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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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義姉の思惑

 円華side



 3月12日。


 刻一刻と、3年生の卒業式が近づいている。


 ほとんどの下級生にとっては、部活の先輩が居なくなるとか、年上の彼氏あるいは彼女が居なくなるといった程度のイベントだろう。


 俺にとっては、それよりも少し重大な意味を感じる行事になっている。


 認めたくはねぇけど、後ろだてが1つ消えることを意味しているんだからな。


 今日まで、意識はしてなかったけど要所要所でその力を借りてきた存在だ。


 それも家族愛とか、そう言う理由だけで。


 俺はそれを、ずっとこばんできたのに。


 胸の内が、くすぶっている。


 まだ、あの女の真意がわかっていない。


 別れの時が近づくにつれ、それを知らなければいけないという想いが募っていく。


 彼女が本当は、俺をどう思っていたのかを。


 そして、俺自身がどう思っているのかを。


 待ち合わせ場所は、早朝の並木道。


 時間まで気分を紛らわすためにランニングをした後、10分前に約束の場所に到着する。


「今更、何でこんなにざわついてんだろうな…」


 自分の中で、納得できていない何かがある。


 できることなら今日、それを確かめる。


 軽く自身の胸を2回ほど叩いたところで、後ろからブーツの靴音が耳に届いた。


「私より早く着いているなんて、驚いたわ。ちょっと早く来て、ドッキリでも仕掛けておこうと思ったのに」


「……相変わらず、しゃくに障るもの言いだな、BC」


 振り向きながら、露骨に嫌な顔をしてコードネームを呼べば、向こうは不服と言った表情になる。


「あなたも、1年経っても変わらないわね。少しはお姉ちゃんって呼ぶ気にならないのかしら」


「なんだったら元・生徒会長様。それか、桜田家の次期当主なら呼んでも良いぜ」


 皮肉を込めて提案すれば、「また要らない二つ名が増えたわね」と言って流した。


 BCはベンチに座るや否や、空を塞ぐ天井を見上げる。


「この機械仕掛けの空を見るのも、あと少しなのね。解放された想いでもあり……寂しくもあるわ」


「寂しい……。まさか、おまえからそんな言葉が出てくるなんて思わなかったぜ」


 彼女には似つかわしくない言葉に、眉をひそめる。


 この女の場合、一言一言が本気か冗談かわからない


 思えば、その言葉を本気で受け取ったことなんてあまりないかもしれない。


「あなたも知っているでしょ?私は桜田玄獎の娘として、その次期当主となるべく生きてきた存在。当主としての器を満たす、そのためだけに作られた子ども。あなたとは、違ってね」


