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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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晒される女子会

 恵美side



 麗音、成瀬をまじえての学園案内も粗方あらかた終わり、いつものカフェで休憩することになった。


 私たち3人はそれぞれ頼むものが決まっている中で、マナだけがメニューとにらめっこしている。


「ここ、種類多すぎません?何ですか、カスタムって。普通にコーヒーとか紅茶で良いじゃないですか」


「自分好みに作れるのが面白いのよ。あなたも、来月からここの生徒になるのなら、その内慣れるわ」


「そ、そうですかね…」


 成瀬の忠告にマナは苦笑いしつつ、諦めたように「ミルクティーで」と言って小さく溜め息をついた。


「それで一通り案内はしたけど、覚えられそう?校舎の中、意外と複雑だったでしょ」


「まぁ~、ボチボチですかねぇ。あとは始まってから、それこそ慣れていきますよ」


 彼女の反応から、ほとんど覚えていないのは丸わかりだった。


 というか、案内している際中も見ているのは校舎内じゃなくて、ほぼほぼ私と麗音、成瀬との会話に集中していたような気がする。


 しかも、物珍しそうにしていたのが気になった。


 そんな彼女は、外を見て頬杖をついてはボーっとした目で呟いた。


「ところで、地下街を見てると思ったんですけど、この学園ってカップルで歩いてる人多いですよねぇ。先輩たちも、好きな人とか居るんですか?」


 私たちはそれぞれの顔を見て、一瞬だけ目を見開いていた。


 何を直球で聞いて来てるの、この子!?


「それはぁ……恵美は居るわよね!趣味は悪いけど」


「だ、誰が趣味が悪いって!?麗音だって、前まで好きだったくせに‼」


 先手を打たれて話題の生贄にされそうになったけど、1人は嫌だから道連れにする。


 すると、麗音は「うっ」と両肩を少し上げては頬が若干赤くなる。


「あたしはっ……もう、過去のことだから、良いのよ。それに、今は……」


 途中からゴニョニョと小声になっては聞き取れない。


「……もしかして、他に好きな人できたの?」


「は、はぁ!?別に!?何を勘違いしてんの!?」


 明らかに動揺している。


「その慌てようは、図星のようね」


 成瀬はすかさず、スマホのメモに『住良木麗音は片思い中』と打ち込んで保存していた。


「何を書き込んでるのよ!?」


「クラスメイトの情報は些細なことでも残しておいて損は無いわ。情報はいつ、どんな所でも使えるものよ」


「いや、そうじゃなくてっ…‼片思い中って何よ!?別にあんな奴のことなんて…‼」


 誰かのことを頭の中で思い浮かべ、1人で顔を真っ赤にさせては顔を逸らしてしまう麗音。


 でも、麗音をここまで慌てさせる相手なんて、クラスに居たっけ?


