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対等な提案

 放課後。


 会う約束をした場所は、最初に会った自販機前。


 先に到着して待っていると、待ち人の2人がこっちに向かって歩いてくる。


「お、おお、お疲れ様です!椿先輩!」


 挙動不審なところは変わらない真咲空雅が、ペコペコと頭を下げながら挨拶してきた。


 その隣には、対照的に堂々とした態度のセレーナ・クインバレルが真っ直ぐに俺を見ていた。


「真咲くんから、私も同伴で来てほしいとのことでしたが……。先輩は、私を彼の保護者だと勘違いしていませんか?」


「別に保護者のつもりでは呼んでねぇよ。1人の可愛い後輩として、100%の善意で呼ばせてもらったんだ」


 この面談での狙いは2つだ。


 その内の1つには、彼女の存在が欠かせない。


「セレーナ・クインバレル。おまえのペアはもう決まってるのか?」


「いいえ、まだです。……残念ですが、私は先輩と組む気はありませんよ」


「それならこっちも願ったりだ。俺もおまえと組む気はさらさらねぇよ」


 後ろを見れば、曲がり角の方に視線を向ける。


「おーい、いつまで隠れてんだ?さっさと出てこいよ」


 ジト目を向けて呼びかけると、ひょこっと顔だけ出しては同じような目を向けてくる恵美が居た。


「……どうも」


 人見知りを発動し、後輩に対して警戒のオーラを発している銀髪電波女だった。


 まぁ、良いか、顔は見れるだろ。


 真咲とセレーナは怪訝な顔を浮かべているので、一応説明する。


「まず大前提、俺は真咲と組んでも良いと思ってる」


「えっ…良いんですか!?」


 断られると思っていたのか、真咲はオーバーな反応をする。


「ああ。だけど、そっちにだけ期待を抱かせるのはフェアじゃねぇだろ。こっちも条件を提示させてもらう」


「……その条件とあの先輩、そして私の存在が関係しているようですね」


 状況から、セレーナはすぐに察しがついたようだ。


 そして、目尻を吊り上げて鋭い目付きになる。


「言っておきますが、私は今のところ誰ともペアを組む気はありません。1人で戦い、上位を狙うつもりです」


「だったら、相当のお人好しか?1人で戦うって言いながら、真咲の手助けをするなんて」


「その通りです。先輩には、私が良い人間には見えませんか?」


「100%の善意だって言うなら、疑うしかねぇかもな」


 セレーナ・クインバレル。


 この女が俺に向ける目から、ある特徴を感じる。


 冷たい闘志だ。


 彼女はあの時、何か目的があって俺に接触してきたはずだ。


 そして、それを隠すために真咲を利用した。


 考え過ぎかもしれねぇけど、初対面の印象から1度は疑っておくに越したことはない。


 SASを覗いた時に、アメリカ出身だって書いてあったことが余計に疑惑の目を向けさせるのかもしれない。


「私も先輩が先程おっしゃった、100%の善意を信用していません。私はあなたが……悪意に満ちていると感じています」


「面と向かってドストレートにディスってきたな、おい。はぁ……That's the way it

is (しょうがねぇな)」


 アメリカ人相手だからか、無意識に口から英語が出てきてしまった。


 それを聞いた瞬間、セレーナは目を見開いて俺を見てきた。


「……」


「あ、わりぃ。アメリカでの生活が長かったからさ、外国人相手だと自然と英語が出ちまうみたいだ」


「いいえ……お気になさらずに。お上手ですね」


「おまえの日本語よりは、流暢りゅうちょうじゃねぇよ。まぁ、日本語を話すのに疲れたら、母国語で話す相手になっても良いぜ?」


「折角のご厚意ですが、丁重にお断りさせていただきます」


 頭を下げ、お辞儀をしながら断られてしまった。


 こいつもこいつで、心の壁が分厚いみたいだな。


 ある種、恵美とは別方向に面倒くさい女かもしれねぇ。


「誰が面倒くさい女?」


 隣から声が聞こえてくれば、ジト目でこっちを見上げてくる本人がヘッドフォンを着けて移動していた。


「わぁっと!?……だから、気配を消して近づくのやめろっての」


「失礼なことを考えて、気が抜けている円華が悪い」


 淡々と正論を言われ、ぐうの音も出ないために話を切り替える。


「コホンッ…えーっと……まぁ、本人が登場したから、一応紹介しておく。俺と同じDクラスの最上恵美だ。見ての通り、コミュ障だから交渉力は絶望的だけど、よろしく頼む」


「うるさい」


 事実をそのまま伝えてやったのに、脇腹をつねられた。


「いっった‼」


 痛がる俺を無視し、恵美が真咲とセレーナに話しかける。


「どうも……初めまして。このデリカシーの無い男の飼い主です。円華に対しての不平不満があったら、気軽に私に連絡してください。お仕置きしておくので」


「おい、誰が飼い主?おまえって俺のことを何だと思ってんの?」


「……駄犬だけん?」


 首を傾げながら、いつもの無気力顔で言いやがった。


 今の一言でイラっときたため、ズボンのポケットに手を突っ込んでそそくさと離れようとする。


「よーし、わかった。あとの交渉頑張れよー」


「あー、ごめんなさいごめんなさい。アイムソーリー」


 両手で左腕を引っ張って引き留めてきたため、謝罪を聞いて足を止める。


