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やる気のない新クラスメイト

 結局、あの後で真咲から七つの大罪具のことを聞きだすことはできず、終始雑談をして別れることになった。


 ヴァナルガンドは、いろんな意味で鼻が効く。


 そして、七つの大罪具の匂いは独特なものらしい。


 あいつがその匂いがするって言うなら、真咲は七つの大罪具と何かしら関係があるってことだ。


 七つの大罪具の中で、俺が知っているのは【嫉妬(しっと)】と【色欲(しきよく)】、そして【暴食(ぼうしょく)】の3つ。


 7つって言うからには、他に4つ存在するってことだ。


 残りは【憤怒(ふんぬ)】【怠惰(たいだ)】【傲慢(ごうまん)】【強欲(ごうよく)】。


 その内のどれか、あるいは名無しが回収した色欲の大罪具と関係があるとすれば…。


 そう言えば、あいつは紅い世界が見えた時に、真咲からも紅のオーラが視えた。


 だけど、今の今まで異能を発動した様子は無い。


 あいつの目は、茶色のままだった。


 紅に染まったところを、見たことがない。


 始業式の時から今日までのことを思い出され、真咲に対する関心が強くなる。


 だけど、今日も今日とて学校はある。


 こんなことを考えていても、足は学生としての習慣で自分の教室に向かっている。


 2年Eクラスの教室に。


「やっぱ、1にち2()…いや、1週間でメンタルが回復するわけもねぇか」


 教室内に入った瞬間に感じたのは、ドヨ~ンっとした重たい空気だった。


 俺たちのクラスは今、クラス順位の降格と石上真央が移動したという2つの現実からダブルパンチを喰らっている状態だ。


 久しぶりの最下位で、主戦力が1人居なくなったとあれば、そうなるのも無理はない。


「はああぁ~~~~」


 後ろを通り過ぎると、腰を丸めて肩をすくめる入江が重たくも深い溜め息をついた。


「朝から怠くなるような溜め息をつくんじゃねぇよ、入江」


 タイミングが良かったため、足を止めて注意する。


「……あぁ~、円華じゃん。ぐっもーにん」


「おまえのその顔からして、全然グッドに見えねぇけどな」


 どっちかって言うとバッドな空気感の中で、それでも自分を保っている存在は多くない。


 こういう時に、頼りになる存在が誰かと言われれば……。


「全く、あなたたちはいつまで落ち込んでいるつもり?そろそろ、顔を上げて前を見なさい」


 凛とした(たたず)まいで、登校してきた我がクラスのリーダー…成瀬瑠璃だ。


「たちって…もしかして、俺も含まれてね?」


「あら、違ったの?あなたも、最近は浮かない顔をしていたじゃない」


 そう言われたら、否定できないために目を逸らして頭を()く。


 周りからそう見えていたなら、悩んでいたのは別の所にある。


 内海景虎。


 あいつの存在……目の前で見たあの力が、頭から離れない。


 ずっと、どうすれば内海に勝てるのかを考えていた。


 だけど、ずっとその答えは見つからないままでいる。 


 内海、キング、名無し、そして未だに姿を見せない刺客たち。


 俺には、倒さなきゃいけない敵が目白押しだ。


「私たちは、元はFクラスだった。それがDクラスまで上がることはできた。その経験が、私たちにとっては希望になるわ。落ちたとしても、ここから這い上がることはできる」


 成瀬はまだ、諦めたわけじゃない。


 再び最下位になったという状況でも、まだ這い上がる意志は消えていない。


「そうは言うけど、俺たちがDクラスに上がれたのは石上の協力があったからだろ?あいつが他の……しかも、内海のクラスに行ったのに、納得いかねぇ…‼」


 川並が横から、話に入ってくる。


 真央のクラス移動に、誰も彼もが精神的ダメージを受けている。


 今でも覚えている、真央が俺と敵対することを宣戦布告してきた時のことを。


 あいつは、このクラスで牙を研ぎ澄ますことを忘れていなかった。


 だけど、それはクラスメイトと共に勝ち上がるためとか、そういう王道展開じゃない。


 純粋に、俺と戦いたいという欲望と向き合っていたからだ。


