探し人
???side
冬の冷たさが薄れ、気持ち良い温かい風が吹く春になる。
春は別れの季節でもあり、出会いの季節でもある。
そして、何事においても新しいことが始まる時期だ。
50人乗りのバスに揺られて、僕らは目的地に向かっている。
ここに居るのは、同じ制服に身を包んだ男女。
かく言う僕も、彼らと同じ制服に身を包んでいる。
一番後ろの端に座り、隣には男子が座っているけど、昨日は寝不足だったのか目を閉じて寝てしまっている。
これから高校生になるっていうのに、何の緊張感も無いようだ。
その子とは違って、僕は少し気が焦っており、外を見て気を紛らわそうとしても胸がざわつく感覚があった。
鞄から1つの手紙を取り出し、紙を取り出して書かれている文に目を通す。
ーーーー
真咲空雅へ
入学試験、合格おめでとう。
私立才王学園で待つ。私を見つけてみせろ
父より
ーーーー
そう書かれた一通の手紙が、僕にこの学園に来る意味を与えた。
最初は、母子家庭で進学するかも決められなかった僕に、先生が強く薦めてきたから受験しただけだった。
それをただ何となく迎えるはずだった高校生活に、明確な目的を与えたんだ。
僕……真咲空雅は、生まれた時から父親の顔を知らない。
母さんに聞いても、答えてくれることは無かった。
ずっと、母1人で僕を育ててくれたんだ。
そして、僕と母さんを置いて行った父親が僕を待っている。
その事実に、強く興味が惹かれた。
この手紙を母さんに見せた時、驚いていたのを覚えている。
信じられないというように、目を見開いていたんだ。
そして、僕が父親を探そうとすることを止めなかった。
決して、多くを語ってくれたわけじゃない。
それでも、1つだけ母さんは繰り返し話してくれていた。
『お父さんは、私たちを見捨てたわけじゃないのよ』
その言葉の意味を、本人に会って確認したかった。
だからこそ、会いに行く。
きっと、手紙の内容から、僕を見つけても名乗り出ることは無いのだろう。
それでも、見つけ出してみせる。
会った時、僕はどう思うんだろうか。
まだ会ったこともない父親のことで、思考のほとんどが占められる。
そして、そんな中でバスは目的地に着いた。
順番に降車していけば、前後に同じようなバスが並んでいて同じように人が出てくる。
人混みの中で、目の前に立つものを見上げては顔が引きつった。
分厚くも高い、黒い壁に覆われた学園都市。
世間的にも、公表されている情報は少ない。
その中に、いよいよ足を踏み入れ、壁の中に入る。
そして、その壁の内側に広がる景色に目を奪われた。
「ここが……私立才王学園」
広大な敷地の中に立つ校舎と、その中で歩く人の群れ。
そのあまりの多さに、見ているだけで酔いそうになったためすぐに校舎内に入った。
改めて、要らないかもしれないけれど自己紹介をしようと思う。
僕の名前は真咲空雅。
今日から、この私立才王学園の新1年生になる。
この学園に来た目的は人探しと、一応青春を謳歌するためだ。
ーーーーー
円華side
『バイバイ――――』
パァ――――ンッ‼
「うわぁあああっ‼」
悪夢から跳び起きて自分が部屋の中に居ることを実感した時、それが夢だったと気づく。
右手で頭を押さえ、「はあぁ~~」と深い溜め息をつく。
「また……夢か」
頭の中から離れない光景がある。
春休みの最後に、魔女から告げられた世界の真実。
そして、彼女が目の前で頭を撃ち抜かれた現実。
この時のことが、忘れられない。
人が死ぬ瞬間を、久しぶりに目撃した。
あの時、妙な感覚に襲われた。
魔女の頭が撃ち抜かれた瞬間、その時の彼女の顔が姉さんとダブって見えた。
あれは一体……。
あの日から、何度も同じ夢を見ては苦悩する朝が続いている。
結局、魔女の遺体は学園側に回収され、第一発見者の俺に疑いはかかったけど、それも証拠不十分ということですぐに晴れた。
それでも、俺の目の前で木島江利という学生が死んだ事実は変わらない。
あいつは、自分が死ぬことをわかっていたようだった。
いや、殺されることを計算に入れているような言い方だった。
そして、あの一瞬だけ見えた姉さんの幻影は……。
『今日から新しい学年になるってのに、辛気臭い顔をするのは変わらねぇな、相棒』
隣から声が聞こえ、視線を横に向けると漆黒の狼が視界に映る。
文句を言ってきては、口を開いて欠伸をしてくる。
『全く、ただでさえ寝不足だってのに、毎朝毎朝気持ち悪い気分で起こしやがって。おまえと俺の感情は繋がってるんだって言ってんだろうが。少しは頭を切り替えやがれ』
「……悪い」
素直に謝れば、それは求めていた態度ではなかったのか、呆れたようにハンっと吠える。
『さっさと着替えて準備しろ、遅刻すんぞ……。あ、顔洗うの忘れんなよ!歯も磨けよ!』
「一々るっせぇな……」
最近、ヴァナルガンドの小言が段々と増えてきて耳が痛い。
そして、こいつと話してると現実に頭が戻され、悩んでることから頭を切り替えられる。
ベッドから降りて、言われた通りに洗面台で顔を洗って、歯も磨いてから制服に着替える。
さして変化していない自分の童顔を見ながら、目尻が下がる。
「新2年生か……。まさか、この学園で春を迎えることになるなんてな」
