、鬱陶(うっとう)しいな」


 こいつ、言っていることの意味がわかってるのか?


 ここでもし、この軽はずみな発言を俺が受け入れた場合、俺か雨水、磯部…あるいは早瀬か、あいつのグループの2人の内の1人は別のステージに分かれることになる。


 迂闊(うかつ)にバトルの相手を決めるのは、自分の首を絞めることになるんだ。


 周りを見れば、俺の知る人間は早瀬だけじゃない。


 ここに集まっている生徒だけでも、1クラス程度の人数が(そろ)っている。


 その中で俺の目を引いたのは数人。


 同じクラスの御堂累(みどうるい)、Cクラスの幸崎ウィルヘルム、Sクラスの綾川木葉。


 そして、少し前の記憶を遡って、顔が一致する先輩が1人。


 3年生の菅田潤(すがた じゅん)


 顔を見ただけで、思い出すのに少し時間がかかったが、徐々に苦い記憶を思い出された。


 1年生時の文化祭で、俺をCQBの選手に仕立て上げるために、進藤先輩と共に()めてきた人だ。


 正直、あの時のことで苦手意識が芽生えている。


 その他に目ぼしい人物は、今の所は見当たらない。


 逆に、俺に集まる視線は嫌というほど感じている。


 こういう時に、進藤先輩が言っていたことを思い出す。


 俺はもう、周りから強者というレッテルを貼られている。


 そして、それから逃れることはできないのだと。


 周りがそれぞれのグループのメンバーを見て騒がしくしている中で、広間の中央にある巨大モニターの電源が起動した。


 そこに映る者を見て、俺はすぐに目付きが鋭くなる。


『やぁやぁやぁやぁ。生徒諸君、我が黒い監獄にようこそ。ゲームマスターのイイヤツだよ』


 青いタキシードに身を包んだ、黒い笑顔の仮面を着けたAI『イイヤツ』。


 こいつが現れたということは、この試験の意味合いがクラス競争から死のゲームへと変わる。


『この映像は、6つのブロックに同時に放送されている。これから私が行うのは、君たちの命運を分けるゲーム『スクランブル・テリトリーズ』の説明だ』


 映像が切り替わり、3×3のマス目になる。


『やってもらうのは、早い話が陣取りゲーム。私の手に持っている、このボール『スクランブルボール』を使用し、舞台となるマス目を自軍チームの色に染め上げれば勝利となる。ゲームは最大で10ターン。プレイヤーが移動できるマスは、隣接するマスに1人1ターンのみとする』


 ターン制の戦略ゲームかよ。


 ここに来て、求められる能力に『統率力』が在った理由が見えてきた。


 ただ身体能力が高いだけじゃ、戦略に敗けるってわけだ。


 イイヤツは右手に赤いボール、左手に青いボールを持って見せてくる。


『スクランブルボールはゲーム開始時に、1人につき1つ提供される。そして、このボールをマス内にある台座に1分間設置することができれば、そのマスを占領することができる。しかし、1度占領したマスも敵チームが1分間占領した場合は敵チームのマスに上書きされるので注意が必要だ』


 1度占領すれば、安全ってわけじゃない。


 マスを奪うだけでなく、奪われないようにするための思考も必要ってことだ。


『状況として、空白のマスを挟む形で左右、上下、斜めのマスを自軍で埋めた場合は挟まれた空白のマスも自軍に染めることは可能だ。この辺りは、オセロのようなものだと思ってくれれば良い。()()()()()()()、君たちが目指すべきは10ターンが過ぎた時に自軍チームのマスを多く占領すること。その過程は問題ではない』


 イイヤツの言い方が、どこか意味深に感じた。


 どんな形であれ、勝利条件を満たせば良い。


 今のところ、求められるのは戦略の面だけのように思える。


 しかし、次の説明でこのゲームの真髄が見えた。


『仮に敵チームと同じマス目で重なってしまった場合、そのマスでは1分間の攻防戦が行われる。君たちがこれから着用するユニフォームには、ターゲットマークが付いており、それに敵のスクランブルボールがヒットすれば、自分のスクランブルボールは効力を失う。そのゲームに()いては、リタイアという形になることを忘れないでほしい。ちなみに、リタイアになったにも関わらず、敵チームに妨害行為をした場合は問答無用で失格……。そのまま退学処分になるから、そのつもりでね』


