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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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悪意の根源

 生まれた時から、ろくな環境で育ってこなかった。


 両親の顔など知らず、物心が付いた時には奪い、奪われる世界の中で身を置いていた。


 子どもの時から、あらゆる()()を経験しては、それに身体が慣れて行った。


 慣れていったら、何も感じなくなっていた。


 だから、常人に殴られても、蹴られても、刃物で切り付けられようとも何も感じなかった。


 感じないから、躊躇ためらいが無くなっていく。


 躊躇いが無いから、命を奪うことにも抵抗が無かった。


 この紅い世界では、それが普通だったから。


 子どもであろうと、自分を守る存在など居るはずもない。


 戦い方も、生きるための強さも、自分の意思で他人から奪うしかなかった。


 そのために、あらゆる痛みに耐えて、慣れて、他人から奪ってきた。


 今にして思えば、おかしな話だ。


 俺は誰からも守られていないと思っていた。


 たった1人で、強くなったと思っていた。


 しかし、非力な子どもが1人でこの地獄のような世界で生き残れる可能性なんて0に近い。


 奇跡のような確率の中で、俺は生き残ってきたんだ。


 それもこれも、血筋って奴がわかった瞬間に納得した。


 破滅の因子を受け継ぐ継承者。


 それが内海景虎……俺という存在だったのか。


「どこからだ…?」


 全てがわかった時、問いかける一言は抽象的なものになっていた。


「俺はどこから、おまえたちの筋書き通りに動いていた?()()()が、俺を組織に拾ったのも偶然じゃなかったってことだろ!?」


 あの地獄の中から、組織は俺を拾い上げた。


 今でも覚えている。


 多くの死体が無造作に散らばる中で、1本のナイフを持って立ち尽くしていた時のことを。


 そして、その中で蒼いスーツを着た黒い仮面を着けた男が、手を差し伸べた時のことを。


 あの時、差し伸べられた手を――――ナイフで切りつけた時のことを。


『獅子は我が子を谷底に突き落とし、這い上がった場合にのみ育てる。自然界は弱肉強食。力こそが秩序の世界で、君が生き残ることができるかを試させてもらったのさ。そして、君は我々の期待を大いに上回る結果を残してくれた』


「ほざくな‼」


 右手を横に大きく払い、イイヤツを睨みつける。


鳳凰院北斗ほうおういん ほくと……。根源を宿した男の血が、俺の中に流れているのなら、今まで俺が手に入れてきた力も全て、そいつの力が遺伝した結果なのか!?」


 俺の中には、根源の欠片が宿っている。


 そして、それは新たな根源としての形を成した。


 何時からだ?


 俺はいつから、こんな力に…‼


『ネタバレをすれば、君の予想は大体が正解だ。経験則から、根源の力は命の危機と強い欲望によって完成へと至る。君の中の根源の欠片が、新たな根源として成熟したからこそ、我々は君を迎えに行ったのだよ』


 泥をすすり、空腹を満たすために蚊が群がるような生ゴミを奪い合うような世界で生きていた。


 全ては生きて、こんな世界で這い上がるため。


 極限状態での強い欲望と生存本能が、俺の中の力を成熟させたって言うのか。


 あの地獄のような日々すらも、こいつらの遊びだったっていうのか…‼


「ふざっ…けるなぁあああああ‼」


 首から下げている五芒星から、赤黒いオーラが放出されては周囲に充満する。


 それは俺の背後に集まり、巨大な虚像を生成する。


 4つの腕を持つ、巨大な鬼神へと。


 その力を見て、イイヤツは全身を震わせる。


『素晴らしい‼それこそ、私たちが求める王の力‼君の中の根源は、やはり始まりの鬼帝を呼び覚ますに足るものだったようだ』


 憎悪を向けられようとも、紳士の態度は変わらない。


 恐怖するどころか、この力に歓喜しているようにすら見える。


『君の根源が求めるもの、それは()()だ』


 俺を指さし、その根源のエネルギーを説く。 


『君から放たれる、その剥き出しの怒りと共に放出されるエネルギー。それは己が悪意を、力に変えている証拠だ』


 悪意。


 それは人間、誰しもが持つ感情。


 確かに俺は、悪意が蔓延はびこる世界で生き延びてきた。


 恐怖、憤怒、憎悪、絶望、殺意。


 俺が無意識に、これらの悪意を根源を通じて力に変えていたとしたら…‼


『今こそ、君の中に宿る根源の名を明かそう。悪意を司る根源、その名はヴァイス。内海景虎、君が今まで生き残れたのは、自身の中の悪意を力に変えてきたからに他ならないのだよ』


 自身の中の悪意によって、俺は生かされてきたというのか。


 悪意を力に変える能力。


 それが、俺が受け継いだ力だというのか。


 自身の胸の中心に手を当て、目を閉じれば心臓とは別の鼓動を感じる。


 ズィンズィンと、俺の中の根源が自身の存在を主張している。


『先程のクレーヌとの戦いとて、君はその根源の力を意図的ではないにしろ発動させていた。自身の身に受けた悪意ある攻撃を、それを上回る自身の悪意を以て力に変換し、適応した。自身の中に侵入したウイルスを撃退し、記憶細胞を生成して対策を構築するかのようにね』


 悪意を力に変えて、適応した…?


 それなら、ずっと慣れていたという認識は違っていたというのか。


 俺は悪意に対して、適応していた。


 だから、1度受けた敵の力を分析し、対応することができていた。


 ヴァイスの力を、無意識に発動させることで。


 この根源は、ずっと俺を守ってくれていたのか?


