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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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暴虐の裁定者

 力を手に入れた時に得られる感情がある。


 最初はそれを快感と言う。


 自分に有り余る力は、その器を壊すほどの苦痛を与えようともそれ以上の幸福感を与える。


 その時、自分は何者にも負けない存在になったと錯覚する。


 そして、いつかはそれが幻想だったと絶望する。


 俺は知っている。


 その幻想が打ち砕かれた時に、初めて力と向き合うことになるんだ―――。


「はぁ…はぁ……」


 修練場に立っているのは、俺1人。


 辺りは焼け焦げたような後があり、未だに小さな稲妻が所々で轟いている。


 身体中に、力が湧き上がってくる感覚がある。


 それに対して、大なり小なりテンションがハイになることもあるだろう。


 大体は高笑いをするのか?


 だけど、俺は表情や態度で表すことは無かった。


 ただ首から下げている五芒星を掴み、手を震わせる。


「……わかったよ。白虎、おまえは……俺だ」


 1つの力を奪うために、必要だったこと。


 それは手に入れてみれば、至極シンプルなことだった。


 しかし、今までの俺なら気づきもしないことだった。


 理解することだ。


 相手を、自分の本質を理解すること。


 それが白虎を服従させる上で、何よりも重要なことだった。


『どうだ?3か月追い求めていた力を手に入れた感想は?』


 白虎との戦いを静観していたキングが、静かに震える俺に言葉をかける。


()()()()()。それだけだ」


 小さく答えては、キングの方に足を進めるが横切るだけだった。


『どうした?腕試しに相手をしてやっても構わないが?』


「無鉄砲に仕掛けるほど、ガキじゃねぇんだよ」


 白虎を手懐てなづけた。


 だからこそ、戦わなくてもわかる事実がある。


 俺は弱い。


 きっと、今のまま白虎の力()()で挑んだとしても、キングには勝てない。


 俺は今になってやっと、スタートラインに立てたんだ。


『無暗に挑むことは止めた……か。これは大きな成長と呼べるかもしれないな』


 上から目線の言い方に苛立つが、聞こえるような舌打ちをするだけにする。


『俺に次ぐ王の器としては、大きな一歩だ。そんなおまえに、1つプレゼントを用意した』


「……プレゼント?」


 既に能力付きのヘアバンドはもらっている。


 これがあったから、白虎を手に入れるきっかけになったとすら思える。


 まだ何かを与えると言われれば、逆に警戒するレベルだ。


「次はどんな危険な代物を押し付けるつもりだぁ?」


 疑心感を隠さずに半眼で聴けば、キングは人差し指と親指を擦らせてスナップする。


『出てきて良いぞ』


 後ろに向かって声をかけると、閉ざされていた修練場の隠し扉が開く。


 そして、向こう側から異質な雰囲気を放つ少女が姿を現した。


 両目を隠すように黒い布を巻いている、長い紅の髪をしている。


『長い間、待たせて済まなかった。本来であれば、ここまで時間がかかる予定ではなかったのだが……』


「気にしていません。彼が白虎に手をこまねいている間、私はデータの解析に専念していましたので」


 そう言って、両耳に着けたデバイスをトントンと人差し指で叩く彼女。


「何だ?女かよ。生憎あいにく、俺の好みじゃねぇな」


 キングが何を意図してこの女を呼んだのかは知らねぇが、特に興味を引かない。


 しかし、その評価を口にすれば、目の前から一瞬で消えては後ろから声が聞こえる。


「安心してください。私もあなたのような野獣には、業務以上の感情は抱いていません」


 それは女の声であり、振り返った時には既に姿は無かった。


 おい、どうなってんだ!?


 雷足で動く白虎の速さに慣れたから、並大抵の速度なら目で追えるはずだった。


 それなのに、この女の姿を捉えることができない。


「あなたの動きは、反応まで安直過ぎます。それでは、椿円華に無様に敗北するのも納得ですね」


 こいつ、椿のことまで知っているのか?


「ふざけんな。俺は椿に敗けてねぇよ‼」


 あの戦いを思い出しただけで、抑えつけようとしても感情が荒くなる。


 紅い線と共に姿を現したのと同時に手を伸ばせば、それすらも片手で払われてしまう。


 それだけでなく、腹部に掌を押し当てられて吹き飛ばされる。


「ぐはぁああ‼」


 床に倒れながら腹を押さえ、女を睨みつける。


「この……クソ女がっ…‼」


 怒りを込めて睨みつけようとも、女の目は冷ややかなものだった。


「条件反射で感情に支配される。王の器としては、本当に心もとないですね」


 布で視界をさえぎっているにもかかわらず、こいつは俺の動きを全て見切っている。


 こいつ、何でえているんだ…!?


