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番狂わせ

 特別試験の結果は、1週間後のホームルーム後に開示された。


 正直、本番で全力を出せたかと言われれば、それはできなかった。


 試験が始まる直前の、ビースト襲来から内海乱入の流れで体力なんて使い果たしていた。


 命を狙われていたんだ、しょうがない。


 まぁ、この合同特別試験で退学になることは無いだろう。


 だからこそ、組織はビーストなんて荒業(あらわざ)を使ってきたのだと思う。


 そして、教室に居た全員のメール受信音が一斉に鳴った。


 スマホを開き、その結果に目を通す。


「……マジかよ」


 画面を見て、俺は思わず小さく呟いていた。



 ーーーーー

 合同特別試験の結果(2学年の部)


 総合得点ランキング

 1位 Eクラス

 2位 Sクラス

 3位 Dクラス

 4位 Cクラス

 5位 Aクラス

 6位 Bクラス


 ーーーーー


 Eクラス……内海のクラスが1位?


 どうしたら、こんな結果に…?


 いや、疑問に思ったところで結果は変わらない。


 今頃、この結果を見て内海が不敵な笑みを浮かべているのが目に浮かぶ。


「とんだ番狂わせになったわね…」


 険しい表情で口にする、成瀬の呟きが耳に届いた。


 彼女にしてみても、盲点だったはずだ。


 いや、この特別試験に挑むクラスは、Eクラスに脅威を感じなかったはずだ。


「内海のやったことは、シンプルだよね」


 後ろの席の恵美が、全てを見透かしたように呟く。


「私みたいな、目を付けた他のクラスの人間をトレードした。このクラスで声をかけたのは、私の他に居たのかは知らないけど……」


 クラスメイトのトレード戦略。


 各クラスから、有力な生徒を自分のクラスメイトと交換することで利益を得る。


 言うは簡単だけど、それをいざ行うとなると難しい部分が多い。


 交換する生徒同士での取引や、そのための能力点の管理、その全てを水面下で行わなければならない。


 それも各クラスのリーダーたちに、気づかれることなく。


 そんなことを、内海1人で?


 とてもじゃないが、そんなイメージは想像できない。


「椿くん」


 考えを巡らせていると、声をかけられて顔を上げる。


「真央…?どうした?何か、相談事か?」


 今回の試験の反省点でも、洗いだそうとしているのか。


 だとしたら、成瀬と一緒にやってほしいもんだけどな。


「いいえ。久しぶりに、話をしたいなと思いまして……2人だけで」


 そういう真央の目からは、只事(ただごと)じゃない何かを感じた。


 態度としては、いつもと変わらない物腰柔らかな感じだ。


 だけど、いつもとは違う……。


 そういうものに敏感になっているが故に、周りは俺たちが向かい合わせになっている光景に対して日常のワンシーンだと思っているだろうが、俺には確かに感じた。


 隠しきれていない、()()を。


「場所…変えるか?」


「そうですね。()()、クラスを混乱させたくありませんから」


 真央と共に移動した先は、いつかの体育祭の時に戦った場所だった。


 俺と真央は、ここでぶつかり合って、互いを認め合ったんだ。


「椿くん、僕は君に……本当に感謝しています」


 頭を下げてくる彼に、俺は何も言わなかった。


 多分、これからする話の前段階として、こいつなりにケジメを付けようとしているのだろう。


「この場所で君に敗けて、2つの道を示された時のことを今でも覚えています。鈴城さんの支配から抜けて、あのクラスに移動した選択は間違っていなかったと、今でも思います……」


「……だったら、良かったじゃねぇか。俺たちだって、おまえが居たからDクラスまで上がることができたんだ。おまえのおかげで、クラスのみんなはまとまって、成長している。こっちだって、おまえには感謝してるぜ」


 素直に気持ちを伝え、それがお世辞じゃないのは真央にも伝わっていることだろう。


 彼は俺の言葉に対して「ありがとうございます」と礼を言葉にする。


 そして、こちらから話を切り替える。


「だけど、そんな過去を振り返るために、わざわざこんな所に連れ出したわけじゃねぇんだろ?」


 真央にしてみれば、ここは示された道に対して、答えを出した場所でもある。


 元のクラスへの残留か、新しいクラスでの変革か。


 その2つの中で、後者を選んだことを示した場所だ。


 俺からの問いかけに、真央の表情から優し気な笑みが消える。


「そうですね…。僕に変わるきっかけをくれた君には、成瀬さんやクラスのみんなよりも先に、伝えなければいけないと思っていましたから」


 彼はスマホを取り出し、SASの画面を開いては俺に見せてくる。


 その画面には真央自身のプロフィールが映し出されており、そこにははっきりとこう記されていた。


 ーーーーー

 石上真央 学年:2 クラス:B 部活:生徒会


 ステータス

 学力:S

 運動:B

 対人関係:S

 思考力:B

 洞察力:A

 統率力:B


 ーーーーー


「今回の試験で、E()()()()は生徒のトレードで得たものと上位に10%に入った得点を加算して、大量の能力点を得ることができました。それによって、クラス順位は変動する……僕の新しい居場所は、一気にBクラスまで昇格したんですよ」


