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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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届きしは

 タイミングが良過ぎる。


 目の前のキングを見て最初に抱いたのは、そういう感想だった。


 涼華姉さんの仇を前に、いつかのように復讐心が湧き上がる。


 それでも、全身が奴の命を求めて震えてる中で衝動に耐える。


「おまえ、何しにきた?」


 低い声で問いかければ、キングは風にマントをなびかせながらフッと笑う。


「以前のままであれば、問答無用で俺に斬りかかってくると思っていたが、少しは仇を目の前にしても冷静になることを覚えたようだな。少しは成長していると受け取ろうか」


「おまえの上から目線にはうんざりしてんだ。今度こそ俺とる気になったってんなら、場所を変えろよ。後ろの奴は巻き込みたくねぇ」


 親指で後ろを指さし、奏奈のことを伝える。


 奴が現れたのなら、戦うなら望むところだ。


 だけど、今度は感情に支配されたが故の判断じゃない。


 キングはあの魔獣のことを、ビーストと呼んで知ったようなことを言っていた。


 その情報を引き出す必要があると見た。


「今日は卒業式なんだ。荒事は避けた方が良いだろ」


「……そういうことか」


 キングは何かを悟ったように呟いた後に、彼女に向かって右手をかざす。


 そして、掌に緑炎をともした。


 それと同時に、3人を囲むように炎の壁が周りを囲んだ。


生憎あいにくだが、俺の目的はその女……だと言ったら、どうする?」


 その言葉に、衝動を抑えていた理性の鎖が砕かれた。


「ふざけんなぁ‼」


 白華を握る力に力を込め、両翼と足のブースターによって加速度を増してキングに迫り、右手に向かって氷刃をぐ。


 それを紙一重で回避し、マントで刃を防がれる。


 っ!?このマント、今更だけど盾にもなるのかよ!?


「敵の言葉1つで、感情を簡単にさぶられる。成長しているとしても、根本的な部分は変わらないか」


「身内狙われてるって言われて、冷静で居られるわけねぇだろうが!?」


 攻撃の手を止めず、白華を縦横無尽に振るってキングに迫るが全てマントを使って受け流される。


「答えろ、キング‼さっきの怪物は、おまえの差し金か!?今更、あいつを狙うことに何の意味がある!?」


「組織の意向としては、桜田奏奈は危険人物として判断された。それだけのことだ」


「そうやって、また俺から奪うのかよ!?」


 怒りに呑まれそうになるが、その前にヴァナルガンドの声が聞こえる。


『相棒、また怒りに呑まれそうになってるぞ!?思い出せ、そして意識しろ。おまえが戦う理由を‼』


 俺が戦う理由…。


 そうだ、そうだよな。


 俺はただの復讐者じゃない。


 怒りに呑まれたら、また……守れなくなる…‼


「もう、何も奪わせない…‼おまえには、絶対にぃ…‼」


 紅のオーラを展開し、モードをマルコシアスからヴァナルガンドに戻して態勢を立て直す。


 そして、奏奈の前に立って左手を横に伸ばす。


「下がってろ。今度こそ……守るから」


「円華……。あなた、もしかして…‼」


 思い出すのは、あの暁の記憶。


 俺はあの時、初めて獣の本能に呑まれて人を殺した。


 そして、俺を拒絶した奏奈を殺そうとした。


 だけど、あの時本当は……。


「認めさせてやるよ、俺の力。もう、おまえが心配する必要がないくらい、強くなったってことをな」


 緑炎に壁の中で、逃げ道は無い。


 俺はこの時、不思議とキングに少しだけ感謝していた気がする。


 この状況なら、奏奈は俺と奴の戦いを見ることしかできない。


 あいつが卒業生としての生き様を証明したなら、こっちも証明しなきゃいけない。


 俺はもう、おまえに守られなきゃいけない存在じゃないということを。


「ヴァナルガンド、鎧の装着時間はあとどれくらいだ?」


『5分ってところだな。おまえの精神状態が不安定だったなら、もう1分も持たなかっただろうがな』


「この前の二の舞は御免だ。()()()()はちゃんと胸に刻んである。だから……付き合えよ、相棒」


 狼のように前屈姿勢で地面をけ、キングに迫る。


 右目で奴の未来の動きを捉え、左目で現在の動きを見て自分の動きに反映させる。


「今度こそ、本当の意味で()()()と戦えそうだな。復讐者‼」


 両手を構えて臨戦態勢に入り、白華の動きに視線が集中しているのがわかる。


「椿流剣術 舞風‼」


 氷刃を下段構えから振るい、強風によってキングはマントを前に展開して防御の態勢に入る。


 その時に、奴がマントによって一瞬だけ視界が塞がる瞬間を見逃さなかった。


 すぐに背後に回ると同時に、跳躍しては落下に合わせて白華を振り下ろす。


「衝天‼」


 キングが後ろを振り返った時には、既に俺は技を繰り出していた。


 無防備な奴は、上を見上げてバイザー越しに見ているしかない。


 取った。


 地面に着地すると同時に頭部に向かって氷刃を振り下ろしたその時―――。


 カツンっ‼


 振り下ろした先に白騎士の姿は無く、空振りした刃がコンクリートにぶつかる。


 奴の姿は、そこには無かったのだ。


「えっ…‼」


 唖然としている内に、後ろから強い熱を感じる。


「円華‼気を抜かないで、後ろよ‼」


 奏奈の声で正気に戻り、振り返った時には腹部に緑炎をまとった拳が叩き込まれた。


「ぐぁああああああっ‼」


 何だよ、この炎!?


 ヴァナルガンドを装着していても、こんなに熱が直に伝わってくるのかよ!?


 あまりの衝撃に距離を取り、白華の刃を杖にして腹部を押さえる。


 今、何が起こった?


 瞬間移動?


 いや、違う。


 錯覚かもしれない。


 それでも、仮面舞踏会の時と同じような違和感があった。


 俺の意識が一瞬だけ、()()()かのような感覚だった。


 拳を突き出した状態で、キングは「ふぅー」と仮面の下で息を吐く。


「その速さと力、脅威だな。久しぶりに俺個人の異能を使わずしては、回避することは不可能だっただろう」


 今のが、キングの異能力…?


 一体、何をしたって言うんだ!?


「おまえは会う度に、俺の想定を超えてくるようだ。最初に会った時は、まさかここまでの使い手になるとは思っていなかった」


「今更、あの時始末しておけば良かったって後悔しているんじゃねぇのか?」


 最初に会ったのは、麗音の尋問をしていた時だ。


 あの時はヴァナルガンドの力を使うこともできず、何もできずに敗北した。


 そして、次に接触したのは取捨選択試験の時。


 ヴァナルガンドは使えるようになったけど、怒りに呑まれて衝動に任せて戦うことの愚かさを知った。


 だけど、今は違う。


 怒りは確かに感じている。


 それでも、もう衝動に呑まれることは無い。


 俺はもう、1人で戦っているわけじゃないから。


 力として、ヴァナルガンドという相棒が居る。


 大切なものを守るために戦うという理由がある。


 そのために復讐するという覚悟がある。


「俺はおまえに必ず復讐する。だけど、それはもう怒りに任せたものじゃねぇ。おまえたちへの復讐の先に、今ある大切な者が守れると信じているからだ。そのために、俺はこの刃を振るってんだ」


 復讐の先にある、守るという想い。


 その覚悟を聞き、キングは肩を震わせる。


「ふっ…ふふっ、フハハハハハハハハハハハハッ‼」


 天井を見上げるように顔を上げて笑っている。


 そして、奴は俺を指さした。


「良いだろう、復讐者よ‼おまえのその覚悟が本当かどうか、我が最高の一撃を以て試してやろうか‼」


 両手に緑炎を灯し、蒼い稲妻を発生させる。


「この一撃を耐えられなければ、おまえの後ろに居る桜田奏奈は死ぬぞ!?死ぬ気で止めてみせろよ!?」


 両手を前で✕字を組むように交差させ、左右の掌から稲妻をまとった緑炎を前方に放った。


審判之獄炎ジャッジメント・インフェルノ‼」


 炎は王冠を被った巨大な髑髏の顔を形成し、俺たちに迫る。


 これが、キングの本気の一撃…!?