「……嫌味かよ」


「バカね。どうして、そう言う風に受け取っちゃうの?本当に、育つ環境って大事よね」


 目尻を吊り上げて呟けば、彼女は哀れむような目で否定した。


 育つ環境…か。


 それについては、俺も思うところがある。


「確かに、俺がこんな性格になったのは椿家に行ってからだったかもな。だけど、それに対して後悔はしてねぇよ」


 人生って奴は、後戻りできない選択肢ばかりだ。


 そして、その分岐点を越えた先のことなんて選んだ先にしかわからない。


 もしも、あの暁の夜が無かったら、俺は今も桜田円華として生きていたのかもしれない。


 だけど、そのIFを思い浮かべようとしても、イメージできない。


 精々、幼少期のBCに追随ついずいしていた状態が継続するだけかもしれないな。


「私もあなたが桜田家を出て良かったんだと、今なら思うわ。今の私なら、過去に涼華さんに言われた言葉の意味が痛いほどに理解できるの」


 BCは俺を見上げては、はかなげな笑みを浮かべる。


「本当に、椿()()()に私は必要なかったみたいね」


「……当たり前だろ。誰と生活してきたと思ってんだ」


 BCは今、初めて俺を自分の弟ではなく『椿円華』という別人と認識したんだと思った。


「この1年間、あなたのやり方を遠くから見てきたからわかるわ。あなたが、どれだけ逞しく育ったのかを。そして、この学園でどれほど成長してきたのかを」


 彼女はそこで言葉を区切り、思い出すかのように目を閉じる。


「私が居なくても、円華は自分の力で繋がりを結ぶことができた。そして、自分の力で困難を乗り越えてきた。その姿を見て嬉しくもあり、寂しくもあったわ」


「……わかったような口を聞くんだな」


「大抵は理解しているわ。私を誰だと思ってるの?あなたの復讐だって、一定のことはわかっているわ」


 虚勢ではない自信から来る一言に、改めてその恐ろしさを思い知らされる。


 BCに俺の復讐に関して、話を振ったことは無い。


 こいつが涼華姉さんを理由に戦うことを、受け入れるとは思ってなかったからだ。


 そして、BC自身も復讐に嬉々として関わろうとはしなかった。


 手を借りたのもポーカーズとは関係なく、学園のシステムを攻略するために協力させただけだ。


 お互いに、復讐を話題に出したことは無い。


 だからこそ、BCからその話題を初めて振られたことで言葉が詰まってしまう。


 そして、彼女は立ち上がってはあることを提案してくる。


「場所を変えない?人通りが少ないとはいえ、あなたも誰かに聞かれる可能性は避けたいでしょ。それに、私も周りに聞かれたくない情報を伝えないといけないのよ」


「……わかった」


 少し迷ったけど、BCの目が拒否を許さなかった。


 そして、2人で移動した先は予想外の場所だった。



 ーーーーー



 辿りついた先を見上げ、口を開いて唖然とする。


 まさか、またここに来ることになるなんて……。


 Sクラスの寮である、ホテルにも似た高層マンション。


「……おい、BC。ここに来たってことは……」


「何を言いよどんでいるの?ここに来たら、向かう先は1つでしょ?」


 平然と建物内に入っていく彼女の後ろに、条件反射でついて行くことになる。


 まさか、ここにもう1回来ることになるなんて……。


「おまえなぁ、何か企んでるよな?絶対に悪いこと考えてるよな!?」


「ええぇ~、円華ったらひどぉ~い。お姉ちゃんが酷いことをするなんて思ってるのぉ?もう泣いちゃいそぉ~」


 わざとらしく、バカにするかのように語尾を伸ばすBCに腹が立ちながらも、この態度の時は本心を言わないのを理解している。


 こうなったら、罠とわかっていても飛び込むしかねぇか。


 周りの目が気になりながらも、エレベーターの階数は頂上近くまで昇り、足は彼女の部屋の前で止まる。


 そして、BCはこっちを見てさりげなく忠告してくる。


「中を見ても、驚くんじゃないわよ?」


「はぁ?何に驚くんだよ」


 紫苑の部屋に入ったことがあるから、そこまで緊張はしていない。


 同じマンションの1室なんだし、部屋の作りもそう変わるもんじゃねぇだろ。


 スマホで鍵を開けてドアを開ければ、玄関から先が視界に入った瞬間に目を疑った。


 ヒュ~~、コトンっ。


「・・・は?」


 イメージしていたのは、以前に見た洋式の高級ホテルのような風景だった。


 しかし、現実はそれを裏切った。


 最初に耳に届いたのは、鹿威ししおどしの音だった。


 信じられるか。


