表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
393/497

突き落とす優しさ

 対抗戦が終了して、3日が経過した。


 結果からしてみれば、この学年末クラス対抗戦は学園側……いや、組織にとっては茶番だったみたいだ。


 ヴォルフ・スカルテットが俺たちに対して、明らかな敵対関係を明らかにしたのは予想外だったけど、それでも自分の中の違和感から突かれたすきに悔しさが残る。


 俺は理事長としてのあの男に、信頼に近い感情を向けていたんだ。


 そして、それに付け込まれた。


 身体としては臨戦態勢を示しつつも、精神的に迷いを抱いていた。


 ったく、情けねぇ話だぜ。


 それでも、組織にとってはお遊びだったとしても、俺たちによっては真面目な戦いだった。


 全てが掌の上だったとしても、俺たちの抵抗が無駄だったわけじゃなかった。


 あの後、麗音は基樹と成瀬が回収した解毒剤によって、回復傾向に向かい始めていた。


 そして、他のクラスの感染者にも解毒剤は匿名で送ってある。


 それを使用するかどうかは、あとは奴らの選択次第だ。


 当初の目的を達成することはできた。


 だけど、俺たちは学園側にけた。


 Sクラスとの対抗戦に引き分けた以上、Dクラスの勝利条件は受諾されない。


 そして、それは紫苑たちの目的も同じように達成されていない。


 俺と彼女は、互いに得るべき権利を失ったんだ。


 そんな結果として、敗者となった者同士だけど、今日また会う約束を取り付けられている。


 場所は花園館の中庭であり、ここを訪れるのは3度目だ。


 女帝の領域ではあるが、今日は不思議と警戒はしていない。


 会いたいというなら、願っても無い話だ。


 こっちもこの前の対抗戦を通じて、彼女に確認したいことが在ったからな。


 中庭で紫苑に対する数々の疑念を整理していると、後ろから声をかけられる。


「少しずつだが、雪解けが始まってきたな」


 それは待ち人の声であり、振り返れば笑みを浮かべている女帝が映る。


「それは、俺たちの関係って意味でも言えるだろ。お互いに、温かい春を迎えたいもんだぜ」


 薄々気づいていたが、1人で来たみたいだ。


 返しがわかっていながらも、確認のために問いただしてみる。


「今日は付き人は連れてないんだな」


「大事な話だ、無関係な者を巻き込みたくない。そう言う意味では、おまえは小娘を連れてくると思っていたぞ?」


「恵美を連れてきたら、おまえらが犬猿過ぎて話が進まねぇだろ。俺1人で十分だ」


 あいつがこの場に居たら、まず紫苑の『小娘』って呼ばれ方から突っかかるはずだ。


 つか、こいつもこいつで、恵美を目の敵にする理由もわかんねぇけど。


「仮にも高太さん…おまえの師匠の娘だろ?あいつのこと、そう邪険にすんのは、良くねぇんじゃねぇの?」


マスターは師、小娘は小娘だ。あの女が、私と同等の実力を身に付けたのなら、認めてやらんでもない」


 あくまでも、個人として視るってわけか。


 紫苑らしいな。


 そして、俺から高太さんの名前が出たところで、紫苑の目尻が少し上がる。


「円華、おまえは師のことをどこまで知っている?」


「俺の命の恩人……そして、緋色の幻影を1度崩壊させた、英雄って呼ばれる男…ぐらいだな」


 高太さんのことを端的に言い表せば、紫苑は口角を上げて「英雄か」と復唱する。


「おまえの持つ情報に追加しておくと良い。あの人に英雄という言葉は似合わない。敢えて言うなら……魔王だな」


「真逆じゃねぇか」


「実際にそうなのだ。私も師に鍛えられた身だが、その冷徹さには驚かされた。あの人は、この世界において至上最悪の罪を犯した王なのだからな。おまえが何度師と接触したのかは定かじゃないが、あまり彼を信用することはお勧めしない」


