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一泡吹かす

 泡爆弾の壁には、身体1つ通す隙間もなく、今も蟹のビーストの口からは泡が生成され続けている。


「おまえ、そんな危険なものをまき散らしてさ……。最悪の場合、この地下街が倒壊するぜ?」


【オマエヲ殺シサエスレバ、ソレデ良イ‼ココガドウナロウト、知ッタコトカァ‼】


 もう、全てにおいて理性が働いてないみたいだな。


 だったら、本気で再起不能になってもらうか。


 マルコシアスモードの氷翼に着いたブースターを展開し、飛翔(ひしょう)してはビーストの周りを旋回(せんかい)する。


【空ガ飛ベルカラッテ、何ダッテ言ウンダ!?俺ニ近ヅクノハ不可能ダァ‼】


 向こうは俺が空から攻めてくると思っているらしい。


 攻撃のために、隙間を捜しているわけじゃない。


 だけど、勝手に勘違いしてくれるなら好都合だ。


 ビーストはこの泡爆弾を、自身の身を護るための壁であり、俺を追いつめるための武器だと思っていることだろう。


 攻防一体の戦法で、時間の経過と共に増大し、膨張する泡爆弾で俺を殺せると思っているはずだ。


 それでも、奴ができることはこれを増やし、膨らませることだけだ。


 操作で来ているわけじゃない。


 俺が付け入る隙は、そこにある。


 ブースターを加速させ、ビーストの周りを旋回し続ければ、泡爆弾は全方位からの風圧によって密集し、融合し、膨張する。


 それが全方位から本体に集まっていけば、その終着点は―――。


 ブバァ―――――――ンっ‼バンッバンッバンッバンッバァ―――ンっ‼


【アガッ‼ガグッ‼グエっ‼ブファアガァアア‼】


 接触するのはビースト自身。


 連続する泡爆弾の破裂。


 それによって生じる衝撃波。


 それによって、他の泡爆弾に接触することによる破裂の連鎖。


 連鎖は1分ほど留まることを知らず、終息した頃には泡爆弾は全て消失した。


『ブバッ…ベボボボッ…』


 衝撃波の連鎖により、意気消沈して立ち尽くしている。


 刃が通らないなら、自分の能力で自滅してもらう。


 甲羅は固くても、その内部は案外(もろ)いもんだ。


 そして、泡爆弾が消えて棒立ちの標的なんて、脅威じゃない。


 飛翔状態を維持していたのは、この時のためだ。


 氷翼と両足のブースターの炎圧を上昇させ、急降下すると同時に左足を突き出してビーストに向かって行く。


「メテオフォール・ストライク‼」


 技はビーストに直撃し、そのまま地面にめり込む。


【ブガハァアアアアアアっ‼】


 奴は俺の宣言通り、口から泡を吹きながら意識を失った。


「はぁ…はぁ……。何気(なにげ)に手こずっちまったな」


 再起不能になったビースト。


 しかし、その姿は変わらない。


 俺の魔鎧装や、ポーカーズたちの魔装具だったら、その変身は解除されて人間の姿に戻るだけだ。


 人からビーストに変化した場合、もう戻ることはできないってことか。


 このまま、放置するわけにもいかないわけだが……俺もずっと、ここに居るわけにもいかない。


 さて、どうしたものか……。


 少し悩みそうになった時、視界が白くぼやけるような感覚があった。


 そして、それがいつかの白い霧であることに気づいた時――――。


 パンッパンッパンッパンッ。


 拍手と共に、コツンっコツンっと靴音が響く。


 まさか、この状況を作り出したのは……。


「前はキングの気まぐれに助けられたみたいだけど、今回は自力で勝てたみたいだね。少しはその力、使いこなせるようになったようだ」


 その声に聞き覚えがあり、俺はヴァナルガンドの変身を解かずに警戒心を向ける。


「おまえはっ…‼」


 姿を現したのは、白い名無しの仮面を着けた、中性的な体つきをしている人間だ。


