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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
絡み合う春休み
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狼も食わない

 物事は予期しない所で繋がっていて、それは立て続けに連鎖することが在る。


 それは正の連鎖でも起こり得るし、負の連鎖でも起こり得る。


 そして、その物事が始まるきっかけは、日常の中の些細ささいなことだったりする。


 日課の早朝ランニングを終えた後、部屋に戻ってシャワーを浴びる。


 3月に入って、冬の冷たさから春の温かさに変わり始めている中で、体力作りとして長距離走っていたら前よりも発汗量が多くなってくる。


「はあぁ~。ったく、走っても頭はスッキリしねぇな」


 身体を動かせば、何かいい考えが浮かぶような気がしていたが、そうでも無かった。


 対抗戦の時のことを、まだ引きずっている自分が居る。


 紫苑との協力関係を築くことができたのは、確かに大きな収穫だった。


 だけど、それは復讐者としての視点だ。


 俺はDクラスのみんなをまもる手段を、手に入れることができなかった。


 学園側が操作した勝敗の結果に、俺たちが勝ち取るはずだった権利を奪われた。


 対抗戦の勝利条件には、学園側は介入することはできないという情報を過信していた。


 奴らが、その前に対抗戦に介入するとは思えなかったんだ。


 今まで、俺を潰すためなら組織が何かしらの介入をしてくることはあった。


 だけど、それは全て俺や高太さんの血縁にある恵美を狙ったものがほとんどだった。


 まさか、ここで俺たちと紫苑のクラスそのものを標的にした、大胆な介入をしてくるなんてな。


 それほどまでに、DクラスとSクラスの勝利した時の条件は奴らの思惑を揺るがす何かがあったと言うことだ。


 それでも、に落ちない点はある。


 どうして、ヴォルフ・スカルテットは、自分が生徒に与えた救済措置を、直前でくつがえすようなことをしたのか。


 単純に、俺たちが邪魔になったからか?


 それだけなら、あの時に会った違和感が気になる。


 コロシアムルームに姿を現した時、その雰囲気が前とは異なっていた。


「ヴォルフ・スカルテット……あんたは一体、何がしたいんだ?」


 生徒に対して、罪の意識を感じていた時の彼と、組織に忠誠を誓っていると語った時の奴が俺の中で一致しない。


 あの男は、本当に最初から敵だったのか…?


『また、お決まりの迷走か?おまえも好きだなぁ』


 頭に声が響き、鏡を見ると漆黒のオーラを放つ小柄な狼が映る。


「……おまえかよ。勝手に入ってくんなよな」


『また答えが出ねぇ問いかけで、頭がグルグルになってるくせに何言ってんだ?15分以上もシャワーを頭に当てて、滝での修行のオマージュかよ』


 15分…そんなに経っていたのか。


 自覚が無いままに、時は無常に過ぎていく。


 風邪を引く前に、シャワーを止めて浴室を出れば、すぐに服を着てタオルで頭を軽くふいた。


「あっっっつ~~~。完全にのぼせてんじゃん、俺」


『俺様が入る前から、風呂場は完全に湯気ゆげで曇ってたぜ?軽くサウナって奴だったな』


「こんな状態じゃ、水風呂に入ったって整わねぇよ」


 冷蔵庫を開けてイチゴ牛乳を探していると、棚に意外なものあることに気づく。


 イチゴ味のアイスだ。


 それも通常よりもデカめの容器。


 手に取って、半眼で見てみる。


「あれ…?こんなの買ったっけ?」


 記憶にないものだったが、暑さで頭が働かない。


 まっ、最近の季節の移り変わりで、衝動的に買ったのかもな。


 日常の中で頭が疲れて、目に付いたものを何も考えずに買ってしまうのは、俺の悪い癖だ。


 自分の汚点おてんに呆れつつも、アイスのふたを開け、スプーンを手に持ってリビングに移動する。


 何気なにげなくテレビをつければ、そこには奇妙な偶然で1人の男が映っていた。


 朝のニュースのドキュメンタリーコーナーのようで、女性のインタビュアーとその男が話している。


『今回は、日本でも長い歴史を持つ武芸の名家、桜田家の19代目当主で在らせられる、桜田玄獎先生をゲストにお招きしております。先生、今日はよろしくお願いします』


 名前を呼ばれた男は、言葉も返さずに腕を組んだまま、目を閉じている。


 テレビだろうと、すかした態度は変わらねぇな、あの男は。


 つか、こういうテレビに出るのだって、そんなに無いことじゃないか?