 結局は、力づくって場面が出てくるわけだ。


 ただの陣取り合戦で終わるわけは無いと思っていたけど、こうもあからさまとはな。


『敵チームとの攻防戦では、プレイヤーのターゲットマークを消すか、先にマスの台座に1分間自軍のボールを設置することができた場合に勝利となる。そして、これはほとんどの生徒にとっては関係ないことかもしれないけれど―――』


 イイヤツはそう言って言葉を区切っては、画面に笑顔の仮面を近づけて呟いた。


『このスクランブル・テリトリーズでは、武器の持ち込みは自由だ。君たちがどのような戦い方をするのかを、楽しみにさせてもらうよ?』


 その一言は全校生徒に向けられた言葉ではあるが、その標的は誰に向かってのものなのかはすぐに理解できた。


 念のために、白華を持ってきておいて正解だったみたいだな。


 このブロックの中で、こいつを使うことになる相手が居るのかどうか…。


『ここまでが、スクランブル・テリトリーズの説明になるのだが……。ここから先は、君たちにとって重要なアピールポイントについての追加説明になる』


 アピールポイント…?


 確か、試験の説明をされた時に牧野が言っていたな。


 試験の中で活躍すれば付与されて、終了後まで生き残っていた場合は能力点(アビリティポイント)に還元できるって代物だったと記憶している。


『このポイントを終了時点まで多く所持していれば、君たちが能力点として得られるリターンが多いという事実は変わらない。しかし、この試験でのみ可能な活用方法があるので、それを説明させていただこう』


 そう言って、再度画面が切り替わる。


 映し出されるのは、アピールポイントと引き換えに得られる特典のリストだ。


 ーーーーー

 特典一覧


・『他のブロックのグループとバトルすることができる』

・『他のブロックのグループに、自身のグループの人間を1人だけ送りつけることができる』

・『1つのバトルで勝利し、同じグループから2人引き抜くことができる(2人組ステージでは使用不可)』

・『チャレンジステージへの挑戦権』

・『他ブロックのバトル観戦権』

・『スクランブルボール+1(ゲーム開始時に所持できるスクランブボールを+1個にできる)』

・『プロテクトマーク+1(1度ターゲットマークにヒットしても、そのヒットを無効にできる)』


 ーーーーー


 

 これはまた、随分と羽振りが良いシステムだな。


 ポイントを上手く使うことで、試験を有利に進めることも可能ってわけか。


 個人的には、他のブロックにも干渉できる特典があることが気になった。


 ポイントを消費すれば、他のブロックの状況を見ることができる。


 そして、場合によっては、さらにポイントを使えば、他のブロックのバトルに参戦することも可能になる。


 アピールポイントを集めておくことで、ここ以外のブロックにも干渉する権利を得られるということは、前提の思考が変わってくる。


 これは個人戦であると同時に、結局は対抗戦なんだ。


 そして、気になる特典がもう1つ……。


「このチャレンジステージというのは、一体何なんだ?」


 雨水が(いぶか)()な顔で呟いたところで、それが聞こえていたのかイイヤツが説明に入る。


『チャレンジステージとは、君たちがこれからの試験で使用することが可能な武器を手に入れられる試練だ。チャレンジできるのは、1人につき1回のみ。そして、強い覚悟が無ければ乗り越えることは不可能な試練となっている。挑戦するかどうかは、君たちの判断に任せるよ』