 そして、その研いだ牙を活かす場所に、ここではなく内海のクラスを選んだ。


 俺という存在に、牙を届かせるために。


「それによぉ……。石上が居なくなって、代わりに入ってきたのがあれじゃあさ……」


 川並は不服そうな目を向ける先には、中央にある元は真央の席には、机に突っ伏して寝ている青髪の男が居た。


 トレードと言うことは、真央の代わりに内海のクラスから誰かがこのクラスに入ってくるこということだ。


 それが、御堂累(みどう るい)


 Eクラスに来てからの1週間、あいつはずっと、あそこで寝ている。


 授業中は言うに(およ)ばず、体育も見学という名目で座ったまま寝ている始末だ。


「あんな怠け者を送りつけてきやがって、とんだ嫌がらせじゃねぇか」


 川並は本人に聞こえるように言うが、それに対して御堂は反応を示さなかった。


 聞こえていないのか、それとも無視しているのかもわからない。


「彼については、追々考えましょう。このクラスに入ったからには、彼も私たちの仲間よ」


 成瀬は御堂のことを受け入れようとしているみたいだけど、多くのクラスメイトはそうじゃない。


 真央の時は、あいつが頼れる存在でコミュニケーション能力が高かったことからすぐに馴染むことはできたが、どっちかって言うと御堂は最初の頃の恵美よりだ。


 周りと関わることを避けて、それゆえに眠りの世界に逃げているように見える。


 あいつがこのクラスに来てから、俺は未だに言葉を交わしたことはない。


「こういう時こそ、友好を深めるために親睦会でも開いた方が良い……んでしょうね」


 成瀬の言い方からして、気乗りしないのが見て取れる。


 まぁ、こいつの場合、『団結しようぜ!』っていうキャラじゃねぇしな。


 こういう時、コミュ力が高い奴が率先して行動してくれると助かるけど…。


「おはよう、御堂くん。今日も朝から寝て、また徹夜したのかな?」


 御堂に話しかける女子の声に反応し、俺たちの視線はそちらに向いた。


 見れば、我らがコミュ力女子代表の住良木麗音が、いつもの調子であいつの前に立っていた。


 声をかけられた御堂は、流石に名前を呼ばれれば頭を上げて麗音を見る。


「おはよう、住良木さん。別に徹夜してたわけじゃないよ。フアァ~ア……昼間寝すぎて、夜に寝れなかっただけ。もうさ、起きてるのが(だる)いんだよね」


「アハハッ、完全に昼夜逆転しているね」


 無感情で無気力な声でそう返す彼に、麗音は苦笑いを浮かべる。


 この数日、彼女が御堂に何度か声をかけてコンタクトを取ろうとしているのを見ている。


 それゆえか、あいつは麗音の声には少しずつ早く反応するようになっている。


 頑張れ、麗音。御堂に話しかける勇気があるのは、おまえだけなんだ!


「このクラスに来て1週間経つけど、どうかな?全く違うクラスに来るんだもん、慣れるまで大変だよね」


 麗音の席は、御堂の右隣になる。


 自然とそのまま、会話をする流れになった。


「別にどうでも良いよ。全部、面倒くさいんだ。何だったら、息をするのも面倒くさい」


「そ、その表現はオーバーなんじゃない?御堂くんって個性的なんだね」


 目に見えて、わかりやすいくらい怠けてんなぁ。


 見ている分には、少し面白くなってきた。


「そう言えば、聞いてなかったよね。御堂くんって、どうして石上くんとのトレードを受け入れたの?今のBクラスは、君には合わなかったのかな?」


 あ、それは俺も知りたかった所かもしれない。


 そして、成瀬もその話題が耳に入っては聞き耳を立てている。


「クラスは別にどこでも……。でも、あの人にこのクラスに移動だって言われた時はラッキーって思ったんだよね。ここなら、何もしなくてもクラス上がれそうだし」


 そう言って、御堂はチラッとこっちを見てきた。


「あの子どもっぽい顔の人……有名人でしょ?あの人が居るなら、俺が何もしなくてもSクラスに行けそうって思ったんだよね」

 

 もはや、他人頼みでタダ乗りしようってか。


 麗音からは、俺に対して同情の目を向けられる。


 あぁ~、言わんとしていることが視線だけで伝わってくる。


 また変な奴に目を着けられたなぁって思ってんだろ?