 Eクラスは内海のクラスだ。


 そして、それによって俺の中の違和感が解消された。


「おまえ……いつから?」


「……2週間ぐらい前ですかね。僕の所属は、その頃からEクラスに移っていました。牧村先生にも、その旨は伝えてあります。その上で、Dクラスに席を残していました。その分、能力点は引かれてしまいましたが」


 それは1年生の仮面舞踏会の時に、俺が取った手段と同じだった。


 まさか、真央も同じ方法で出し抜いてくるとは思わなかったけどな。


「聞くだけ無駄だと思うけど……。どうして、そんなことを?」


「お恥ずかしい話ですが、君の驚く顔が見たかったんです。……内海くんから、クラス移動の誘いを受けた時は、最初は断りました。だけど、図星を突かれて、僕の中の欲望を抑えられなくなったんです」


 真央は俺と目を合わせては、ギラギラした闘志を向けてくる。


「あなたともう1度、戦いたい…‼彼はその願いを、見透かしていた。そのためには、同じクラスじゃダメなんです。そして、同じく君に対して闘志を抱く存在が居ることが、僕の背中を押してくれた」

 

 俺への対抗心が、真央をもう1度突き動かした。


 いや、元からあった望みを果たすために、段取りを早めただけか。


 真央は前から、俺を目標に、俺と戦いたいと言っていた。


 そのための力を付けるために、Dクラスに移動したんだ。


 そして、機が熟したというように、内海が真央に声をかけて、その勧誘に乗っただけ。


「内海の勧誘を受けて、トレードの戦略に加担していたのもおまえか?」


「その通りです。内海くん1人では、トレードに応じる人も少なかったので。意外と僕も彼のクラスに移動するって話したら、一緒に来ると言ってくれる人が多くて……。これでも、僕にはクラスを越えて人望があったみたいです」


 元々、素行の悪かった内海の誘いを受ける者など、命知らずも程がある。


 それでも、生徒会に所属している者が内海のクラスに入るというのなら、信頼できるかもしれない。


 そんな考えを植え付けるには、真央がこれまで行ってきた振る舞いが効果を発揮したと言えるかもしれない。


 それほどまでに、石上真央という男が引きつける人望は大きかったってことらしい。


「これから、あのクラスには多くの猛者(もさ)が集まることになります。今まで、鈴城さんや柘榴くん、成瀬さんといった強者の影に埋もれていた者たちが、その存在を示すために躍動(やくどう)することでしょう。今の体制を、壊すために」


「破壊者たちの中に、おまえも入るんだろ?俺を倒すために」


 内海が集めていた者たちが、どういう素質を持った者たちなのかはまだわからない。


 それでも、1つだけ確かなことがある。


 そいつらは、内海が強者と認めた存在だ。


 そして、これまでの前提を崩すことを望む破壊者となる。


「椿円華くん……」


 真央は拳を握っては、ドンっと力強く俺の胸の中心に押し当てた。


「僕はこれから、君の敵です」


 視線を合わせ、俺と敵対することを選んだ真央の覚悟が伝わってくる。


「わかった。だけど、真央……それがおまえの答えなら、俺の言うこともわかってるだろ?」


 押し当ててきた拳の手首を掴み、グッと力を込める。


「俺の邪魔をするなら、容赦なくぶっ倒す…‼」


 俺の目も仲間に向けるものから、敵対者に向ける冷たいものに変わる。


「不思議ですね。前の僕なら、その目を向けられたら怯んでいました」


 そう言って、愉快そうな笑みを浮かべる。


「だけど、今の僕にとっては、これからの戦いへの高ぶりに変わっている…‼早く、あなたと戦いたい」


 これが、半年間同じクラスだった男の成長と捉えるのに、複雑な想いがある。


 真央の話から、内海のクラスがBクラスに昇格するということは、そこから下のクラスは1つずつ降格することを意味する。


 俺たちのクラスは、また最底辺のEクラスからの再スタートになる。


 おまけに、今まで戦力となっていた真央を失うことになることにも、動揺が走るだろう。


 ここまでくれば、あのクラスから怒りや憎しみを向けられることを受け入れた上で、真央はそれでも強者と戦う道を選んだんだ。


 これは石上真央という、強者としての目覚めなのかもしれない。


 俺たちはかつての誓いの場を後にし、互いに背中を向けて別々の道に歩み出した。


 そして、今日この日、各クラスにおいて大幅なクラスメイトのトレードが実施された。


 現S~Dクラスの中から、今まで群れの中に隠れていた強者がEクラスに集まっていく。


 これから、内海のクラスは全てのクラスにおいて、目を離すことができない存在となることを予感した。

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