表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
459/497

ペア戦開始

 空雅side



 遂に合同特別試験の当日を迎えた。


 試験は午前から始まり、筆記試験の後に実技試験を実施して終了する。


 筆記試験は制限時間は1時間。


 全50問で国語、数学、英語、社会、理科の問題が出題される。


 そして、その後に行われる実技試験では50メートル走、ソフトボール投げ、握力、立ち幅跳び、持久走、上体起こし、長座体前屈と目白押しだ。


 全体として、2時間半で終了することになる。


 最初の筆記試験も、あと15分で始まる。


 き、緊張してきたぁ~‼


 椿先輩との特訓で、勉強もわかるようになってきたけど、それが自信に繋がっているかと言われたら微妙だ。


 ここで僕が低い点数を取ったら、先輩の足を引っ張ることになる。


 この試験で結果を残すのが、僕の先輩への恩返しだ。


 それを果たせずに、このまま先輩と別れる……最悪の場合は、この学園から去るわけにはいかない。


 周りのクラスメイトたちも、緊張感からか険しい顔付きになっている。


 僕たち1年生にとっては、この学園に入って最初の特別試験だ。


 この中で、誰かが消える可能性もあるわけで……。


 って、今の僕に他の人のことを心配している余裕はない。


 自分のことに集中しないと。


 試験10分前になり、九条先生が教室に入ってくる。


「みなさん、机の上は筆記用具だけにしてください。今から、問題と解答用紙を配ります」


 遂に最初の決戦の時が訪れる。


 僕らにとっては、初めての特別試験になる。


 最悪の場合は退学を迫られるという緊張感から、手が少しだけ震えている。


 そんな僕の心など知る由もなく、前の席から問題用紙と解答用紙が回ってくる。


 周りに気づかれないように、フゥーと息を吐いた。


 緊張した時の対処法……。


 椿先輩が、昨日教えてくれた。


 手が震える、緊張するという身体の反応は呼吸が浅くなっていることから生じる反応。


 頭に酸素が回らず、体内に二酸化炭素が溜まっているということ。


 無意識に腰が曲がっているから、背筋を伸ばして大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。


 すると、自然と少しだけ緊張感が和らいでいく。


 凄い、椿先輩のアドバイス通りだ。


 教室に設置されている時計を見れば、残り1分を切っていた。


 やれることはやった。


 あとは、それを実践で活かせるかどうか。


 こんなところで、退学するわけにはいかない。


 改めて、自分の覚悟を固めた時、九条先生が開始の合図をした。


「それでは、初めてください」


 パラっ、パラパラっ。


 全員、一斉に問題用紙を(めく)っては解答用紙の上にペンを走らせる。


 内容としては、5教科の中から僕でもわかる簡単な問題から、思考力・応用力が必要となる問題まで様々だ。


 最後の方の計算問題は、僕には全くわからない問題だ。


 それでも、全てが解答できないわけじゃない。


 それどころか、僕は「嘘だろ…」と小声で呟いてしまった。


 椿先輩と先日、予想問題を解いていた。


 先輩からは、秘密のルートを使って手に入れたものだと聞いていたけど、まさかその問題の大半が出題されるなんて…‼


 先輩、あなたは一体どんな方法を使ったって言うんですか!?


 自分の分かる範囲で解答用紙を埋めれば、5分の4は埋めることができた。


 カンニングと思われないように、さりげなく周りを一瞥いちべつすれば、頭を抱えている人や、問題用紙を見つめたままペンが止まっている人、強い目力で解答用紙を睨みつけながら解いている人も居る。


