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合同特別試験

 円華side



 新年度が始まって、2週間が経ったある日。


 約1年もここで学園生活を送っていれば、教師が教室に入って来た時の空気の変化で察しがつく。


 牧野が教室に入り、教壇の前に立ってはタブレットを操作した瞬間、俺たちのスマホから一斉にスマホの通知音が鳴った。


「たった今送ったのは、今年度最初の特別試験の詳細になります。みなさん、各々で確認を」


 淡泊な言い方で、送られたメールを確認するように促してくる。


 2年生になって最初の特別試験。


 その詳細は以下の通りだ。


 ーーーーー

 合同特別試験の開幕について


 対象:1、2、3年生


 内容:5教科の筆記試験及び実技試験


 人数:別学年同士の2人ペアで行うものとする(ペア結成期間:本日より2週間)。

※ペア決めは生徒間で行うものとし、試験実施1週間前に申請を出すこと。期間内にペアが決まらなかった場合、学園側がランダムに決めることとなる。

※事前に1名のみで参加することも可とするが、その場合は事前に能力点(アビリティポイント)を10万支払う必要があるため注意されたし。


 なお、今回はランキング形式となっており、下記の条件を承服されたし。


 特別報酬:上位10%に入ったペアには、ペアの総合得点の平均×100の能力点アビリティポイントを付与する。

 ※1名のみで受験した場合、総合得点÷2×200の能力点を付与する。

 ペナルティ:下位10%に入ったペアには、ペアの総合得点の平均×100の能力点アビリティポイントを剥奪する。

 ※1名のみで受験した場合、総合得点÷2×200の能力点を剥奪する。


 この特別試験において能力点が0になった生徒は退学処分となる。


 ーーーーー



 また面倒な試験を用意してくれたもんだぜ。


 別学年同士でペアを作って試験に挑めって?


 しかも、新年度に入って最初の試験でこれかよ。


 俺が苦い表情をしている間に、牧野が説明を始める。


「今回、あなた方に求められているのは『交渉術』です。自分の特性を見極め、相手の情報を把握した上で、協力関係を築くことが重要です。また、1つの指標として、学園よりアプリを用意しましたので、みなさんダウンロードをお願いします」


 そう言って、後ろのスクリーンにQRコードが映し出される。


 それをスマホの画面で読み込めば、それはすぐにダウンロードされた。


 青い背景に白い文字で『SAS』と表記され、その下に英語でつづられているものを読む。


 Search Ability System?


 日本語に訳すと能力検索機能ってか。


 それをタップすると、画面は切り替わり、「マイページ」「クラス情報」「生徒検索」のメニューが出てくる。


 試しにマイページを開けば、映し出される情報を確認する。


 ーーーーー

 椿円華 学年:2 クラス:D 部活:帰宅部


 ステータス

 学力:A

 運動:B

 対人関係:C

 思考力:B

 洞察力:A

 統率力:E

 ーーーーー


 なんじゃ、こりゃ。


 見方としては、A~Eの5段階評価だ。


 順当に考えたら、Aが高くてEが低いってことだよな。


 ……ってことは、俺って対人関係は普通ってことかよ。


 統率力って言われたら、柄じゃねぇけどさ。


「Search Ability System。今後はSASと呼びましょう。こちらは今後も、あなた方の能力を把握するために、リアルタイムで更新される指針となります。最高評価はSで、最低評価はEとなります。この学年では、評価Sを持っている方は数人程度と聞いておりますが、このクラスには存在しません。評価Aがあったとしても、今後も精進してください」


 間違えた、まさかの6段階評価かよ。


 Aで最高だと勘違いしていたのが恥ずかしい。


 牧野の説明からするに、このアプリを使ってレベルが高い生徒を選抜しろってことだよな。


 しかも俺たちからしたら、1年生か3年生からペアを決めなきゃいけないってわけだ。


 こう言うの、コミュ力が低いと難易度たけぇよな。


 交渉力……。


 また難解な特別試験だぜ。


 他学年とのペアということで、最初に思い浮かんだのはあの人だ。


 手堅く勝利を取りに行くなら、あの人も俺と組むことを選ぶと思う。


 まずは連絡を取ってからだな。



 ーーーーー



 合同特別試験の説明が終わった後は、牧野が退室して自由時間となった。


 クラスとして戦略を立てるなら、中心となるのはやっぱり成瀬と真央になる。


「まずはみんなのステータスを把握しましょう。学力と実技、両方を試されるのなら、1人1人に合った戦略を立てなきゃいけません」


「そうね。みんな、マイページのステータスを確認させてもらうわね」


 真央の提案に成瀬が同意し、1人1人のステータスをメモに書き起こしていく。


 1人1人に合った戦略か。


 言うは簡単だけど、それを2週間の内でやるってなると時間が相当限られる。


 それに、このクラスだけでどうにかできる試験じゃない。


「やべぇな……。いろんな意味で」


 そう呟いたのは、前の席に座っている基樹だ。


 いつも表面上の陽気さが消えており、素で呟いたように聞こえた。


「どうした、基樹?」


「この試験、俺たちに試されているのは交渉力だけじゃないはずだ。多分、これは取り合いでもあり、押し付け合いになる」


 基樹には既に、この特別試験の先が見えているみたいだ。


 取りあいと押し付けあい。


 前者はわかるけど、後者はどういう意味だ?


