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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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罪の王の弟子

 紫苑side



 強者であると認めた者との戦い。


 それは、私が最も望んでいたもの。


 自分で口にすると傲慢だと思うだろうが、私は強くなり過ぎた。


 それは、自身よりもはるか高みに位置する存在の下で学んだ経緯から、無理からぬことだったのかもしれない。


 罪の王―――最上高太の弟子として、多くのことを経験してきた。


 かの人を師とあおぎ、長い時間を共にさせてもらった中で、私はこの世界の真実を知る1人となった。


 師に求められる強者となり、その強さを認められるのがほこらしかった。


 私が師に抱く憧れは、その他を寄せ付けない圧倒的なまでの強さ。


 他人の思考を読み、自身の有利な状況に誘導する狡猾こうかつさ。


 必要とあらば、味方であろうと躊躇ちゅうちょなく切り捨てる冷徹さ。


 まさに、孤高という言葉が相応しいほどの強者の覇気を感じさせる。


 最上高太という男の強さに、私は触れ、吸収してきたと自負している。


 しかし、見てしまった。


 師の強さ以外の側面を。


 何時いつだったか、時間は定かではない。 


 それでも、その光景は鮮明に覚えている。


 私に隠れ、1人で居た彼の笑み。


 その手に持っていたのは、2枚の写真。


 1枚は茶色のベージュ髪をした女と、その隣に立つ私と変わらないほどの年齢の銀髪の幼子。


 もう1つの写真は、重なっていて顔はよく見えなかったが、それでも子どもの写真なのは分かった。


 写真を見る時の師の表情は、私にも見せたことが無いほど、優し気な笑みを浮かべていた。


 今まで私が見てきた、憧れの側面を感じさせない程に。


 その笑みを見た時、とてつもないほどの黒い感情が身体の内側から湧き上がってきた。


 これまで、感じたことが無いほどの怒りにも似た何か。


 私はこの時、師に気づかれないように離れた。


 そして、この世に誕生した時より、彼から預けられていたペンダントが、この感情に反応するかのように紫に輝く。


 それだけでなく、今まで聞いたことも無い声が、頭の中に響く。


『やっと目覚めたようだね、私の新しい眷属けんぞく


 ねっとりとした声が、脳裏に浸透していくような感覚。


 声の主はまるで、私がこの感情を知るのを待っていたかのようだ。


「私は……この感情は、一体、何だ…‼胸が張り裂けそうなほどの……この、黒い感情は…!?」


「その感情の名は、嫉妬しっと。人間が持つ感情だ。喜べ、君は()()に近づいたんだ」


 嫉妬…?


 これが……この感情が、人間のもつ感情?