「真咲くん、不用意に顔を大きく動かさないでください。カンニング行為と見なしますよ?」


「っ‼す、すいませんっ」


 九条先生から注意され、すぐに机の上に視線を戻す。


 あ、危なかったぁ~‼


 一発アウトで退室になるかと思ったぁ~‼


 フウゥーと改めて大きく息を吐き、呼吸を整える。


 ここに来て、少しだけ頭が冷静になってきた。


 そうか、この試験において、みんなの立場は平等なんだ。


 僕だけじゃない。


 みんな、必死なんだ。


 ずっと、僕は自分が最底辺だと思っていた。


 だけど、余裕がある人なんて居るはずもなかった。


 ここに居るクラスメイト……いや、他のクラスの人だって、ここで退学する可能性があるんだ。


 条件は皆、同じだ。


 僕は椿先輩と特訓して、必死に喰らいついた。


 その結果が今、目の前の現実に繋がっている。


 僕はまだ、恵まれている方だったんだ。


 その後、時間は人間の感情・必至さ・焦りを無視して無情にも経過していき、筆記試験は終了した。


 そして、休憩時間の後、実技試験に移ることになった。


 ーーーーー

 円華side




 1年生の試験が終了し、今頃簡単な終礼が始まってる頃合い。


 そして、これから昼休憩を経て、2年生の特別試験が始まる。


 真咲からは、向こうが終了してからすぐにメールが来た。


『先輩のおかげで、全力が出せたように思います。ありがとうございました。先輩も、試験頑張ってください』


 律儀な奴だ。


 この文面からして、大きな失敗はしていないようだな。


 真咲の性格からして、失敗したら負い目を感じて連絡なんてしてこないだろうし。


 そうなったら、あとは俺も自分の力でこの試験を乗り越えるだけだ。


 そう思ってアパートを出て、地下街から地上へのエレベーターに向かう道中のことだった。


 いつも通りの登校。


 違うのは朝か昼かという時間だけ。


 そして、街中で人通りがほぼ無いということだけ。


 横切るのは、制服を着た学生たちのみ。


 それに気づいた時、俺は違和感を覚えて足を止めた。


「……おかしいよな」


 誰にともなく、そう呟いた。


「3年生なら、まだ登校するには早すぎるんじゃねぇの?」


 後ろを振り返って問いかける言い方をすれば、背後から男が上段から鉄棒を振り下ろしたのが見えては咄嗟に横に回避すると同時に、肩に担いでいた竹刀袋しないぶくろで弾く。


「あっ…ぶねぇなっ…‼」


 こういう襲撃を想定して、いつも白華を携帯しているわけだ。


 弾かれた鉄棒は宙を舞い、地面に落ちてはカランカランっと音を鳴らす。


「椿っ…円華ぁ…‼」


 口からよだれを垂らし、目を見開いては血管が見えている。


 完全に理性を失っている奴の状態だ。


「俺とあんたは初対面だよな…。それなのに、そんな殺意マシマシで睨みつけられる言われはねぇぞ?それとも、また肉親を俺に殺されたって理由か?」


 いつかの柘榴のことを思い出し、推測を口に出してみるが反応は返って来ない。


『相棒、面白くもねぇ冗談を言ってる場合じゃねぇぞ?そいつはもう、普通じゃねぇ』


 ヴァナルガンドが語り掛けてきては、警告してくる。


 こいつが出しゃばってくるってことは、もうそう言う案件になるのは確定しているわけだ。


 そして、あいつの警告通り、奴はポケットから黒い卵を取り上げては振り上げる。


「おまえが居なくなれば……この試験は無かったことになるって、あの人は言ったんだ‼だから、俺のためにっ……おまえをおぉ‼」


 雄叫びをあげながら、バキバキバキッと卵を握り潰しては黒い霧が広がっては男の身体を隠すように覆う。


「新学期になって、何の動きも見せないと思ったら……当日に邪魔してくるなんて、性質たちが悪いぜ、全く…‼」


 竹刀袋から白華を取り出し、スマホを装着しては氷刃を生成して抜刀する。