 どういう風の吹き回しだ。


『こ、今回、先生にお聞きしたいのは、やはり先日発表された内容についてです。桜田先生、今年中に現当主の座を降りられるというのは、本当なのですか?』


 インタビュアーの問いに、俺は思わず「えっ」と言葉が漏れてしまった。


 桜田玄獎が、当主の座を降りる…?


 一体、何で…!?


『……発表した通りです。私ももう歳ですし、世代交代を目先に捉えていました。我が1人娘も、才王学園をこの3月で卒業します。あの学園での3年間で、多くの経験を積んだ彼女になら、後を譲ることができると思った次第です』


 BCは卒業するタイミングで、桜田家を継ぐことになっていたってことかよ。


 そんな話、あいつからは聞いてねぇぞ。


『そうでしたね。娘さんも先生の遺伝の影響か、剣術や弓術、馬術などの分野で多大なる成果を残されていると聞いております。先生としても、ご自慢の娘さんなのではないでしょうか?』


『私から言えることは、ただ1つです。娘は自らの力で、成果を残してきた。そこに私の娘であるかは関係ありません。彼女よりも優れた実力の者が居たのであれば、私は血筋など無視して跡目を譲っていたことでしょう』


 あくまでも血筋ゆえではなく、実力からBCを後継者に選んだってことらしい。


 あの男らしいな。


 流石は容赦なく、御家おいえを守るためとはいえ、俺を切り捨てただけはある。


 まぁ、本当の父親じゃないってわかった今となっては、そこまで恨みはねぇけどな。


 ただ、そのやり方は、いつまで経っても気に入らねぇってこと以外を除いては。


 テレビを見ながらアイスを食べていると、あまりの美味さにもう残り一口程度になっていた。


 そして、インタビューの内容に目が釘付けになっていると、部屋の鍵が勝手に開いてガチャっという音が耳に届いた。


「ふあぁ~あ。円華、おはよう―――って…えぇ!?」


 欠伸をしながらリビングに入ってきたのは、最上恵美。


 図々(ずうずう)しくも、当然のようにほぼ毎日、俺の部屋に来ている銀髪の女だ。


 そんな彼女は入ってくるなり、震える指で俺の手元を指さした。


「ね、ねね、ねぇ…円華ぁ?それ、何…?」


「何…って、え?アイス」


 見えるように前に出すと、恵美の顔が引きつっている。


「ナンデ、ソレヲタベテルノ?」


「・・・は?」


 彼女の中で、あまりにも衝撃が強かったのだろう、言葉がカタコトになってらっしゃる。


 そして、感情を爆発させ、顔を真っ赤にさせながら叫んだ。


「それは、私が買ってきた……スペシャルジャンボストロベリーアイスなんですけどおぉー!!!!!!」


 あまりの声の大きさに、俺も全身をビクッと震わせて前髪が逆立った。


 そして、恵美はアイスのカップをパッと奪って中身を見る。


「もおおぉ~~~‼あと少ししか残ってないじゃん‼バカァ‼」


 もはや、もう半泣きになってらっしゃる。


 だけど、俺としては全然納得できない。


「はぁ?何で俺が怒られきゃいけねぇんだよ‼つか、アイスくらい、また買ってくれば良いだろ」


「これは限定品で、残り1個だったのを奇跡的に買えたものだったの‼食べるの…楽しみにしてたのにぃ~‼」


 全身を震わせながら、憤怒を露わにしている。


 つか、感情の起伏から、両目の青い瞳が、透き通るような蒼色に変化している。


 やべぇ、無意識に異能を発動するレベルに激おこだ、こいつ。


「ねぇ、円華…」


 前髪で影を作りながら静かに俺の名前を呼び、右脚に巻いているホルスターからレールガンを取り出す恵美。


「今すぐに謝ったら、一発で許してあげるよ…?」


 まさかの電撃の刑!?