 クラスの中だと、男子に対しては平然としているイメージが強い。


 そう言えば、さっきもそうだったけど、円華のことを最近は偏屈者って呼ぶことが多い気がする。


 円華のことをそう呼んでたのって、確か……。


 ああぁ~、だから、さっき気持ちが浮かれてるように見えたんだ。


 顔が赤い麗音に、私は満面の笑みを向ける。


「会えると良いね、阿佐美学園で」


「は、はぁ!?一体、どこのバカ真面目のことを言ってるのよ!?あんなのと会ったって、全っっっ然嬉しくなんてないから‼」


 あ、自分で墓穴ぼけつを掘った。


 うん、十中八九じっちゅうはっく、相手は私の予想通りだろうね。


 麗音はこっちの笑顔を見て、私が察しがついたことに気づいたのだろう。


 顔を両手で隠してテーブルにしてしまった。


色恋沙汰いろこいざたなんて、私とは縁遠い話だから新鮮しんせんで良いわね。反応が見ていて面白いわ」


「確かに、成瀬と恋バナって結びつかない気がする。今まで、気になった男の子とか居なかったの?」


「居るわけないじゃない。私は今まで、自分のスキルを高めることだけで精一杯だったわ」


 丁度テーブルに4人分のカップが配られ、成瀬は頼んでいたカプチーノに口をつけた。


「今までって……今は?」


 首を傾げながら聞けば、彼女は目を逸らす。


「今は……クラスをまとめるために、周りを見ることに専念している状態よ。また、戸木くんのようなことが起こらないようにね」


 成瀬の中で、まだ戸木の裏切りが心に残っているのがわかる。


 クラスのリーダーとして、彼女はまだ成長しようとしている。


 きっと、これからもその力を借りることになる日が来ると思う。


 その時、成瀬の支えになる存在が居るとすれば……。


「ファーストキスは人生を変える」


 不意にマナが、ドヤ顔でそんなことを呟いた。


「……何?急に。そんな決まったみたいな顔で言われても、意味不明なんだけど」


 私が半眼を向けて聞けば、彼女はガクッと肩から崩れたけどすぐに体勢を戻す。


「いやぁ~、知り合いのお姉さんの格言を思い出しまして。そのお姉さんも高校生だった当初は恋愛とは無縁だったらしいんですけど、1回不意打ちで同じクラスの男子にキスされて、そこから意識しちゃったらしいんですよ」


「不意打ちでキス?何それ、セクハラじゃん」


「まぁ~まぁ~、そんなマジレスはこの際良いじゃないですか、最上先輩。実際、その後なんやかんやあって、そのお姉さんはそのファーストキスの相手と結婚まで行ったんですから」


 マナの意味のわからない会話を聞いていると、成瀬が途中で黙ってしまったので視線を向ける。


「……成瀬?」


 見ると、彼女は口元に手を当てて若干だけど頬が赤くなっていた。


「ファーストキス……結婚……。そ、その話、詳しく聞かせてくれないかしら!?」


「どうしたの、成瀬!?」


 意外にも食い気味で、私の方が引いてしまった。


「えーっと、まぁ、そのファーストキスの男はチャラ男っぽい見た目だったんで、最初はあんまり興味無かったらしいんですよ。でも、そのファーストキスの後から無意識に目で追うようになってしまって、関わっていく内に自分を補ってくれる存在になっていって……いつの間にか、付き合ってたらしいですね、うん」


 マナの話を、成瀬は黙って聞きながら段々と顔が赤くなっている。


「あ、ありえないわ…‼たった1回のキスで、そこまで関係が発展していくなんて‼」


「まぁ~、私も話半分で聞いてましたけどねぇ~。何せ、それを話してくれたチャラ男も嘘つきだったんでぇ~」


「嘘つきっ…!?そ、そう……それは、大変ね……」


 彼女の話を聞いている内に、表情が段々と強張こわばっている。


 何で成瀬はこんなにマナの話に挙動不審きょどうふしんになっているんだろう?


 まさか、似たようなシチュエーションがあったわけじゃあるまいし……。


 第一、何でマナは今、こんな話を持ち出したんだろう?


 疑問に思っていると、その視線が今度は私の方に向いた。


「そう言えばぁ~、先輩も好きな人居るって話でしたよねぇ!?どんな人なんですか!?」


「うっ…‼だ、だからっ……好き…って言うか、ただ大切って思ってるだけで…」


「あぁ~、わかりましたわかりました。それで良いですから、その人ってどんな人なんですか?」


 流されたのが気にくわないけど、ここで話さないと他2人から白い目を向けられそうだから話すしかない。


「どういう人って……一言で言い表すなら、面倒くさい。口が悪い皮肉屋だし、大事なことを話さないことは多いし、マイナス思考に走ったら引きこもろうとするし……」


 さっき喧嘩別れしたバカのことを思い出しながら話していると、悪口しか出てこない。


「えっ……そんな根暗そうな男のどこが良いんですか?」


「良い所?う~ん……」


 天井を見ながら、円華の良い所を思い返してみる。


「でも……本質的には、優しいから。いつも人のことを考えてて、自分のことよりも他人優先で行動しちゃうバカなんだ。頭は良いのに、私が見ていないと危なっかしくて……弱いところも、出せなくなっちゃうんだよね」