 止まらない、この強い怒りにも似たものが…‼


『おめでとう、鈴城紫苑。絶望の王も、喜ぶことだろう。君が私の存在に触れ、その力を振るう資格を得たのだからねぇ』


 ペンダントの輝きが強くなり、点滅し始める。


「おまえは……。何故だ?私は……おまえのことを、知っている…‼」


 初めて目にする存在のはず。


 それでも、既視感があった。


 その存在を、この力の扱い方を、私は…知っている‼


「君に名を明かすのは、初めてだからね。まずは自己紹介から始めようか」


 次の言葉で、自分の中で全てが繋がった。


『私の名は、レヴィ・アダン‼嫉妬の女王を継ぐ者よ、君の願いを叶える力だ』


 これが嫉妬の大罪具…レヴィランカーとの出会いだった。


 私はこの時、師が写真の者たちに向ける感情が何なのかがわからなかった。


 しかし、今ならば、在り来たりの言葉になるが、わかる。


 あれが、愛と呼ばれるもの、なのかもしれない。


 未だに、それが理解できたことは無いが。



 ーーーーー

 円華side



 紫苑が見つけた、魔爪まそう籠手こて


 それはレヴィランカーと同程度……いや、それ以上の禍々(まがまが)しさを感じる。


「おまえ……まさか、もう1つ七つの大罪具を持ってたのかよ?」


「その認識は誤りだ。この腕もまた、レヴィランカーの力……その狂大さを封じたものだ。残念ながら、私でもこの力を制御するには一苦労なのだ」


 言っている意味が全く分かんねぇ。


 だけど、どっちも嫉妬の大罪具であることには変わりないってことかよ。


『あの女、言うは易しだがとんでもねぇことをやってのけたな』


 ヴァナルガンドが反応し、白華が震えている。


『嫉妬の大罪具……。あれを2つの器に分けて、同程度の覇気を持つとなると、ちと厳しいかもな』


 おまえが弱気なんて、冗談でも笑えねぇぜ。


『はんっ、バカが。おまえだけなら厳しいって話に決まってんだろ。俺様が居て、勝てないはずがねぇだろうが』


「……それもそうだな」


 向こうが七つの大罪具を使いこなしているとしても、負ける気はねぇし、負け腰になってる余裕もねぇんだよ。


 俺は…俺たちは、勝つためにここに立っているって、さっき言ったばかりだろ。


 紫苑はこっちに鉤爪かぎづめの甲を向け、のこぎりの刃先を向けてくる。


「私は嫉妬の力を解放する。だから、おまえも混沌の力を解放しろ」


「まさかの命令かよ。理由は?」


「既にさっきの攻防で、5分は経過している。もう互いの手を探り合うほど、時間の余裕もない。残り25分……おまえとは、全力の勝負がしたいのだ」


 紫苑の眼は、戦いに飢えた獣のそれだ。


 強者との戦いを望み、その渇きを癒すことのみに意識を集中させている。


「先に私の全力の姿をお見せしよう……。おまえには、それを見る資格がある」


 左手の鉤爪が蒼黒く輝きだし、レヴィランカーの赤黒い輝きと反応する。


 そして、その名を口にした。


み込め、リヴァイアサン‼」


 レヴィランカーと鉤爪から放出されるオーラが混じり合い、紫苑を中心に水のような渦を起こす。


 そして、左手で渦を払った瞬間、彼女の姿は変貌へんぼうしていた。


 全身にうろこのような水色のアンダースーツを纏い、背中と四肢の装甲から海魚のようなヴェールが伸び、左腕の鉤爪は龍が巻き付いて肥大化している。


 さらに、レヴィランカーの姿がのこぎりからチェーンソーに変わっている。


 全身から紫のオーラを展開しながら、刃が回転するレヴィランカーを俺に向ける。


「おまえも真の力を見せろ‼生身で私に勝てると思うほど、おまえも素人ではあるまい‼」


 これは全力を出した挑発だな。


 ここが戦場なら、己の手の内を相手の誘いに乗って明かすのはバカのやることだ。


 だけど、そうも言ってられないか。


 俺は白華を鞘に戻し、スマホの『魔鎧装モード』をタップする。


「行くぞ、ヴァナルガンド」


『はんっ、いっちょ暴れてやるか』


 氷刃を抜刀して横に振るえば、紅の斬撃が狼の形を成していき、地面を駆ける。


 そして、俺の方に向かってくれば、人狼の鎧の形を成していき、右手で拳を突き出してきたのを、こっちは左拳で返して合わせる。


 その瞬間、鎧が弾けては俺の身体に装着された。


紅狼鎧ぐろうがいヴァナルガンド、装着完了』


 スマホからのアナウンスを聞いたところで、紅に染まった白華で凍気を払った。


 互いに変身後の姿で対面し、先に口を開いたのは紫苑だった。


「やはり、その姿……。何故、おまえからは師と同じ力を感じるんだ?」


「そんなこと、俺が知るかよ。おまえの師匠のことなんて、少ししか聞いてねぇし。肝心なのは、おまえの相手は俺とヴァナルガンドだ。おまえの話は、この勝負が終わった後で聞いてやるよ!」


 最初は俺から駆け出し、床を蹴って接近すれば、上段から振るった氷刃を肥大化した竜の籠手で防がれる。


 そして、右手に持ったレヴィランカーの刃を回転させ、横に薙いでくる。


 その殺意しかない凶刃きょうじんを、俺は跳躍ちょうやくしながら身体を捻じって逆さになった状態で回避する。


「そんなの喰らったら、胴体真っ二つだろうが‼」


「そう言うということは、その鎧は紙ぺらほどの装甲といっているのと一緒だぞ!?」


 俺が着地したところを、紫苑はチェーンソーで縦横無尽に斬りかかってくる。


 しかも片手で。


 普通、あんだけの重量のある武器を片手で軽々と振るうかよ!?


 氷刃で弾こうとするも、回転で熱を帯びた刃に溶解していくのですぐに離れる。


 距離を取れば、すぐに氷刃の形状は戻るが攻め手が掴めない。


 攻撃しようにも、左手の籠手が盾になって防がれる。


 向こうのレヴィランカーでの攻撃が、白華で防げるようなものじゃない。


 俺にとっては、最悪の矛と盾ってことだ。


「おまえの戦い方は、研究させてもらった。隻眼の赤雪姫(アイスクイーン)の頃とは、確かに剣の振るい方が異なるようだ」


 言葉を続けながら、レヴィランカーを振るって攻撃を仕掛けてくる。


「意識的か、無意識かはわからないが、おまえは相手の命を刈り取る一手を避ける。殺さずの精神には敬意を表するが、戦場を体験してきた強者にしては実力が伴っていない。殺す以外の戦い方を苦手とするとは、中途半端なものだな‼」


