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1年生の代表者たち

 セレーナside



 真咲くんたちと別れて教室を離れた後、1人で帰路に就く。


 この2ヶ月近くは、友人を作ることなく1人で居ることが多い。


 誰とも馴れ合うつもりはないので、気楽でいいのだけど。


「いつまで、こんな生活が続くのかしら……」


 私の目的は言うまでもなく、隻眼の赤雪姫……椿円華を拘束して、アメリカに戻ること。


 それが上官からの命令であり、命令に従うのは軍人としての責務。


 だけど、ペア戦の時に彼と共に決闘を行った時に、その実力差を見せつけられた。


 旧ラケートスでの最強の暗殺者と呼ばれた男には、私は足下にも及ばずに弄ばれてしまった。


 今のところ、カフェで真咲くん、恵美先輩を交えた4人での集まりの後は、接触していない。


 私は彼に、自分がアメリカ軍からの刺客であることを伝えている。


 それにも関わらず、椿円華は私のことを放置している。


 自身の脅威になると思っていないのは、明らか。


 恵美先輩との接点は残しているけれど、彼の有益な情報は得られていない。


 椿円華にとって、彼女は弱点となり得る存在だと思っていた。


 だけど、交流が多くなればなるほど、恵美先輩も彼とは別の意味で脅威の存在であることを痛感した。


 彼女は人の心を見透かしたように、その懐に入り込んでくる。


 気づいたら、私は恵美先輩のことを親しい存在だと思い始めている。


 彼女を利用して、椿円華を追いつめることを(はばか)られるほどに。


「こんな所で、足を止めている場合じゃないのに……」


 残されている時間は、それほど多くない。


 上官であるあの男は、過程ではなく結果だけを求める。


 私たちが手をこまねいていたら、より残虐な方法で彼を捕らえる……あるいは、排除しようとするはず。


 周りにどれほどの被害が出るのかなど、考慮することもなく。


 そんなこと、許されるはずがない。


 ……いや、それだけじゃない。


 私が彼に挑戦するのは、上官からの命令や、その先にある脅威を止めるためだけじゃない。


 椿円華には、問いたださなければいけないことがある。


 どうして、あの人を()()()にしたのか。


 それを確認するチャンスは、この学園に居る期間しかない。


 そして、今回企画された特別試験も全学年を巻き込んだものになっている。


 説明を聞いた時から、退学者が出ることは(まぬが)れないことはわかっていた。


 私も生き残るためには、事前準備となるグループの作成を余儀なくされるわけだけど……。


「ふざけているのか、そんな話‼」


 どこからか、怒声が聞こえてきては足を止める。


 声が聞こえてきたのはAクラスの教室であり、通り過ぎるつもりだったけど横目で中をチラッと見てみる。


 すると、中に居る生徒に違和感を覚えた。


 そのクラスの生徒である音切金瀬(おとぎり かなせ)が居るのは不自然じゃないけど、その周りのメンバーがおかしい。


 Bクラスの柏葉陽(かしわば はる)、Cクラスの南良杏奈(なら あんな)、Dクラスの佐賀美玲人(さがみ れいと)


 3人とも、今はそれぞれのクラスのまとめ役を担う存在。


 怒声を上げたのは、柏葉くんのようですね。


「僕たちを集めて、何を話すのかと思えば……。次の特別試験でSクラスを陥れるために、協力しろだって?それは自分たちがSクラスに昇るために、僕らに踏み台になれと言っているようなものだぞ」


 どうやら、シックス・ロック・スクランブルに向けての話し合いが行われているらしい。


 だけど、おそらく音切くんが提案した内容に、柏葉くんだけでなく、他の2人も納得していない。


「まぁ、柏葉くん、そんなに声を荒げないで。確かに、今のSクラスとうちらの差は歴然だし、A~Dクラスで協力して蹴落とそうとするのは理にかなってるとは思うよ。だけど、そんな簡単に上手くいくかなぁ」


 仲裁するように、佐賀美くんが2人の間に立っては音切くんに身体を向ける。


「グループを組んで戦うっていうけど、この試験は個人戦でしょ?最後まで売れ残りの1人にならないように、必死になって食らいつかないといけない。はっきり言って、他のクラスに勝つことなんて考えている余裕はないと思うんだよね」


 確かに、彼の言っていることは正しい。


 同盟を組むにしても、今はその時じゃないと私も思う。


 Sクラスを追い込むために戦うとしても、それはクラス対抗での戦いで行うべきだと思う。


 今回のシックス・ロック・スクランブルは、どう見ても脱落戦。


 醜い蹴落とし合いが起きて、同じクラスメイトでも、自分が生き残るために足を引っ張り合う可能性だってある。


 人は自分が生き残るためには、どれだけ非道な行為もすることができるのだから。


 音切くんは柏葉くんと佐賀美くんの意見を聞いて、特に感情を乱されることなく淡々と口を開く。


「細かいことは、俺にもわからないんだよ。ただ、俺は兄貴から他のクラスのリーダーを呼んで、この提案をしろって言われただけだから。文句があるなら、今度兄貴にあった時に言ってくれ」