 そして、その聞き捨てならない他力本願な発言に、うちのリーダーが反応しないはずもなく……。


「円華くんが居るから、このクラスに来たってこと?聴き捨てならないわね。彼が居たって、そう簡単にSクラスに上がれるわけじゃないわ。何だったら、使い物にならない有名人がクラスに居て、要らない注目を浴びて厄介者でしかないんだから」


「おい、厄介者は言い過ぎじゃね?」


 成瀬の容赦ない物言いに、ジト目で抗議するも無視される。


「え、でも強いんでしょ。Sクラスの女帝とも、引き分けたって聞いてるよ?さっさと俺をSクラスにしてよ」


 本気で言っているのか、俺に対して無気力な目を向けてくる。


「悪いけど、俺はクラス競争にそんなに興味ねぇぞ?上に行きたいんだったら、見込み違いだ、ナマケモノ」


 呆れた目を向けながら言えば、御堂は「ええぇ~~~」と言って項垂(うなだ)れる。


「何もしなくても、楽してクラス上がれると思ったのに……残念」


「楽してクラス順位を上げることなんて、不可能よ。私たちだけじゃない。他のクラスだって、みんな必死なの」


 他のクラスに強者が居ることを理解しているからこそ、出てくる言葉だ。


 S~Dクラスの中で、侮れるクラスなんてどこにもない。


 それでも、勝ちあがらなければ望む未来は掴めない。


「石上くんが居なくなった今、あなたにも協力してもらわなければ困るわ。望む未来があるなら、だらけてないで力を貸しなさい」


 やる気を出すように説諭する成瀬だが、その言葉は御堂のボケーっとした顔から響いていないのがわかる。


「頑張らなきゃ勝てないなんて、面倒臭いね。ファ~~ハァ。じゃあ、Sクラスに上がったら起こして?それまで、俺は寝てるから」


 そう言って、再び突っ伏しては眠りの世界に入る御堂。


 その姿に、成瀬は目尻をピクピクと震わせては「起きなさーい‼」と廊下に響くほどの怒声を浴びせたのだった。


 御堂累。


 こいつが真央の代わりになる未来が、俺にはどうしても見えなかった。


 こうも無気力でやる気が無いと、こいつの能力も底が知れるかもしれねぇな。


 全く、内海の奴……面倒くせぇ奴を真央の代わりに押し付けやがって。


 そう言えば、無駄なことを極力嫌う成瀬がこうも御堂に突っかかるのも気になる。


 言っても無駄だと判断した成瀬が、自分の机に戻っていくので声をかける。


「なぁ、成瀬。何でそうも御堂を動かそうとするんだ?目に見えてのナマケモノだぜ?」


「ただのナマケモノなら、私だって彼に時間を割いたりしないわよ」


 そう言っては、自分のスマホを操作しては画面を見せてくる。


 映されているのは、SASでの御堂のプロフィールだ。


 ーーーーー

 御堂累 学年:2 クラス:E 部活:帰宅部


 ステータス

 学力:A

 運動:A

 対人関係:E

 思考力:A

 洞察力:A

 統率力:E


 ーーーーーー


 この評価を見て、俺は思わず顔を引きつらせては、画面と御堂本人を交互に見る。


「これ、バグじゃね?」


「私もそう思うわ。だけど、これが本当なら、彼は私たちにとって強力な仲間になるわ」


 この高スペックのナマケモノを、やる気にさせるってかぁ?


 骨が折れるぞ、マジで。

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