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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
真意を試す対抗戦
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望んでいた戦い

 円華side



「第5回戦『自由決闘』の参加者、椿円華様。こちらへ」


 遂に、この時が来たか。


 案内人に名前を呼ばれ、俺はソファーから立って軽く両手を組んで伸ばした。


「そんじゃ、ちょっと行ってくるわ」


 軽いノリでみんなに言えば、心配や不安の視線ではなく、日常と変わらずにこう言った。


「おー、行ってこーい」


「すぐに戻ってくるなよー」


 久実と川並からは、間の抜けた返事が来た。


「鈴城さんに勝てるかどうかはわかりませんが、後で骨は拾っておきますよ」


「おい、負ける前提で骨拾おうとすんじゃねえよ」


 真央すらも、冗談を言ってくる始末だ。


 半眼で呆れながら言葉を返し、案内人の方に足を進める。


 その時、恵美の横を通り過ぎたけど、言葉をかけられることは無かった。


 代わりに、白華の入った竹刀袋を渡してきた。


「おまえ……相も変わらず、どうやって持ってきたんだ?」


「ヴァナルガンドも、暴れたがってたみたいだから」


「説明になってねぇだろ……。競技が暴れられるものかどうかも、わかんねぇってのに」


 まぁ、自由決闘の内容がわからねぇ以上、持って行っても無駄じゃねぇか。


 白華を手に取り、ひもを肩にかけて控室から出る。


 その時、後ろから小さな声で呟きが聞こえた。


「信じてるから」


 耳に届いた瞬間、顔を横に向ければ、恵美は前髪に着けた髪留かみどめを触り、頬を赤らめて微笑んだ。


「はぁ…。ったく、しょうがねぇな」


 余計に、負けられなくなったじゃねぇか。


 自身の頭を少し荒く掻き、案内人の後ろについて行く。


 その間に、ヴァナルガンドが語り掛けてくる。


『あの女との戦いか。少しきなくせぇ感じがするぜ』


 ただの対抗戦の競技で終わることを、願ってやまねぇけど。


『ハンッ。そう言って、本当は全力で戦いたいって顔に書いてあるぜ?』


 ……まさか。


『俺様が嘘をつくと思うか、相棒?』


 無意識の願望でも、おまえには筒抜けってわけか。だったら、それが本音なんだろうな。


 ヴァナルガンドに見透かされた本当の気持ち。


 だけど、俺には1つだけ危惧していることが在る。


 これで、俺たちの対抗戦は最後になる。


 それなのに、基樹と成瀬から連絡は来ていない。


 間に合わなかったのか。


 その場合、俺はどれだけの時間、紫苑と戦えば良い?