 今までのことを想い返していると、自然に顔が笑んでしまっていた。


 本当に……手がかかるし、私が時々見ていないとダメダメなんだから。


「しょうがない男なんだ、本当に。笑っちゃうくらいにね」


 話していて、円華の顔がチラついた。


 今頃、何をしてるのかな……。


 少しは私のこと、考えてくれてるのかな。


 マナは話を聞いて、呆気あっけに取られたような顔をする。


「ほへぇ~……本当にれてるんですね、そのダメダメな人に」


「……うん」


 何でだろう、この時は小さく頷くことができた。


 でも、この気持ちをまだ本人に伝えることはできない。


 私のこの恋心で、円華の邪魔をしたくないから。


「はぁ~あ。そんな話を聞いたら、お腹いっぱいになるじゃないですか。ごちそうさまです!良い話が聞けました」


 何故かマナから、手を合わせて合掌される始末だった。


 それにしても、こうも無意識でも警戒心が抜けていくのが不思議。


 円華にもそうだけど、どっちかって言うと他にも近い誰かを感じた。


 そう言えば、似ているかもしれない。


 写真で何度も見たから、イメージが一致いっちする。


 髪の色を黒から茶色に変えたら、高校生の時のお母さんに。


 何でこんなに、家族の顔がチラつくんだろう?


 マナ……本当に、不思議な女の子だ。


 その後、麗音と成瀬と共に学園の行事を軽くマナに教えながら、カフェでの一時を共に過ごした。



 ーーーーー



 2人と別れた後、アパートの私の部屋にマナが上がり込んできた。


 なんでも、まだ部屋を契約できていないから泊めてほしいとのことだった。


 初めて会った先輩の部屋に泊めてほしいとは、図々(ずうずう)しい後輩だね。


「いやぁ~、先輩の部屋ってゲーム多いですね。ザッツ・インドアって感じ」


「そんなにジロジロ見ないで。……この部屋、ベッド1つしかないけど、大丈夫?」


「あぁ~、私は床で寝るんで良いですよ。先輩が使ってください」


 あ、こう言うところはわきまえてるみたい。


 でも、女の子、しかも年下の子を床で寝かせるのはしのびない。


「それは私が気まずくなるから、一緒に使おうよ」


「えっ……そんな、良いんですか?」


「マナは小柄だし、そんなにスペース取らないでしょ?女の子同士なんだし、別に気にしない」


 ベッドは2人で使うことに決め、その後は夕食を一緒に食べて、マナが先にシャワーを使った。


 着替えを置きに向かいながら、少しソワソワしている自分に気づく。


 そう言えば、この部屋に誰かを泊めるのって初めてな気がする。


 時々、私が円華の部屋に泊まることはあっても、自分の部屋を他人が使うのは変な感じだった。


 もしかして、円華も同じ気分だったのかな……。


「着替え、ここに置いておくから」


「あ、はーい!ありがとうございます、先輩!」


 その呼称に、ゾクッと肩が震えた。


 先輩……やっぱり、慣れないなぁ。


 私もマナの後にシャワーを終え、最後は寝るだけになる。


 一緒に寝ようとは言ったけど、やっぱり少し狭かったかもしれない。


 そう思っていると、隣からマナが腕を回してきた。


「……ん?マナ?」


 急に距離が近くなり、少し狼狽うろたえてしまう。


「ううぅ~~」


 横になっただけで、もう熟睡しちゃってる!?


 それだけ、疲れてるたのかな……。


 思えば、ずっと知らない人と一緒に居たわけだもんね。


 私も円華の部屋に泊まった日は、すぐに寝ちゃってた。


 それにしても、マナを見ていると……こう……。


 寝顔を見て、頭を撫でてみる。


「可愛い……ね」


 私に妹が居たら、こんな気持ちだったのかな…。


 そんな気持ちが伝わったのか、マナは寝言でこう呟いた。


「…おねえ…ちゃん……」


 夢の中で、家族と会っているのかもしれない。


 私のことをお姉さんだと思って、服を掴んでくるのが可愛い。


 そんなマナの反応を見ながら、私も眠りについていた。

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