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マッチングシステム

 真咲とのペアが成立してから、3日間が経過した。


 あいつの学力は、想像よりも悪くはなかった。


 だけど、偏っていた。


 試しに俺の時の中間テストを受けさせたところ、数学とか化学などの理数系は高得点だったが、英語、現代文の文系はからっきしだった。


 さて、ここから2週間でランキング上位とまではいかないまでも、中間くらいに持っていくには骨が折れる。


 ちなみに、身体能力って面では可も不可も無しって感じだった。


 俺が点数の面でカバーするにしても、学園側が点数を改ざんしてくる工作もあるかもわからない。


 もはや、この学園での俺の立場は確約されたものじゃない。


 どんな手を使ってでも排除しようとしてくる未来が、容易に想像できる。


 だからこそ、ペアである真咲に委ねる部分は少なくない。


 これから先の不安のあまり、「はあぁ〜〜」と深い溜息をつくと横から声をかけられる。


「ペアが成立して余裕なのかと思ったら、深い溜息ね。それとも、それは大げさな安堵あんどの息かしら」


 扇子を広げて口元を隠し、皮肉交じりの笑みを浮かべる成瀬がそこに居た。


「何だよ、成瀬?俺にちょっかいかけてる余裕があんのか?ペア決めで難航してたくせに」


「御生憎様、私はもう決まったわ。1年Sクラスの子とね」


「はぁ?まさかのSクラスかよ」


 俺の反応が予想通りだったのか、彼女は満足げな笑みを浮かべる。


「試行的に作ったアプリが功を制したみたい。あなたもペアを変更したいと思ったなら、使ってみるといいわ」


 何だ、自慢か?


 心の中で呆れながら、彼女がスマホの画面を向けてきたので見てみる。


 そこに書いてある名前を読み上げる。


「アビリティ・マッチング・システム……。マッチング?」


「そうよ。SASでステータスが把握できても、効率的に交渉するすべが無かったら無闇に時間が過ぎていくだけ。だから、学園側が用意しないなら自分たちで作れば良いって思ったわけよ」