 凶刃を回避しつつ、俺は紫苑に言葉を返すことができない。


 中途半端か、言えてるかもな。


 上等だよ。


 この1分間の回避の中で、視えてくるものがあった。


 やっぱり、七つの大罪具の使い手だな。


 大きく距離を取り、氷刃を鞘に戻してスマホの【モード・ガルム】をタップして抜刀する。


 黄色のオーラをまとい、両腕と両足の籠手と具足が黄色に変化しては強硬になり、体格が一回り大きくなっては筋肉質な形状になる。


 紅狼鎧ヴァナルガンド ガルムモード。


「1ラウンド、付き合ってもらうぜ」


 両手で拳を握り、構えながら上下左右に揺れる。


「形状変化か。面白い‼」


 紫苑は変わらず、警戒心も抱かずにレヴィランカーを振るい続ける。


 その攻撃が、そろそろ()()()きた。


 彼女が大きく冗談から大きく振りかぶったところで、俺は両手の拳でチェーンソーの腹を挟んだ。


「椿流格闘術 挟振波きょうしんは‼」


 チェーンソーから伝わる、左右の拳からの衝撃。


 それに身震いした紫苑は、意識とは別に反射で得物を手放した。


「んぐっ‼」


 右手を押さえながら、彼女は俺から距離を取る。


「まさか、このような隠し手を持っていたとはな」


「俺もおまえほどかは知らねぇけど、師匠と椿の家で鍛えられてきたからな。武器が無くたって、戦えるすべはあるんだよ。まぁ、チェーンソーに使ったのは初めてだけどな」


 本来なら、相手が拳を振るった時に、こっちも捨てゴロで使える技だ。


 今ので外れていたら、俺の身体が2つに割れてたかもしれない。


 俺の未来視と、ヴァナルガンドの身体能力強化が無かったらできなかった芸当だ。


 レヴィランカーの柄を持ち、後ろに捨てようとした瞬間―――。


 その声は頭に響いた。


『ほおぉ。懐かしい覇気を感じれば、おまえもまた根源の力を有する者か。絶望と希望が混じりし、混沌こんとんの継承者よ』


 それはヴァナルガンドの声じゃない。


 まさか、この武器から…?


『さっさと捨てろ、相棒‼そいつの言葉に耳を貸すんじゃねぇ‼』


 ヴァナルガンドの叱咤に反応し、咄嗟に前に投げ捨ててしまった。


 その隙を見逃す紫苑ではなく、逆手に柄を掴んでは床に刺した。


「根源の力……。何なんだよ、その武器は!?そいつは、俺の力の正体を知っているのか!?」


「……まさか、おまえにも聞こえたと言うのか?レヴィの声が」


「聞こえたら、何だってんだよ?そいつは、俺の……俺の力の、何を知っているんだって聞いてんだよ!?」


 もはや、理性が働かなくなってきていた。


 七つの大罪具は、俺の力を知っている。


 その事実に、戸惑いが隠せなかった。


 紫苑はレヴィランカーを見つめた後に、フッと悲し気な笑みを見せる。


「確かにレヴィは、おまえに反応を示していた。だから、私もおまえに興味が芽生え、師にそのことを報告はしたが……。そうだな、あの時もあの人は、電話越しでもわかるほどに……笑んでいたのだろう。まるで、おまえの成長を喜ぶかのように…な」


 彼女は先程までの荒々しさが収まっていき、段々と静けさを帯び始める。


「この嫉妬の大罪具、吸恨変器きゅうこんへんきレヴィランカーは師からもらった物でな。私にしか扱うことはできないと言うことで、預けられていた。しかし、私以外にも、おまえにも扱える可能性が在ったとは……。私はまた、特別だと思っていた証を、奪われるのか…‼」


 紅と蒼が黒に染まりながらも混じり合い、オーラを全身から放出させていく。


 それも、先程までとは桁違いに。


「奪わせは、しない‼私の存在理由を、おまえには…‼マスターの……最上高太の信頼を奪う者は、誰であっても許しはしない‼」


 紫苑の怨念にも近い怒りの感情に圧されながらも、マスクの下で口が勝手に開いた。


「最上……高太…だって…!?」


 その名前を聞いて、思わず復唱してしまった。


 鈴城紫苑が、高太さんの弟子だって言うのかよ。


 そんなことを気にしている間に、紫苑がレヴィランカーを振るえば紫の斬撃が飛んできたのを両腕を交差させて受け止める。


「ぐっ‼嘘だろ―――がはぁああ‼」


 モードガルムの強硬さがあっても、吹き飛ばされるほどの威力だった。


 感情に支配されているかのように、紫紺のオーラを発しながら殺意にも似た敵意を向けてくる紫苑。


「おまえは……倒す…‼私の手で…絶対にいぃ‼」


 まさか、あの嫉妬の大罪具、紫苑の感情に合わせて力を増幅させているのか。


 話に聞いてるだけだけど、ヴァナルガンドが暴走した時も同じような状態なんだろうな。


 なんつー厄介な。


「こりゃあ、本腰入れなきゃいけねぇみたいだな」


 七つの大罪具との戦いを、少々甘く見ていたかもしれねぇ。


 こいつは、クイーン以上の強敵だぜ…紫苑。

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