 玄関の先に続く廊下の窓から、鯉が泳いでいる池と鹿威が見えるんだ。


 そして、廊下の先には押し開きのドアではなく、ふすまで部屋が仕切られている。


 前に見た紫苑の部屋とは真逆の、純和風な作りになっている。


 どこか懐かしさを覚えるほどであり、それが違和感を浮かばせる。


「おまえ、この部屋って…!?」


「だから、驚かないでって言ったでしょ?あなたのことだから、言いたいことはわかるわ」


 過去の記憶にある光景を、型取かたどったかのような既視感。


 これを覚えるのは、この学園では俺だけだろう。


「生徒会長の権限で、桜田家の屋敷をできる限り再現させたのよ。住み慣れた環境に近づけた方が、ストレスが少ないわ」


「……マジかよ」


 権力の横暴おうぼうだろ、これ。


 まぁ、でも、それを実行させるのがこの女なんだよな。


 つか、生徒会長の権限ってやっぱすげぇんだな。


 プライベートで既存の部屋の作りを変えさえるって、普通はあり得ないだろ。


 うん、もう1度言おう。


 普通じゃねぇ‼


 肩を落としてハハっと乾いた笑いしか出て来ず、BCの前に出て部屋に上がると怪訝な顔を浮かばれる。


「ちょっと、円華ぁ……。あなた、さっきから気になってたんだけど、ちょっと汗臭いわよ?」


「えっ……そうか?わりぃ」


 BCが嫌そうな顔をしていることから、相当発汗しているのだろう。


 そう言えば、1時間ぐらいランニングしてた。


 最近は春が近づいているから、温かくなってきているしな。


 軽くシャワーはしてきたんだけど、それじゃ足りなかったらしい。


「早く風呂に入ってきなさい。着替えは用意しておくから」


「いや、別に風呂に行かなくたって、スプレーとかボディーシートで―――」


「入ってきなさい?良い子だから」


 笑顔の圧で有無を言わさぬ気迫を感じさせる。


 こうなったら、何を言っても無駄か……。


 しょうがねぇ、言う通りにするか。


 彼女から案内されて浴室前に移動し、脱衣所で改めて自分の体臭を確認する。


「そんなにくさいのか……。今度から、気を付けなきゃな」


 前にテレビで言っていたけど、男性よりも女性の方が嗅覚が鋭いらしい。


 男が気にならない臭いでも、女子には我慢できないこともあるんだろう。


 内心、恵美たちがそういうのを言わないだけで、本当は嫌がっていたら……ショックだな、大分だいぶ


 着ている物を全て脱いで、浴室のドアを開ければ、やはりと言うべき光景が広がっていた。


 大きな窓ガラスは地下街を一望でき、風呂自体は旅館の露天風呂のようにデカい。


 湯舟は既に溜まっている……と言うか、ずっと熱湯が流れていて、余分な湯が排水溝に流れている。


 もはや、湯を溜めるって概念がねぇのか。


 ここが頂上に近い部屋だからこそ安全だが、下の階でこれだったら覗かれるのは必至だな。


「……まさか、ここまで再現させるかよ」


 苦い思い出の中に飛び込んだかのように、どっと気持ちが重くなって溜め息が出てくる。


 とりあえず、シャワーを出して水から湯に温度を調節していると、浴室の外から声が聞こえてくる。


「着替え、置いておくわよー?」


「ああ、悪いな。……つか、俺のサイズに合う服、あったのか?」


「こういう日が来ると思って、あらかじめ買っておいたのよ。備えあれば、何とやらでしょ?」


「どういう用意周到よういしゅうとうさだよ」


 BCの中では、この1年の間に俺がこの部屋に来ることは想定内だったらしい。


 それで着替えを用意するのは、引っかかるけど。


「……ん?」


 着替えを置くだけなら、もう脱衣所を出てもおかしくない。


 だけど、ドアの向こうの人影は消えない。


 それどころか、こっちに近づいてきてドアが開いた。


「ハアァ~イ!一緒に入りましょ?」


 目に飛び込んできたのは、どこも隠さずに一糸まとわぬ姿になっているBCの裸体。


「は、はああぁ~~~~~~~!?」


 俺は思わず、目を見開いては浴室内に響き渡るほどに声を出してしまった。


 しかし、その反応を見越していたように、BCはフフっと笑って胸の下で腕を組んでは自身の左頬に手を添える。


「何を驚いているのぉ?恥ずかしがることは無いわ。姉弟きょうだい水入らずで、親睦しんぼくを深めましょ♪」


 妖艶ようえんな笑みを浮かべている彼女に対して、俺が抱いた感情はただ1つ。


 ハ、ハメられたぁ~~~~‼‼‼

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