 基樹が成瀬が何かしているって言っていたのは、これのことか。


 素直に感心していると、スマホ画面の端からヒョコッとレスタが顔を出した。


『私もお手伝いしたんですよ!えへんっ!』


 褒めろと言わんばかりに胸を叩く彼女に、俺は半笑いで「すげー」と言って軽く拍手する。


 アプリの詳細は、世に出回っているマッチングアプリとそんなに変わらない。


 目的が恋愛や友達作りではなく、戦力集めになっていることくらいだ。


 それでも、いきなりSASの情報を頼りに声をかけて顔合わせで交渉するってよりは、何度かコメントのやり取りをして人となりを知ってから交渉した方がスムーズかもな。


 滅茶苦茶運が良ければ、直接会わなくても形式上のペアが成立する可能性もある。


 その反応に対して、成瀬とレスタからは呆れたジト目を向けられた。


「心の込もっていない称賛はお世辞と一緒よ。わかっていないわね」


『そういうところですよ、椿さーん』


「いや、じゃあ、どう反応すれば良かったんだよ!?」


 本当に、こういう時ってどっちにしても文句言われるから嫌だぜ。


「まぁ、あなたをののしって遊ぶのはこれくらいにして、本題に入るわ」


「なぁ、今はっきりと罵って遊ぶって言ったよな?本音にしても酷すぎだろ、おい」


 目尻をピクつかせながら抗議をするも、成瀬は取り合うつもりはないようで話を進める。


「私はこのアプリをクラス全体に配布するつもりよ。あなたも()()()()のことを考えるなら、入れておいて損は無いはずよ」


「……今の特別試験だけを考慮して作ったわけじゃないってことか」


 成瀬はもう、この特別試験の先を見越しているのかもしれない。


 学園の用意した舞台と設定の中で、正攻法で挑むのはやめたんだ。


 奴らが自分たちの邪魔をするのなら、戦いの中で有利になるものを自分たちで生み出すしかない。


 その答えに、彼女はたどり着いたんだと思う。


 これは敵に回したら厄介になったもんだぜ。


 俺は素直にアプリをダウンロードしてから、彼女に問いかける。


「それで、このアプリは俺たちのクラスで独占すんのか?」


「いいえ。望むなら、他のクラスにも配布するつもりよ。もちろん、仲介料はいただくけど」


 そう言って、悪い笑みを浮かべてはネット掲示板を見せてくる。


 そこにはご丁寧に、マッチングシステムとその詳細が書いてあった。


 最後に 『このアプリの利用料は1ヶ月に能力点1000ポイントであり、成瀬瑠璃へ支払うものとする』と注意書きがしてあるのを見落としちゃいけない。


「抜け目ねぇな、おまえ」


「自分が作ったものを、何の利益もなしに無関係な人に与えるつもりはないわ。それ相応の対価は払ってもらわないと」


「はっはっは、おっしゃる通りで」


 その対価が金じゃなくて、能力点アビリティポイントなのがいやらしいと、俺が他のクラスの人間だったら思うだろう。


 まぁ、これも成瀬が自分に有利な環境を用意して得た報酬だろう。


 彼女は少し神妙な面持ちになり、目を細める。


「これの真価を学園側が理解して、この私に権利権の譲渡を迫ってきた時が楽しみだわ。限界ギリギリまで絞り取ってやるから…‼️」


「おいおいおい、売る相手は生徒だけじゃねぇのかよ」


「当たり前じゃない。他クラスの生徒から集めたって微々たるものよ。大元から徴収した方が、利益は多いに決まってるじゃない」


 こいつ、あんまり調子に乗らせると裏で消されるかもしれねぇぞ。


 だけど、成瀬は俺の心配を察したのか、チラッと俺の前の席を見る。


「大丈夫よ、私も勝算と安全のない賭けに出るつもりはないわ。本当にそうなったら、彼をボディーガードに付けるつもり」


「あぁ〜、そういうことね」


 超優秀なボディーガードの存在があるからこその自信と戦略ってわけか。


 成瀬がアプリの説明をして離れていけば、俺たちの会話が終わるのを待っていたのか、すかさず入江が話しかけてきた。


「なあぁ〜、円華ぁ〜〜〜」


 この情けない語尾の伸ばし方に、嫌な予感しかない。


 振り向いて奴を見ると、そこには両手を組んで神にもすがるようにこうべを垂れていた。


「な、何だよ、そのいかにも『神様、お助けください』って言いそうな体勢」


 端から見たら迷惑極まりない光景にツッコむが、それをスルーして入江は涙目で訴えかけてきた。


「俺の交渉相手に狙ってる子の攻略!手伝ってください!」


「・・・マジかよ」


 入江のSASは珍しいことに、全体が評価Dだった。


 SASの平均を下回るこいつに、声をかける物好きは現れなかったらしい。


 そして、こいつが声をかけた相手にもことごとく断られたそうだ。


「なんつーか、気の毒だな…」


「そう思うなら助けてくれよ!俺たち、友達だろ!?」


「こういう時にそのワードを使う奴、大抵は自分が頼られても助けようとしねぇよな」


 頬杖をついて疑いの目を向ければ、「そんなことねぇよ‼️」と前のめりで否定してきた。


 まぁ、入江がそんな薄情な奴だとは正直思っていない。


 今のはただのイジりだ。


 取捨選択試験の時に、戸木から俺をかばってくれた時のことを忘れてねぇしな。


「ったく、しょうがねぇな。話しは聞いてやる。それで?その交渉相手って誰だよ?」


 やる気がない風を装いながら、今回のターゲットの話を聞く。


「えーっと、俺も成瀬さんのアプリを昨日から使ってみたんだけど……。もう手当たり次第にスワイプしたら、この子がマッチングしたんだよ!」


 マッチングシステムの画面を見せられ、そこに入江がマッチングした人物の顔写真が映る。


 こりゃまた、面倒な奴を引き当てたな……。


 最初に頭に浮かんだ言葉がそれだった。


 1年Bクラスの相川恵令奈(あいかわ えれな)