 大方、相手は今回の試験に絶望し、精神的に極限状態になったのだろう。


 そして、そこに付け込まれた。


 その結果が、自分の身を滅ぼすことになるなど、考える余裕すら与えずに。


 向こうは霧を自ら振り払った後、その異形の姿を現した。


 今回は両手が巨大なハサミに変化し、赤く硬い外皮に覆われた(かに)のような姿になっている。


「蟹はそんなに好きじゃねぇんだけどな……。どっちかって言うと、海老(えび)の方が好物だぜ」


 軽口を叩きながら、俺は自身の親指を噛んで血を流し、氷の刀身に塗っては鞘に戻す。


「そっちが奥の手を早々に出したなら、こっちも出させてもらうぜ」


 スマホの『魔鎧装モード』をタップし、抜刀する。


「行くぜ、ヴァナルガンド…‼」

『はんっ、蟹みそ噴き出させてやるよぉ‼』


 刀身から紅の狼が放たれては、こっちに向かってくると同時に人狼の鎧へと姿を変え、右手に拳を握って突き出してくる。


 俺も左手に拳を握って突きだし、右手と左手の拳が重なれば鎧が弾けては全身に装着される。


『紅狼鎧ヴァナルガンド、装着完了』


 スマホから流れる音声と共に、周囲に覆われた凍気を紅に染まった氷刃を横に薙いで振り払う。


「先手必勝……」


 刃先を突き出すと同時に、一歩前に踏み込んで接近する。


「椿流剣術 瞬突しゅんとつ‼」


 一気に間合いに入るが、氷刃の先端はガキーンッ‼と音を立てて外皮によって弾かれた。


 こいつの甲羅、硬すぎるだろ!?


【効カネェヨ、ソンナノォ‼】


 右手のハサミを横に振り払われ、それを左手で受け止めるが踏ん張れずに、後退することになる。


【殺スゥ……絶対ニイィ‼】


 蟹の頭から泡が噴出され、それが宙に浮いては迫ってくる。


 動きはゆっくりだが、それでもこちらに近づくと同時に膨らんでいき、何かあると思わせる。


 安易に突っ込むのは、得策じゃねぇな。


 白華を逆手に持ち、振り上げて刀身から斬撃を飛ばす。


「椿流剣術 さざなみ‼」


 遠距離から放たれる斬撃は泡に直撃し、その瞬間―――。


 パボーンっ‼


 破裂しては衝撃波を発生させた。


 その余波は強風を生み、それによって一歩後ろに足を下がらされる。


 踏ん張れないほどの衝撃波。


 しかも泡に直撃し、破裂する仕組み。


 差し詰め、中威力の泡爆弾ってところか。


 あんなのに正面から突っ込んだら、蟹野郎に刃を届かせるのは不可能に近い。


 意外に厄介だぜ。


 俺はマスクの下で右目を閉じ、絶望の涙の能力を使う準備をする。


『あれをやる気か?』


 ヴァナルガンドは俺の思考を直感し、問いかけてくる。


 切り札として準備するだけだ。使わなくて良いなら、それに越したことはねぇよ。


『だったら、ちゃんと時間稼げよ?』


 わかってるっての、うるせぇな…‼


 使える戦法は限られる。


 今、この瞬間にも泡は放出されていて、奴に近づくのが難しくなっている。


 まずは泡掃除をするか。


 さっきとは違い、刀身の腹を向けた状態で白華を横に薙ぐ。


「椿流剣術 舞風‼」


 強風を起こし、泡の風向きを変えては前方を散らす。


【何…!?】


 泡は宙に浮いて、膨張してるだけ。


 風向きを変えてやれば、泡は散る。


 しかし、それによって泡同士が接触した瞬間、それは1つにまとまって2倍に膨れ上がる。


「っ、逆に巨大化するのかよ…。うぜぇな」


 ・・・いや、物は考えようか。


 風向き…膨張する泡爆弾…接触による破裂…。


 白華の刀身を鞘に戻し、スマホの『マルコシアスモード』をタップして抜刀する。


 両足にブースターが装着され、背中に氷翼を展開する。


「近づけないなら、近づかずに一泡吹かせてやるよ」


 俺はマスクの下で、不敵に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