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ゲーマーの戦略

 戦場の舞台は、RVゲーム【スプラッシュサバイバー】内のゲーム世界。


 荒廃した世界に立つのは、私と相川恵令奈。


 そこで私は盾を右手に装備し、相手は鎖で繋がれた鉄球を持って臨戦態勢に入っている。


 互いにライフは残り『♡♡♡♡』。


「はぁあああ‼」


 雄叫びをあげ、鉄球を振り回しては縦横無尽に仕掛けてくる。


「そんな大振りな動きと、軌道が読める武器で当たると思ってるの?嘗めないでよね」


 その全ての動きを見切り、盾で受け流しながら距離を取る。


 相川は先程までと違い、鉄球を無暗に振り回すことはせずに様子を見てくる。


「その盾、本当に厄介だねー。でも、恵令奈のライフが減ったってことは、どう言うことかは先輩もわかってるんでしょー?」


 ライフが減るということは、トリガーカウンターが1つ増えると言うこと。


 状況としては、彼女の方が有利だと思う。


 それでも、スキルだけでこの戦いが決まるわけじゃない。


「だったら、さっさとトリガーバースト使えば良いんじゃない?無駄に鉄球振り回したって当たらないんだから」


「……」


 挑発してみるけど、相川は澄ました目でジッと見てくるだけでトリガーバーストを使う様子は無い。


 感情に振り回されて、無駄撃ちするようなバカじゃない…か。


 そこら辺が冷静だと、やりにくいなぁ。


「先輩とこの武器だと、相性が悪いみたいだねー。だったら……一時てったーい」


 間延びした声で、彼女は鉄球のバトルギアをバックルから抜いては、それをバキっと握りつぶしてから捨て、そのまま背中を向けて行ってしまう。


「えっ……嘘でしょ!?」


 ここで逃げるという選択に、きょを突かれた。


 無防備に背中を向ける彼女に、判断が迷う。


 追いかけるべきか、私も体制を整えるべきか。


 防御力はあっても、シールドでは決定打にはならない。


 トリガーバーストを使うにしても、ライフは1つしか削れない。


 早く他のバトルギアを見つけて、私も攻勢に回れるようにしないと勝てない。


 少なくとも、あと2つはバトルギアが欲しい。


「このまま尻尾を振る獲物を追いかけたら、思う壺だよね」


 ここは後者を選び、私はフィールドの探索に時間を割いた。


 そして、次に彼女と相対するのは、この15分後のことだった。



 ーーーーー



 ー15分後ー


『せんぱーい、聞こえてるー?』


 フィールド全体に、相川の声が響き渡る。


『中央の広間で、5分後に決着付けようよー』


 やることが姑息こそくだなぁ。


 この対戦がエキシビションマッチだってことを、利用してきたよ。


 エキシビションってことは、当然ながら私たちは見られていることになる。


 だったら、今の15分間は見てる側からしたら退屈な時間だったかもしれない。


 派手なアクションとかを求められて、ゲームの外ではブーイングの嵐になっていてもおかしくない。


 ここで相川の誘いに乗らなかったら、私は逃げたことになる。


 アッシュ・ベイルが、勝負から逃げたことを意味する。


 このご時世、そんな情報は頼んでなくても勝手に広がっていく。


 これから先、そのイメージが足枷あしかせになるかもしれない。


 それだけは、御免なんだよね。


 5分後、私は彼女の誘い通りに広間に向かった。


 相川は既に、自分が指定した場所の中央に立っていた。


 その姿は変わっており、桃色のミニスカートのボディースーツで2丁拳銃を持っている。


 拳銃の形状も独特であり、銃口が3つ開いている。


「逃げずに来たんだー?その度胸だけは認めてあげるよ」


「アッシュ・ベイルは勝負から逃げない。そして、売られた喧嘩は勝って終わらせる」


「じゃあ、先輩の歴史に刻んであげるよ。アッシュ・ベイルに、敗北を刻んだ女としてね!」


 ゲームは既に始まっている。


 相川は2丁拳銃を向けてきて、引き金を引いた。


 ダダダダダダダダダダッ‼


 銃口が回転し、火の弾丸が雨のように直線状に降った。


 何これっ…弾の数が現実離れ過ぎでしょ!?


