幻実的な視界の中で
恵美side
ブラックボックスの中は広く、専用のゲーム機が6つ用意されている。
コクピットタイプの椅子の上に、RVゴーグルが設置されている。
「これが新型RVゲーム…。どこかで見たことがあるようなデザインしてる」
「開発者にアニメ好きの人が居たんじゃなーい?まぁ、そんなことより……」
相川は先に椅子に座り、ゴーグルを頭に着ける。
「早くバトルしようよ、最上せんぱーい。それとも……今はアッシュ・ベイルって呼んだ方が良いー?」
「……どっちでも」
私もゴーグルを着け、右端の起動スイッチを押してゲームを始める。
すると、画面の中に意識が吸い込まれる感覚に襲われる。
何、これ…この感覚……精神が、引っ張られる…!?
それはリンクの能力によって、相手の精神世界に入る時と似たようなものを感じさせた。
そして、気づいた時には別空間が視界に広がっており、周りにはシステム画面が展開されていた。
『ようこそ、最上恵美様。スプラッシュサバイバーへ』
自身を迎える声と共に、目の前に音声機能が付いたモニターが浮かび上がる。
『ここでは現実世界とは隔絶した世界【アナザーワールド】を舞台に、あなたには他のプレイヤーとバトルをしていただきます』
説明と共に、モニターの先にゲームの舞台となる世界が映し出される。
そこに広がっているのは、荒廃した世界だった。
廃墟のビルや、人気のない殺風景な公園、地面の割れた道路など、まるで戦争によって崩壊したような光景が広がっていた。
「何これ……悪趣味」
私の感想に対して、音声案内は反応しない。
ただ作業的な説明を続ける。
『今回のゲームにおいては、1on1でのプレイヤー同士の一騎打ちをしていただきます。戦闘方法は、あなたがアナザーワールド内でアイテムを回収することによって、多様な戦い方が展開できます』
モニターが切り替わり、そこには黒い長方形の箱が映し出される。
『これがアイテムボックスです。この中には、様々なバトルギアが内包されており、あなたの右手に着けているコアリングを使用することで開口されます。自分に合うバトルギアを見つけ出し、戦闘を有利にすることが攻略の鍵です』
そして、モニターが新たに変わっては恵美の姿で白いバトルスーツに身を包んだものが映し出される。
『これはバトルギア『エックスマグナム』を使用したあなたの姿になります。あなたのこれまでのデータを参考に、おすすめのギアとして紹介させていただきました』
「よくゲームに出てくる推奨スタイルってやつだね。ご丁寧にどうも」
ゲームの説明がある程度まで終われば、視界が変わって左上に「♡」のマークが5つ浮かんでいた。
『こちらはライフゲージになります。あなたがダメージを受ける度に、ライフは1つずつ消えていきます。今回は片方のプレイヤーのライフが0になった時、ゲームは終了となります。なお、ライフが1つ減るごとにトリガーカウンターが1つずつ追加されます』
「トリガーカウンター?」
気になるワードを復唱すれば、視界の右上に『★』のマークが5つ浮かび上がる。
『こちらが、トリガーカウンターになります。バトルギアの固有スキルを発動する時に、消費するものになります。カウンターが1つ増える事に、マークが点灯しますのでカウンターを上手く使用されることを推奨します。発動の掛け声は、【トリガーバースト】ですので、お忘れなきように』
点灯ってことは、今は使えないってことか。
バトルの鍵になるのは、右手に着けているコアリングとバトルギア、そしてトリガーカウンター。
聞いてるだけだとシンプルだけど、果たして向こうはどう出てくるか…。
『以上で説明は終わります。何か質問はありますでしょうか?』
「バトルギアってレアリティとかあるの?」
こういうゲームでは決まって、武器のレア度が決まっている。
その確認をすれば、音声は『はい、ございます』と返答した。
『レアリティはA~Eまであります。その中でもAが最高ランクであり、Eが最低ランクになります。ランクが高いギアほど、戦略の幅は広がります。また、バトルギアは2つ以上の重ね掛けは不可能であり、他のバトルギアをストックすることもできません。ご注意ください』
一番大事な部分を、ここで説明することに不親切さを覚える。
