いつか、また
恵美side
円華への仕返……じゃない、仲直りをした後、部屋を出れば玄関先でマナが待っていた。
「終わりました、先輩?」
「マナ……」
彼女は平静を装っているように見えるけど、少し様子がおかしい。
呼吸が少しだけ、大きくなっているような気がする。
「何をしていたの?ここでずっと、私のことを待っていたわけじゃないよね」
「ぶらっと散歩……いや、ランニングですかね?身体動かしてました」
「散歩……ね」
そんなことを言っているけど、違和感が大きい。
マナはずっと、私と一緒に行動していた。
その間、ずっと人目を気にする様子が見られていた。
誰かを探しているのか、それとも誰にも見られたくないと思っているのか。
彼女は私に、自分のことを語ろうとしない。
探ろうとすれば、それを強く拒絶される。
だけど、これまでの行動に感じていた1つ1つの大きな疑問が、自分の中で抑えるには限界が来ていた。
「場所、変えようか。私もちょっと歩きたくなってきたし」
「えっ…部屋に戻るんじゃないんですか?」
「気分転換。ずっとモヤモヤしてた問題が、解決したことだしね」
円華とのわだかまりが無くなったことで、気分が少し高揚しているのかもしれない。
それを自覚しつつも、今からすることを止める気はなかった。
移動した先は、私たちが1週間前に出会った場所。
路地裏の細道。
「……先輩、どうしてここに?」
「ちょっと、気になったから原点に戻ろうと思ってさ」
そう言って、マナの方に身体を向けて少し笑んだ顔を向ける。
「マナ……ありがとね。円華と仲直りできたのは、あなたのおかげだよ」
まずは感謝を伝えれば、彼女は頭の後ろを掻いて照れる。
「い、いやぁ~、そんな感謝されるようなことじゃないですってぇ~。まぁ、良かったんじゃないですか?話聞いてる限りじゃ、気難しい面倒そうな男だったみたいですし。あんなので役に立ったなら、良かったですよ」
言葉の途中から、私の笑顔は段々と消えていく。
それを察したのか、マナは苦笑いを浮かべる。
「あ、また私……変なこと言っちゃいました?」
「ううん、そんなことは無いよ。ただ、不思議だなって思ってさ。単刀直入にきくけど……」
言葉の間を一呼吸置いてから、スゥっと息を吸って疑問を投げかける。
「マナは私の両親……最上高太と最上優理花のことを知っているんじゃないの?」
「・・・」
すぐには、答えは返ってこなかった。
肯定も否定もせず、黙って立ち尽くしている。
言葉を探しているのか、何かを言おうと唇を上下に小さく動かしている。
言い訳をされる前に、今まで感じていた違和感を伝える。
「この1週間、私にご飯を作ってくれていたよね。あの時のメニューとか、味付けとか、お母さんに近いものだった。あれはどうして?」
「そ、それは偶々、偶然だっただけかもしれないじゃないですか」
口を開けば、それは偶然だと逃げられる。
確かに、それはあり得るかもしれない。
「じゃあ、何で仲直りに耳かきなんて提案してきたの?あれだって、お父さんとお母さんが仲直りする時にする方法なんだけど」
「い、いやぁ~。大体?そう言う時はスキンシップみたいな感じで、そういうことをすれば良いって、何かの本で読んだことがあるんですよねぇ~。何だったかなぁ~」
明らかに怪しいし、誤魔化しているのが丸わかり。
だけど、あの時のことが苦し紛れの嘘じゃないとしたら、話は別になる。
あの秘密は、家族しか知らないことだから。
「レーヴェン・シュバルツァー」
その名前を呟いた時、マナはビクッと肩を震わせる。
「その作者の最新刊、マナは実家にあるって言ってたよね。でも、それはあり得ないんだよ。あれは当日発売のもので、その前に持っているはずが無いんだよ。ある例外を除いてはね」
「そ、それはぁ……」
鈴城紫苑からの情報を聞いて、違和感が無かったわけじゃなかった。
だけど、それは私の中でありえないと思っていたからかもしれない。
ありえないと、信じたかったからかもしれない。
