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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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歪める後輩

 恵美side



 時々ではあるけど、私も非日常の空気から解放される時がある。


 普通じゃない学園の中でも、日常に戻れる時が。


 それは仲間と過ごす時間もそうだけど、それ以外にもある。


 その1つが、普段使っていない電話が鳴った時だ。


「わかってるよ。成績は今度送るし、お母さんが心配するようなことはないから。進級できたんだから、文句ないでしょ?」


『何よ、その言い方は。まぁ~た、あなたのことだから、ほとんど部屋に引きこもってゲームしてたんでしょ?たまには身体動かさないと、いざって時に反動が凄いんだからね!?』


「別に引きこもってるわけじゃないし。見てもないのに決めつけないでよ」


 はたから見たら、反抗期の娘と母親の会話。


 まぁ、それに変わりはない。


 お母さんから電話がかかってきた時は、大抵は内容が同じようなことだから。


 ちゃんとご飯を食べているかとか、夜更かしをしていないかとか、勉強はしてるのかとか……。


 あとは、麗音と友達になったって言った時は大袈裟に喜ばれたかな。


 高校生になっても、過剰に心配してくるのがお母さんの悪い所だと思う。


 特に円華と仲良くしてるかとか、どうでも良いことまで聞いてくるし。


『それで、何でそんなに声が不機嫌そうなのよ?友達と喧嘩でもした?』


「うっ!……別に、そんなんじゃない」


『あからさまに声が小さくなったわね…。まぁ~た、小さいことで意地張ってるんでしょ。あなたたちってば、本当に……』


 呆れた声に対して、こっちも不満な気持ちを隠さずに声に出す。


「私だって、別に意地張ってるわけじゃない。円華が謝ってこれば、聞いてあげなくもないのに……」


『そう言うのはね、相手が動くのを待っていたらズルズル引きずることになるんだから。仲直りしたいなら、先にあなたから動いた方が楽よ?』


「そんなことは、わかってるけど……」


 実際、変にノリノリだったマナから仲直りの方法は教えてもらってる。


 聞いてはみたけど、それを実践できるかどうかは別の話なわけで……。


「……ねぇ、お母さんはお父さんと喧嘩した時、どうやって仲直りしてたの?」


 ふと昔のことを思い出しては、気になっていたことを聞いてみる。


 思えば、2人が夫婦喧嘩したところは数えるほどしか見たことない。


 大抵はお父さんがお母さんに怒られて、それにビクビク震えていた光景が懐かしい。


 それでも、言い合いになったことは何度かある。


 そして、次の日の朝にはラブラブ夫婦に戻っている。


 決まって、お父さんが変に朝から疲れ切ってた気がするけど。


『私たちの仲直りの方法?……う~ん、あの人も変に意地張りな所があるから、それこそ私から言いたいことを引っぱり出すしかなかったのよねぇ』


「引っ張り出す?言いたいことを?」


 言っている意味が理解できずに復唱すると、お母さんはその方法を教えてくれた。


『―――って感じね。このやり方が意外と効くのよ。男って本当に、単純なことで素直になるんだから』


「・・・」


 思わず、言葉を失った。


 だって、お母さんが言っていた、その方法は……。


『メグ?どうしたの?』


「えっ…!?あ、別に……意外だなぁって思っただけ。聞いては見たけど、やっぱり、そういうのって恥ずかしいって言うか……なんて言うかぁ…」


『恥ずかしがってる暇があるなら、当たって貫きなさいよ。そんな物怖じするような娘に育てた覚えは無いわよー?』


「うぅぅ……」


 電話越しに、お母さんが『四の五の言わずにやれ!』って覇気が伝わってくる。


 これに反抗したら、笑顔の下に隠れた閻魔えんまが顔を出すに決まってる。


 それだけは、絶対に避けないといけない……。


「わかったよ……やれば良いんでしょ、やれば」


『彼と仲直りしたいならね。別に一肌脱いで誘惑しろって言ってるわけじゃないんだから、簡単じゃない』


「何言ってるの!?私はお母さんと違って、年頃の娘だってこと忘れてる!?」


 下ネタに近い台詞にツッコめば、フフっと笑う声が耳元に響く。


『それだけ元気なら大丈夫ね。ウジウジ悩んでないで、やり方がわかったなら行動に移しなさい』


「……はーい」


 返事をしたところで『じゃあね』と言って電話は終わった。


 お母さんもお母さんで、何で円華と私を仲直りさせることにノリノリなんだろう?


 胸がスッキリしないけど、お母さんに言われたら仕方がない…か。


「せんぱーい、電話終わりましたー?」


 ドアが開いて、マナがニヤニヤした顔を出してくる。


「何、その顔?正直、気持ち悪い」


「ひどーい!そこまで言います!?」


 ふくれっ面になっては部屋に入ってきて、両手を腰に当てて仁王立ちになる。


「さて、それでは善は急げってことで行きますか」


「えっ……行くってどこに?」


 勝手にどこかへ行くことが決定しているようだけど、話が伝わってこない。


「どこって、喧嘩した彼氏の所に決まってるじゃないですか」


「だ、だだ、だから、彼氏じゃないからぁ‼」


 首を傾げながら、さも当然と言うように言ってくるマナの認識を大声で修正する。


 だけど、それも「あー、はいはい」と流されてしまう。


「顔真っ赤にして否定したって、傍から見たらそう見えるんだから諦めてください」


「う、うぅぅ」


 顔が熱くなり、両手で覆って隠してしまう。


「ほらほら、照れてる暇があるんだったらさっさと行きますよー」


 後ろから背中を押され、玄関まで押し出される。


「ちょ、ちょっと!まだ、心の準備がぁ~!」


「なぁ~にが心の準備ですか!思いたったら、即行動ー‼」


 マナの覇気に圧され、半ば強引に外に出されては、そのままあれよあれよと部屋の前まで引かれてしまう。


 もはや、抵抗する気力も駄々(だだ)も失せてしまった。


「ほらー、さっさとインターホン押してください?」


「い、いや、まず……居るかも、わからないし……」


「安心してください。先輩が長電話している間に、部屋に居るのは確認済みです!」


 ビシッと笑顔で敬礼してくるマナ。


 何でそこまで行動が速いの!?