 あとで聞いてみるか。


 前の方にばかり気を取られていると、後ろから不穏なオーラを感じる。


 恐る恐る、ゆっくりと後ろを振り返れば、そこには両肘を机に突き、顔の前で手を組んでいる恵美が居た。


 前髪で影ができており、身体から放たれるオーラは言うまでもなくドス黒い。


「交…渉…力…。ナニソレ、オイシイノ…?」


 うわぁ~、カタコトで変なことを呟いておられる。


 試しに恵美のことを、学年、クラス、名前を入力してSASで検索してみる。


 ーーーーー

 最上恵美 学年:2 クラス:D


 ステータス

 学力:C

 運動:D

 対人関係:E

 思考力:C

 洞察力:B

 統率力:E

 ーーーーー


 うわぁ~、対人関係が思いっきりEじゃねぇか。


 確かにこいつ、極度の人見知りだった。


 今回の特別試験、恵美にとっては最初から最悪な状況ってわけか。


 これは誰かがフォローしねぇと、ペア作るなんて夢のまた夢だぜ。


 周りを見ると、自分のマイページを見て絶望する者や、部活や委員会の先輩を検索してペアになるか迷っている者も居る。


 部活とかで縦の繋がりがある奴は強いよな、こういう時。


 考えてみれば、こっちが生徒の能力を検索することができるってことは、誰かも自分の能力を検索することができるってことだ。


 こっちが選ぶ側なのか、選ばれる側なのか。


 このSASに表示されるステータスが、1年間の実力から算出さんしゅつされたものなら、それは周りから見た評価も厳しいものになる。


 思ったよりも、これに書かれている6段階評価は重要な意味を持ちそうだ。


 何の情報も無い者からしたら、これが交渉相手として選ぶ指標になる。


 俺自身も、2つの内のどちらなのかわかったもんじゃない。


 いや、正確には両方なんだろうな。


 特別報酬が関わってくるランキング形式になっている以上、ペアを組む相手は慎重に選ぶことになる。


 ペナルティも総合点×100を剥奪はくだつってなると、できるだけ高い報酬を得るために学力と身体能力が高い者が引っ張りだこになる。


 そしたら、選ばれる側もその中で評価が高い者と組むことは確実だ。


 選ぶ側でもあり、選ばれる側でもあるわけか。


 中には、1人で挑む者も居るだろう。


 たった1人で全ての試験を受けるには10万の能力点を払う必要があるらしいが、それは裏を返せば、それだけの能力点が無ければ、このルールを覆すことができないことを意味している。


 言うまでもないことだけど、正直俺にそこまでの能力点は無い。


 どうしても、ペアを組む必要があるってわけだ。


 俺の場合、最悪の場合はランダムでペアを組まされた場合、組織の人間……牧野が言っていた、サーヴァントが当てられるかもしれないな。


 そうなったら、確実に俺の邪魔をしてくるはずだ。


 能力点が0になったら退学になるというルールに則り、それを狙ってくる可能性も考えられる。


 組織が俺を用済みと判断したのなら、退学という大義名分を利用して排除しようとする未来が、いつか訪れる可能性も無くは無いからな。


 これからの立ち振る舞いは、去年以上に慎重にならなきゃいけないわけだ。


 面倒なこと、この上ねぇな。


 それにしても、このSASには気になる部分がある。


 このシステムは、この特別試験限定だとは言っていなかった。


 と言うことは、今後もこれを使用したものが用意されているかもしれない。


 SASを怪訝な目で見ていると、画面にズズズッとノイズが入っては勝手にダウンロード画面に切り替わった。


「は…?何だ、これ!?」


 ダウンロードはすぐに終わり、画面はSASのものに切り替わった。


 しかし、先程までの青い背景ではなく、赤い背景に黒い文字に反転している。


 SASという表記は同じだ。


 だけど、そこに項目が追加されていた。


 『異能検索』。


 マジかよ……。


 周りを見ると、俺のスマホ以外に変化は見られない。


 後ろを見ても、恵美はスマホを見たまま、特別試験に頭がいっぱいの状態だ。


 俺のアプリだけに、これがダウンロードされたってことかよ。


 そして、1通のメッセージが届いた。


 ーーーーー


 私からの進級祝いです。

 お役立てください。


 ーーーーー


 ノーネームで表記されており、誰なのかはわからない。


 だけど、これが学園側が用意したものじゃないのは確かみたいだ。


「別の意味で、能力検索機能ってか……。笑えねぇぜ」


 恐る恐るタップしてみると、そこには名前の表記は無かった。


 代わりに「継承」「同調」などの単語の表示がされている。


 試しに一番上の「継承」をタップすると、そこには俺の名前と顔写真があった。


 ーーーーー

 「継承」


 使用者:椿円華

 内容:他者の異能を継承し、使用することが可能。(継承条件:???)



 ーーーーー


 継承……。


 言われて見れば、しっくりくる単語だ。


 高太さんは俺の力を、受け継いだものと言っていた。


 その方法はわかってねぇけど、それはこのアプリでも知ることはできないらしい。


 他の単語も適当にタップしてみるが、押したものは全て「???」で表記されていた。


 これに関しては、自分で見つけ出さなきゃいけないわけか。


 1年生の中に潜む超越者エクシーダー


 2つのSAS。


 3学年合同特別試験。


 全ての要素が、偶然には思えなかった。

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