 クイーンを倒した時に、七天美を回収した奴だ。


「この前の生徒会長選挙の日以来だね。こうして、直接会うのは」


 霧に覆われた街の中で、いつかの存在が姿を現した。


 そして、その手に握られている者を見て、俺はマスクの下で目を見開いた。


「どうして……おまえが、それを持っているんだ…!?それは―――」


「お察しの通り、これはオーディンの槍だよ」


 黄金の短い槍剣そうけんを手にしていて、その先端をカツンっと地面に着けて存在を主張する。


 それはいつか見た、岸野先生が持っていた物だった。


「それはっ……先生のものだったはずだ…‼」


「裏切り者から、組織の所有物を回収した。それだけの話だよ」


 平然と口にする言葉に、俺は左手に拳を握って震わせる。


「先生は……どうした?」


 ここに来て、以前の疑念がぶり返す。


 牧野乱菊は、岸野先生は死んだと言っていた。


 ヴォルフ・スカルテットは、彼は行方不明だと言っていた。


 そして、目の前に先生の持っていた魔鎧装を手に持つ存在が居る。


 俺からの問いかけに、名無しはフッとマスクの下で笑う。


「魔鎧装を使う条件……知ってるかい?」


「質問に答えろよ、先生はどこだ!?」


 奴の話など聞く気はなく、俺は左手で空気を薙いで追及する。


 しかし、向こうもそんなことは気にせずに自分の話を続ける。


「魔鎧装は1人に1つ。それも適合した人間にしか装着することはできない。もし仮に、別の人間が魔鎧装をまとうことができたのならば、それは……」


 黄金の槍からは稲妻が放たれ、それによって名無しの身体が覆われる。


「以前の適合者が装着する資格を失ったか、もしくは……死んだか、だよね?」


 そう言うと同時に、奴はコードを唱えた。


「全てを記せ、オーディン」


 左目を手で覆い、払うような動作をすれば翼のようなマスクを着けては全身に黄金の鎧をまとっては、紫のラインが刻まれていく。


 紫のマントを左の肩からはためかせ、右手に柄の短い槍剣そうけんたずさえる。


 クイーンとの戦いで暴走した俺を止めた、あの時の先生の姿のまま、目の前に立っている。


「これが答えなわけだけど……君はどっちだと思う?」


 茶化すように問いかける名無しに、俺は怒りに飲まれそうになっていた。


 それと同時に、狼の鎧から紅のオーラを放つ。


「どっちにしても、おまえを倒して取り返すって結論に変わりはねぇんだよ‼」


 感情に飲まれ、白華を構える。


『相棒、一応言っておくぞ?俺様の力を使えるのは、残り3分が限界だ。それまでに決着がつかなければ……』


「その前に離脱する。わかってるっての。怒りはあるけど、頭は逆に冷静だぜ…‼」


 激情に飲まれるような怒りじゃない。


 どこまでも冷たくなるような、静かな怒り。


 それによって、頭が研ぎ澄まされていく。


 マルコシアスからヴァナルガンドにモードを変え、剣術主体のスタイルにする。


覇気はきが全然違う…」


 感情に飲まれていないからこそ、視えるものがある。


 目の前に立っているのは、いつか俺を救ってくれたオーディンの魔鎧装。


 しかし、同一人物じゃない。


 だからこそ―――。


 一歩踏み込んでは跳躍ちょうやくし、両手で柄を握っては降下と共に氷刃に重力を乗せた状態で振り下ろす。


 カキーンっ‼


 当然、それは槍剣そうけんで止められる。


 しかし、それで終わりじゃない。


「脇があめぇんだよ」


 止められて着地した時には、すぐに下段構えから振り上げる。


燕返つばめがえし‼」


「何っ―――がぐっ‼」


 下から迫る刃には反応が遅れ、もろに直撃しては後方に下がる名無し。


「今の一撃……先生だったら、絶対に当たらなかった。言うまでもねぇことかもしれねぇけどさ……」


