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まとまりのないクラス

 空雅side



 合同特別試験が始まってから、もう5日が過ぎようとしている。


 それは裏を返せば、もうペアを決めなきゃいけない期間が1週間になったことを意味している。


 その間、僕はと言うと……。


 椿先輩から、一向に連絡が返って来ない‼


 これって、僕はもう見捨てられたということなのかな?


 それとも、僕の存在を忘れられているだけ?


 こう言う時って、僕から連絡した方が良いのか?


 いや、それで『あ、やっぱりおまえと組む気ない』とか言われたら、立ち直れるかなぁ~。


 行動しないことには、何も始まらないことはわかっている。


 それでも、勇気が出ない。


「恋する乙女のように、スマホを両手で持ってモジモジしないでください。見ていて気持ちが悪いです」


「き、気持ち悪いなんて酷くない!?」


 隣に座るセレーナさんから、ジト目で毒を吐かれては心にダメージを受ける。


 彼女には感謝している部分もあるけど、話せるようになればなるほど、その歯に衣着きぬきせぬ物言いにダメージを受けるのは僕の方だ。


 これが文化の違いとか、まだ日本語を勉強中だからとか、 そういう理由だったらまだ納得ができる。


 でも、セレーナさんの場合は絶対に違う‼


 彼女はわかってて、僕に毒を吐いている‼


 だって、悪口を言う時、目付きがもう冷たいもん‼


「どうせ、椿先輩からの連絡が来なくて焦ってるんでしょう?意気地いくじのない人ですね。さっさと返事をもらえば良かったのに」


「僕は君みたいに、簡単に人と話せる男じゃないんだよ」


「失礼ですね。私のどこが男に見えるんですか?」


 あ、冷たい目が余計に鋭さを増した。


 日本語って難しい。


「いや、そう言う意味で言ったんじゃなくて……。もう、良いよ。先輩も僕のことなんて、どうせ声をかけてくる数いる1人としか思ってなかったんだよ」


「そんな情けないあなたに朗報です。この5日間で、あの人に声をかけた生徒はあなたを含めても2名程度。いくら私が間に入ったからとはいえ、あなたのことを忘れているとは考えにくいでしょう」


「そ、そうだと良いんだけどね……」


 机に突っ伏して項垂れていると、彼女は横目を向けながら小さく溜め息をつく。


「そんなことで、この学園の生徒全員と友達になれるんですか?もっと積極的にいかないと、目的は果たせませんよ」


「た、確かにそうなんだけど……」


 自己紹介の時に言っていた目標を、真に受けられてしまった。


 だけど、本当の目的を言っても変な目を向けられるだけだしなぁ……。


 入学して日が経っても、手紙の主は僕に接触しようとしてこない。


 本当に、僕が自分を見つけるまで名乗り出ないつもりなんだ。


 それなのに、最初の試験でつまづいて、退学したら目も当てられない。


 1年生に与えられている能力点が、調度10万ポイント。


 僕らの場合は、1人で試験に挑戦することは手持ちのポイントを0にすることに等しい。


 能力点が0になったら退学なら、是が非でも上位10%に入らないといけなくなるんだ。


 僕にそんな自信はないし、そんなプレッシャーに耐えられる余裕も無い。


 このまま当日を迎えて、ランダムに組まされた先輩が好成績を残してくれるなんて確証も無い。


 やっぱり、椿先輩みたいな人とペアにならないと下位10%に落ちてしまうのはわかっている。


 正直、日が迫るごとに不安が強くなっていって気が気じゃない。


 そんな中で、焦る様子なく


「セレーナさんは、どうしてそんなに堂々としていられるの?僕と同じで、ペアはまだ決まっていないんだよね?」


「私は1人で試験に挑戦したとしても、上位に入ることがわかっていますから。あなたみたいに、他人に頼らないといけない程落ちぶれてはいません」


 本を読みながら、絶対の自信を見せるセレーナさんに、苦笑いするしかなかった。


 考えてみたら、このクラスの中でペアが決まった人なんて何人くらい居るんだろう?


 まだ入学したばかりで、自分の学年ですら人脈は少ないはずなのに、他の学年の先輩と交渉するなんて難易度が高すぎるんじゃないだろうか。


 僕だって、セレーナさんが居なかったら自分から行動することもできなかったし。


 周りを見てみると、クラス内ではグループができつつあった。


 好きなゲームの話をする男子グループや、好きな動画配信者のことで盛り上がる女子のグループ、あとは……好きなアニメのことで、オタク用語が飛び交っているグループもあるな。


 たった数日でそう言うのができてしまう所から、人って不思議だ。


 ・・・って、僕はどこにも誘われていないぼっちなんですけどね!?


 いや、話しかけてくれる人も居たには居たんだけど、一言二言話しただけですぐに離れられてしまった…。


「このクラス、まとまっていけるのかしら」


 僕が周りを見ていると、セレーナさんがボソッと呟いた。


「えっ……みんな、仲は悪くないみたいだし、大丈夫なんじゃないの?」


「仲が悪くなければ、戦っていけるわけじゃないでしょう?私は馴れ合いは必要ないと思います。特に()()()()のない人とは、関わりを持つだけ無駄だと思っています」


 戦う…意志…?