 破滅の後継者としての役割を、果たすために。


『根源の力を持つ存在は惹かれあう。だからこそ、君とカオス……椿円華は戦う運命にあるのだ。そして、その先に君には果たさなければならない役割がある』


「破滅の継承者として、組織の頂点にでも立てってのか?」


 何度も聞いた、王という単語から予測を口にすれば、イイヤツは首を横に振る。


『それだけではない。私が君に期待しているのは、もっと大きな役割だ』


 立体映像が切り替わり、そこに過去の根源の戦いに勝利した者を映し出す。


 超越ライズの根源を宿す者、最上高太だ。


『内海景虎。君はこの世界に向けられた悪意を以て、かの世界を創造した神を殺すのだ。君の父親を殺した男に、復讐するために』


 復讐。


 その言葉を口にした時のイイヤツからは、初めて感情が見えた気がした。


 憎悪という、確かな悪意が。



 ーーーーー



 イイヤツからの説明を聞き終え、1人で部屋を出る。


 全ての点と点が繋がったが、それでも釈然しゃくぜんとしない。


 気持ちが晴れず、言い知れぬ苛立ちが残っている。


 結局、俺は組織のために生かされ、力を手に入れてきたに過ぎない。


 奴らの掌で、その目的のために利用されてきた人生だったってわけだ。


「何が継承者だ……何が王だ…‼俺はっ……俺はああぁ‼」


 ドンっ‼と壁を強く殴るが、何も痛みを感じない。


 この程度の痛みにすら、()()()しまったから。


 悪意を以て力に変え、適応する。


 何とも、この世界の王にふさわしい力だな。


 部屋の外には、ガラス張りの大きな窓が張られており、その先にある景色を見る。


 荒廃した世界。


 建物は倒壊し、形の残していないものがほとんどだ。


 そして、コンクリートの代わりに砂漠のように地面は砂で覆われている。


 そんな環境でも、人間は互いが生き残るためだけに奪い合う。


「こんな世界で王になったって……。どうしろって言うんだよ」


 根源を持つ者として、破滅の根源者の継承者として、多くの者が俺に王となることを求めているのだろう。


 しかし、いきなりそんなことを言われて、すぐに受け入れられるわけもない。


 王とは何なのか、俺はその意味すらわかっていないのだから。


「話は終わったようですね」


 柄にもなく黄昏たそがれている間に、ティターニアがこっちに歩み寄って来た。


「おまえっ……いつから、そこに居た?」


「イイヤツが、あなたをこの部屋に誘導した時から……でしょうか。私はあなたの監視役です。居場所は常に把握されていると思ってください」


 バイザーの端を摘まんで、クイっと動かす仕草から、それに種は隠されているようだ。


 そして、彼女は俺の表情を見ては首を傾げる。


「どうしました?拍子抜けしたような顔をしていますね」


「頭がパンクしそうなだけだ。自分の人生を、全て覆されたような気分だからな」


 実際、衝撃は強かった。


 俺の中に宿る根源を完成させる。


 そのためだけに、地獄のような環境に放り込まれた。


 あの数年間の記憶は、何があっても消えるものじゃない。


 奪われたくないなら、奪うしかない。


 今の自分を構成するものが、全て組織によって組み込まれたものだとわかった今、虚無感を覚えている。


「それで、全てを知ってもなお……あなたは、あの学園に戻ることを選ぶのですか?」


「・・・」


 すぐに答えは返さなかった。


 自身の全てが、誰かの掌の上で踊らされていたと知った今、今抱く欲望すらも仕組まれたものかもしれないと、懐疑的になっている。


 椿円華との再戦。


 これを望む自分すらも、根源によって誘導された欲望なのかもしれない。


 イイヤツは、根源を持つ者同士は惹かれ合い、戦う運命にあると言った。


 それなら、俺は何のために戦うのか。


 根源の意志に従うだけなのか。


 ……違う。


 例え、俺の中の根源……ヴァイスがそれを望んだとしても、これは俺自身の意志だ。


 それに追随するわけじゃない。


 俺は椿と戦い、そして勝つ。


 勝って、俺の強さを今度こそ証明する。


 そうすることでしか、前に進むことができないと本能が訴えかけてくるからだ。


 俺はまだ、力以外の強さの意味を知らない。


 力が全てのこの世界では、それを知ることはできない。


 自分の中の答えと向き合うためには、ここに居ても意味が無い。


 答えがあるとすれば、それは才王学園だと思った。


「戻るぜ……。俺の中の答えを、見つけ出すために」


 それは、王としての資格を得た意味を知るため。


 それは、強さを証明すべき存在との決着をつけるため。


 それは、力以外の強さを知るため。


 己の意志で、俺は再びあの学園に戻ることを選んだ。


 答えを聞き、ティターニアは小さく頷いた。


「承知しました。それでは、私の方で手続きを済ませておきましょう。2年生に昇級後は、Eクラスからの再スタートになるでしょうが……構いませんね?」


 Eクラス……最底辺からの出発か。


 悪くない。


「はっ、また這い上がれば良いだけの話だろ?簡単だぜ」


 鼻で笑いつつ、簡単だと口にしながら神妙しんみょうな面持ちになる。


 前は俺1人で、決闘を利用して『力』を見せることでのし上がった。


 だけど、今度あの学園に戻るのは目的が違う。


 俺は自分の中にあるルールを決め、2年生からの戦いに備えることにした。


 待っていろ、椿円華。


 今度こそ、おまえを俺の強さで倒してみせる。


 いつか訪れるだろう再戦の時が、今から待ち遠しく感じる。


 それに反応するように、胸の中心がうずいていた。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼


これにて、景虎sideは一時的に終了します。

お付き合いいただきありがとうございました。

新しい力を手に入れ、本来の力を知り、自身の舞台に戻ることを決めた景虎。

彼が自分の意志で、強さの答えに辿りつけるかにも注目していただければと思います。

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