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担任交代

 2年生が始まる、最初の朝礼。


 教室に着いて、いつもの席に着いては、いつもの面子が集まってくる。


「なぁなぁ、円華!新入生見たか!?今年の女子、可愛い子が多くね!?」


「あの初々(ういうい)しさが良いよなぁ~。俺も頼れる先輩ってことで、慕われることがあったしてぇ‼良い響きだよな、先・輩!」


 川並と入江が、新1年生への妄想に浮かれている。


 その様子を、遠目から軽蔑の目を向けられているとも気づかずに。


「新入生?あぁ~、何かぞろぞろと人混みができていたと思ったら、それでか」


 地上に上がった時、一瞬だけ紅の世界が見えたことを思い出す。


 複数人に見えた、赤黒いオーラ。


 あれは絶対に普通じゃない。


 あの集団のほとんどが1年生なのだとしたら、異能力者が既に紛れているってことか。


 異能力者……確か、魔女は超越者(エクシーダー)と呼んでいた。


 異能の力に目覚め、人間を超越した存在。


 十中八九じゅっちゅうはっく、組織の人間だろうな。


「……何かあった?」


 後ろから声をかけられ、横目を向ければ怪訝な顔を浮かべている恵美が首をかしげてこっちを見ていた。


「ちょっと……気になることがあったんだ。あとで話す」


「そっか。何でもないって誤魔化さないなら、少しは安心」


 いつもの俺の行動から、そうすることも想定していたようだ。


 確かに、確証が得られないことを話すのは好きじゃない。


 それでも、恵美の場合は話は別だ。


 異能が関係するかもしれない事案は、俺1人で解決することができないのは去年で嫌と言うほど学んでいる。


 協力できる存在が居るなら、情報共有するのは必須事項だ。


 周りは春休み中の話や、新1年生の話で盛り上がっている中で、そろそろ朝礼の時間になる。


 また、趣味の悪いサングラスをかけた白衣の教師が、棒付きキャンディーを口にくわえながら、気だるげな顔で教室に入ってくる姿が想像できた。


 ガラガラガラッ。


 教室のドアが開けば、カツっカツっカツっとハイヒールの音を響かせながら入ってくる女教師の姿があった。


 ・・・は?


 女は教壇の前に立ち、手に持っているタブレットを置いてこっちに貼りついた笑顔を向けた。


「おはようございます、皆さん。朝礼を始めましょう」


 さも当然かのように、女は朝礼を始めようとする。


 そこに「ちょっと、待ってください」と言って席を立つのは、学級委員の成瀬だった。


「あなたは、Cクラスの担任教師……牧野乱菊まきの らんぎく先生、ですよね。岸野先生は、今日は遅刻ですか?それとも、体調不良でお休み?それにしても、他のクラスの担任であるあなたが、そこに立つのはどうしてですか?」


 突然のことに、頭が現実を受け入れることに時間がかかっているのだろう。


 表情からして、動揺しているのがわかる。


 しかし、この場に居る全員の疑問をそのまま言葉として表していたのは確かだ。


 成瀬の疑問に対して、彼女は貼りついた笑みを崩さずに答えた。


岸野敦きしの あつし先生は体調不良により、長期間の()()を余儀なくされました。緊急処置として、今日からは私があなたたちの担任となることになりましたので、よろしくお願いいたします」


 そう言って、軽くお辞儀をする牧野先生。


 だけど、そんな簡潔な説明だけで納得できるはずも無かった。


 入院ってことは、岸野は今、学園の外に居るってことだ。


 今更だけど、この学園に病院は無い。


 風邪などにより体調不良になったら、学園に申請して指定された病院に通院することはできる。


 それでも、あの人が俺たちに……いや、少なくとも、俺に何も言わずにこの学園を離れるなんて不自然だ。


 教室内に漂う疑問と不信感を無視し、牧野先生は言葉を続ける。


「あなたたちとは、ほとんど初対面のような間柄です。しかし、岸野先生からは可能性を秘めた生徒たちであると、お話は聞いています。確かに私も他クラスの担任ではありましたが、あなたたちの成長、躍進やくしんは目を見張みはるものでした。2年生になっても、あなたたちの成長に期待しています」


 飾っている言葉は綺麗だけど、その裏に黒い想いを感じるのは何故だろうか。


 直感的に、俺はこの女に不信感を抱いている。


 あの貼りついた笑みの下から感じる『何か』に対して、信じてはいけないと本能が警告してくる。


 牧野先生は、軽い自己紹介を済ませただけで出席を取り始める。


 その間も懐疑的な目を向ける中で、すぐに俺が呼ばれる番となった。


「椿円華くん」


「……はい」


 返事をして、教壇と窓側の後ろの席で距離があるにも関わらず、互いに視線が合うのがわかった。


 それも友好的とは真逆の目だ。


 そして、俺の目を見て、彼女の口角が微かに動いたのがわかった。


 様々な疑問と戸惑いが残りながら、朝礼はつつがなく終わった。



 ーーーーー



 2年生になって最初の始業式。


 学園長は1年生の入学式の方に出ているから、2年生の方は学年主任の間島先生が進級したからと言って気を抜くなって感じの注意をしてくるだけで終わった。


 だけど、SからEの全てのクラスが揃ったことところで、この学年の現状と疑問が浮き彫りになった。


 担任教師の交代が起こったのは、俺たちDクラスと柘榴のCクラスだけみたいだ。


 向こうの担任は、見たことが無い女教師だった。


 間島先生が始業式の初めに、軽く担任の交代と共に彼女のことを紹介していた。


 名前は榎本里沙(えのもと りさ)


 鋭い吊り目をした女で、周りを寄せ付けない冷たい雰囲気を放っていた。


 新任教師をわざわざ、DクラスではなくCクラスの担任にするなんて。


 それもわざわざ、牧野先生をこっちに移動させてまで。


 何か、意図があるとしか思えねぇな。


 そして、変わったのは教師だけじゃない。


 体育館に入った時、Aクラスの列の中に新顔が居たのが目についた。


 梅原改うめはら あらただ。


 あいつは確か、Bクラスに居たはずだ。


 能力点アビリティポイントを使って1人だけ昇級したのか?


 それとも内海の時のように、Aクラスの誰かがあいつを買収したのか。


 どちらにしても、今のAクラスからは以前感じていた陽気さが消えている。


 一瞬だけ見えた和泉の顔は、前髪に隠れて見えなかった。


 そして、雨水も復帰はしたみたいだけど、浮かない顔をしていた。


 あのクラス、何かがあったのは確かみたいだな。


 他に不穏な空気って言ったら、Eクラスか。


 やっぱり、内海景虎が復帰したってことでクラス全体の不安さが奴に向いているような気がした。


 この目に見える変化だけでも、不穏な空気しか感じない。


 始業式が終わった後、教室に戻っては終礼を迎える。


 今日はただ新年度の始まりを告げる式だけで、昼を迎える前に終礼になった。


 ほとんどのクラスメイトが、部活や遊びに行くなどの個々の事情で教室から出て行く中で、俺も鞄を持って早々に退室しようとする。


 しかし、その前に「椿円華くん」と名前を呼ばれてしまった。


「……何か?」


 呼び止めてきたのは、牧野先生だ。


 糸目を向けてきながら、俺にハイヒールの音をカツっカツっと鳴らして近づいてくる。


「あなたとは、1度話をしてみたいと思っていました。時間をいただけますか?」


「それは担任としての命令ですか?」


「そう思いたければ、ご自由に受け取っていただいて構いません」


 否定しないところから、そう言う意味合いもあるってところか。


 後ろから恵美が警戒するような視線を彼女に向けるが、それを気にめる気も無いようだ。


 向こうから接触してくるとはな。


 増々(ますます)、こっちの不信感が強くなる。


「わかりました。()()待たせてるんで、世間話をするにしても手短にお願いします」


「善処しましょう」


 そう言って、場所を変えては人気ひとけのない選択教室に通される。


 机と椅子が用意されており、空間を開けた状態で対面するように椅子がもう1つ配置されている。


「どうぞ、おかけください」


 右手を前にして着席するように促される。


「まるで面接のような配置ですね」


「少し早い2者面談のようなものだと思ってください。少しでも、みなさんのことを知りたいですから」


 席に着いては、俺はまっすぐに牧野先生に鋭い目を向ける。


「……恐い目をしますね。私への警戒心が丸わかりですよ?」


「わかりませんか?わざとですよ。あなたには、心を許しちゃいけないって直感が言っている」


 隠さずに不信感を露わにすれば、彼女の口角が下がる。


「私は岸野先生に代わり、あなたのことを任されています。当然ながら、あなたの素性も把握しています。昨年亡くなった椿涼華先生のご家族であり、この学園には目的をもって来ている」


 手元のタブレットの画面を見て、人差し指でスライドさせる。


「椿家は桜田家の分家として、暗殺稼業という汚れ役を担っていた存在。あなたはそこで技術を学び、幼少期から人の命を奪ってきたようですね。そして、小学生卒業と共に渡米とべいし、アメリカ軍に所属して対テロ特殊対策チーム『ラケートス』にてテロリストを葬って来た。その時のあなたの異名は、右目を隠す眼帯と長い赤茶色の髪から隻眼せきがん赤雪姫アイスクイーン


 俺の情報を握っていることを証明するかのように、淡々と読み上げている。


「そして、1年前に椿先生が亡くなった時期から少し経った後、自らを死んだことにして日本に戻り、昨年度の6月にこの学園に転入してくる。目的は椿先生を殺した犯人への復讐……。あまり、褒められたものではありませんね」


「別に誰かに褒められたくて選んだ道じゃない」


 牧野の貼りついた笑みに、冷たい視線を向けながら言葉を返す。


「今更、べらべらと人の過去を語って、自分は全ての情報を握っているっていうアピールですか?言いたいことがあるなら、はっきり言ってください」


 前置きはこの辺で終わらせ、本題に入らせようとする。


「言いたいことですか……。では、大人として、新しい担任として、子どもであるあなたに最初の助言をさせていただきましょう」


 牧野先生の糸目が開き、その瞳が見える。


 その瞬間、俺は反射的に自分の左目を押さえた。


「牧野先生……あんたは…!?」


 彼女の目は網膜が黒く染まっており、瞳は紅く染まっている。


「聡明なあなたのことです。始業式の時点で疑問に思ったことでしょう。何故、新任教師をCクラスの担任にしてまで、私がこのDクラスに移動したのか……。学園側が、何を目的としているのか」


 図星を突かれ、その答えは目に見える形で現れていた。


「その疑問にお答えしましょう。私はあなたの敵として、このクラスに派遣されました。どんな手を使おうとも、あなたの復讐を邪魔するつもりですのでご容赦ください」


 口角を上げ、妨害することを面と向かって宣言してきやがった。


 組織は完全に、俺を封じ込めるつもりでいるようだ。


「マジかよ……」


 思わず、顔が引きつってしまった。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼


2年生序盤から、円華くん劣勢‼

VS牧野先生の火蓋が切って落とされる。

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