 シールドのバトルギアをバックルに装着し、すぐに展開して防御に徹する。


 しかし、それによって向こうの武器の脅威がわかってしまった。


 カウンターシールドによって、火炎かえんを帯びた銃弾を防ぐが、それでもライフゲージが削られていく。


 シールドが、意味を成していない‼


「まさかの貫通ダメージ…!?」


 防ぎながらも、看板や建物の柱などの障害物を利用しながら移動する。


「ちょっと~、逃げないんじゃなかったのぉ~?これじゃあ、楽勝過ぎてつまんないんですけどぉ~?」


 明らかに、向こうのバトルギアの方がレアリティが上なのがわかる。


 ライフゲージは、もう【♡♡♡】まで減っている。


 シールドも無しにもろに攻撃を受けていたら、♡があと1つか2つ…最悪の場合は全て失っていた。


「さっきの15分間で、向こうを調子づかせちゃったね…。だったら、こっちも手札を見せるしかないか」


 最初は様子を見るつもりだったけど、出し惜しみしている余裕はない。


 カウンターシールドを外し、次に銃のグリップ型の大型バトルギアを取り出す。


 そして、バックルに装着すれば、その姿が光っては変化する。


「うわっ……やっぱり、こういう変化になるんだね」


 正直、製作者の趣味を疑うレベルの格好に変化している。


 バイザー付きのヘッドフォンを頭部に着用し、黒いアンダースーツ胸部や両肩、肘に白い装甲が備え付けられたパワードスーツ。


 右手には十字型の銃口をしているハンドガン。


 バトルギア:エクスマグナム。


 ゲーム側が推奨してきた、私に適したものだ。


 バイザー越しに、柱の陰から出て相川の位置を確認する。


「うわっ…すごっ」


 バイザーに映し出される情報に、目を見開いた。


 彼女との距離を数字で表したり、エクスマグナムを向ければターゲットスコープが映し出され、システムが狙撃すべきポイントを複数個所提示してくれる。


 正直、ゲームだけじゃなくて現実世界に欲しいくらいの性能をしている。


 確かに、私と合ってるかもね。


 特に驚いたシステムを実践するために、私は相川の前に出て銃口を向けた。


「あれ~、先輩のその格好……もしかしなくても、レアリティAのバトルギアだよねぇ~?持ってたなら、すぐに出せばよかったのにぃ~」


「手の内は簡単には明かさない。切り札は最後まで取っておくものだよ」


「じゃあ、切り札同士……たまで殴り合おうよ‼」


 彼女は変わらず、2丁拳銃型のガトリング砲を連射してくる。


 だけど、私は今度は逃げずに、両手を交差させながら前に走った。


 バイザー越しに見える世界は、火の弾の動きを分析しては回避、あるいは軽傷で済ませる確率が高い動きをビジョンとして推奨してくる。


 それに従い、私はビジョンをなぞるように移動し、相川に接近する。


 近づきながら、牽制するつもりで何度か彼女にエクスマグナムを向けて引き金を引く。


 こちらの弾は向こうをかすめる程度だったけど、こっちも不思議と被弾数は少なく、ライフゲージ【♡♡】の状態でこちらの射程距離内に入る。


「ちょっと、その動きはあり得ないでしょ!?」


「うん、自分でもそう思う」


 肯定しつつ、私は相川に銃口を向けた。


 この時、私は既に引き金を引いていた。


 その状態で、十字の銃口は標的を捉えている。


「エクスマグナム、トリガーバースト‼」


 十字が青く光り、そのまま回転して巨大な直線状の光線を放った。


 それはカウンターシールドの時の比ではなく、相川を胸を十字に貫通した。


「うっぐぁあああああああああああ‼‼‼」


 そのまま後ろに吹き飛び、瓦礫に背中をぶつける相川。


「……まさか、ここまで…とはね」


 流石にレアリティAの武器は、トリガーバーストも強力。


 私のライフゲージは【♡♡】で、相川は【♡】。


 エクスマグナムのトリガーバーストだけで、向こうのライフを3つも削ったんだ。


「はぁ…はぁ……ははっ、面白いねぇ~、先輩。恵令奈、こんなに追い詰められるなんて……思わなかったよ」


 残りライフが1つであるにも関わらず、彼女から焦りや恐怖は感じない。


 ここから、まだ勝てると思ってるのだろう。


 実際、彼女はここまでの戦いで一切トリガーバーストを使っていない。


 状態としては【☆☆☆☆★】と、4つもカウンターが灯っている。


 相川の口ぶりから、彼女が手にしているバトルギアもレアリティはA。


 エクスマグナムが3つの♡を削ったことから、1度でも直撃すれば私はその時点で敗北だろうね。


「さぁ~て、ここからは……恵令奈の番だよぉ‼」


 彼女は嬉々とした目で唱えた。


「ツインガンスリンガー‼トリガーバーストォ‼」


 その掛け声に合わせて、相川の姿が2重になっては黒い人型の影が分裂する。


 そして、その手には彼女の両手に握られている2丁のガトリング銃が握られている。


 これって……もしかして…!?