 マナ、恐ろしい子っ…‼


 もはや、逃げ場がない。


 震える指でインターホンを押そうとすると、その前に「ん?」と訝し気な顔をしてマナが後ろを向いた。


「マナ?どうしたの?」


 気になって横目を向ければ、今まで見たことがない険しい表情をしている。


 だけど、すぐにいつものあっけらかんとした顔に戻る。


「さっ、あとは1人で頑張ってきてくださいね」


「えっ……やっぱり、そうなる?」


「先輩だって見られたくないでしょ?それに私だって、わざわざイチャイチャしてる所を見るのも、いろいろ気まずいですし」


 視線を逸らし、頬を人差し指で掻くマナ。


 まぁ、円華も会ったこともない後輩を前にしたら、要らない警戒をするよね。


「それじゃ、私はその辺ぶらぶらしてるんで。終わった頃に、また来ますね」


 ……何だろう、この違和感。


 彼女の態度が、いつもと違う。


 今すぐにでも、ここから離れたいっていう意志が伝わってくる。


 さっきの顔だって、只事じゃないって感じだった。


「ねぇ、マナ。やっぱり、何か―――」


「それじゃ、ごゆっくりー‼」


 問いただす前に、走って行ってしまった。


 何か、最後まで誤魔化されたような気がする。


 さて、どうしたものか……。


 身体は、ここから離れたいと言っている。


 だけど、心は……。


 ちゃんと、向き合いたいという想いで踏みとどまっている。


 そして、心が左手を動かして、インターホンを押していた。


 ーーーーー

 マナside



 さてさてさーて、どうしたものかな。


 あんまり、今の学園のことに足を踏み込みたくはないんだけど……。


 こうなったら、そうも言ってられないから困ったものだよ。


 メグちゃんから離れて、人気ひとけが無い場所として体育館倉庫まで移動する。


 それに釣られて、妖しい影が付いて回ってきた。


【貴様……何者ダ…?】


 ここには、私1人で誰も居ない。


 もう隠れる必要は無いということなのか、それは姿を現した。


 物陰から姿を現したのは、上半身は人間であり、下半身は巨大な蛇の尾になっている怪物。


「うわぁ~、ゲームのキャラをそのままリアルで見るとか新鮮しんせん。今から始まるのって、狩りゲー?それとも、ターン性コマンドバトル?」


 それを目の当たりにしても、動揺を見せずに冗談を言ってみる。


【答エロ‼貴様ハ、アノ娘ヨリモ危険ナ物ヲ感ジル‼貴様ハ、何者ダァ!?】


 あの娘よりもって台詞から、最初の標的は恵美ちゃんの方だったみたいだね。


 あの人の部屋に入ろうとした時に感じた、強い殺気。


 完全に、襲撃する気満々だったよね。


 だけど、この怪物……ビーストも可哀想に。


 ここでは最新の魔物だとしても、私からしたら肩透かしも良い所。


「私のことは探らない方が良いと思うよ?わからな過ぎて、沼にハマるから。それに、私自身もあんまり、君たちと関わる気は無いんだよね。イレギュラーな存在なわけだし」


 この前、才王学園では卒業式が行われた。


 あの時、ある卒業生がビーストの襲撃を受けた。


 それを退けたのは、彼らが危険視する存在。


 そして、ビーストがもう1体、この時期に現れたのは聞いていない。


 私の目の前にいる、この魔物の存在は想定外。


 だったら……。


「今から、あの2人には仲直りのラブラブイベントを迎えるの。だから、誰にも邪魔されたくないんだよね。()()()には、遠い未来になるかもしれないけど、貸しを作っておきたいし……」


 私は目を閉じて意識を集中させ、ゆっくりと目を開けば瞳の色が変わる。


 右目は蒼く、左目は紅に。


「いつまで、この世界に居られるかもわからないから、力を使うつもりはなかったんだけど、しょうがないよね」


 開眼と同時に、左手の親指を噛んで血を流せば、右手の甲に塗る。


 すると、血に反応して蛇の紋様もんようが浮かび上がる。


「絡みつけ、ヨルムンガンド」


 紋様の蛇が実体化し、私の身体を囲むように蜷局とぐろを巻いて身を隠す。


【ナ、何…ダ……コノ、力ハ…!?】


 ビーストは私の内に宿る力を感じ、驚愕で身体が硬直する。


 本当なら、今からする行為は許されないことなのかもしれない。


 だけど、たった1体の魔物を倒すくらいなら、いくらでも修正は効くはず。


 たった1つの小さな歪みなら、すぐに歴史の中に埋もれていく。


『キシャァアアアアアア‼』


 蛇は尾を解放し、その身体は長身の砲台のような形に変化させて右腕に装着される。


 私自身の身体も、頬まで広がるダークブルーのボディースーツに身を包んでいる。


 右手の砲台をビーストに向け、フッと不敵に笑ってみる。


「残念だけど、ここから先は――――反撃開始リベンジタイムだよ」

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