鬼牙オーガの鎧、そして白虎を手に入れたとしても、今の私に触れることもできない。拍子抜けですね」


「っ…‼」


 力の差を見せつけられ、何も言い返せずにいる。


 白虎を手に入れても、まだこんな目に遭うのは屈辱だ。


 目も当てられないと言いたげに、キングが割って入る。

 

『そうイジメてやらないでほしい。5体の眷獣の内の1つを服従させれば、彼に力を貸す。それは君とイイヤツが結んだ契約だったはずだ。君はこれから、この未熟な王の器を支える存在になるわけだ』


「……そうですね。実に不本意でしたので、少々八つ当たりをさせていただきました」


 俺が何とか立ちあがったところで、女は丈の短いスカートを持ち上げてお辞儀をする。


「申し遅れました、内海景虎様。私はコードネーム:ティターニア。これからは、あなたの側でお世話と()()()をさせていただきます」


「……あ?余計な世話係なんて、必要―――ぶぐっ‼」


 問答無用と言いたげに、奴は口角を上げて顔面にブーツを履いた右脚を振り上げて回し蹴りをしてきやがった。


 視界が若干歪んだが、それでも今度は倒れずに踏ん張る。


 それに対しては、向こうもいぶかな顔になる。


 直撃する寸前に、右手でガードして衝撃を半減させていた。


 今度はちゃんと、奴の動きに少しだけ対応できたわけだ。


「口よりも先に足が出る……。わかりやすくていいぜ。おまえのことも、服従させれば良いのか?」


「あなたにそれができるでしょうか」


 足を床に下ろし、フフっと不敵に笑みを浮かべる。


「少なくとも、今のあなたに私の心を奪うことはできませんよ」


「はっ、興味もねぇ」


 言葉を交わしているだけで不機嫌になっていくため、開いたゲートから外に出る。


 灰が混じった乾いた砂埃が混じった風に晒され、焦げたような臭いがする空気が鼻に入ってくる。


 今日もどこかで、この世界は壊れているということを教えてくれる。


 それでも空を見上げれば、修練場の外はどこまでも続く空が広がっている。


「……久しぶりに見るな、()()()の空は」


 幼い頃に、何度も地面に倒れながら見ていた灰色の空。


 それは曇天であり、その先には別の景色が広がっていた。


 その空はティターニアの髪の色と同じくらい、鮮やかな紅色だった。



 ーーーーー

 ティターニアside



 彼のことを知ったのは、調度3か月前。


 内海景虎。


 その存在について、事前に情報を与えられた時は驚きを隠せなかった。


 彼は組織において、最も重要な存在。


 キングが気にかけるだけはある。


 しかし、この重大な事実を彼本人は知るよしもない。


『内海景虎には、これから服従の儀を通じて修練を積ませる』


 キングは五芒星を見せて宣言するが、それに私は怪訝な表情を浮かべてしまう。


始皇帝鎧しこうていがい鬼牙オーガ』。それは失敗作だったはずです。その力に何が封印されているのか、知らないあなたではないでしょう?全ての試練に、人間が耐えられるはずがありません」


()()()人間ならば、そうだろうな。しかし、彼は違う。そして、彼は新たな力を得るためなら、どのような苦痛も耐える精神力を持っている』


 内海景虎の出生を知っているからこそ、キングはこの儀式を受けさせることを選んだのだと理解はできる。


 それでも、私の中で疑念は残る。


 何故なら、この五芒星の魔鎧装は曰くつきの代物だから。


「今まで、誰もあれの全てを服従させることはできなかった。逆に服従させようとする者は、その強大な力に耐えられずに全てその命を絶たれている。正直、私はあなたが、内海景虎を潰そうとしているようにすら感じます」


 素直に見解を述べれば、キングはそれをとがめはしなかった。


『確かに、俺は無意識にそれを望んでいるのかもしれないな』


 むしろ、それを肯定しているような返答をしてくる。


『ティターニア、君にはこの力を手にした者を支える使命がある。もしも、彼が眷獣けんじゅうの1体を従えた時は、その可能性を認めてほしい』


「言われずとも、承知しております。私は裁定者さいていしゃ。その力を彼が服従させたのであれば、その行きつく先を見定める必要があります。そのために、私は生み出された存在なのですから」


 自身の使命は強く自覚している。


 キングだけでなく、私もその五芒星に宿る強大な存在の恐ろしさを知っているのだから。


 始皇帝鎧『鬼牙』。


 その能力は王の器を持つ者に、鬼人の鎧と自身が使役する眷獣の力を付与するというもの。


 大抵の人間であれば、鬼人の鎧を装着するだけで尋常ならざる力に飲まれて狂ってしまう。


 そして、眷獣を使役するための服従の儀で、その慢心が打ち砕かれて絶望する。


 絶望の果てには破滅が待っており、もはや生贄を差し出してるような感覚になる。


 何度も挑戦者を裁定し、その成れの果てを見てきた。


『仮に彼が服従の儀に失敗し、絶望の果てにその身が鬼に成り果てた時は……わかっているな?』


「言わずもがな、承知しております。その時は、私が彼を排除させていただきます」


 裁定者としての役割。


 それは始皇帝の鎧に喰われ、人外と成り果てた者を殺処分すること。


 私は何十、何百という命をその役割を通じて奪ってきた。


 内海景虎、彼にもその審判を下す時が来るかもしれない。


 例え彼が、根源を持つ者の遺伝子を持つ存在だとしても。


 王の器として、その力を自身の物として手懐けるのか。


 それとも、自身よりも強大な力に飲まれて鬼に成り果てるのか。


 彼の行きつく先を見る責任がある。


 まずは期待させてもらいましょうか。


 新たな王の器が、眷獣を1つでも使役する可能性に。


 それから3か月間、私は内海景虎という男の諦めの悪さと不屈の闘志を見せつけられることになった。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼


裏ヒロイン登場!

その名はティターニア。

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