バトルギアの特性について確認すれば、視界が変わって電脳空間から荒廃した世界に変わる。
「ここが……アナザーワールド」
見えている空間全てが、本物のように感じる。
そして、何故か既視感のようなものを覚えた。
「何か……似てる」
何に似ているのか、記憶を辿るのに時間がかかった。
そして、その疑問に答えが出る前にアナウンスが流れた。
『さぁ‼これから始まるのは、スペシャルマッチだー‼なんと、なんとなんと!このスプラッシュサバイバーの舞台に、あの有名ゲームプレイヤーのアッシュ・ベイルが参!戦!だぁー‼』
うっ……ここまで大々的に名前を出されると恥ずかしい。
エキシビションマッチとして使って良いとは言ったけど、ここまで派手な演出を入れてくるとは思わなかった。
隣にモニターが出現し、そこには相川恵令奈が映る。
『ここまで名前だされて宣伝されて、先輩って本当に有名人なんだねー。もしかして、緊張してるー?』
「まさか。こんなのゲーム業界だと日常茶飯事だし」
『ふ~ん、そっかぁ。じゃあ、先輩が恵令奈に敗けてカッコ悪い所を晒されたら、少しはその澄まし面も崩れるかなー?』
「そういうこと言ってる奴ほど、最後は悔しい想いをするんだから、わざわざフラグ立てるのやめとけば良いのに」
『じゃあ、そのフラグをへし折っていくからよろー』
目の前で数字の「10」が表示され、カウントダウンが始まる。
『さぁ‼アッシュ・ベイルと、謎の挑戦者シュバルツ・チェイサー‼これから、2人はどのような熱いバトルが展開されて行くのか‼スプラッシュサバイバー……ゲーム、スタートォ‼』
ブオォォ―――――ンっ‼
スタートの合図が鳴り、エリアが解放された。
ーーーーー
エリアの範囲は直系10キロメートルの荒廃した大都会。
こんな広いフィールド内で、たった2人でのバトルをしなければならない。
最初はバトルギアを見つける所から始めないと。
周囲を見ながら、1分ほど歩いた先にモニターで見た長方形の箱を見つける。
ボックスを手に取り、開け口には丸い穴が開いているのを確認。
右手の中指にはめられたコアリングを穴にかざせば、開け口が開いた。
「……何、これ?」
ボックス中身は、『1:00』と映し出された円形の黒い球体。
そして、開けた瞬間からピッ、ピッと音を立てながらカウントダウンが始まった。
「もしかして…‼」
悪い予感がして、すぐにそれを捨てて離れる。
十分な距離を取り、物陰に隠れた所でバァーンっ‼と大きな爆破音が聞こえた。
「ただ、バトルギアを回収するだけじゃないってこと…?私、聞いてない」
ただアイテムを回収するだけではなく、ボックスにはトラップも仕掛けられている。
プレイヤーにはバトルギアを使った戦略だけでなく、運も試されているということだ。
そして、その爆破音はフィールド中に響き渡ったのだろう。
チリリリリリリンっ‼
何かが地面を引きずる音が聞こえてくる。
そして、あの間の抜けた声も。
「せんぱーい、こっちに居るのー?出てきてよー?」
物陰から顔を出せば、そこには相川の姿が在った。
その手には、鎖で繋がれた鉄球が持たれてる。
向こうは運よく、武器のバトルギアを手に入れることができたみたい。
こっちも対抗できるものを見つけなきゃいけないけど……。
生憎、ボックスは周りに落ちていない。
ステータスを表すなら、私は幸運の要素がすこぶる悪いらしい。
「何か視線を感じるなぁー。……もしかしてぇ‼」
相川が鎖を軸に、鉄球を遠心力を利用して回転させれば、それがヒューっと風を切りながらこっちに迫ってきては、隣の壁を貫通した。
「あぶなっ…‼」
鉄球が貫通した先は、私の調度右隣だった。
あと5センチずれていたら、頭に直撃していた。
「今の声…。あれぇ~、絶対にそこにいるよねぇ~?出てくればぁー‼」
鎖を引いて鉄球を回収し、すぐにもう1度振り回して投げつけてくる。
それは次に、私の居場所を見透かしたように左隣の壁を貫通した。
「やっぱり、狙いが定まらないなー。私にはやっぱり、こういうのは向かないかも」
文句を言いつつも、チリンチリンともう1度鉄球を振り回しているのがわかる。
次に私を目がけて、鉄球が直進してくる可能性は高い。
攻撃される前に逃げる?
