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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
復讐劇への誘い
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隠蔽できない偽装工作

 何も考えずにリュックを背負ったまま屋上に到着すると、深い溜め息をついてしまった。


 先程言ったことに後悔はないが、改めて数分前のことを思い出すと、我ながら恥ずかしいことをああもスラスラと言えたなと自分の中のもう1人の自分が嘲笑ちょうしょうしてくるのを感じる。


 言ってしまったことは仕方ない。明日からぼっちになったとしても後悔はない。俺にとって、誰が敵かもわからない状況で群れることは死のリスクを高くするだけなのだから。


 手すりに体重を預けて少しり青い空を見ると、少し今後のことを考えてみる。


「それにしても、これからどうすっか。内海が菊池を殺した犯人ではないと仮定かていすると、最上の視た光景から導き出される証拠の信憑性しんぴょうせいが薄くなる。刀の入手経路にゅうしゅけいろがわかんねぇしなぁ……」


 溜め息をついてぼんやりとしていると、屋上のドアが開く音が耳に届いた。


「……あれ?どうして円華がここに居るの?」


 声が聞こえてきたので振り返ってみると最上が居て、隣に来ると俺と同じ体勢をして空に目を向けている。


「円華は、クラスメイトと一緒に茶番ちゃばん御葬式おそうしきはしないの?」


「誰かさんに触発されたせいで参加できなくなった。だから、俺は違うやり方で菊池の死をとむらうことにした」


「そっか、余計なことをしてすいませんでしたね」


「いや、おまえは間違ってねぇよ。多分、あいつらも間違ってないんだ。殺されるのが恐いから、目をつむっている。今なら、どうしてあんなにみんながパーティーが大好きなのかがわかったような気がする。いつ誰が死んでも、思い出だけは残しておきたいって思ってたんだろうなぁ」


「そんなことを考える頭が、あんな奴らにあるとは思えない」


 不貞腐ふてくされた顔をする最上。


 あいつらも随分ずいぶんと嫌われたもんだな。


「同情はできる。みんな、俺とは育った環境が違うからな。親に保護ほごされて育った奴らにとって、こういう殺しがあるのに頼れる者が居ない環境は残酷ざんこくだ。普通じゃないのは自覚してるからさ、俺は俺ができることをする」


 胸の内を何気なく呟けば、最上は少し表情を緩める。


「……私は、円華の方が正しいと思う」


「そりゃどうも」


 素気なく返し、俺は頭の中で教室の状況を再生する。


 床に倒れている菊池の遺体。


 机と椅子は昨日の状態のまま……そのほかに変わってない所は……多分、そこに偽装工作が隠されているはずだ。


 もしかして、死体か?


 ナイフで刺す以外の偽装工作……ダメだ、何も思いつかない。


 頭を荒くかいて最上の方を見ると、あいつはいつの間にか俺の隣から屋上の出口に移動していた。


「おい、どこに行くんだ?」


「もう1度教室に行く。それと菊池の部屋に行ってみる」


「菊池の部屋?ああ、そうか……何か手がかりがあるかもしれないもんな。だけど、どうしてまた教室に戻るんだ?もう菊池の遺体は運び出されたんだぞ?」


「うん、知ってる。見忘れていたのは菊池の下だから、それを確かめてくるだけ」


「菊池の……下?」


「答える気はない。付いてきたければ来るがいいよ、ワトソンくん」


「それは、おまえをホームズと呼べば良いのか?探偵ごっこじゃねぇっての」


 溜め息をつきながらも、俺は最上の後ろをついて行った。


 助手になったつもりはないが、犯人を見つけるためにはこいつの能力が必要になるかもしれないからな。


 

 -----



 教室に着くと、中央に在った菊池の遺体は無くなっており、すべてが元通りに見える。


 俺が見る限りは、もう調べるべきところはすべて調べたはずだが、最上は菊池の遺体が在った場所に行ってしゃがみ込み、床を人差し指で触る。


「やっぱり、変だね」


「……変?」


「円華は気づかない?菊池の遺体が無くなったからこそ、見えることもある。それがこれ」


 最上が下を指差したので見てみると、そこに在ったのは菊池の血痕けっこんだった。


 それを見た瞬間、俺は違和感を覚えた。


 俺は『そう言う仕事』にたずさわってたから、人が斬られたり刺されたりして死んだ場合に起こることがわかってしまう。


「これ……おかしいよな。血痕の範囲がせますぎる」


 心臓は体の中で、血液を巡らせるポンプの役割をしている。そこを刀は貫通したのだから、大量に流血りゅうけつし、血痕は死体では隠せないほど広範囲になっているはずだ。


 タオルか何かでき取ったのか?何のために?それなら、菊池の身体の下の血液も拭き取るはずだ。


 彼女の死体は制服の後ろが背中全体に赤が広がっていた。


 菊池の背中の血の範囲と床に残っている血痕の範囲を記憶の中で照らし合わせたが、前者の方が範囲は広い。


 ここから導き出される結論は1つ。


 ナイフは、凶器のカモフラージュのためじゃなかったんだ。


 こんなことができる奴なんて……存在するのか?


 いや、否定するのは後でもできる。今ある可能性は、これしかない。


 深呼吸をして頭を切り替えると、最上の肩を叩いて「もう行くぞ」と言う。


 最上は首をキョトンっと傾けた。


「円華、何かわかったの?」


「ああ。やっぱり、カモフラージュはナイフだけじゃなかったんだ。菊池の部屋に行くぞ。多分、真実はそこにある」


「……もしかして、円華が考えてることって……」


 最上も察したようで、俺と血痕を交互に見る。


「俺たちは、最初から犯人の偽装工作にハマっていたんだよ。この教室で、菊池の死体を見た時からな。本当に周到しゅうとうって言うか、普通の高校生が咄嗟とっさに考えつくようなことじゃない。多分、前から計画していたことなんだろうな。誰かが犯人を捜すことを想定して」


 腹が立ってきた、俺は敵の策にハマっていたんだ。余計な時間を喰ってしまった、最初に調べていた時に気づくべきだった。


 俺は前髪をかきあげて苛立いらだちをあらわにする。


「菊池の死体は、殺された場所から移動したんだよ。殺害現場すらも、カモフラージュだったんだ」

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