 意味を聞こうと隣を見れば、彼女の目からは今まで関わってきた人たちからは感じたことのない感情が伝わってきた。


 闘志とうしだ。


 彼女は何かを、抱えている。


 それがはっきりとわかるほどに、強い意志が伝わってくる。


 その目から視線が離せずにいると、セレーナさんがこっちに気づいてはオーラを解いた。


「ごめんなさい。怖かったですよね」


「う、うん……。だけど、君がそれだけ君がこの学園で生きることに本気だってことだと思うから。僕としては……頼もしい、かな」


 僕の言い方に何かを感じたのか、彼女は怪訝な表情になる。


「真咲くん、あなた……もしかして、知っているの?」


「……何の話?」


「この学園が()()()()()()()()を、あなたは知っているのかって聞いているんです」


 セレーナさんから、疑いをかけられているのがわかる。


 ……ダメだ。


 彼女を、僕の目的に巻き込むことはできない。


「どういう所って……卒業することができれば、成りたい自分になれる学園でしょ。だから、君もそれを求めてここに入学してきたんじゃないの?」


「確かに……そうですね」


 返事に対して納得していないように見えたけど、今は人目もあるから深入りはしてこなかった。


 そう言えば、クラスがまとまるとか、まとまらないとか、そう言う話題が出てくるなら、悩みの種になりそうな人が2人居たなあ。


 教室のドアがガラッと開き、その内の1人が登校してきた。


 一歩入っただけで、空気が変わる。


 逆立つ赤い短髪の左側に青色のメッシュが入っている、2メートル近い身長の男だ。


 彼の名前は冴島憧胡さえじま どうご


 同じクラスだけど、彼の周りには誰も近づこうとしない。


 冴島くんは自分の席に座れば、長い足を机の上に乗せて「ふぅぅ」と一息ついた。


 見た目からして、近寄りがたい雰囲気がある。


 入学当初から、歩み寄ろうとする人は少ない。


 と言うか、先生が出席確認の時に名前を呼んで、それに対する返事をする時にしか声を聞いていない気がする。


 そんな彼と言葉を交わすことができるのは、このクラスには1人だけだった。


 だけど、その1人というのが問題で……。


「冴島。この前の交流会、一悶着ひともんちゃく起こしたようだな」


「……また、てめぇか。ゴキブリ」


 彼に近づき、声をかけたのは片岡泰時かたおか やすとき


 こっちもこっちで、近寄りがたい風格がある。


「おまえが交流会に行ったことも驚きだが、2年生と暴力沙汰ぼうりょくざたになったと聞いた時は耳を疑ったぞ。身なりや態度こそ、単細胞ですぐに粗暴そぼうに及びそうだが、今のところは目に見えてそういう行為は見られていないおまえが、人前でそう言う行為に及ぶとはな」


 片岡くんに詰められても、彼は取り合う気はないと言うように目を合わせようとしない。


「おまえみたいな木偶でくが、無駄に目立つなよ。巻き添えで迷惑(こうむ)るのだけは御免だ」


「ほざくな。てめぇとは、何も話す気はねぇ」


 両耳にワイヤレスイヤホンを着け、腕を組んで目を閉じる冴島くん。


 完全にシャットアウトするつもりだ。


「おまえがどこの誰と喧嘩して、無様に敗けようとどうでも良い。それでも、俺に迷惑かけんな。おまえのせいで、クラス全体のポイントが減らされるとも限らないんだぞ。退学になるなら、1人で誰にも迷惑かけずに堕ちろよ」


 言葉と態度で対話を拒絶されているにも関わらず、片岡くんはグチグチと言葉の刃を振るい続ける。


 何か……わざと怒らせようとしているよね、絶対に。


 強い人と戦いたいって言ってた時は、ただの戦闘狂かと思ったけど、それだけじゃない。


 何て言うか……言葉の一言一言が鋭いんだよなぁ。


 言ってることは正論なんだけど、言葉の刃が切れ味抜群なんだよ。


 実際、この数日で彼に注意されて、泣きそうな顔をしている人を何人か見ている分、後ろの席の僕はいつも気が気じゃない。


 そんな彼は、冴島くんの身なりとか言動に対して一々突っかかるから、空気が重くなる。


 水と油なんだよなぁ、この2人。


 気づけば、不穏な空気のせいで教室中の視線が片岡くんと冴島くんに集中している。


 正直、この時間が本当に居心地が悪くなる。


 実際には片岡くんの説教に対して、冴島くんが聞く耳もたずに無視している光景なんだけど、これがいつ殴り合いに発展するかという恐怖が広がっていく。


 そして、その険悪な空気は九条先生が来るまで続いた。


 朝礼が行われる中で、僕はこのクラスの今後が本気で心配になってきた。


 そんな時だった。


 スマホのバイブが鳴って、一通のメールが届いていた。


 先生にバレないように、机の下で画面を見てみる。


「嘘っ…‼」


 できる限り声と感情を抑えて呟き、身体が震えた。


 そして、呟きはセレーナさんにも聞こえたようで、こっちを見てくる。


 そんな彼女に視界に入るように、僕は目を見開いてはスマホを指さして見るようにジェスチャーする。


 メールの送信者は、椿円華先輩だった。


 恐る恐るメールを開くと、そこにはこう書かれていた。


 ーーーーー

 真咲空雅へ


 連絡が遅れて悪かった。

 明日の放課後、時間もらって良いか?

 会えるなら、その時にセレーナ・クインバレルも連れてきてくれ。

 特別試験のことで、話を進めよう。


 ーーーーー


 先輩は僕のことを、忘れてなんていなかった。


 それがわかっただけでも、首の皮が一枚繋がった想いだった。


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