違和感だらけの学校案内
恵美side
変な流れで新1年生に学校案内ってことで同行することになったけど、このマナって子、何かおかしい。
「うわぁ~、ここってカフェだったんだ。知らなかった~。つか、こんなメニューあったんだ。超意外」
カフェで足を止めては、食い入るようにマジマジと店内とメニュー表を覗いたり。
「あぁ~、この本屋さんね。こんなに種類豊富だったんだぁ。うわっ、これなんて絶対にあの人読んでるじゃん……。ここってすぐに新書が無くなるってボヤいてたなぁ」
1つの分厚いミステリー小説を手に取り、呆れたような目を向けては小さく溜め息をついていた。
その呟きから、この本屋に精通している人物が居ることを察する。
「あの人…?この学園に、知り合いが居るの?」
「えっ…!?ああぁ~、身内に卒業生が居るんですよ!それで、卒業する前だったら、手に取ってたんだろうなぁって」
「へえぇ~~」
何か誤魔化された気がする。
そう言えば、彼女の持っている小説を見た時に思い出した。
円華が予約していた、好きな作者の最新刊だった気がする。
確か、その作者の名前は……。
「……ん?まさか、こんな所におまえが居るとは驚いたな」
不愉快な声が聞こえ、目尻を吊り上げながらジト目を向けると、案の定の相手が立っていた。
長い赤紫髪をなびかせながら、腕を組んでいるSクラスの女帝。
鈴城紫苑。
「私がどこに居ようと勝手でしょ。一々突っかかって来ないでよ」
「突っかかるとは人聞きが悪い。私は素直に感想を口にしただけだ。おまえに抱いていた印象は、暇さえあれば部屋に引きこもるインドアな女だと思っていたのでな」
「それを言うなら、私があんたに抱いていた印象は外に出ないで1日中椅子にふんぞり返っている偉っっそうなイメージだったけどね」
「まぁ、そうしていても良かったのだが、何分最近は1人で居ることが多くてな。欲しいものを手に入れるのも、自分で足を運ばなければならない。早奈江に予約を頼んでいたのだが、忘れていたようでな」
いや、自分で予約しなよって言いたかったけど、女帝の常識にツッコむのも面倒だったためスルーした。
そして、鈴城の視線は私から後ろに居るマナの方に移動した。
「おまえがクラスメイト以外と共に居るとは、珍しいこともあるものだな」
「あ、この子はぁ……って、何で隠れてるの?」
後ろを見てマナのことを話そうとうると、彼女は本棚の陰まで移動して身体を隠して顔だけ出していた。
鈴城を見て、プルプルと震えているように見える。
「ちょっと、来月からの新入生なんだから、恐がらせないでよ」
「悪いのは私か?だが、それだとしたら増々わからん。何故、新入生とおまえが一緒に居るのだ?」
女帝の疑問は尤もであり、仕方なく先程の経緯を軽く説明した。
すると、鈴城は頭を軽く押さえて首を横に振った。
「何もこんな引きこもりに頼らなくても良いだろうに……」
「ねぇ?誰が引きこもり?ちゃんと外に出てるんですけど」
口を開けば、本当に喧嘩売ってるとしか思えない言動に目尻がピクピクっと震える。
このままでは埒が明かないため、未だに隠れているマナを手招きする。
彼女はこっちまで戻ってきて、頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「ア、アハハハッ。すいません。お姉さんがカリスマあり過ぎて、若干引いてっ……じゃなかった、オーラに圧されてしまいました!」
そう言って、敬礼しながら釈明しようとしてたけど台無し。
鈴城がマナに怪訝な目を向けていると、彼女が持っている本を見て指差した。
「まさか、おまえもその本に興味があるのか?」
目を軽く見開きながら聞けば、マナが本に視線を向けて表紙を手をなぞった。
「あぁ~、家族がこの作者の本が大好きなんです。この綴り、レーベン・シュバルツァーですよね。英語の原文で置かれてるのなんて、ファンに売ったらプレミア付きますよね」
英語で書かれている綴りはサインのような書体であり、初見では絶対に読めない。
私でも、円華の部屋の本棚に置いてある共通点でやっとわかったレベル。
それなのに、マナはその名前を何の詰まりもなく読み上げた。
「あいつ以外に、この作者のことを知っている者が現れるとは思わなかった。おまえは読まないのか?」
「私も読むには読みますけど、難しくて読むスピードが遅いんですよねぇ。考察とか、そういうの苦手で」
彼女の苦笑いの返答に、興味がなくなったのか「そうか」と鈴城は肩を落とした。
そして、マナは手に持っている本を女帝に渡した。
「これ、ラスト1冊みたいです。どうぞ」
「?良いのか?おまえもこの本に興味があって、手に取ったのだろ?」
「ああぁ~、全然良いですよ。実家に置いてありますから」
そう言って、彼女は足早に出口まで行ってしまった。
「んじゃ!最上先輩、先に出て待ってまーす!」
「え、あ、うん……」
露骨に逃げたなぁ…あれは。
そして、そんなマナにジト目を向けた後、鈴城は本を見て怪訝な表情を浮かべる。
「実家に置いてある……か。下手な嘘を。この本の発売日は、今日だと言うのに」
呆れたように呟く女帝の一言に、私は違和感があった。
さっきのマナの言い方はとても自然で、とても嘘をついている風には見えなかった。
「あの娘……奇妙だな」
「……まさか、あんたと意見が合うとは思わなかった」
鈴城の意見に、素直に同意を示す。