 まぁ~た、意味わかんねぇことを言いだしやがった。


 ここは追及するべきだと、本能が言っている。


「高太さんがどんな罪を犯したのかは知らねぇよ。だけど、それでも俺がここに立っていられるのは、あの人が居たからだ」


 紫苑が何と言おうと、俺の中での高太さんへの認識は変わらない。


 あの人に救われた過去は、変えられない。


 そして、受け継いだ力で多くのものを救えたのも事実だ。


「英雄だろうと、魔王だろうと、罪人だろうとどっちでも良い。俺は高太さんを信じる。おまえから何を言われようと、それが答えだ」


 俺の答えを示せば、紫苑は少し目を見開いた。


「驚いたな。おまえは、師だけでなく……」


 小声で何かを言いたげだったが、頭を軽く横を振って区切る。


「そうであれば、我々がこの場に立った意味があるというものだ」


 呼び出した理由に、話がシフトする。


 紫苑は俺に歩みより、手を差しだしてくる。


「単刀直入に言おう。円華、私のクラスに来い。共に緋色の幻影を討つために、協力しようじゃないか」


 最上高太の弟子。


 その存在に辿り着いた時から、いつかはこうなることは分かっていた。


 俺たちは、互いに真の敵を捉えている。


 そして、対抗戦を通じて実力を知ることができた。


 紫苑が俺を求めるのは、自然な話だ。


「円華、私はあの時、おまえに敗北した。その事実だけで、おまえは私を支えるに足る存在だと認めたんだ。おまえと私の目的は一致しているはず。この手を取らない理由はあるまい」


 恩人の弟子である、女帝からの誘い。


 この手を取ることで、俺は目的に近づくことができるのか?


 俺の目的と、紫苑の目的。


 それが本当に一致していると、彼女は思っている。


 だけど、俺の中の欲望が、その正解を否定する。


「悪いけど、俺はおまえが思ってるほどとうな人間じゃねぇよ」


 その言葉が意味する答えを、紫苑はすぐに察したようだ。


 表情が険しくなる。


「おまえの目的は、緋色の幻影を討ち滅ぼすことのはずだ。おまえは、組織に椿涼華を奪われた。その復讐を果たすのであれば、私と手を組んだ方が合理的だ」


「組織を潰すこと()()が目的なら、そうかもしれねぇな」


 紫苑の予想と、俺の欲望には多少のズレがある。


 確かに俺は、組織の思惑を打ち破ることに重きを置いている。


 だけど、それも目的のための障害となるからに過ぎない。


 俺は復讐者だ。


 その目的が、姉さんの仇を取ることであることは変わらない。


 それでも、俺の復讐が意味するところは、それだけじゃない。


「紫苑、おまえの隣に立つべき相手は俺じゃねぇよ。俺じゃ、おまえと釣り合わない。俺たちが同じ天秤てんびんに乗ったら、かたむいちまう。それを望んでねぇんだ」


 天秤てんびんというワードは、意識して出た言葉じゃなかった。


 だけど、言った後で自分の中で納得した。


 俺はこの1年間で、多くの人間と関わってきた。


 その中で、1つの体制ができつつあった。


 1人では、組織と戦うことはできない。


 だから、他者と手を取り合って戦うことを選んだ。


 それはDクラスの仲間たちだけじゃない。


 もっと、力が必要だ。


 俺が復讐を果たすために。


 俺が大切な居場所を守るために。


 もっと、巻き込むべき他者は増やす必要がある。


 そのために、俺が他のクラスに移動したらダメなんだ。


 それだと、俺はあいつらを……恵美を守ることができなくなる。


 答えを示せば、紫苑も思うところがあったのか、その決断に否定はしなかった。


「おまえは、私よりも強い者だ。おまえよりも弱い私が、引き留められるはずもない。残念だ。円華ならば、私に教えてくれると思ったのだが……」


「はぁ?教える?何を?」


 どうも、この女帝様は自分の中で話を進める悪癖あくへきがあるみたいだ。


 それに振り回される奴……つか、付き従う奴は大変だろうな。


 Sクラスの奴らに同情している間に、紫苑は答えた。


「おまえの存在は、私の心をたかぶらせる」


 そして、ノーモーションから俺の右手首を掴み、自身の乳房に服越しに押し付けた。


「わかるか?おまえの近くに居るだけで、これほど心臓の鼓動が速くなっているんだ。これが……愛というものなのでは、ないのか?」


 ……そう言うことか。


 紫苑は、求めているんだ。


 自分の中に、愛を感じさせてくれる存在を。


 だけど、その役割は俺じゃない。


 しがみ付くように問いかける彼女に、俺は真剣な表情で返す。


「それは、愛じゃない。おまえが求める強者に、俺を当てはめているだけだ」


 そう言って、彼女の乳房から手を離す。


 理想の戦力と愛は、決定的に違う。


 それを一致させて満足させたら、これから先の紫苑の成長をさまたげることになる。


 ここで、そんな甘えは許さない。


 女帝と呼ばれる彼女でも、俺と同様にさらに強くなる可能性が在る。


 俺の目的のために、柘榴同様、紫苑にはもっと強くなってもらわなきゃ困るんだ。


 精神的な意味でも、力の意味でもな。


「円華、おまえは残酷なのだな。折角私が正解といういただきを掴みかけたと言うのに、がけに突き落とすとは」


「まやかしのいただきなんて掴んだって、あとで現実に打ちのめされるだけだろ。これは俺なりの優しさだ。押し付ける気はねぇけどな」


 人は誰かがもがき苦しんでいる時に、つい正解を提示してしまうことが在る。


 それが大切だと思っている者ほど、苦しみから解放してやりたいと思うものだ。


 だけど、残念ながら、俺にはそれが当てはまらない。


 俺は鈴城紫苑という戦力は求めていても、そこに愛情なんて無い。


 無いものを求められたところで、与えることなんてできるはずもない。


 偽りの愛なんて、いつかは見透かされて痛い目を見るんだからな。


「それでは、おまえを私の側に置くのは諦めるとしよう。しかし、おまえと私の敵は同じ。道が交われば、また協力することはあるだろう」


「だろうな。その時は、女帝様の手を遠慮なく借りることにするぜ」


「その言葉、混沌こんとん人狼じんろうにそのまま返してやろう」


 混沌の…人狼…。


 今の俺には、言い得て妙かもな。


 紫苑は首から下げているネックレスを見せ、フッと笑う。


「椿円華。おまえは本当に、面白い男だ。私がこれを使用しても、勝つことができなかったのは師を除けば、おまえが初めてだった」


「嫉妬の大罪具か……。そいつは、俺の中の力を知っている様だった。改めて、そいつに聞くぜ。俺の何を知っているんだ?」


 えて、ネックレスを見て問いかけるが、紫苑は首を横に振る。


「こいつは気まぐれでな。今はもう眠っている。おまえの求める答えを得るのは、今日じゃないようだな」


 本当なら叩き起こしてほしい所だけど、これ以上無理を言うのは危険だな。


 俺は今、紫苑の誘いを断った。


 これ以上、機嫌をそこねたくはない。


「私もおまえのことは、師から少し聞いた程度だ。混沌の根源を宿す子どもであり、この世界に影響を与える存在だとな」


「……何だよ、それ。世界とか、そんなスケールの大きい話、ピンと来ねぇよ」


 確かに、普通の人間とは違うことは嫌でも自覚している。


 それでも、世界に影響を与えると言われれば、いぶかな表情になってしまう。


「詳しいことは、私にも理解できていない。しかし、これからの戦いで、その意味するところを知ることになるだろう。おまえの内に宿る、その混沌の力と共にある限りな」


 紫苑は1つの未来予測を残し、この会話に満足したのか離れて行ってしまった。


 結果的に、紫苑とは影の協力関係を築くことには成功したって所か。


 だけど、彼女の中で課題は解決していない。


 それどころか、振り出しに戻ってしまった感じだろう。


 紫苑はそこから、自分の中で答えを見つけ出すしかない。


 その答えが、彼女の強さに繋がることを願うのは、俺のいつわらざる本心だ。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます‼

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