 構えを解いては、左手の人差し指で奴を指さす。


「おまえよりも、岸野先生の方が強かった。同じ魔鎧装を使っていても、俺の敵じゃねぇよ」


 ヴァナルガンドの態度が、物語っていたのかもしれない。


 こいつは、俺が名無しと戦うことに対して『止めろ』とは言わなかった。


 キングに挑む時は、あんなに口出ししてきたくせに。


 俺がヴァナルガンドの力を、前よりも扱えるようになってきたことも要因だろうけど、今の一連の攻防でわかった。


 戦闘において、名無しは俺の脅威足りえない。


 氷刃が直撃した顎を押さながら、名無しは肩を震わせる。


「随分と言ってくれるね……。その程度の力で、僕に勝てると思っているなら滑稽こっけいだよ」


「出し惜しみしてるってか?戦場……特に殺し合いの場では、出し惜しみなんてしてたら秒で首を斬られて終わりだぜ」


 そもそも、殺し合いの場では、敵の全力なんて()()()()()戦法を取る方が普通だ。


 少年漫画のバトルジャンキーみたいな奴なんて、早々居ねぇよ。


 名無しは両手で柄を握っては槍の先端を向け、臨戦態勢を取っては稲妻を放出する。


「ここからは、全力でいかせてもらうよ」


「そう言う奴ほど、言ってる全力が言うほどでもねぇんだよな」


 人狼の騎士と黄金の槍使いが向かい合い、紅と黄金のオーラがぶつかり合う。


 槍剣の柄を伸ばし、黄金と紫のオーラを刃先に集中させ、螺旋状に入り混じる。


「グングニル・マキシマイズ‼」


 槍の刃先から螺旋状の光線が放たれた。


「そうなったら、こっちもとっておきを出してやるよ‼」


 ずっと閉じていた右目を開き、蒼紅の瞳でオーディンを捉える。


『ここで出すのかよ。おまえ、意外と燃えてんな?』


 おまえも好きだろ?暴れさせてやる。


 相棒が『はんっ』と笑ったのを確認し、刃を鞘に戻してはオーラを集中させ、抜刀して頭上に振り上げる。


『「共鳴技…」』


 俺とヴァナルガンドの思考を同調させた上で、刃を振り下ろす。


『「人狼之輝刃(じんろうのきば)ぁー‼」』


 氷刃から放たれた紅の狼が『ワォオオオオオオオ‼』と咆哮をあげ、螺旋状の光線に迫る。


 そして、黄金の槍と狼が衝突しようとした瞬間――――。


『ブォオオオオオ‼』


 突如として、俺たちの間に現れる存在があった。


 それは獣だ。


 巨大な亀が咆哮と共に地面から出現し、その場で回転しては狼と光線が弾かれる。


『何!?』


 流石のヴァナルガンドも、突如として真下から現れた亀には反応できずに突き飛ばされては、踏ん張ることもできずに粒子となって散った。


 そして、向こうの技も相殺されたことで、名無しは怪訝な態度を取る。


「何故、奴がここに……。いや、ここに()()が居るということは…‼」


 何かを察したように、周りを見ている。


 そして、その探し人はすぐに現れた。


「俺の居ねぇところで、楽しそうなことしてんじゃねぇよ」


 ガツンっガツンっと金属音を鳴らしながら、近づいてくる鎧の装着者が1人。


 鬼人を模した、水色の悪魔。


 四肢や両肩、背中に翡翠ひすいの宝玉が埋められ、胸部の中心には五芒星が浮かび上がっている。


 そして、そいつは俺の方を見ては顎を引いて名を呼んできた。


「なぁ、椿?」


 その声で、目の前に居る悪魔が誰なのかはわかってしまった。


「おまえ……内海か!?」


 俺に当てられたのが嬉しいのか、奴は「当たり」と陽気に返してきた。


「一泡吹かせてやる気でいたが……成功したみたいだな」


 最悪なタイミングで、最悪な奴が現れた。


 この時にはもう、ヴァナルガンドの装着時間は残り1分になっていた。

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