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惹かれ合う根源

 俺たちの奥義を防いだ亀は、内海の隣に移動して控えている。


「こいつのこと、気になるか?玄武って言うんだ。俺がこの前、服従させた」


 そう言って、奴は玄武の甲羅を2回ほど叩いて紹介してくる。


「いや……気になるのは、そこだけじゃねぇよ。おまえのそれは……魔鎧装…か?」


 最初の候補に魔鎧装が浮かんだのは、もはや直感だった。


 ポーカーズや鈴城たちとの戦いの経験から、そのオーラの特徴が異なるのは何となくわかる。


 その経験から、内海のまとっているそれは魔鎧装だと判断した。


「この鎧は鬼牙オーガ。始まりの鬼帝きていって呼ばれてるらしいぜ?まぁ、そんなこまけぇことは気にすんなよ」


 水色の鬼人からは、翡翠色ひすいいろのオーラが展開され、その目は紅に輝いている。


「今日は挨拶に来てやったんだよ。俺のこの新しい力を、おまえに見せるためになぁ…‼」


 暴れたい。


 力を見せつけたい。


 その欲望を口にする内海。


「どいつも、こいつも……クックック…‼椿円華……その男ばかりを見て、執着する…‼」


 名無しは、先程までの余裕はどこに行ったのか、突然スイッチが入ったかのように全身を震わせている。


 人を食ったような態度から、感情が見え始める。


「内海景虎ぁ‼おまえもそうだぁ‼生まれに恵まれただけの無能の分際で、僕を無視するんじゃなぁい‼」


 何言ってんだ、こいつ…?


 内海の素性を知っているのか?


 しかし、呼ばれた本人は名無しの方を見るなり、首を傾ける。


「あ?誰だ、おまえ?お呼びじゃねぇ、失せろ」


 俺にしか興味が無いというように、左手を数回前後に振っては退散を命じる始末だ。


 その態度が、名無しの感情をさらに引き出す。


「椿円華と言い……おまえと言い……根源という力を持っているだけで、調子に乗ってんじゃないよぉ‼」


 待て……今、何て言った?


 こいつの一言に、内海と俺はマスク越しに目が合ったような気がした。


 そして、こっちの疑念に応えるように、あいつは呟いた。


「俺たちは、同類…らしいぜ?」


「……おまえも、なのかよ」


 根源を持つ存在が、この場で2人そろっている。


 そして、もう1人の根源者に対して、浮かんだ言葉はもう1つあった。


 破滅の継承者。


 それが内海景虎なのだとしたら……。


 俺たちが惹かれ合うのは、根源を持つ者としての宿命だったのかもしれない。


「おまえたちの存在は、邪魔でしかない…‼おまえたちが居なくなれば、あの人は僕だけを見てくれる…‼そのためにぃ―――」


「ごちゃごちゃうるせぇ」


 感情任せに喋ることに夢中で、内海の移動に気づいていなかったようだ。


 背後に回った内海は、その籠手をまとった裏拳で名無しの頭部を払った。


「がぶげっ‼」


 無防備な状態でのクリーンヒットに、受け身を取るまでもなく地面に倒れる。


「お呼びじゃねぇって言ってんだろ?見逃してやるって言ってんだから、さっさと失せろよ」


 名無しに対して無関心な姿勢を貫き、淡々と口にする内海。


 今、いつの間にあいつの背後に回ったんだ…?


 よく見れば、奴の鎧からはジジジっと稲妻が発生しているのがわかる。


 そして、先程まで居た玄武から、別のものに変わっている。


 それは白い虎だった。


 虎もまた、その身体から稲妻を放電させている。


 一瞬の出来事で、何が起きているのかが見当も付かない。


 さっきの玄武の防御力と言い、今の瞬間移動と言い、内海の手に入れた力からは以前には無かった脅威を感じる。


 これが、あいつの言っていた新しい力なのか。


「調子に乗るなよ、力に振り回されているだけの雑魚がぁ‼」


 名無しは負の感情に飲まれ、黄金の槍を振り回して内海に向けている。


 臨戦態勢を継続していることで、流石のあいつも腰を少し屈めて拳を握る。


「俺と椿の邪魔をするなら、先におまえから潰すだけだ…‼」


 鬼牙の鎧に嵌めこまれたクリスタルが翡翠(ひすい)色に輝いては力を増幅させている。


「串刺しにしてやるよぉ‼」


 黄金の槍を振り回し、乱れきを繰り出す。


 それは稲妻を帯びている影響か、突きの速度は段階的に上がっていく。


 シュッシュッシュッシュッシュッ‼


 その動きに、内海は回避しながらも肩や脇腹などの鎧をかすめる。


「へぇ~?少しはやるようだな」


 受けるダメージは軽傷なのか、余裕な態度を崩さない。


「どうした?興味も無かった僕に追い詰められているぞ?少しは僕を侮ったことを、後悔し始めてるんじゃないのかぁ!?」


「……追い詰める?誰が?……誰をぉ!?」


 グサッ‼


 名無しが黄金の槍を腹部に突き刺そうとした時、その刃を内海は直撃する前に掴んでらえた。


「その速さ……もう()()()ぜ?」


 攻防にして、1分ほどの時間しか経過していない。


 にもかかわらず、内海は名無しの…オーディンの槍を雷速の槍を捕らえたんだ。


 その事実は、名無しから慢心を奪った。


 そして、奴は内海から離れては槍の先に稲妻を集中させる。


「速さに慣れた…だって?だったら、この技も見切れるんだろうねぇ!?」


 それは俺との戦闘の時にも放った、オーディンの奥義。


「グングニル・マキシマイズ‼」


 突きの体勢から雷撃を放てば、それが内海に迫る。


「これは必中の一撃だぁ‼苦しみもだえるがいい‼」


 必ず当たるとうたわれる雷撃の槍に、奴は身動き1つせずに立ちつくしたまま回避行動も、防御体制に入ることもない。


「それが、おまえの全力か?だったら、それをぶっ壊してやるよ…‼」


 真正面から対抗する意志を見せ、「白虎びゃっこ‼」と名前を呼べば、白い虎は身体を放電させながら内海に迫り、形状が変わって奴の両足に装着される。


白虎装甲びゃっこそうこう―――」


 鉤爪かぎづめの着いた具足から、稲妻が放電されては雷撃の槍が直撃する瞬間に右足を振り上げて衝突した。


閃牙せんが‼」


 右足の具足からは、白虎が黄色のオーラで具現化してはグングニルと拮抗する。


「うぉおおおおおお‼‼」


 ズバァ――――――ンっ‼


 そして、内海が雄叫びをあげて力を込めれば、雷撃の槍は弾かれては名無しの顔を横切った。


「マジかよ……」


 俺は思わず、今の光景に対してそんな言葉を呟いていた。


 あの強力な雷撃の槍を、蹴り一発で弾きやがった。


 奥義を放った本人である名無しも、「バカな…‼」と虚を突かれていた。


「……ちっ、顔面狙ったつもりだったんだけどなぁ。力を入れ過ぎたか」


 今の一撃だけで、わかったことは1つ。


 オーディンの力を使おうとも、名無しは内海には勝てない。


 その事実に、今の一連の流れで嫌でも差を思い知らされたことだろう。


 奴は「くっ‼」と声を漏らしながら変身を解いては、白い霧が濃くなっては姿を暗ませる。


「おまえ…逃げるのか!?」


「勘違いするな‼おまえたちなど、あの人の気まぐれで泳がされているに過ぎない‼今度こそ、地獄を見せてやる‼」


 捨て台詞を吐き捨てては、霧と共に名無しの姿が消えていた。


 再起不能となった、ビーストと共に。


 名無しが消えれば、俺も変身時間が限界を迎えてはヴァナルガンドの鎧が解除されてしまった。


「はぁ…はぁ……。大事な試験前だって言うのに、要らねぇ準備運動させやがって…‼」


 白華を杖にしながら、身体を支える。


「あぁ?もうへばったのかよ、情けねぇな……」


 内海も名無しが消え、俺が変身を解除すれば鬼牙を解除した。


「内海」


 あいつに弱っている所を見せるわけにはいかず、身体に鞭を打って背筋を伸ばす。


「おまえ……とんでもねぇ力を手に入れたようだな」


 この一言と鋭い目付きに、内海は満足げな戦士の笑みを浮かべる。


「全ては、おまえをぶっ倒すためだ。今日のところは、これで終わらせてやるよ。次はお互いに、万全の状態で……やろうぜ」


 奴は両手をポケットに突っ込んだ状態で、顎を引きながら俺を見ては戦うことを望んできた。


 いつもなら、こういう手合いからの闘志には、正直言ってノーサンキューだと突っぱねる。


 だけど、今回ばかりは事情が異なる。


 たった今、鬼牙の力を目にして、俺自身にも久しぶりに覚える闘志があった。


 この力を手に入れた内海景虎と、本気で戦いたい。


 胸の内で、そう本能が訴えかけてくる。


「無意味な戦いはしねぇ…。だけど、今のおまえとは白黒はっきりつけなきゃいけないと思ってる。遠くない未来に、ぶつかり合うかもな」


 俺の返答に満足したのか、内海は背中を向けて歩き出した。


「だったら、今回の試験でヘマすんじゃねぇぞ?おまえを潰すのは、この俺以外は認めねぇ」


「その言葉、そっくりそのまま返してやる」


 内海は俺に挑戦するために、これまでにない力を手に入れた。


 その力を間近で見て、俺の中で芽生える感情があった。


 『こいつには、敗けるわけにはいかない』と。


 今わかった範囲でも、玄武に白虎という獣を飼いならしているのがわかる。


 その戦闘スタイルは、俺とは真逆だ。


 俺はヴァナルガンドの能力で身体能力を強化しつつ、自らの技を主軸とした戦い方をする。


 しかし、鬼牙という魔鎧装の特徴は、使役した獣の能力を活用した戦い方が主軸となるのだろう。


 そして、今の2つの獣から連想する存在がある。


 四聖獣しせいじゅうだ。


 中国神話に出てくる、俺でも知っている伝説上の生物。


 その2つを使役しているということは、少なくとも他に2つの聖獣が居ても不思議じゃない。


 そして、今見た玄武や白虎と同等の力を持っていることが窺える。


 手数の多さで言えば、内海の方にがあると見て間違いない。


 奴の背中を見送りながら、俺の中で確かな闘志が湧いた。


「ああぁ~~~っ……ぶっ潰してぇ…‼」


 蒼紅の瞳から、オーラを放ちながら、必ず倒すと決めた男の背中を見る。


 ここまで、対抗心と言うものを抱いたのはいつぶりだろうか。


 負けたくない。


 潰したい。


 徹底的に。


 この感情を抱いた時に、俺は自覚した。


 俺の中の根源と、内海に宿る根源が惹かれ合っている。


 俺がそう思うように、あいつもそう思っているのだと。


 2つの根源は惹かれ合い、衝突する運命。


 だったら、受けてたってやるよ…‼


 ビーストの襲撃や名無しとの戦闘、内海の乱入が終わり、胸の高鳴りを感じながらも俺は校舎に向かった。


 そして、一般の学生たちと変わらず、特別試験に臨んだんだ。

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