 試験の中で使用できる武器か。


 この学園の本性を知っている俺には、これがただの武器であるとは思えなかった。


 十中八九、異能具……だろうな。


 学園側は、また異能の使用者を増やそうとしているってことだ。


 そして、そうまでしないと乗り越えられない試験だってことが、遠回しに伝わってきた。


『そして、君たちにとっては最後の重要な点について、ここで改めて伝えておこう』


 映像が切り替わり、そこには5人の人型のシルエットが映る。


『このブロック:パープルに於いて、潜伏者(せんぷくしゃ)は5人。彼らは既に君たちの中に潜んでいて、事前に自身の役割を知っている。潜伏者のルールについては、それぞれの担任からの説明の通りだ。君たちが喰う側か、喰われる側になるのか。蹴落とすのか、蹴落とされるのか。その結末を楽しみにさせてもらうよ?』


 5人の潜伏者。


 最終的にグループを5人に(そろ)えた時に、潜伏者が居た場合にはそれ以外のプレイヤーはアピールポイントを全て奪い取られることになる。


 そして、潜伏者同士も味方ではなく、同じグループに潜伏者が居た場合には他のプレイヤーから奪うポイントが均等に分けられる。


 その5人はよっぽどのお人好しでもない限り、利己的に他者を(あざむ)いていくことだろう。


 ただ実力者を奪うだけのゲームではなく、潜伏者かどうかも見抜く洞察力が求められる。


 あまりにも複雑な試験に、周りのプレイヤーは険しい表情をしている。


『それでは、私からの説明は以上だ。皆の健闘に期待させてもらおう』


 イイヤツが仰々(ぎょうぎょう)しくも優雅なお辞儀をしたところで、モニターの電源が切れた。


「さて、長ったらしい説明も終わったし、さっさと適当な奴とバトルをして、とっととあと2人集めてしまおうぜ!」


 自身の拳を掌にパンっと押し当て、磯部が積極的に動こうと宣言する。


「やる気十分って感じだな、磯部」


「そりゃ、そうだろ。あの椿円華が居るのに、こんな所で負けるなんてありえねぇって」


 他力本願というか、完全に俺頼りなのを隠さないな。


 雨水と目を合わせれば、あいつも呆れたような目をしている。


 テンションに差はありながらも、俺も磯部と考えは一部分だけ同じだ。


「確かに……さっさと1戦目はやっておきたいよな」


 同意する一言を口に出したところで、「それなら、僕らがお相手しましょうか?」と眼前から声をかけられる。


 赤みがかった茶髪をしている、優し気な顔をしている男だ。


 その後ろには、屈強な体格の筋肉質な大男と逆に細身の禿頭(とくとう)で色黒の肌をした男が控えている。


「初めましてですね、椿円華くん。噂は聞いていますよ、2年生の中でも屈指の実力者……あるいは、問題児だってね」


「……あんたは?」


 向こうはこっちを一方的に知っているようだけど、こっちは初対面だ。


 勝手にベラベラ喋られて、良い気はしない。


 俺がぶっきらぼうに聞けば、隣から雨水が「バカか、おまえは」と言って肩を掴んでくる。


「SASを見ていないのか?この人は、3年Aクラスの藍沢宗(あいざわ しゅう)。あの仙水凌雅の腹心と言われている先輩だ」


 簡略的な説明を受けても、こっちは「へえぇ…」と特に興味は持てなかった。


「仙水から、あなたの話は聞いています。可能であれば、ここで君を潰せとも命令されていまして。よろしければ、対戦を所望したいのですが?」


 そう言って、静かな闘志を隠さずに、笑顔と共に俺に向けてくる。


 面と向かって、自分を潰すって言われてきたという相手と対戦しろって?


 ただの正直者か、後先考えないバカなのか。


 どちらにしても、俺としては都合が良い。


「あんたが俺を潰せるのか、どうか……。品定めだけはしてやるよ、藍沢先輩?」


 先輩と言いながらも、敬意など一切ない態度を取る。


 雨水は苦笑いを浮かべ、磯部は「おい!」と過剰に反応する。


 それを挑発と受け取ったのか、藍沢だけでなく、その後ろに居る2人も険しい顔を向けてくる。


「調子に乗った後輩を更生させるのも、先輩の務めです。全力でやらせてもらいますから、覚悟してくださいね?」


 シックス・ロック・スクランブルの初戦の相手は、仙水凌雅の腹心か。


 これからのことを見据(みす)えれば、悪くない道化(どうけ)だな。

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