それでも、私はもう逃げることはできない。
だからこそ、その事実と向き合う覚悟を決めた。
人目を避けつつも、私と接触してきた事実。
レーヴェン・シュバルツァーのことを知っていた事実。
お母さんの料理を再現できた事実。
それら全てが、点と点で繋がって見えてきた答えは―――。
「マナってもしかして……私が知らない、隠し子…なんじゃないの?」
「・・・へ?」
こっちは真面目に言ったのに、マナは目が点になっている。
呆気に取られた顔になっており、顔が引きつっている。
「隠し子……。え?何で…?」
「だって、マナも知っているんでしょ?あの秘密を。だから、家に本があるって言ったんじゃないの?」
「……いや、ごめん、先輩。話が繋がらないんですけど。本を持ってることと、その秘密って何か関係あるんですか?」
マナは頭を押さえ、眉をひそめている。
これはしらばっくれているのか、演技なのか。
だったら、直接言うしかない。
「関係あるも何も……。著者なんだから、発売日前に完成したものが本人の所に届くのは当然でしょ?」
「著者?だ、だだ、誰が…?」
「だから、お父さんのことだよ。レーヴェン・シュバルツァー。あれは最上高太が引き継いだペンネームなんだよ」
このことを知っているのは、家族だけ。
ファンである円華にすら、話していない真実。
もしかしたら、私に隠されて育った子どもが他にも居た可能性はある。
そう思って聞いてみたわけだけど、その衝撃は大きなものだったらしい。
「え、えぇ~~~~~~!?レーヴェン・シュバルツァーがパパアァ~~~!?嘘ぉ~~~~!?」
パパ。
今、はっきりと大声でそう言った。
ヘッドフォンで耳を塞いでノイズキャンセルしながら、ジト目で「やっぱり」と呟いた。
「今、パパって言ったよね?絶対に言ったよね?」
「あっ……」
マナは思わず口を両手で塞ぎ、目を泳がせる。
「お父さんの秘密は知らなかったみたいだけど、それはもう良いよ。でも、やっぱり……マナは、私と姉妹なんだね」
「えーっと、それはぁ……だからぁ…」
ここまで来たら認めると思ったけど、マナは言葉を探しているように見える。
「詳しくは言えないんですけど……とりあえず、ごめんなさい。確かに私は、先輩に大きな秘密を隠しています。それを見抜かれて、正直動揺しちゃってます…」
マナは真剣な目をしており、その気持ちに嘘は見えない。
「そして、私がそれを話したら、この時代を歪めてしまう。だから―――」
何か重要なことを言おうとした瞬間、マナの身体に変化が起こる。
全身が蒼く光りだし、粒子が上に向かって行く。
それは精神世界から現実に戻る時の、私に起きる現象に似ている。
「マ、マナ!?どうして、身体がっ…‼」
「あぁ~、やっぱり、こうなっちゃったか。やっぱり、こっちで暴れるのはタブーだったみたいですね。……時間切れ、みたい」
マナは自分に起きていることを自覚しつつ、笑顔を向けてくる。
「少ししか居られなかったし、奇跡みたいな出来事だったけど……。楽しかったです、本当に」
それは本心から言っていることが、彼女の笑みから伝わってくる。
「そんな顔しないでください。別に私、このまま消滅するわけじゃないですから。多分、元の時代に戻るだけじゃないかなぁ」
「元の……時代?え、それって――――」
1つの仮説に行きつくと、それを口にする前にマナが遮った。
「大丈夫、また会えるよ。あなたたちが、自分の道を突き進んだらね」
そして、背筋を伸ばしては今までにない真剣な顔になる。
「きっと、これから……あなたたちの前には、多くの絶望が待ち受けていると思う。たくさん嘆いて、悲しんで、逃げ出したくなるような現実が襲いかかってくるかもしれない。だけど……」
そこで言葉を区切り、微笑みを浮かべる。
「私は知ってるから、あなたたちがそれを乗り越えることができる人たちだって。だから、また会えるって信じてるよ。その時まで、あんな面倒臭いお兄ちゃんだけど、仲良しで居てほしいな」