元々、復讐が目的でこの学園に転入してきたんだ。
姉さんの仇を討ったら、その先のことは何も考えてはいなかった。
それが今では、俺には復讐以外の目的ができた。
やっとできた俺の居場所を……恵美たちを守る。
そのために戦うと決めた時から、俺はただの復讐者ではなくなった。
守るための復讐者。
そんな生き方を選べるようになったのも、この学園での戦いを経験してきたからだと思う。
身支度を整え、部屋を出ては通学路に着く。
地下街を抜けた先にある並木道まで、ボーっと歩いていると1本の桜の木に背中を預けている男に視線を引かれた。
「……マジかよ」
乱れた黒いをしている、俺と同じく制服を着ては少し猫背になっている。
その顔を見るのは、1年生の2学期ぶりだ。
向こうも俺の存在に気づき、こっちを見てはフッと笑ってきた。
「よぉ、久しぶりだな。椿」
「内海……」
内海景虎。
ここ最近、全く姿を見なかったことから、勝手に死んでいると思っていたが…。
「まさか、またおまえの顔を見ることになるなんて思わなかったぜ。2学期の柘榴との戦いで、毒で死んだと思ってた」
「嘗めんな、あんなので死ぬ俺じゃねぇ。……まぁ、あの経験で毒には強くなったけどな」
木から離れ、こっちに向かって歩み寄ってくる。
「俺が居ない3か月間で、おまえも随分強くなったみたいだな」
「……そう言うおまえも、面構えが違う」
この並木道は、1度俺とこいつが殴り合った場所だ。
あの時の内海は狂気に呑まれて、俺を殺すことだけを求めていた。
結果としては、俺が返り討ちにしたわけだけど、こいつが最後に流していた涙は強く記憶に残っている。
そして、目の前に居る内海からは、あの時の狂気は感じない。
代わりに正反対の、静かな闘志を向けてくる。
「何があった?何で3学期中、1度も姿を現さなかったんだ?おまえ、何を……」
疑問が次々と浮かんで聞くが、それに内海は素直には答えない。
ただシンプルに、一言で済ませた。
「おまえをぶっ倒すための準備をしていた。そのために、3か月もかかっちまった。それだけのことだ」
そう言って、人差し指を向けてくる。
「俺は今日、Eクラスで復学する。今日は久しぶりに面を見たかったのと、宣戦布告に来ただけだ。おまえは必ず、俺が倒す」
内海の目から伝わってくるのは、純粋なる対抗心だ。
こいつは本当に、今日までの期間で俺に勝つことだけを目標に自身を鍛えていたのが伝わってくる。
それだけでなく、俺自身も内海から感じる闘志に反応する何かがあった。
何故だろうか。
今まで、そんなことを気にしたことも無いのに。
俺は今、目の前の男に敗けたくないという想いを抱いていた。
「だったら、かかって来いよ。挑んでくるなら、今度も返り討ちにするだけだ」
これは挑戦を受け入れるという意思表示であり、その言葉に満足したのか内海は歯を見せて笑う。
「勝つのは俺だ。そのために、力も手に入れた。これでおまえと戦える日が、待ち遠しいぜ」
奴は首から下げている、趣味が悪そうな五芒星のネックレスを見せてくる。
それからは異様な覇気が伝わってきては、怪訝な表情を浮かべてしまう。
「まさか、それは…!?」
「ここでネタ晴らしをするつもりはねぇ。言っただろ?今日はただの挨拶に来ただけだ。あと少しで朝礼が始まるぜ?」
そう言って、内海は用は済んだというように踵を返してエレベーターに向かう。
「朝礼って……。おまえ、絶対にそういうの気にする奴じゃねぇだろ」
半目で言いながら、少し距離を開けて俺も同じ方向に向かった。
内海景虎の復学。
それもEクラスからとは…な。
木島江利が死んだ今、あのクラスは頭を失ったのと同義になる。
そこにあいつが投入されるとなると、先が見えなくなってくる。
ただの烏合の衆として、まとまり無く進んでいくのか。
あるいは、新しいリーダーが頭角を現して導いていくのか。
後者の場合、その可能性があるとすれば……。
エレベーターで地上に上がり、周囲を見渡すと人混みができていて目を疑う。
「なんじゃ、こりゃ……」
速攻で地下に戻りたい気持ちを堪えながら、前を進んでいるとドンっと肩がぶつかった。
「あ、す、すいません‼」
「いや、こっちこそ、悪かったな」
ぶつかったのは、薄紫色の髪をした少年だった。
俺の顔を見ると、ペコペコと頭を下げて離れて行ってしまう。
その後ろ姿を見ていると、スゥーンと視界が一瞬だけ紅に染まる。
って、おい…‼こんな時に!?
左目の瞳が所かまわず、視界を変えてくるのは今に始まったことじゃない。
それでも、この変化には慣れない。
そして、こういう時は決まって、嫌なことが起こるんだ。
「……はぁ?」
視界に映った、複数人の男女。
それはシルエットしかわからず、早々に俺から離れて行く。
疑問に思ったのは、そのシルエットから放出されていたオーラだ。
紅かった。
いつか、クイーンを見つけた時と同じ感覚だった。
それも複数人に、同じ反応があったんだ。
その反応の中には、さっきぶつかった紫髪の男も含まれていた。
「まさか……な」
新年度早々に、不吉なものを視てしまったぜ。
感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼




