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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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再現される味

 恵美side



「恵美せんぱーい、いつまで寝てるんですかー?もう9時ですよー?」


 カンカンカーンっとフライパンを叩く音が部屋に響く。


「ううぅ~~~。……うるさいなぁ」


 まだ起きていない身体を無理矢理動かし、上半身を猫背の状態で起こして「ふああぁ~あ」と口を開けて欠伸が出る。


「うるさいって何ですか!もう9時ですよ!?先輩が7時に起こしてって言ったのに、2時間も寝坊してるじゃないですかぁ‼」


「……良いよ、別に。春休みなんだし」


「新学期までに生活リズムを戻したいからって、言ってましたよね?だから、ゲームを止めて早く寝ましょうって言ったのに。夜更かししてゲームに夢中になるなんて、悪い習慣を続けているから昼夜逆転するんですよ」


 半眼で正論をぶつけられ、グゥの音も出ない。


「っ……。そういうのは、明日から頑張るから良いんだよ」


「そう言って、明日も同じような会話になる未来が見えるのは私の気のせいですかねぇ?」


 満面の笑みで圧をかけられ、視線を逸らしながらボソッと呟く。


「……生意気な後輩」


「んー?何か言いましたぁ~?」


「言ってません」


 こういう地獄耳なところも、マナの怖いところ。


「朝ごはん、もうできてますから。顔洗って早く食べちゃってくださいね?私、洗い物してますから」


 そう言ってキッチンに戻っていく彼女に、「ふぁ~い」と間の抜けた返事をしてしまう。


 何というか、長い間同棲(どうせい)しているような感覚の慣れがある。


 実際には、マナがこの部屋に居候いそうろうしてから、まだ3日しか経っていない。


 その間の家事は、住ませてもらっているからって理由で半ば強引に引き受けてもらっている。


 まるで私の生活リズムを知っているかのように、先読みで行動されている。


 風呂に入る時間、ごはんを食べる時間、洗濯する時間。


 その全てを私が実行する前にマナが準備を済ませている、あるいはもう終わっていた。


 それを奇妙に思いつつ、最初の頃は冗談交じりに「何これ、未来予知?」と言って「まぁさかぁ~」と苦笑いで誤魔化されたのが記憶に新しい。


 マナが何かを隠しているのは、大体わかってる。


 それでも、私が彼女をこの部屋に置いているのには理由がある。


 単純だけど、直感でマナをこのまま野放しにしたらいけないと思ったから。


 妙に惹きつけられる感覚が、彼女を自分から離したらダメだと言っている。


 洗面台に行って軽く顔を洗った後で、テーブルについて並べられている朝ごはんに目が行く。


 やっぱり……似てる。


 並べられているのは、玉子焼きに焼き魚、ごはん、みそ汁、バナナヨーグルト。


 このメニューに対して、懐かしさを覚えている。


 朝ごはんのメニューは、大体どこの家庭も異なるものだと思う。


 家族がごはん派な所もあれば、パン派の所もあるし。


 卵料理だって目玉焼き、玉子焼き、スクランブルエッグと選択肢は分かれる。


 それなのに、私の記憶の中にある実家の朝ごはんがフラッシュバックするようなメニューに目を疑う。


「ねぇ、マナ。何で朝ごはんに、このチョイス?」


 洗い物をしている彼女に話しかければ、「え?」と呆気にとられた声を出す。


「朝ごはんって言ったら、そういう感じじゃないんですか?私の家だと、母親が朝こそしっかり食べなさいって、ごはんも山盛りによそわれてたんですよねぇ」


「ふぅ~ん。どこの家族も、共通する所はあるのかもね」


 実際、私も家だとお母さんに朝ごはんは量を食べさせられた記憶がある。


 『成長期なんだから、昼までもたないわよ?』とか言う謎の理論でごはんを食べさせられて、食べた分は身体を動かすことで消費させられた。


 おかげで体力的には何の問題も無く育ったけど、お母さんは『何をするにも体が資本』っていう思考が強いから他の子どもよりも鍛えられていた気がする。


 マナの家族もそういう所なんだったら、このメニューにも説明がつく。


 箸を持ってみそ汁に口につけた後、玉子焼きを食べてみると味覚から衝撃が走った。


 ……嘘、何で…!?


 メニューだけなら、『まぁ、そういうこともあるだろう』って感じですぐに気にならなくなる。


 だけど、味付けに関してはそうはいかない。


 この玉子焼き、お母さんが作るものと似てる。


 麵つゆと砂糖、刻んだほうれん草の味がするのなんて、記憶の中の味と一致する。


 どうして、これをマナが再現できているの!?


 彼女の方を見ると、一瞬だけその後ろ姿がお母さん……最上優理花と重なる。


 何でマナから、お母さんと似たような雰囲気を感じるんだろう。


 私の中で、懐かしさと共に彼女への疑念が膨れ上がっていく。


「マナ……」


 震える声で名前を呼べば、彼女は洗い物が終わったようで水道を止めた。


「……はい?」


 タオルで手を拭いた後、何の警戒心も屈託もない表情で振り返る。


 彼女からは、何か裏があるようには思えない。


 だけど、それすらもマナの演技なんだったら……。


「この玉子焼き……。お、美味しい…ね」


 本当は『どうして、お母さんの味がするの?』と聞きたかったけど、そんなことを直球で聞けるはずも無かった。


 自意識過剰で、突拍子もない話を振る頭のおかしい先輩になるだけ。


 味を褒めると、マナは目をキラキラさせる。


「本当ですか!?いやぁ~、これ作るの凄く大変なんだすよぉ。まぁ?得意料理なんで?自身作なんで?美味しいのは当然なんですけどぉ~」


 身体をくねくねさせながら、嬉しさを表す彼女の態度はオーバーだけど、悪意はないように思える。


 やっぱり、深く考え過ぎ……なのかな。


 朝食を食べ終えた後、食器を下げて洗剤に漬け置きしているとマナが不意に聞いてくる。


「そう言えば、先輩ってまだ喧嘩中……なんですよね?例の好きな人と」


「っ!?な、何……急に」


 こういう不意に突っ込んでくる所は、少し困る。


 無愛想な円華の顔を思い出すと、苦い顔を浮かべてしまう。


「うわぁ~。その顔、絶対にまだ仲直りできてないじゃないですかぁ~」


「しょ、しょうがないじゃん。ずっと、マナの面倒を見てたんだから」


 この3日間、私はずっとマナと一緒に居た。


 それは監視も兼ねているのと、基本的にインドアだから必然的に。


 彼女も基本的に、私が買い物に出るまで部屋の外に出ようとしていなかったしね。


「へ、部屋が決まるまではしょうがないって言ってたじゃないですか!私のせいにしないでくださいよ」


「その部屋がいつ決まるのかも、私にまだ教えてくれてないよね?」


「うっ‼そ、それはぁ……」


 両手の人差し指の先をくっ付けて、イジイジとしては俯くマナ。


 また始まった。


 言いにくいことがあると、態度に出てくる。


「わからないなら、私から学校に問い合わせようか?そろそろ、新生活の準備も始めなきゃでしょ」


 スマホを取って電話をかけようとすると、マナに「それは止めて‼」と大声で止められた。


 思わずビクッと身体を震わせてしまい、彼女の険しい表情から尋常じゃないオーラを感じる。


「あの……そう言うのは、自分でできますから……。ごめんなさい、迷惑かけてますよね」


 怒られると思ったのか、萎縮しては頭を下げて謝ってくる。


「別に迷惑とは思ってない。逆に家事とか任せちゃってるから、感謝はしてるよ。こっちもごめん。勝手なこと、しようとして」


 そのまま、2人で口を閉じていると、マナが話を振り出しに戻した。


「それよりも先輩!仲直りですよ、仲直り‼私のことなんかすぐに解決するんですから、気にしなくて良いんですよ。でも、喧嘩したままズルズル引きずると、このまま恋愛対象外で終わりますよ!?女として見てくれなくても良いんですか!?」


「た、対象…外…!?」


 聞きたくない言葉に、本人から言われたわけじゃないのにダメージを受けてしまう。


 やっぱり、そうだよね…。


 円華が恋愛とか気にしてないのは知ってるけど、それでも私を意識してないって感じじゃない。


 一応は、女の子として扱ってくれるし。


「でも……仲直りって、どうすれば……」


 前は円華の方が悪かったから、私から強引に近づいて仲直りすることができた。


 だけど、今回は完全に私が悪い。


「私だったら、陰ながら協力しますよ?結局、何でその人と喧嘩しちゃったんですか?」


 対面する形でテーブルにつき、頬をつきながら問いかけてくるマナ。


 何でだろう。


 今なら……マナになら、何でも話せる気がする。


 私は彼女に、円華と喧嘩になった経緯を話した。


 それに対して、一々オーバーな反応は返ってこず、所々で相づちを打って話を聞いてくれる。


 そして、全ての話を聞いた後で、マナは「ぶあぁはあぁ~~~」っとテーブルに両手を置いて深い溜め息をついた後に顔を上げた。


「あなたたち、もう付き合っちゃえば良いじゃないですかぁ‼」


「・・・ふぇ!?」


 いきなりの付き合え宣言に、顔が熱くなっては変な声が出てしまった。


半同棲はんどうせい状態で?冷蔵庫も使えるような関係なんでしょ!?しかも、男女ですよ!?幼馴染でもなく、関係性としてはクラスメイトでしょ!?普通、そんな状態でそこまで心許しませんからね!?もはや、公言してないだけでカップルって思われても文句言えませんからね、あなたらぁ‼」


 感情のまま熱弁されては、もはや口を挟むこともできずに聞いてることしかできなかった。


「それで?先輩は?そんな心の壁がスライスチーズ並みの間抜け男と、何ですぐに仲直りできないんですか?そんなのすぐに『ごめんなさい』って言えば済む話じゃないですか」


「言うタイミングを逃がしちゃってるし……」


「そんなの電話でもメールでも、SNSでも使ってポーンって言えば済むんですよ‼そしたら、向こうだって能天気に『こっちも悪かった』とか言って終わるんですから」


 一般的には、そうみたい。


 だけど、円華の場合はそれだけでは終わらない。


 絶対に、向こうが気にして変に引きずる気がする。


「何だったら、仲直りの儀式でも作った方が良いんじゃないですか?先輩たち、絶対にそう言うの必要なたぐいのカップルですって」


「だから、カップルじゃないから‼」


 赤面で否定しても、マナは「はいはーい」と流してしまう。


 もう彼女の中で、私たちは完全にカップルだと思われているのがわかる。


 でも、その言葉には一理あるかもしれない。


「仲直りの儀式……か」


 そう言うのがあったら、あの時だって文化祭まで遠ざけられることも無かったのかな。


「まぁ、ベターなのはハグするとかキスするとかだと思いますけど、そんなの先輩には高難易度クエスト以上の無理ゲーですよね」


 もはや見透かすように、マナが言っては鼻で笑ってくる。


 何か途中から、彼女のキャラがただただ生意気でウザさを感じる。


「そういうなら、マナには何かいい案でもあるの?」


「もっちのろーん!ですよ‼というか、よくぞ聞いてくれましたー‼って感じです」


 急にテンションが上がり、立ちあがってはサムズアップを向けてくる。


 しかも、その時に悪い笑みを浮かべているのが恐い。


「な、何?その顔……私に一体、何をさせようと…!?」


「ふっふっふ。せんぱ~い、ちょっと身体張ってもらいますよぉ~?」


 手をワキワキさせながら、鼻息を荒くする姿にある種の恐怖を覚える。


 だけど、マナがこの時提案してきた仲直りの方法が、この後も私を救ってくれることに、この時はまだ気づくことは無かった。

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