 あの女、まだペアが決まってなかったのか。


 それに総合的には自分よりも劣っている入江とマッチングが成立したことに、引っ掛かりを覚える。


「おまえ、もうこの女とはコメントのやり取りはしてるのか?」


「お、おう…。なんか絵文字とか多くて目が疲れるけどな」


 やり取りを思い出しては、少し疲れたような表情になる入江。


 アプリのチャット画面を見せられれば、確かに☆や♡などの絵文字が多くて目が疲れる。


 やっぱ、あいつ見た目通りのギャルだな、うん。


「俺、こういう女の子とそんなに話したこと無いし、どうやってペアになれば良いのか……」


「そうだよな。おまえってどっちかって言うと坂木みたいな清楚な女の方が良いっ……あ、悪い」


 言ってて思い出した。


 入江は春休みに坂木に告って、見事に玉砕したんだった。


 何でも、既に彼女には今の3年生に交際中の男が居たらしい。


 それも1年生の1学期からの付き合い。


 完全に攻め時を間違えた入江から、その報告を聞いた時の絶望顔は今でも忘れられない。


 入江も今ので心の傷をえぐられ、胸を押さえて腰を丸めていた。


「い、いや……良いんだ。あれはもう……俺が悪いから。俺が、もっと早くアプローチをしていれば…‼️」


 ちなみに、麗音からの情報で、坂木は入江のことを本当に友達としか思っていなかったらしい。


 1学期からなけなしの勇気を振り絞っても、その想いが成就した可能性はかなり低かっただろうな。


 今後悔している姿を見ているだけでも痛々しいのに、この事実をこいつに伝える勇気は俺にはない。


「まぁ、その気づきを得たんだったら、次に活かそうぜ。また同じ失敗をしないようにな」


 まぁ、今回は前みたいな恋愛相談じゃない。


 特別試験を乗り切るため、この学園で生き残るための協力要請だ。


 そう考えたら、1年生の冬休みの時よりは気が楽だった。


 その攻略対象が、同じく俺でもどう対応していいかわからない、無気力系のギャルだってことを差し引けばな。


 しかし、これは俺にとっては試験とは別の目的でチャンスかもしれない。


 今は1年生の情報を少しでも得られるのなら、それを利用しない手はない。


 その糸口として、あの頭の軽そうな女が役立つかは疑問でしかないけどな。


 そう言えば、相川の名前を聞いて思い出したことがある。


 例のランキングサイトのことだ。


 あの女は、そこで俺が人狼になった過去の情報を見たと言っていた。


 いろいろと忙しくて、そのことが頭から抜けていた。


 しくじった、あの時にそのサイトの入り方を聞いておけばよかったぜ。


「なぁ、入江。おまえってランキングサイトのことは知っているか?」


「ランキングサイト?何だ、それ」


「この特別試験の裏で、俺たちが勝手にランキング付けされてるらしいぜ。何だったら、過去の経歴まで書かれてるそうだ。嘘か本当かは知らねぇけどな」


 一応、保険としてガセネタの可能性も話しておく。


「あぁ~、それって掲示板に書いてあったかも。ちょっと待ってろよぉ…」


 入江がスマホで掲示板を見ていると、「お、あった」と言って見せてきた。


「何かURLが載ってたわ。円華も見るか?」


「あ、ああ」


 URLをコピーして送って、検索をかけると相川の言っていた通り、2~3年生全ての生徒がランキング付けされていた。


 相川の言っていた通り、俺はSクラスに分類されていた。


 試しに、自分の目で見てみるか。


 自分の名前をタップすれば、経歴が書かれていたためスライドして読んでみる。


 確かに俺がアメリカ軍に居たこととか、過去のことが詳しく書かれている。


 うわっ、隻眼の赤雪姫(アイスクイーン)のことも、家族に涼華姉さんが居たことも書いてあるのかよ。


 しかし、そこには肝心な部分が無い。


 俺が復讐者であることと、人狼の力を持っていることだ。


「あの女……カマかけてきたってわけか」


 セレーナ・クインバレルだけじゃなかった。


 相川恵令奈。


 あの女のことも、探る必要がありそうだぜ。

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