 時間稼ぎをしている余裕があるのかすらも、さだかじゃない。


 こんな状態で、全力で戦えるか。


 勝ったとしても負けたとしても、麗音、あるいはSクラスの人間が1人死ぬ。


「もしかしたら……姉さんとの約束を、破ることになるかもしれねぇな」


 姉さんの命令も無しに、誰も殺すことは許されない。


 言わば、姉さんが死んだ以上、俺は2度と人を殺すことはできない。


 その誓いが破られた時、俺は自分を保つことができるだろうか。


『……この匂い、あいつか』


 ヴァナルガンドが何かを感じ取ったような呟きをすれば、それに合わせて目の前に意識を向けた。


 案内人もその存在に気づき、軽く頭を下げた。


 壁に背中を預け、棒付きキャンディーを口に含んでいる白衣の男に。


「先生!」


 驚きと共に声をあげれば、向こうはだるそうにサングラス越しに視線を向け、手を挙げてきた。


「よぉ、接戦してるらしいな」


「教室に居なくて良いのかよ?今更、エールでも送りに来たなら、感動で泣きそうだぜ」


「俺がそんな熱血教師に見えるなら、妄想がかってるな。痛い黒歴史ノートでも書き始めたか?」


「冗談に決まってんだろ。気持ちわりぃ」


 歩きながら悪態をつき合い、すれ違うタイミングで岸野は俺の肩に手を置いて耳打ちをしてきた。


「―――――だ、そうだ」


「……わかった」


 報告を受け、心の中のもやが晴れた。


「一応、担任らしい助言はしといてやる。全力でやってやれ、相手のためにもな」


「おかげで()、その気になったぜ」


 岸野とのやり取りは、そこで終わりだ。


 だけど、連絡役に担任を使ってくるとか、成瀬も人使いが荒くなったもんだ。


 まぁ、日常用のスマホは回収されていたから、助かったけど。


 今、俺の中でスイッチが切り替わった。


 ここから先は、ただ『守るため』の戦いとして意識を向ければ良い。


 俺は恵美たちを守るために、女帝……鈴城紫苑を―――倒す。



 ーーーーー



 コロシアムルームに到着した時、向こうも同じタイミングで来ていたらしい。


 同時に扉が開いた瞬間、互いが相手に闘志を帯びた目を向けていた。


 無機質な白い空間の中に、俺たちは通されて向かい合う。


 最初に口を開いたのは、紫苑からだ。


「不思議だな、離れてから1時間もしていないと言うのに、先程のおまえとは別人のように感じる。それがおまえの本当の顔か、円華?」


「顔を逐一(ちくいち)変える技術なんて持ってねぇよ。変装は苦手なんだ」


「フフッ、面白い冗談だ。しかし、戦士としてのおまえの顔の方が、私は好きだぞ?」


「それはlikeとして受け取っておくぜ。今から喧嘩しようって奴と、愛をはぐくむ気はねぇよ」


 冗談で『愛』というワードを口にしてみれば、紫苑の目付きが変わった。


「愛…?そうか、それははぐくむものなのか。悪いが私には、その感覚がわからない」


 声色が重いものに変わり、まるで理解できない者を見るかのように、否定的なオーラを発している。


 今にも一触即発となりそうな空気の中で、放送が流れる。


『第5回戦『自由決闘』。今回の勝負は、お2人の性質から異能力、異能具、魔鎧装などの使用を許可した『異能コロシアム』が対戦種目となりました。戦闘不能になった方が敗北となります。制限時間は30分であり、引き分けは両者敗退となりますのでご注意ください』