いや、それだと直撃する。
このまま立ち尽くしていても、逃げても、鉄球は当たる可能性がある。
だとしたら……。
こういう時、必要なのは勝つための一手を模索すること。
避けられない現実があるのであれば、それを利用する一手を導き出すこと。
1度だけ、壁から顔を出して外を見れば、視界に映るものから1つの可能性を導き出す。
「一か八か……分の悪い賭けは、嫌いじゃない…‼」
自分を奮い立たせるために、冷や汗をかきながらも口角を上げた。
「それじゃ、いっくよぉー‼」
相川は今度こそ、私の立ち位置に直進で鉄球を投げようとする。
そのタイミングで、壁から姿を現して駆け出す。
「やっぱり、居たぁー‼」
直進で投げようとした鉄球が、私の走った道をなぞるように軌跡を描いて横に曲がっていく。
それは私の背中に直撃し、ライフが『♡♡♡♡♡』から1つ減少して『♡♡♡♡』になる。
そして、トリガーカウンターは『★★★★★』から『☆★★★★』とカウンターが1つ灯る。
このゲームは痛覚までリアルに、彼女に伝わっていく。
それに耐えながら、鉄球に身体を預けながら移動する。
そして、目標地点まで到達すれば、鉄球から離れて受け身を取っては体勢を立て直す。
「ここまで運んでくれてありがとね……。おかげで、これを見つけることができたよ」
受け身を取りながら、私はそれを回収していた。
手に持っているのはボックスであり、それをコアリングを使用すれば開口される。
「どうやら、今度は少しマシな奴を引けたっぽいね」
盾のエンブレムが施された、バトルギア。
それを腰に巻いているバックルに装着すれば、エンブレムが実体化して片手シールドが左腕に展開される。
『バトルギア【カウンターシールド】が展開されました』
アナウンスが流れ、シールドのステータスが表示されたのを確認してはすぐに盾を相川に向ける。
「カウンターシールド、トリガーバースト‼」
私の掛け声と共に、盾が左右に展開しては光線が放射される。
「ちょっ…‼何よ、それぇー!?」
彼女は焼けるような痛みを味わいながら、そのライフが1つ減少する。
放射が収まれば、相川は腰を丸めて私を睨みつけてきた。
「まさか、ただのシールドにも必殺技みたいなのが設定されてるなんてね」
「レアリティだけで勝敗は決まらないってことかもしれないね。武器は使いようだよ」
本来ならば防御に使うシールドでも、それを利用して反撃の一手を仕掛けることができる。
ーーーーー
カウンターシールド
レアリティ:C
トリガーカウンター:カウンターを1つ消費し、相手にビームを放つことができる。
ーーーーー
今の無茶な戦法を取ったことで、見えてくるものがあった。
このゲームは確かに、バトルギアによって取れる戦法が大きく変わる。
「スプラッシュサバイバー……。ちょっと、楽しくなってきたね」
私は今、戦士でありゲーマー。
この奇妙な感覚に、ハマりそうになっていた。
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