 つか、これ、本当に俺が悪いのかよ!?


 大体、こうなった原因は恵美にある気がする。


「許すも何も、おまえがここの冷蔵庫に入れていくのが悪いんだろうが‼ここは、俺の部屋だぞ!?」


「んぐっ‼」


 流石に、これを言われては彼女も口をつぐんでしまう。


「大前提として、おまえこの部屋に私物を置きすぎなんだよ。勝手に俺に無断で、自分の部屋みたいに使いやがって……。今まで言ってなかったけどなぁ、俺だって我慢してたんだからな‼」


 向こうが感情をぶつけてきたのに合わせて、こっちも今まで思っていたことを言ってしまった。


 すると、恵美はプルプルと身体を震わせ、涙目になっては天井に向かってレールガンをぶっぱなした。


「もう、いいよ‼円華のバカ‼もう知らない‼」


 そう言って、あいつは部屋を出て行ってしまった。


「あ、おい…‼…って、今止めても意味ねぇよなぁ」


 頭を抱え、ソファーに座っては、上に置いてあったクッションに顔を埋める。


 あいつは行ってしまったし……俺自身も、言ってしまった。


 いや、言ってることは正論だとは思ってる。


 だけど、言い方を間違えた……気がする。


 アイスの容器は投げ捨てられており、床に落ちたそれを拾えば、深い溜め息が漏れる。


「限定品だって言うなら、最初からそう書いとけよ…ったく」


 買って返すには、もう手遅れだった。


 ここから機嫌を取るのは、中々に至難しなんわざのように思える。


 そして、俺と恵美のやり取りを見て、クックックと悪趣味な笑いをする獣が1人。


『クックック…‼グハハハハハっ‼本っっ当に、おまえらは面白おもしれぇなぁ、相棒‼』


 よっぽど可笑しかったのか、前足で腹を抱えながら左右に転がって笑うヴァナルガンド。


 その反応が、異様に腹が立つと同時に、1つの予想が受かんだ。


「おい、おまえぇ……もしかして、あれが恵美が買ってきたものだって知ってたんじゃねぇだろうなぁ!?」


『あぁ?そ、そんなわけねぇだろ。確かに俺様が白華びゃっかの中で昼寝してた時、一瞬だけあの娘が機嫌良さげに、冷蔵庫に何かを入れていたのは見たがぁ……んぁ?』


 あいつも思い出しながら、自分の記憶の違和感に気づいたらしい。


『もしかして、あれかぁー!?』


「絶対に、それだろー‼」


 俺たちは互いに重く息を吐き、項垂れる。


「どうすんだよ、これぇ~~。絶対に当分は機嫌悪いぞ、あいつ」


 話しかけても、頬を膨らませて顔を合わせず、無視してくるのが頭に浮かぶ。


 ヴァナルガンドもハンっと鼻を鳴らし、目から光を失う。


 若干だが、こいつも後ろめたさは感じているらしい。


『まぁ、おまえらの痴話喧嘩ちわげんかなんて、日常茶飯事だろ。俺様でも食わねぇよ…面白過ぎてっ』


 最後の方は、半笑いで言いやがった。


 つか、何が痴話喧嘩だ、こいつぅ~‼


 面白がっているヴァナルガンドを他所よそに、頭の中で新しい問題に対して正しい答えが見いだせない。


 どうすっかなぁ~~~~、面倒くせぇ‼


 後悔先に立たずとは、このことか。


 感情に任せて口走ると、ろくなことにならねぇな。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼


今回の教訓

「感情任せは、ろくなことにならない」

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