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極秘特別試験


 「要するに、組織の中でも君を排除しようとする理由は2つに分けられるということです」


 ヴォルフは俺の行きついた仮説に、補足説明をする。


 右手を少し上げ、まずは曲げていた人差し指を立てる。


「1つはルインを復活させるために、君の存在は既に不要になった。このことから、根源を持つ君を、組織のために排除しようとする。破滅の根源以外の根源者オリジネーターは、厄介でしかありませんからね」


「根源の器だの、従者だのを作り出すために勝手に利用しておいて、迷惑な話だぜ」


 露骨に不機嫌さを隠さずに吐き捨てるが、ヴォルフはそれを気に留めない。


「しかし、それは組織に対して忠誠を誓っているならの話です。もう1つは理由が異なる」


 そう言って、次に人差し指の隣の中指を立てた。


「もう1つの理由は、あなたの根源を奪い、おのが理想とする世界を実現するため。根源の力は、異能や魔鎧装と同じように適合するかどうかが鍵になりますからね。あなたの力を、どう利用するかも彼ら次第です」


 どちらにしろ、狙われる理由があるのに変わりはない。


 それでも、そこに隙があるとヴォルフは言った。


「組織の中で、実際に自分の理想を持つ奴は居るのかよ?」


「少なくとも、居ないとは言えないでしょう。人間は欲望を強く抱く生物です。それが善意であれ、悪意であれ、欲するものは確かに存在する。それを実現させるための活力として、人々は()()()という行為をしているわけですから」


 大なり小なり、人々には理想がある。


 それを実現させるために行動するか、不可能だと思って諦めるかの違いがあるだけだ。


 何も世界を変えようなんて思ってねぇけど、俺にも確かに理想……欲望は存在する。


 言うまでもなく、大切なものを守るための復讐だ。


 ヴォルフは話しつつ、俺の目を見てくる。


「まさに君は、世界を変える鍵と言える。そんな存在が目の前に現れれば、自身の中に抑えこんでいた欲望の蓋を開けざるを得ない。破滅の根源の復活を待たずして、君の根源に手を伸ばそうとするのも頷けるでしょう」


「理屈はそうでも、こっちからすればノーサンキューだぜ」


「組織からしてみれば、君からの復讐心も同じような意見を言われるでしょうね」


 俺としても、組織にしても、互いの存在が標的であることには変わりないってか。


 ここまで言葉を交わして、1つだけ確かめたいことができた。


「その話からしたら、あんたは後者のように思えるけどな。俺を利用して、この学園をぶっ壊したいんだろ?」


「……察しが良くて助かります」


 否定をせず、ヴォルフの細目のまなこが見える。


「私としては、あなたが私の目的を果たさずに排除されることは望みません。この学園は変わり始めている。しかし、それでもまだ小さな火がともったばかりです。この火が学園全体に広がるまでは、あなたにはその復讐心を燃やして暴れていただきたい」


「俺たちの邪魔をした奴の台詞とは、到底思えねぇな」


 学年末試験のことを根に持っているのは、俺だけじゃないはずだ。


 この男が紫苑に接触したのなら、あいつは俺以上にヴォルフを罵倒ばとうしていたはずだ。


「止められなかった私には、何も返す言葉はありません。しかし、あなたが牧野先生の言葉を鵜吞うのみにせず、私の助言通りに真実の先を見ようとする姿勢を示してくれたことに対しては、素直に称賛させてください」


 優し気な笑みを浮かべる彼からは、以前に見せた悪意は感じられない。


 まるでコインの裏表だ。


 ヴォルフ・スカルテット、どっちが本当のあんたなんだ?


 言葉にしてそれを問いかけたかったが、その答えを見つけるのも俺の役割だと返されるのがオチだろう。


 この男の真意を知るのも、骨が折れそうだけどな。


「今度の特別試験、頑張ってください。期待しています」


「……だから、あんたに言われても信用できねぇっての。牧野然り、あんた然り、1年の中に潜んでいる奴ら然り、また邪魔してくるのがわかっているのに、モチベーション保てるわけねぇだろ」


 面と向かって文句を言ってやれば、ヴォルフも俺の置かれている状況に同情してか「そうですね」と返す。


「そうであれば、私から1つだけ条件を出しましょう」


 そう言って、悪い笑みを浮かべる理事長。


「1年生の中に潜む刺客。それを見つけ出すことができたのならば、私の権限で君たちのクラスの望みを叶えましょう」


「……」


 魅力的な条件を提示されるが、俺は露骨にジト目で疑念を隠さない。


「・・・何ですか、その目は」


「いや、あんたには不信感しかねぇから」


 もはや隠すことすらせず、信用できないという意志を示す。


 すると、ヴォルフは顎を触って口角を上げる。


「ふむぅ……困りましたねぇ。こればかりは、信じてほしいという他ないのですが。しかし、あなたが私を疑うのはもっともでしょう。それならば、こうしましょう」


 理事長はスマホを取り出し、軽く操作しては俺のスマホに通知が届く。


「今届いた内容を確認してください」


 通知を確認してくるように促され、向こうを警戒しつつ画面を見る。


「んなっ…!?」


 その内容は、目を見開くものだった。


 ーーーーー

 極秘特別試験のお知らせ


 対象:2年Dクラス 椿円華様


 内容:1年生内に潜む緋色の幻影からの刺客の捜索


 期間:1学期終了まで


 報酬:学園のルールに抗う権利(権限対象:2年Dクラス一同)