 私はそのスキルを見た時、直近に確実に起こるであろう最悪の未来を予測した。


「トリガーバースト!トリガーバースト!トリガーバースト!」


 あと3回、相川は同じようにトリガーバーストを発動した。


 すると、彼女の身体からさらに3つの影が分裂した。


 人数としては5人、銃自体は合計10丁になった。


 物量戦法で言えば、絶望的に不利になったということだ。


「これは流石にぃ…」


 嫌な汗が、顔からダラダラと流れる。


 そして、相川と影たちは同時に私に銃口を向けた。


「一斉射撃ぃいいい‼」


 火弾ひだんの雨が、容赦なく私に向かって放たれた。


「ヤバいヤバいヤバいヤバい‼」


 バイザーからの予測でも、ここから攻める展開は提示されなかった。


 だとしたら、私にできる行動は1つしかなかった。


 逃げの一辺倒いっぺんとう


 背中を向けて、建物などの障害物を盾にしながら走った。


 しかし、障害物も火弾の雨によってすぐに蜂の巣になっては倒れてしまうかちりとなる。


「はぁ…はぁ…はぁ…ううぅうっ‼」


「逃がさないよ、せんぱーい‼蜂の巣にしてあげるよ‼倒れたら、可愛くリボンもつけてあげるぅ~‼」


 私を追いつめて高揚感を覚えているのか、彼女の声がうわずっている。


 影たちを先に前に進ませながら、彼女も迫ってきている。


 動きながらフォーメーションを変え、弾幕を張りながらじわじわと追い詰めてくる。


 だけど、この展開は――――予測済みだった。


 フィールドの端まで迫り、もう隠れる場所は無かった。


 私は今、蛇腹のように曲がった一本道まで後退し、レンガの瓦礫の後ろに座る。


「もう逃げられないねぇ~?鬼ごっこは楽しかったかなぁ~?」


 勝利を確信したのか、相川は間延びした声で挑発してくる。


「このトリガーバーストも時間制限があるみたいだし、もう時間もそんなに残されてないんだよねー。だからぁ……」


 彼女はそこで言葉を区切っては、低い声で「もう、終わらせよっかぁ」と告げた。


 そして、それに対して私もすぐに、小さな声で「そうだね」と返した。


 その声が相川の耳に届いた時には――――私は彼女の隣に立っていた。


 ブゥゥゥウウウンっ‼


「えっ――――んぐぅううう‼」


 マフラーが2つ着いた右足を振り上げ、バーナーで加速させながら回し蹴りを喰らわせる。


 影と分裂したオリジナルのダメージは繋がっているだろう。


 彼女の腹部に蹴りが直撃すれば、そのまま霧散するように消滅した。


「経験が足りないね。こういう武器回収系ゲ―ムの上級者なら、逆に誘き出されていることを疑うもんだよ」


 膝を突きながら、相川は私のことを睨みつけてくる。


 そして、その変化に気づいては顔が引きつった。


「……やられたぁ~~~」


 私が着けているバトルギアは1つじゃない。


 エクスマグナムの装甲の他に、赤い装甲が下半身を覆うように装着されていた。


 両足には2段式のマフラーが付いており、私がバックルに嵌めたギアのハンドルを回すことでブゥゥン!ブゥゥン!とアクセル音が鳴る。


「アクセルギア。これを取りにきていたんだよ」


 私は15分間の探索の中で、このギアをあらかじめ見つけていた。


 バトルギアは2つまでしか所持することはできない。


 だけど、見つけたからと言って、持っていなければ消滅するわけじゃない。


 だから、もしもの時のためにアクセルギアが入っているボックスの場所を覚えていた。


 切り札として、使うために。


 既に彼女はトリガーバーストが消えており、私はトリガーカウンターを1つ残している。


 そして、エクスマグナムの他に速さに特化させたアクセルギアを装着していれば、彼女も先の未来が見えたのだろう。


 両手からガトリング砲を手放しては、苦笑いで「こうさぁ~ん」と言ってサレンダーした。

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