 簡潔なルールを説明された後に、間髪入れずに開始の合図が鳴る。


『レディー……ファイト‼』


 自由決闘……異能コロシアム。


 その開始が宣告された瞬間、紫苑が首にかけていたネックレスが光った。


 そして、彼女がそれを掴んだ瞬間、形状が刺々(とげとげ)しい刃へと変化していく。


 のこぎりの形を成し、紫苑はそれを躊躇(ためら)いもなく俺の首筋に向かって振るった。


「マジかよ――――ぐっ‼」


 すぐに竹刀袋を前に出して防御するが、力を入れる隙など与えられず、薙ぎ払われた。


 距離を取りつつも、竹刀袋から白華を取り出すと同時に抜刀して着地する。


「普通、何の躊躇ちゅうちょも無しに首狙うかよ」


「おまえの反射速度なら、防げると踏んでの()()のつもりだったのだがな。まさか、きもを冷やしたとは言うまいな?」


「流石に、そうは言わねぇよ。だけど、その剣……異能具、じゃねぇよな」


 紫苑の持つのこぎりを見る時に、左目の瞳があざやかな紅に染まった。


 そして、理事長の選別が偶然にも作用している。


 彼女の武器からは、クイーンが持っていた妖刀と同じオーラが視える。


 禍々しくも、強い覇気だ。


 1度経験すれば、その筋の危険な代物しろものなのは直感でわかった。


「七つの大罪具……なのか?」


「おまえから、その名が出てくるとはな。情報を握っているのは、私だけではないと言うことか」


 紫苑は否定せず、鋸の刃を下に向けて床に刺す。


「ご明察通り、これは七つの大罪具……嫉妬の罪を背負う原初の武器『レヴィランカー』。色欲の大罪を破ったおまえでも、私を討つことができるかな?」


「倒すつもりじゃなきゃ、ここに立ってねぇんだよ」


 怖気おじけづいていないことを示すために、右目に眼帯を着けて白華を横に振るい、宙を斬る。


 そして、身体から凍気とうきを展開して臨戦態勢に入る。


「俺は大切なものを守るために、おまえと戦いに来たんだ」


「そうか、嬉しいぞ、円華‼おまえとなら、全力で戦えそうだ‼」


 俺たちは同時に駆け出し、俺は白華を、紫苑はレヴィランカーを振るって刃がぶつかり合う。


 互いの攻撃に対し、反応速度は互角。


 決定的な差は見せないままに、常人では目で追えないレベルの速度で刃と刃が衝突する音だけが何度も響き渡る。


 呼吸をする暇もなく、息を整えるために同時に距離を取った。


「初めておまえの剣を間近まぢかで見たが、これが最強の暗殺者の実力か……。少し、期待とは違ったか」


赤雪姫アイスクイーンと戦いたかったなら、拍子抜けにさせて悪かったな。多分、俺はあの時と違って暗殺なんてもうできねぇよ……人を殺すための戦いなんて、もうできねぇ」


 過去の俺は、何の迷いも抱かず、ただ言われるがままに人を殺してきたことで、躊躇ためらいは無かった。


 だけど、今は躊躇ためらい、迷ってばかりだ。


 赤雪姫に見られたのであれば、冷淡な目を向けられるかもしれない。


 ―――それで良い。


 その結果、俺は赤雪姫だったら手にできなかったものを、この手で掴むことができた。


 例え獣の手だったとしても、その手を握ってくれる者の温かさを知った。


 それを守るために、俺は自分の力を振るうことに迷いはない。


 氷刃を鞘に戻し、スマホの『デュアルモード』をタップして切り替える。


 小太刀の二刀流になり、左手は逆手に構えて相手に鋭い目付きを向ける。


「だからって、弱くなったつもりもねぇけどな」


「それは良かった。それでは、私もおまえの示す覚悟に応えよう!」


 レヴィランカーが輝き出し、形状が変化する。


 のこぎりから、鎖で繋がれた2本の手斧ておのに。


「おまえのそれも、状況によって変化する奴なのかよ……。厄介だぜ」


「ここからは、もっと速くなるぞ‼」


 紫苑は右手の手斧を俺に向かって投げつけ、それを左手の小太刀で弾けば、その地点に既に彼女の姿は在った。


「は!?いつの間に―――」


「考えるな。反射で動けー‼」


 左手の斧を振るってくるのを、身体をじることで紙一重で回避し、そのまま右手の小太刀を上に向ける。


「燕返し・じん‼」


 リーチが短い分、振り上げる時の重力抵抗は小さい。


 その分、剣撃の速度が上がる。


「んぐっ‼」


 その刃は彼女の頬をかすり、危機感から離れる紫苑。


 頬を手の甲で拭い、血を見ては口角を上げて歯を見せる。


「私の顔に傷をつけるとは…‼面白い……面白いぞ、椿円華‼」


 高揚したような笑みを見せ、再度手斧を投げつけてきた。


 さっきの瞬間移動の秘密は、1度目にすれば簡単だ。


 左手の小太刀を右手側に手放し、手斧の刃を掴んで止める。


 そして、そのままの勢いに任せて鎖ごと引っ張る。


「うぉおおおおおお‼」


 要するに、ミスディレクションだ。


 接近する斧に注意が向いている内に、弾かれる角度を鎖の曲がり方から計算して先回りする。


 だけどな、種が割れれば対策は単純だ。


 鎖のじれに介入すれば、先読みはできない。


 それだけでなく―――。


 紫苑が鎖に釣られて接近する中で、俺は右手の太刀を人差し指と中指で挟み、もう1本を薬指と小指で掴んで横にぐ。


「椿流双剣術 づめ‼」


 紫苑はそれを左手の斧で防ぐが、遠心力と2刀の質量に圧されて防御が足りず、地面に倒れた。


 俺も手斧を離し、女帝と呼ばれる彼女を見下ろす。


「女だからって、加減する気はねぇぜ。そんなこと、おまえも望んでねぇだろ?」


「……ああ、その通りだ」


 紫苑はすぐに立ち上がり、斧の形状を鋸に戻す。


 レヴィランカー。


 その能力は、使用者の意思を表して瞬時に変化するものと見た。


 刃を肩に担ぐと、彼女はおもむろにスカートの下に装着したコルスターから、籠手こてを取り出して装着する。


「楽しい……楽しいなぁ、円華。これこそが、私の望んでいた戦いだ‼」


 その左手は、人ならざる物の形状をしていた。


 紅の鋭い爪をした、紫紺しこん魔手ましゅ


「ここからが、本番だ……。すぐに倒れてくれるなよ?」


 そう口にする彼女は、女帝と呼ばれる己を棄てたように見えた。


 俺の目の前に居るのは、闘争心に飲まれた――――獣だ。

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