「ったく……。まぁ、茶番はこれくらいにして、真面目な話に戻るか」


 一連の流れを真咲は苦笑いで、セレーナは冷たい目で見てきた。


 うん、とても先輩に対する反応じゃねぇけど、こればっかりはしょうがねぇな。


「俺が真咲と組むなら、そっちのクインバレルには恵美と組んでほしい。それが条件だ」


 恵美の性格からして、知らない人間に声をかけてペアを組むには、今は難易度が高すぎる。


 他学年からこいつに声をかける奴が居るかと言われたら、SASの評価だけを見るなら、それは最終手段の余りものとしてだろう。


 そうなった場合、下位10%に入る可能性は高い。 


 それなら、目の前に居るセレーナと組ませた方が遥かに良い。


 彼女のSASは学力も身体能力も評価Aだったしな。


 提案としては対等な条件のつもりだったけど、セレーナは納得できないという表情を浮かべる。


「椿先輩が真咲くんとペアになる条件が、私と最上先輩がペアになること……ですか。私のさっきの言葉を、もうお忘れですか?」


「忘れてねぇよ。本当は1人で試験に挑むつもりだったんだろ?だけど、10万ポイントを捨てて、下位10%になったら退学……本末転倒だぜ?」


「それは最上先輩と組んだ場合も同じです。失礼ながら、最上先輩のSASは標準以下ですよね?私の足を引っ張られるのは、ご容赦願いたいのですが」


 先輩だろうと物怖じせず、はっきりと事実を突きつけるセレーナ。


 言ってることは間違ってないけど、どこか理性じゃないところで反抗してきているように感じる。


 侮辱された恵美も面と向かって足手まとい扱いされては、頬を膨らませて威嚇している始末だ。


「だったら、おまえがこいつのレベルを上げてやってくれよ。おまえからしたら日本の高校英語なんて、向こうの小学生の教科書レベルだろ?幸か不幸か、こいつの苦手教科は英語なんだ。先輩に恩を売っておいて、損はないんじゃねぇの?」


「……」


 セレーナは意地でも俺の提案を飲みたくないのか、反抗的な目は変わらない。


「ク、クインバレルさん……」


 俺と彼女の会話を、固唾かたずを飲んで見ている真咲。


 こいつからしてみれば、セレーナの決断に巻き込まれる形になるわけだしな。


 不安の眼差しを向けてしまうのはわかる。


 彼女は目を閉じて10秒経った後、ゆっくりと開いては恵美に視線を向けて問いかけてきた。


「先輩にとって、最上先輩はどういう存在なんですか?ただのクラスメイトですか?それとも……仲間、ですか?」


 その質問に、どういう意図があるのかはわからない。


 それでも、セレーナが俺という存在を推し量るための指標にしようとしているのは伝わった。


 頭の後ろを掻き、隣に居る恵美に横目を向ける。


 こいつも、興味があるのか俺をチラッと見上げてくる。


 ……まぁ、ここで誤魔化してもしょうがねぇか。


「ただのクラスメイトとか、仲間とは思ってねぇよ」


 まずは彼女の提示してきた例を否定する。


 その答えに、恵美はお気に召さなかったのかジト目を向けてくる。


えて言うなら……相棒、だな」


 心の中で、『ヴァナルガンドとは別の意味の』と付け足しておく。


 すると、頭の中で狼が『はんっ、言い得て妙だな』と納得したように鼻で笑った。


 そして、言われた本人は満足げな笑みを浮かべていた。


「相棒……パートナー……そう、ですか」


 しかし、セレーナはその返答を聞いて、目付きがさらに鋭くなった。


「パートナーのために、私を利用しようと言うんですね……。わかりました、それなら……私は椿先輩の提案を受け入れることができません…‼」


 逆に火に油を注ぐ回答になってしまったようだ。


 身体を震わせ、怒りを露わにしている。


「良いのか?おまえが俺の提案を拒否するなら、真咲は俺とペアになることはできない。本当のお人好しなら、そんな選択をするとは到底思えねぇけどな」


「そうだとしても、私はあなたの想い通りになる気はありません‼」


 頭に血が昇っており、もはや真咲のことなど思考から追い出していた。


「え、えーっと……」


 俺たちの間に入ることができず、真咲自身もアタフタして挙動不審になってる始末だ。


「ねぇ、これ……どうすんの?」


 恵美もセレーナの怒りのプレッシャーに、事態が急を要することを察する。


 冷静に怒りを受け止めつつ、警戒心が引きずり出される。


 セレーナに対して、『油断できない』という防衛本能が働く。


 困ったな。


 このままだと、いろいろと予定が狂うことになる。


 真咲のこと、セレーナのこと、恵美のこと。


 この全てを予定通りに進めるためには、この学園のルールにのっとったやり方をした方が手っ取り早いか。


「セレーナ……。おまえが、俺を拒絶する気持ちはわかった。受け止めてやるよ」


 怒りは受け止める。


 そのために、俺は彼女に言った。


「だったら、おまえに決闘デュエルを申し込む!その怒り、合法的に俺にぶつける機会を用意してやるよ」


 セレーナ・クインバレルという女を見定める。


 そして、俺の目的を達成する。


 その2つを果たすために、これが1番効果的だと思った。


 さぁ、この生意気な後輩に教えてやるとするか。


 この弱肉強食の学園のルールって奴をな。

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