 ※ヴォルフ・スカルテット理事長の権限において、この試験内容を改ざんすることを禁ずる。

 理事長本人含め、不自然な改ざん行為が見られた場合、自動的に報酬は権限対象に付与される。


 ーーーーー


 目を通しながら、俺は顔が引きつった。


「あんた、ここまでするのかよ…?」


「ここまですれば、あなたもモチベーションを保てるのでは?」


 こっちの反応を見て、フフっと大人の笑みを見せるヴォルフ。


 末恐ろしいぜ、この男は。


 持てる権限を利用して、証明してきたやがった。


 自分が本気であるということを。


「罪滅ぼしと言うわけではありませんが、私にできるのはここまでが精一杯です。ここから先は、あなたたち次第ですよ?」


「……これでプラマイゼロになったと思うなよ?」


「ええ。それがプラスになるかマイナスになるかは、あなたの頑張り次第ですから」


 あくまでも、この男は条件を提示しただけだ。


 それを利用するかどうかは、俺が決める。


 時計を見れば、もう15分以上も話していたみたいだ。


 長居していたら、生徒だけでなく教師、組織の人間からも怪しまれる。


 スマホをポケットに仕舞い、背中を向ける。


「おや、私に背後を取られていますよ?」


「……悔しいけど、今はあんたの方が強い。それでも、今は敵意は感じない。俺の知るヴォルフ理事長なら、後ろから襲ってこないだろ?」


 そう言って歩きだし、ドアノブに手をかけて開ける。


 こっちからは別れの挨拶はしなかったが、部屋を出る前にヴォルフが小声で何かを呟いた。


「あの……た…ます、椿くん」


 耳に届いた声が気になり、怪訝けげんな顔を浮かべる。


「何か言ったか?」


「……いいえ。あなたの起こす混沌に、これからも期待していますよ」


 ヴォルフは椅子から立ち上がり、俺を横切って先に行ってしまった。


 明らかに、違う言葉だったのは確かだ。


 それも弱弱しい声だったのが気になった。


「一体、何だってんだ…?」


 疑問に思いつつ、ヴォルフの後ろ姿を見送る。


 その中で、頭の中に相棒の声が響く。


『確かにあの男、妙だな……』


 ここに来て、奴が立ち去った後にヴァナルガンドが反応してきた。


『今の奴からは、あの時に相棒と英雄の弟子を打ち負かした時の覇気を感じねぇ…』


 敵意が無かったから…じゃねぇのか?


『いや、それ以前の問題だ。……今の奴なら、俺様さえいれば、相棒でも勝てたかもな』


 ヴァナルガンドの発言に、俺は眉をひそめる。


 本気で言ってんのか?


『マジだ。それほどまでに、あの男……ヴォルフ・スカルテットからは、強者の臭いがしねぇ』


 ヴァナルガンドは話し方こそ常時強気だが、根拠のない自信は口にしない奴だ。


 そんな相棒がいうなら、本当にそうなのかもしれない。


 増々、意味がわからなくなってきたぜ……ヴォルフ・スカルテット。


 理事長への謎が深まるばかりではあるが、与えられたミッションにも目を向けなきゃならない。


 合同特別試験とは別に、個人として与えられた極秘特別試験。


 完全に、権限の私的乱用だと言われてもおかしくない。


 それでも、その危険を冒してまでヴォルフが与えたチャンスだ。


 今度こそ、誰にも……それこそ、理事長の気まぐれで妨害されたとしても、それを退けて利用してやる気概じゃなきゃ実現できない。


 1年生の中に潜む組織の刺客の捜索。


 期間は1学期終了まで。


 この合同特別試験で、足掛かりを作っておくのが理想か。


 時間も在るようで、無いようなもんだしな。


 まずは自分のペアを固めて、全体を見ることができる立場になれれば少しは余裕が出てくるけど……。


 あの人、マジで連絡よこさねぇな。


 薄目でスマホの画面を見ていると、不意に電話が鳴った。


 それも待ち人からだった。


 電話に出て、最初に出たのは溜め息だった。


「はあぁ~。進藤先輩……マジで連絡遅いっすよ」


 俺が特別試験を発表されてペアに選んだのは、進藤大和しんどう やまとだった。


 生徒会長戦で協力関係にあり、その実力は信用している。


『すまない、生徒会の仕事に追われていた。答えは既に出ていたが、メールを送るの暇も無かったのが現状だ』


「新生徒会長って多忙なんすね」


『学園側からの突然の予定変更だからな。今回の合同特別試験については、俺も寝耳ねみみに水だった。本来は生徒会長も特別試験について言及できる立場であるが、それよりも()()()()から有無を言わさむスタイルを取られれば、こっちも手に負えん』


 つまり、学園側の強硬手段でこの特別試験は決行されたわけか。


 新1年生たちは、この学園の本当のルールをまだ知らないはずだ。


 退学=死。


 これを知らずに退学を迎えれば、残酷としか言いようがない。


『ちなみに、おまえからの誘いへの答えを率直に伝えても良いか?』


「こっちかもお願いして良いですか?ずっと返事待ってたんで」


 そう言いつつ、答えはもうわかっている。


 先輩は堅実な人だ。


 実力がわかっている俺と手を組んだ方が、合理的だとわかっているはずだ。


 そして、その返答はこうだった。


『悪いが、丁重に断らせてもらう』


「・・・マジっすか!?」


 おーっと、早速こっちの予定が狂ってきたぜ。


 思わず、顔が引きつって苦笑いするしかなかった。


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