「私も多くの人間と言葉を交わしてきたが、常に警戒を怠らないようにしている。しかし、あの娘は…」
「警戒できない。そう言いたいんでしょ。でも、ただ素直な子なのかもしれないよ?」
「ただのバカなのだとしたら、私もそう願いたいものだな」
鈴城の中で何か引っかかりを覚えたみたいだけど、マナから視線を離してはカウンターに向かった。
「精々、注意不足で寝首をかかれないようにするんだな」
「あんたに言われなくてもわかってるし」
これ以上話していたら、イライラが募るのがわかっていたから早々に別れて私も本屋を後にした。
ーーーーー
地下街をあらかた見終わった後、エレベーターで地上に昇って校舎に向かう。
それにしても、マナの反応が一々オーバーなのが気になる。
プラネタリウムを見た時なんて、「うわぁ‼星がリアル過ぎ‼ホログラムよりも完成度高っ‼」ってテンションが上がっていて、周りの人の目が恥ずかしかった。
見るもの全てが新鮮って感じなのは、私にも思うところはある。
マナの反応を見ていると、過去の自分を客観的に見ているような気分になった。
私自身、罪島から離れて初めてこの学園に来た時は、目に入るもの全てが新しくて輝いて見えていたから。
そして、校舎を見上げるとマナは、どこか黄昏るような目を向ける。
「ここが……私立才王学園。あの人が、自分の生き方を決めた場所……」
そう呟く彼女は、神々しそうに見ている。
「その身内の人、結局は何クラスで卒業したの?」
「わからないです。この学園でのことを、あんまり話したがらない人で……。まぁ、立場的にネタバレになるから、話せなかったんだと思いますけど」
「へ、へえぇ~」
ネタバレって、どういう立場で心配しているんだろう、その人。
まぁ、卒業生が新しく入学する家族に、この学園の真実を語って絶望させるようなことはしないだろうね。
そう考えたら、最初から入学するのを止めると思うけど。
どうして、マナの家族はこの学園に入学することを止めなかったんだろう?
疑問に思いつつも足を進めていると、その間も彼女は周りを気にしてキョロキョロと視線を散らばらせている。
「……ねぇ、何か歩きづらいんだけど。何で、そんなに周りを気にしてるの?」
先程から、何かを探しているかのように顔と目を動かしている。
学校案内を頼みながら、他の目的がある気がしてならない。
「あっ……やばっ」
そして、前方から近づいてくる女子2人を見ては、目を見開いて私の後ろに咄嗟に隠れた。
これまでにない反応速度に、私は驚きながら「な、何!?」と後ろを振りむこうとするが、その前に話しかけられた。
「あれ、恵美?休み中の校舎に来るなんて、何かあったの?」
「てっきり、今日も円華くんの部屋に入り浸っているものだと思っていたわ」
前から近づいてきたのは、麗音と成瀬だった。
「円華とは……ちょっと、今は会いたくないから」
成瀬の予想に、少し頬を膨らませて否定する。
そして、その反応で麗音がからかうような笑みを浮かべる。
「ははぁ~ん。また、しょうもないことで痴話喧嘩したのね、あんたたち」
「しょ、しょうもないことじゃないもん‼私は悪くない……」
と言いつつも、若干の罪の意識を感じているため、途中から声が小さくなった。
「えっ……痴話喧嘩って…。もしかして、最上先輩、彼氏居るんですか!?」
後ろのマナが、変なところに喰いついてきた。
「か、かか、彼氏…じゃ…ない…。ただの…仲間って、だけ…だし」
「ただの仲間じゃなくて、あんたが重度の片思いをぶつけてる偏屈者でしょ?素直になりなさいよ」
「麗音、うるさい‼」
呆れたように要らない補足説明をする麗音に怒りながら、顔が熱くなる。
そして、成瀬は私の後ろに居るマナに注意を向けた。
「そこに居るのは、新1年生かしら?あなたのことを、先輩って呼ぶくらいだし」
察しが良い彼女は、マナのことをすぐに理解してくれた。
「そうだよ。頼まれて、学校案内している途中だったんだ。2人は今日はどうしたの?」
私もそうだけど、成瀬と麗音が校舎が居ることも不思議ではあった。
「私はおじい様っ……学園長に呼び出されたのよ。1年生も終了して、2年生になっても頑張るようにって、激励の言葉を頂いたわ」
学園長も孫バカだよねぇ……。
その話をする時の彼女も、どこか嬉しそうだった。
「あたしは生徒会長から、話があるって言われて。何か知らないけど、阿佐美学園に行くから、同行してほしいんだって。はぁ~あ、あたしも春休みは忙しいのになぁ~」
そう言いつつ、何を考えてるのか、口角が上がっているように見えた。
「それにしても、あなた1人で学校案内なんて大丈夫なの?私たちと移動しないと、校舎の中で迷子になる時だってあるじゃない」
「い、今はもう大丈夫だしっ‼」
恥ずかしいことを後輩の前で言われ、必死に弁明する。
その光景を見て、マナはアハっと後ろで笑う。
「3人とも、仲が良いんですね」
客観的な感想を言われ、私たちは互いを見て言葉が詰まった。
「ま、まぁ……同じクラスの仲間だし……友達、だしね」
「フフッ、確かにそうね」
「何よ、改まって。……まっ、何も違いはないけど」
話の流れで、ここからは2人も同行して校舎を案内することになった。
そして、私たち3人で話ながら校舎を回っていると、マナが不意に小声で呟いた一言に気づかなかった。
「やっぱり、この頃から仲良しだったんだね」
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