 自分は命令に従っただけだと言い、非難の矛先をこの場に居ない者に向けようとする。


音切蓮司おとぎり れんじか…。何故、彼はここに現れない?」


 懐疑的な目を無ながら、南良さんが問いかける。


「兄貴は身体が弱いんだ。こういう場には、俺が出ることになっている」


「だけど、言いたいことだけ言って、詳しい説明は無いんだろ?のらりくらりとしやがって。いつまで病欠を気取ってるんだ、おたくの双子のお兄さんは」


 気に入らないと言うように、佐賀美くんが吐き捨てる。


 確か、Aクラスの実質的なリーダーは音切蓮司だと噂されている。


 表舞台に立って暴れるのは弟の金瀬で、彼は裏から兄である蓮司の指示に従っているだけ。


 決して、公の場には姿を現さずに自身の思惑通りに事を進めようとする姿は、あまりいい印象は与えない。


「とりあえず、私たちが呼び出された理由はわかった。しかし、であれば協力者は多い方が良いはずだ。何故、Eクラスは排除された?」


 南良さんが、疑問に思っていたことを口に出す。


 確かに、この場にはEクラスの生徒は居ない。


 私だって偶然話し声が聞こえて、聞き耳を立てているだけだ。


「兄貴曰く、あのクラスは野獣の集まりだ。まとめ役が居ないクラスに用は無いってことらしい」


「なるほど……。確かに、言い得て妙だな」


 痛い所を突いてくる。


 確かに、私たちのクラスにリーダーは居ない。


 誰もその位置に台頭(たいとう)しようとはせず、全員が野放し状態になっている。


 動きはバラバラであり、まとまりなど無い。


「まぁ、これは兄貴じゃなくて、俺個人の意見にはなるけど……おまえら、ムカつかないの?北条勇(ほうじょう いさむ)って男にさ」


 音切くんがSクラスではなく、その個人の名前を出せば3人の表情が険しくなる。


「入学式の時に、あの男は俺たち全員を踏み台って言った。あれは俺たちを下に見た上での、宣戦布告であり挑発だ。そして、それを証明するかのように上に立ってふんぞり返っている。その椅子から引きずり下ろして、俺たちを踏み台だって言ったことを後悔させてやりたいとは思わないの?」


 彼の目には、静かだけど強い闘志が(にじ)み出ている。


 それに共鳴するように、3人の目にも黒い光が宿った。


「確かに、あの時は悔しいって思った……。この僕のことも知らないくせに」


「戦ってもいないのに、いきなり踏み台と言われて良い気はしない。戦うことになれば、私が膝をつかせることは決めていた」


「まぁ、ああいう男が最終的には転落するのが面白いとは思うよねぇ」


 誰1人として、自分が彼に(おと)るとは思っていない。


 対決することがあれば、必ず引きずり下ろすと決めている。


「その意志が確認できれば、それで良いって兄貴は言っていた。同盟を組むことが理想だったけど、プランは他にもあるからさ」


 そう言って、音切金瀬は1枚の紙を3人に見せるように出した。


 そこに書いてあるのは、『Sクラス脱落戦』という題名だ。


「じゃあ、協力する気が無いなら、競争にしようぜ」


 まるでこうなることを読んでいたかのように、音切くんの口角は上がっている。


「これは…‼」


「なるほど。そう言う意味でも、我々が集められたわけか……」


 資料に目を通し、柏葉くんは目を見開いて驚き、南良さんは目を細める。


 そして、佐賀美くんもそれに目を通しては、ここに来て初めて教室の外に向けられた。


「君も目を通しておく?招かれざる客である、Eクラスの留学生さん?」


 私の存在が、気づかれていた!?


 声をかけられれば、姿を現さないわけにもいかず教室に足を踏み入れる。


「いつから、私が居ることに気づいていたんですか?」


「昔から、人の気配には敏感なんだ。そこに居る柏葉が声を張り上げた時から、君が近くで聞いていたことには気づいていたよ」


 その場に居た全員の視線が、私に集中する。


 そして、この場を用意した音切くんからは舌打ちをされつつも「まぁ、いっか」と流される。


「同盟関係を組むなら要らなかった。だけど、競争のプランで行くならEクラスも巻き込んだ方が、手数が多くて良いって兄貴も言ってたしな」


 私は彼から同じ資料を手渡され、それに目を通しては音切くん…その兄の方の狙いは、こちらが本命であると理解した。


 ーーーーー

 Sクラス脱落戦


 対象:1年A~Eクラス


 内容:特別試験『シックス・ロック・スクランブル』において、各ブロックにて1年Sクラスの生徒を退学させた人数を競う。こちらはランキング形式であり、1位のブロックに所属していた生徒の多いクラスに、各クラスから1000ポイントの能力点(アビリティポイント)を譲渡する。


 ーーーーー



 目的はSクラスの戦力を削ること。


 そして、シックス・ロック・スクランブルでは、戦略によっては特定の人物を退学させることが可能となる。


 その性質を上手く利用した、学園側の特別試験を利用したもう1つのゲーム。


 これに参加するということは、欲望に支配された人間たちによる更なる混乱が生まれることを予期していた。


「さぁ、これは1年生だけに許されたボーナスゲームだ。これに参加する勇気が無いなんて、自分が強いと思っている奴なら言わないだろ?」


 音切くんは、この場に居る全員を挑発して狂気のゲームに誘おうとする。


 Sクラスを蹴落とすため、より多くの利益を得るため。


 その場に居た3人は、そのゲームに参加する契約書にサインした。

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