 こんなもの、直撃したらヴァナルガンドの鎧でも耐えられるかどうか…‼


 それならば、選択肢は1つしかない。


『やるぞ、相棒‼こいつを止めるなら、あれしかねぇ‼』


「わかってる‼」


 ヴァナルガンドも同じ結論に辿りついたようで、俺は白華を鞘に納めて抜刀の構えをとる。


 紅のオーラを全開にして抜刀して頭上に振り上げれば、両手で握って振り下ろして巨大な斬撃を放つ。


『「共鳴技‼人狼之輝刃じんろうのきばあぁー‼‼」』


 斬撃は紅の狼へと姿を変え、骸骨の王に迫る。


『ワォオオオオオオオオオオオオ‼‼‼』


『グルァアアアアアアアアアアアアアア‼』


 咆哮をあげる狼と炎の骸骨。


 その力は拮抗しており、紅と緑のオーラが混じり合う。


 この時、前に紫苑と戦った時と同じような感覚があった。


 キングの感情が、白華を通して流れ込んでくる。


 その中で一番大きく、そして強い想いとして伝わってきた言葉があった。


『すまない…』


 謝罪。


 それは誰に対してのものなのかはわからない。


 だけど、そこから伝わる感情がある。


 後悔だ。


 キングは何かに、強い後悔を覚えている。


 そして、その想いは何よりも強い。


「キング……おまえ……まさか…!?」


「っ‼」


 俺の反応に対して、奴の集中が乱れるのがわかった。


『ガアォオオオオオオオオオオオオオンっ‼』


 その隙を逃がさず、狼の牙は骸骨に喰らいついては貫通した。


 そして、キングの両腕に交差している噛みつくが、それはすぐに強引に振り払われた。


「はぁ…はぁ……んぐふっ…‼まさか、ここまでとはな……これが、混沌の力」


 両腕を負傷した状態で、奴は臨戦態勢を解いた。


「その刃であれば、俺に届き得るということか……。面白い。椿涼華の言う通り、おまえならば、本当に俺を……」


 後半の方は何を言っているか聞き取れなかったが、ここにきて初めて俺は実感できた。


 今までは追い込まれるだけだったキングに、俺の刃が届いたんだ。


「キング……おまえ、もしかして、後悔してんのか?」


 流れてきた感情に対して、疑問を抱く余裕ができた。


 だからこそ、自然と出た問いだった。


「涼華姉さんを、殺したことを」


 すぐには返答は来ない。


 20秒ほどの沈黙が流れた後で、キングは口を開く。


「その答えは、おまえが俺に勝てたら答えてやるとしよう。……次に相まみえる時が、楽しみだ」


 奴が次にマントを翻した瞬間、俺たちと壁を作るように緑炎が発生する。


「ビーストが放たれた以上、組織は目的遂行のために手段を選ばなくなったということだ。気を付けろ、おまえの言う大切なものを奪われたくないのならな」


 その言葉を最後に、炎の中にキングの姿がフェードアウトしていく。


「待て、キング‼」


 悲痛な叫びも虚しく、炎が消えると共に白騎士の姿は消えた。


 それと同時に、俺も緊張の糸が切れては変身が解除された。


 キング……おまえは、一体…。


 奴に近づく度に、その真意がわからなくなる。


 今だって、わかったことは1つしかない。


 次に会った時に、俺は何を掴めるだろうか。


「円華……」


 名前を呼ばれて振り返れば、心配する表情の奏奈が居た。


「あなた……本当に、強くなったわね」


 言いたいこと、聞きたいことは多くあっただろう。


 それでも、それら全てを呑み込んで、彼女はそう言った。


 俺の強さを、認めてくれたんだ。


「……悪かった」


 そんな彼女に対して、俺は謝った。


 言いたいこと、言わなきゃいけないことを伝えるために。


「今まで……俺はおまえのことを、どう思えば良いのかわからなかった。昔の仲良かった時の記憶と、あの時に拒絶された記憶が……ずっと、残ってて……。本当は、おまえとどう接していけば良いのか、わからなかったんだと思う」


 本当は今だって、振り向いた先には怯えた表情で居る奏奈をイメージしていた。


 だけど、想像を現実は裏切った。


 真っ直ぐに俺を見て、穏やかな表情を浮かべている。


 ズルいんだよ……。


 いつも、いつも……そうじゃねぇか。


 こういう時に限って、俺が欲しい言葉と笑顔をくれる。


 だから、これまでずっと想っていた。それでも口にできなかった気持ちが、素直に言葉に出た。


「……今まで、陰で助けてくれてありがとう。そして、卒業おめでとう」


 そこで言葉を区切り、彼女の目を見て呼んだ。


「姉ちゃん」

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