光が強くなり、もうマナの姿が輪郭しかわからない。
「じゃあね。いつか、また。―――――おねえちゃん」
その言葉を最後に、マナは消えた。
そして、私の中で……そして、この1週間の中で彼女と過ごした人たちの頭からも、その記憶は急速的に消えて行ったんだ。
私の中で、小さな違和感を残しながら。
ーーーーー
愛菜side
戻って来たのは、予想通りの場所だった。
体育館倉庫で、バタンっとドアが開いては長身の男が心配した顔でこっちを見てくる。
「愛菜!?」
名前を呼んで近づいては、両肩を掴んで前後に揺らしてくる。
「おまえ、今までどこに行ってたんだ!?電話しても圏外だし、どんだけおまえを捜したと思って…‼」
「ご、ごご、ごめんごめん……。ちょっと、異世界転移?いや、タイムスリップ?だね、この場合……」
「……はぁ?おまえ、何言ってんだ?ただでさえアホなのに、打ちどころが悪くて余計に悪化したのか?」
呆れた目で言ってくる男に、マナはプクーっと頬を膨らませて両手をブンブン回して抗議する。
「私、地頭は良い方だもん‼つか、絶対に信じてないでしょー!?」
「あー、はいはい。戦国時代か産業革命期か知らねぇけど、無事なら何よりだ。ということで……」
男は身に纏っていた白衣のポケットから、1枚の用紙を取り出して見せる。
それは右上に10点と書かれた、化学のテストだった。
「よくも、さっきまで逃げ続けられたもんだ。さぁ、楽しい楽しい補習を始めようぜ……最上さん?」
「っ!?」
さっきまでの家族として心配していた部分はどこに行ったのか、もう教師モードにシフトしてらっしゃる。
もう逃げ場は無い状況のため、アハハハッと笑って誤魔化そうとする。
「ね、ねぇ~。今日は流石に止めない?私、いろんな意味でもう気疲れとか半端なくて、正直もう帰って寝たい……」
「あぁ?何を甘ったれたこと言ってんだ。身内の勉強も管理できない教師なんて、周りの教師と生徒に示しがつかねぇだろうが‼」
「ひいぃ~‼この鬼ー‼悪魔ー‼」
もはや何を言おうと意味はなく、結局首根っこを掴まれて教室まで連行されてしまう。
その道中で、少し仕返しとしてニヤニヤした顔を向ける。
「あのさぁ~、高校1年生の春休みのことって覚えてる?」
「……何だよ、いきなり。俺の時のってことか?だったら、ある程度のことは覚えてるかもな。……思い出したくもねぇ、胸糞悪い記憶もあるけど」
「じゃあ……おねえちゃんに初めて耳かきされて、気持ち良かった?興奮した?」
それを聞いた瞬間、男の足が止まる。
「お、おまっ…‼何でそれを知ってんだよ!?あいつが、おまえに話したのか!?」
「いやぁ~、どうでしょうかねぇ~。補習を免除してくれたら、教えてあげてもいいかなぁ~」
「調子乗んな」
交渉材料として提示するも、半眼でデコピンをされるだけだった。
「痛っ‼暴力反対‼教師から生徒への虐待だー‼」
「これは身内への躾だ」
「ちぇっ、調子のいい時だけ、そういうんだから」
ブツブツと言いつつ、向こうが動揺している内に身体を捻じって拘束から解放される。
そして、隣を歩きつつ言葉を続ける。
「ねぇ、お兄ちゃん。今度は何時、島に帰れるかなー?」
「次?夏休みくらいじゃねぇか?」
「その時は、私も連れてってね。久しぶりに、おねえちゃんにも会いたくなっちゃたからさ」
「……変な奴」
怪訝な顔をして言ってくるけど、特に気にする様子は無かった。
「それよりも、おまえ……。学校でお兄ちゃんは止めろって、何回も言ってんだろうが」
「えぇ~、もう、しょうがないなぁ~」
男からの注意に、渋々と言いながら呼称を変える。
「わかりましたよ、椿先生!」
感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼
少し?いや、大分未来の話を基に書いてみました。
彼らの物語はこの未来に繋がるのか、それとも全く違うものになるのか。
1つの道標として、これからの物語に注目ください。




